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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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15.新事業?

「どうしてですか?」

 意外にもフレアちゃん本人から抗議の声が上がった。

「いえ、フレアさんはそのようなお仕事をするためにマコトさんの元におられるわけではないと……」

「お仕事に区別はないと思いますけれど」

 それはそうなんだけどね。

 猫喫茶の副店長なんて、帝国皇女がやる仕事じゃないでしょう。

「失礼ですが、フレアさんは接客業の経験はおありですか?」

 ジェイルくんが切り込んでくれた。

 あるはずないよね。

「お茶を入れるのは得意ですわ。

 宮……屋敷では、伯父様やお母様たちによく午後のお茶を入れて差し上げておりました」

 いや、それって帝国の皇帝陛下とか皇族の方々でしょ?

 客とは言えないよ!

「猫喫茶の接客は、従業猫がするから心配はいらん」

 猫又が口を出してきた。

 余計なことを!

「飲み物を出したりする仕事も、別に人間を雇うつもりじゃ。

 副店長の役目は、従業猫の体調管理やスケジュール調整などじゃな」

 つまりマッサージとか話し相手ね。

 そうなのか。

 ニャルーさん、もう俺より猫喫茶業に詳しいんじゃないのか。

「もしこのお仕事につくのでしたらここから猫喫茶に通勤することになりますが」

 ジェイルくんガンバ!

 帝国皇女が通勤なんて、ラノベじゃあるまいし。

 大体、危険だろ?

「あら大丈夫です。

 サリムが守ってくれますし、私が働いている間は用心棒……警備員として役に立つと思いますよ」

 フレアちゃん。

 もういい。

 判ったから。

「それでは、とりあえずそういうことで」

 よく判らない言い訳で企画会議を締めた俺は、アドナさんとニャルーさんを見送った後、フレアちゃんを座らせて詰問した。

 フレアちゃんは無邪気な顔で澄ましている。

 絶対判ってやっているな。

 何せシルさんの妹だ。

 血は半分しか繋がっていないとしても、違っている残りの半分は皇族だからな。

 (したた)かさでは俺なんか足下にも寄れないだろう。

「だって、少しでもマコトさんのお役に立ちたかったんですもの」

 騙されないぞ。

 面白そうだから以外の理由があるはずがない。

 でも、もうしょうがないよなあ。

 サリムさんもいるし、大丈夫か。

「判りました。

 でも、次からはまず私に相談してからにして下さいね」

「はいっ!」

 返事はいいよね。

 何というか、アレスト興業舎の女性幹部たちに通じるものがあるなあ。

 なんでこんなのばっかりが集まってくるんだろう。

「まあ……大丈夫だと思いますが」

 さすがのジェイルくんもあやふやだ。

 困るよね。

 でも仕方がない。

 ジェイルくんは、ムストくんに連絡して猫喫茶の場所の手配をしなければとか言いながら去った。

 いたたまれないなあ。

 迷惑かけて済まない。

 キディちゃんもいつの間にか消えているし。

 あの娘、そういう所は猫だもんな。

 なぜか楽しそうなフレアちゃんをヒューリアさんに任せ、俺は自分の執務室に戻って机についた。

 居心地がいいんだよね、この椅子。

 アレスト興業舎の舎長室の奴に勝るとも劣らない。

 調度にも金を掛けているなあ。

 全部ハスィーさんの、つまり俺の借金だと思うと心からは楽しめないけど、まあ座り心地が悪いよりはいいだろう。

 もうここまで来たら、多少借金が増えたところで関係ないしね。

 ああ、それにしても親からこれだけはということで、借金と人の保証人になることだけは避けろ、と言われていたのに。

 なのに、大借金を背負ってしまった。

 フレアちゃんの件では保証人になったようなものだし。

 万一何かあったら、やっぱり俺の責任なんだろうな。

 考えている内に暗くなってきたので、ここはひとつ身体でも動かそうかと思って腰を上げた途端、ノックの音がした。

「なに?」

「お客様です。

 予約はないのですが、是非ということで。

 タリ・セレスとおっしゃる方です」

 誰?

 男なら、前に会っていたとしたってどっちみち覚えてないだろうし。

「どんな人だった?」

「立派な商人とお見受けします。

 ご記憶になければ、王太子府で会った者だと伝えて欲しい、ということでした」

 ああ、あの時の。

 芸能関係の経営者とか言っていたっけ。

 うーん。

 ヤジマ商会の仕事って、今のところ猫喫茶と「小学校」だけだからなあ。

 両方ともまだ計画段階だし、どっちにしてもすぐに収入に繋がるという話じゃない。

 ジェイルくんは失敗してもいいとか言っていたけど、そればっかりではやっぱ駄目だろうし。

 出来れば日銭が入るような仕事を、あと一つ二つくらい作りたいところなんだよね。

 まあ、会うだけならいいか。

 ハマオルさんがいるから、暗殺者とかは大丈夫だろうし。

「応接室に通して。

 後、人数分のお茶を」

 お茶ばっかりだなあ。

 コーヒーって無いんだろうか。

 一応着替えて、俺は応接室に向かった。

 会うだけだからね?

 約束とかしないようにしなければ。

「お待たせしました」

「こちらこそ、突然のご訪問をお許し頂き、ありがとうございます」

 商人さんは……もう名前忘れた……俺の世界と同じように、応接室で立ったまま俺を迎えてくれた。

 こういうのって、異世界共通なのかも。

「ヤジママコトです。

 その節は、急いでいたもので失礼しました」

 商人さんは、こっちでの名刺である薄い板を差し出しながら言った。

「改めてご挨拶申し上げます。

 セレス芸能の代表をしておりますタリです。

 ヒューリア男爵公女様からご連絡があるということでしたが、ずうずうしくも押し掛けてしまいました。

 誠に失礼とは思いましたが、いてもたってもいられず」

 そうだ!

 タリ・セレスさんだ!

 さすが、気配りが凄い。

 もうこれだけで、何か仕事を一緒にやってもいいくらいだ。

 名前を絶対忘れないようにしないと。

 俺も、そろそろ名刺作っといた方がいいかな。

「まあ、おかけ下さい」

 トレンディドラマか何かで見たシーンを思い出しながら、俺はセレスさんを座らせ、自分が対面に腰掛ける。

 タイミング良く給仕の小僧がお茶を持ってきて、一息つけた。

 もうこいつ、給仕でいいかも。

「さて、お話ということでしたが」

「は、はい。

 少し長くなりますが、お時間はよろしいでしょうか」

「午後の会議が思いの外早く終わったので、少し時間が出来ましたから、大丈夫です」

 でもあまりダラダラは駄目だよ、と眼力を込めてタリさんを見ると、タリさんはハンカチのような布で額の汗を拭いて頷いた。

 ひょっとして緊張してる?

 タリさんはおそらく平民だろうし、俺は近衛騎士とはいえ貴族だから判らなくもないけど、商人の力が強いソラージュでは大商人ならそこら辺の近衛騎士風情に劣るものではないと思うんだけどね。

 それとも、俺の変な噂でも信じているのか。

 フクロオオカミに乗って山に登ったとか、警備隊の隊長と決闘したとか。

 どっちも事実だけど。

「それでは、まずわたくしの仕事から簡単に説明させて頂きます。

 セレス芸能は、ソラージュ王都の芸能事業者の中では五本の指に入る企業で、主な事業分野は旅芸人や吟遊詩人の仕切です」

 魔素翻訳、泣けてくるなあ。

 ここでいきなり、旅芸人はいいとしても何で吟遊詩人なんていう単語が出てくるのか。

 でも、俺の脳がそう翻訳したってことは、それっぽい人なんだろうな。

 忘れてはいけない。

 こっちにはテレビもラジオもネットも携帯プレーヤーもないのだ。

 江戸時代なんだよ。

 当然、芸能といえばせいぜい劇場で芝居をしたり、広場で歌ったり踊ったりする程度だろう。

 その仕切というと、つまり芸能プロダクションということだね。

 何でそう翻訳されないのか不思議だけど。

「仕切と言いますと、つまり管理ですか」

「はい。

 わたくしどものリストに芸人たちの名前を登録して、仕事があれば斡旋したり、時にはこちらからイベントに呼んだりします。

 大半の者は、現在はセレス芸能に所属しております。

 実は常設の劇場(こや)も持っておりまして、毎日公演も行っています」

 これはあれか。

 芸能プロモーターという奴か。

 いや、常設の劇場というかそういう施設があるのだとしたら、A○Bとかの事業形態に近いかもしれない。

 それはいいけど、そんな人が何で俺に?

「ヤジママコト様がアレストサーカス団を立ち上げたことは、王都の芸能関係者の間では評判になっております。

 まったく新しい形態の遊興事業で、アレスト市という辺境にありながらもうすでに黒字化したとか。

 その手腕を見込んで、是非ともお知恵を頂きたいのです」

 いや、だからあれはみんな誤解で。

 だけど、タリさんは言っても信じないだろうしなあ。

 話だけでも聞くしかないか。

「判りました。

 とりあえずお話だけは聞かせて頂きますが……あ、ヤジマは家名なのでマコトと呼んで下さい」

「はい。ありがとうございます。

 マコト殿」

 お、タリさん俺の「様は嫌だ」口上を聞いたことがあるな?

 しかも覚えているとは素晴らしい。

 タリさんは、再び額の汗を拭うと切羽詰まった口調で言った。

「マコト殿。

 わたくしどもの事業に資本参加して、経営に携わって頂けませんでしょうか」

 いきなり?

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