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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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14.企画会議?

「あれは、猫同士の初対面の挨拶じゃよ」

 ニャルーさんが言った。

 なぜかキディちゃんの膝の上で丸まっている。

 アドナさんはいいのか?

「キディは人間なのですが」

 ジェイルくんも困惑しているようだ。

「猫獣族は猫と友誼を結んでいて、出会ったらとりあえず挨拶することになっているんです」

 キディちゃんも平気な顔だ。

 あれが挨拶?

 威嚇しあっていたのでは。

「猫は上下関係がはっきりしていますから、まず最初にお互いの立場を確認するんですよ。

 あれでニャルー様の立場が上だということがはっきりしたわけです」

 ニャルー「様」なのか。

 猫なのに。

 よく判らんが、要するにキディちゃんがニャルーさんの配下に納まったということだな。

 人間を支配下に置くとは、恐るべし化け猫。

「違いますよ。

 あくまでも猫と猫獣族との関係です。

 それに、別に支配されているというわけでもありません」

「うむ。

 立場の上下ということじゃな。

 マコト殿とジェイル殿のようなものだ」

 俺はジェイルくんと顔を見合わせた。

 判るような判らないような。

 まあいい。

 仕事に支障が出なければ、何でもありだ。

 それがアレスト興業舎、いやヤジマ商会ということにしよう。

 突っ込むと色々と面倒そうだし。

「ニャルーの挨拶、久しぶりに見ましたわ」

 アドナさんがのほほんと言った。

「前にもあったんですか?」

「はい。

 祖父を訪ねてきた人の中に、猫獣族の方がいらっしゃいまして。

 出会った途端に二人とも向き合って威嚇音を出すものですから、その時は皆さんと同じように何事かと思いました」

「猫獣族はそんなに数が多くないからの」

 ニャルーさんがそっけなく言う。

「猫も、あまり人前には出ないからのう。

 しきたりを知らぬ猫も多い。

 この分では、そのうちに猫獣族との友誼も絶えるかもしれん」

 そうなのか。

 アレスト市でも、モス代表とキディちゃん以外に何人か見かけたけど。

「猫獣族は別に一族とか血縁というわけではありませんから」

 キディちやんがしれっと言った。

「でも猫獣族の村はあちこちにありますから、まだまだ消えはしないと思いますよ。

 姉御」

 あるのか、猫獣族の村。

 みんなネコミミか。

「ニャルーさんが姉御なのですか?」

 フレアちゃんが聞いた。

「格上の方が兄または姉ということになります」

「猫と人間で、どうやって上下関係を決めるんです?」

 ストレートな質問に、キディちゃんとニャルーさんは顔を見合わせた。

「それはまあ、何となく」

「歳とか経験とか、あるいはカリスマとか?」

 判らん。

 もうそんなことはいい。

 キディちゃんが使えると判っただけで十分だ。

 俺は仕切り直した。

「猫喫茶事業の担当は、このキディになります。

 アドナさんとニャルーさんの窓口でもありますので、これからよろしくお願いします」

 ちなみに全員で会議室に移動している。

 給仕の小僧には悪かったがもう一度お茶を入れなおして貰って、「猫喫茶事業企画会議」の開始だ。

 キディちゃんが言った。

「ええと、まず決めなければならないのは猫喫茶をどこに出店するか、ということですよね?」

 さっき聞いたばかりだというのに、キディちゃんはもう担当らしくなっていた。

 アレスト興業舎の舎員って凄いなあ。

 こんなに有能な人ばかりだと、それは発展もするよね。

「そうですね。

 場所については、大まかな地域が決まればこちらで店に相応しい区画を選定しますが、まずニャルーさんから見てどこがいいと思われます?」

 ジェイルくんが滑らかに仕切る。

 やっぱ俺、いらないな。

「そうじゃな。

 第一号店は、やはりわしのテリトリー内にするのが良いじゃろうな。

 わしの息のかかった猫の方がスカウトしやすかろう」

 ニャルーさんも、前から店をやっていたかのように入っていくなあ。

「するとアドナさんのお住まいの近くになりますね?」

「はい。

 ですが、私の家があるのは住宅街で、あまりお客様が来ないのではないかと」

 アドナさんが遠慮がちに言った。

「どの辺りでしょうか」

「マリハ地区です」

 どこなんだ?

 俺もジェイルくんも田舎者だから、王都の場所なんか全然判らんぞ。

「少し行けば、繁華街がありますわね」

 ヒューリアさんが口を挟んだ。

 おお!

 王都に詳しい人がいてくれて助かった。

「ですが、それなりの距離があります」

「猫じゃからの。

 あまり長い距離の通勤は……」

「別に繁華街に店を開かなくてもいいんじゃないでしょうか」

 俺は思わず口を挟んだ。

「むしろ、静かな住宅地にあった方が、コダワリのお店ということで流行るかもしれません」

 実際、日本の猫喫茶はあまり商店街の真ん中とかにはなかった気がする。

 むしろちょっと外れた場所というか。

「それでは広まるのに時間がかかるのではないでしょうか」

「いいんですよ。

 長期的に利益が上がれば。

 第一号店は実験の度合いが強いので、いきなり流行ったらむしろ問題が出るかもしれません」

 アレストサーカス団は、それで偉い目にあったからなあ。

 関係者全員が屍になるところだったし。

「うむ。

 考えてみれば、猫喫茶が上手くいくかどうかも不明じゃからな。

 最初はわしの家の近くにするか」

 ニャルーさんの家なんですね。

 ヨランド家ではなく。

「そういうことでしたら、アドナさんのお宅の近くで場所を探しましょう」

 ジェイルくんが言った。

 隣でソラルちゃんがメモをとっている。

 なるほど。

 書記がいる場合は、ジェイルくんも無理にメモしないのか。

 議長が書記を兼ねるのは面倒だしな。

「では次の課題ですが、ニャルーさん」

「何じゃ?」

 キディちゃんの膝で丸まっている割には態度がでかいぞ猫又。

「従業猫ですが、集まりそうですか?」

「何匹かに声を掛けてみたが、雄は駄目じゃな。

 食って寝て、発情期に交尾するしか能がない生き物じゃ。

 じゃが雌の感触は良かったぞ。

 みんな三食昼寝付き、という条件に飛びついてきおった」

 結局サボリかよ!

 まあ、猫だからなあ。

「特に子供がいる猫は、食べ物と寝床が確保できて安全だというだけで十分と言っておったな」

「雄……子猫たちの父親は頼れないんですか」

「猫じゃからな」

 だよね。

 まあいい。

 子猫がいるのなら、それはそれで好都合かもしれない。

 むしろ売り?

「すると、店に住み込みでもいいということですか」

 俺の質問に、ニャルーさんは頷いた。

「そうじゃな。

 子供と一緒にいられるのなら、皆納得すると思う」

「住み込み、ですか?」

 ジェイルくん、実は猫喫茶ってそれが基本なのだよ。

 猫が通勤するなんて、聞いたことがないし。

「うん。

 店の裏に宿舎でも作って、従業猫に住んで貰うんだよ。

 通勤する必要もないし、体調が悪い猫はすぐに交代で休める」

「ですが、猫には縄張りがあるのでは」

「あー、それはあまり考えなくても良い」

 ニャルーさんが答えた。

「そもそも、縄張りは餌の確保が目的じゃからな。

 それが解消されるのなら、他の猫と一緒でもかまわん」

 やはりそうか。

 猫喫茶とかでも、たくさんの猫が一緒にいたからなあ。

 それで別に問題が起きてないのなら、そういうことだろう。

「判りました。

 この方針で行こうと思います。

 こちらで店の場所を探しておきますので、ニャルーさんは従業猫の確保をお願いします。

 猫喫茶事業の経営者は、とりあえずアドナさんでよろしいですね?」

「私どもから言い出したことですので、仕方ありませんね。

 でも、私は経営については」

「こちらから支援を出しますので、名前だけで結構です。

 後は一号店の店長を誰にするかですが」

 その時、フレアちゃんがニャルーさんに声をかけた。

「あの、いいでしょうか」

「何じゃ?」

 ホントに態度がでかいな猫又。

 フレアちゃんは、すっと手を伸ばしてニャルーさんの喉をくすぐると同時に背中を軽く撫でる。

 ニャルーさんは、すぐにゴロゴロ言い始めた。

「これは!」

 驚くキディちゃん。

「あらまあ」

 アドナさんも感心しているようだ。

 フレアちゃん、猫撫でが得意?

「私が住んでいた宮……屋敷には猫さんがたくさんいて、私は皆さんとお友達でしたの。

 よく頼まれてマッサージをしておりました」

 意外な特技!

「猫は、どこにでも入り込んで秘密をかぎ出すので商家では嫌われますが」

 ジェイルくんが感心して言った。

「フレアさんは、猫慣れしていらっしゃるみたいですね」

 夢心地から醒めたニャルーさんが身体を起こした。

「……上手いのう。

 よし決めた。

 猫喫茶の第一号店の店長はわしがやる。

 副店長はこの娘じゃ!」

 いや、それは無理だろう?

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