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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?

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9.騎士団と警備隊?

 ソラルちゃんが次に案内してくれたのは、騎士団の詰め所だった。

 といっても、建物を外側から見ただけだ。いかにマルトさんの娘といっても、騎士団にまで顔が利くわけではないようだ。

 当たり前か。

 詰め所というだけあって、何というか日本の交番の大きな奴、といった風情だった。本部は城じゃなくて領主の屋敷のそばにあるらしい。

 まあ当然だな。領主の私兵なんだから。

「騎士の人たちは、ここにはほとんどいません。何かあったときの連絡用に一人か二人いるだけです」

「へぇ。あとの人たちは?」

「時々街を見回ったりしているだけですね。当直以外の人は騎士団の本部で訓練とかしているらしいです。」

 ソラルちゃんも、あまりよく知らないようだ。

「騎士の人たちって、どう? 威張っていたりする?」

「そうでもないですよ。というのは、この詰め所にいる騎士は大抵平民なんです。中には貴族の方もいますけれど、ほとんど詰め所には来ません」

 それはそうだろうな。

 下っ端の騎士は、やはり平民か。

 いや、騎士といっても色々あるからな。ヨーロッパの騎士は、基本的にナイト爵持ちの貴族のことだけど、ラノベでは色々あったし。

「騎士ってエリートなの?」

「そうですね。警備隊の人とか、兵士の中で優秀な人がなるみたいですよ。お給料もいいですし。でも、やっていることはボディガードですから、あまり面白くないらしくて、最近はなり手が減っているみたいです」

 うーん。

 戦争やってないからだろうか。

 ていうか、文明が発達してくると、騎士の役割が変わってきたり、必要無くなってくるらしいからな。

 いや、そもそも騎士とか言っているけど、俺がそう聞いているだけで、まったく違う職業なのかもしれない。

 まあいい。

 騎士はエリートだというし(エリートって普通に聞こえるんだ。魔素翻訳すごい)、どうせ俺には関係ないだろう。

 なんか、実力よりはコネとか血筋が重視されそうだし。

 それ以前に、俺はそんな仕事にまったく向いてない。

 危険手当付き肉体労働の上に役人なんか、絶対嫌だ。

「とりあえず判った。で、今の話に出てきたけど、警備隊とか兵士って」

「警備隊は、ギルド配下の組織です。街の治安と、周辺の安全確保などが任務ですね。兵士は、もちろん兵隊です

 警備隊員は常設ですが、兵士は一部を除いては臨時職です」

 ラノベとはちょっと違うようだ。

「ええと、つまり警備隊員というのは職業で、兵士は戦争とかがあった時に集められるということ?」

「そうです。もっとも、この辺りで戦争があったのは百年以上前だそうですので、兵士が召集されるのは何か災害が起きて対処するときくらいですね」

 うーん。

 だから警備隊なのか。

 自衛隊とも違うし、警察でもない。

 魔素も翻訳に困っているのかも。

 整理してみると、まず警備隊というのは警察に近いけれど、もっとアグレッシブに動くみたいだ。

 街だけじゃなくて、この地方全体の治安を担当しているんだろう。

 地方の村の治安とかも。

 だけど自衛隊と違って、基本的には戦うための組織じゃない。ある程度の問題は自力で対処するけど、問題が大きくなると騎士団とか軍とかに上げると。

 兵士と言っているけど。これは明らかに軍だな。でも、やっぱり自衛隊と違って常備軍じゃない。

 多分、普段は司令部と最小限の戦力しかないんだろう。指揮官クラスとその周辺の事務職しかいない。

 で、大災害とかになると登録してある兵士を召集して対処する。これは戦争の場合も同じで、だけど百年くらいそんな事態にはなったことがない、と。

 平和だなあ。

 ただ、やっぱり常備軍がないっていうのは、平和というだけではなく、多分生産力が足りないからだな。屯田兵みたいなもので、普段は街や農地で働いている兵士を、臨時に引き抜いて使うわけだ。

 兵隊ってのは、基本的に何も生産しないからな。そんな穀潰しを大量に雇っていたら、すぐに経済が破綻してしまう。

 特に、蒸気でも電気でもガソリンでもいいけど、動力が実用化されていない世界では生産性が悪すぎて、常勤の軍人なんか大量に保持できるわけがない。

 だから騎士団、警備隊、そして臨時の兵士か。

 大体判った。

 全部、俺にはまったく関係がない職業だね。

 万一、ハロワで紹介されても断るよ。

「なるほど。じゃあ、次は警備隊とやらを見たいな」

「こちらです」

 ソラルちゃん、ずいぶん親切になったな。

 最初会ったときとは大違いだ。

 何があったんだろう。やっぱり、マルトさんから言い含められているんだろうか。

 まあいいや。

 ソラルちゃんに案内されてやってきたのは、広場からちょっと引っ込んだ場所だった。かなり大きな屋敷が並んでいる通りに、突然何もない広場、いや小学校の運動場みたいな空き地があった。

 建物自体もかなり大きい。

 日本で言う警察署みたいな構造の3階建てと、あとは2階建ての細長い建物がいくつかあった。あ、あれって宿舎だな。

 全部木造だった。

「ここが警備隊の本部です。あとは、街のいくつかの場所に支部があります」

 まさしく警察だが、違うのは訓練施設らしいのも付属していることだな。常備部隊だから、おそらく訓練や教育もここでやっているんだろう。教育施設を別に作るほどの規模ではないと。

「警備隊員になりたい人は、定期的に募集してますので試験を受けて合格すれば入隊できます。新人の間は、ここで訓練を受けつつ見習いとして働くみたいです」

 ソラルちゃんが自信なさそうに言う。

 あまり関係がないので、よく知らないのかもしれない。

 うん、大丈夫だ。大体想像はつく。

 それにしても、制度的には結構しっかりしているな。

 地球の中世レベルかと思っていたけど、むしろ近代国家に近いじゃないか。

「でも、聞いたところによると、入隊するにはコネがないと駄目みたいです」

 ソラルちゃんが、小さく言った。

「コネ?」

「はい。ギルドの幹部からの推薦があるとか、偉い人の親戚とか」

 ああ、それは当然だ。

 ギルド直属の武力組織だからね。

 いくら強くても、得体の知れない奴を入隊させるわけにはいかないのだろう。

 実際、日本の警察もコネが強いらしいからな。試験は誰でも受けられるけど、人物を調査されてヤバかったらハネられるっていうし。

 どこでも同じだなあ。

 ラノベだと、かなり横暴な警備隊員とかが出てくるけど、ああいうのは露骨には多分有り得ないぞ。

 ニュースになる警官や自衛隊員や役人の不正って、あまりいないからニュースになるんだよね。

 江戸時代じゃあるまいし、露骨に賄賂を受け取っていたら、多分長くは続かない。賄賂自体が制度に組み込まれているのなら別だけど、なんか違うみたいだし。

 なぜそう思うのかって?

 俺が賄賂を要求されていないからさ。

 最初に馬車に乗った時、あのガキ……少年は親切に色々教えてくれたけど、そのサービスに対価を要求しなかった。

 日本なら当たり前だけど、これって地球でも珍しいことらしい。

 ハッサンが驚いていたもんな。

 あいつの祖国じゃあ、ソフトウェアでも価格の半分は賄賂だって。

 日本が異常なんだけど、この世界でそうなっている理由は判る。

 魔素のせいだよな。

 何せ、会話するだけで本音が出てしまう。誤魔化すことはできなくはないけれど、自分以外の全員が正直な社会でゴマカシを続けるのは大変だぞ。

 つまり、正直でいた方が疲れないですむし、信用も積めるわけで、だから日本並にお堅い社会になっているんだろう。

 それでも、やはり重要な組織の場合はより信用できる人が欲しいから、やっぱりコネということになるんだろうな。

 マルトさんが、俺を直接雇ってくれないのもそのせいかも。

 とりあえず、よその会社で働かせて様子を見ようということか。

 まあいい。

 俺としては、就活の支援をして貰えるだけで十分といえる。これって、日本で言う就職斡旋会社、じゃなくて紹介会社の機能かな。

 飲み食いと寝るところを提供して貰っているだけでも破格なのに、どうよ?

 いい人に出会ったなあ。

 何か裏がありそうだけど、今はいいや。

 それにしても、今まで見てきた仕事って、就職したくないベストテンに入るものばかりだな。どっちにしても採用を断られるだろうからいいけど。

 信用第一だからなあ、ああいう仕事は。

 でも、あれ以外に仕事なんかあるのか。日本だって、読み書きできない移民の外国人を雇う会社なんか、凄く限られているし。

 事務系は全滅。

 技術者といっても、こっちにIT産業があるはずもない。いや、俺はIT技術者としても大したことないから、あっても無理。

 医者や介護士でもなく、車じゃなくて荷馬車や馬を使えるわけでもない。

 ということは。

 やっぱあれしかないのか?

 絶対嫌だけど。

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