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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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5.企画会議?

 翌日、俺が朝のジョギングから帰って飯も食い終わらないうちにムストくんがやってきた。

 いきなり食堂に来るなよ。

 といっても、待たせるような場所がまだないしな。

 ヤジマ商会の機能が整っていないので、俺のいる所に案内されてしまうのだ。

 その辺りを早く整備しないと。

「朝早く失礼します!

 いやー、昨夜は楽しみで眠れませんでしたよ」

 テンション高いね、ムストくん。

 どうやらジェイルくんが昨日のうちに連絡したらしい。

 仕事が好きなんだろうなあ。

 そこら辺のサラリーマンとは違うパッションを感じる。

 俺、もともとあまり張り切って仕事するタイプじゃないから、こういうモーレツ社員? を見ると眩しく感じるんだよね。

 真似たいとは思わないけど。

「おはよう。

 朝食を一緒にどう?」

「食べてきました。

 出来ればお茶だけ頂きます」

 それはそうか。

 御者の小僧に命じてお茶を出してもらい、急いで食っているうちにジェイルくんが来た。

「おはようございます。

 マコトさん、遅れて申し訳ありません」

 さすがジェイルくん、如才ないなあ。

 でも、何か怒っているような。

「早く来すぎました。

 マコトさんのお食事の邪魔をして、申し訳ありません」

 そういうことか。

 ムストくんのテンションが目に見えて下がったので、俺は慌ててフォローした。

「お待たせする体制が整ってないから、仕方がないよ。

 こっちの不手際だから」

「……職員の採用を急ぎましょう」

 まだ不満そうだったが、ジェイルくんも何とか矛を収めてくれたようだ。

 急いで食い終わって、全員で俺の書斎、じゃなくて執務室に移動する。

 ちなみに俺、書斎なんてもんが本当にこの世にあるとは思ってなかったんだよね。

 最近はアニメにもあまり出てこないしな。

 ユマ閣下やトニさんの執務室は、あれは仕事部屋だし。

 昔の小説には、普通の家のご主人が自分の部屋として書斎にいるようなシーンがあるけど、俺が子供の頃にはもう、そんなもんはどっかに行ってしまっていたもんね。

 つまり、書斎とは部屋が余っているような家にしか存在しない部屋なのだ。

 そういう意味では俺の書斎も執務室なので、実は書斎じゃないんだけど、見た目は書斎だからなあ。

 書斎と思おう。

 憧れるぜ。

 俺達はソファーに座ってジェイルくんが用意した資料を見ながら、ムストくんに猫喫茶の説明した。

 いや説明したのはジェイルくんで、俺は黙っていたけど。

 ジェイルくんは完璧だった。

 平易かつ的確に要点を整理して、計画書を作成し終わっていた。

 俺、マジでいらないんじゃないのか。

 アレスト興業舎でもそうだったけど、俺の役割って最初の一突きで、後は勝手に物事が転がっていくんだよな。

 凄い手際で物事を転がす人がたくさんいて。

 俺の存在意義が問われる今日この頃である。

「……ということなんですが、ムストさんいかがですか?」

「凄いです!

 今までになかった発想です!

 猫が従業員とは!」

 ムストくんって、やっぱり感激屋なのかもしれない。

 まさか、俺の前だからと言って無理しているんじゃないよね?

「ウケそう?」

「これはイケますよ!

 確かに猫を撫でると気持ちがいい事は知っています。

 料金を払って撫でたいと思う人も多いでしょう。

 しかも、猫も納得してくれているんですから、嫌がられて逃げられたり引っ掻かれたりする心配もないし」

 そういうことが知れ渡っているということは、やってみた人がいるんだろうな。

 ていうか、ムストくん自身がやったことがあるのかもしれない。

「開店準備にはどれくらいかかるでしょうか」

「うーん。

 適当な場所に店を構えて、後は普通の喫茶店と同じような内装にすればいいんですから。

 一月もあれば」

 早いな。

 従業猫を訓練する時間がとれるかどうか。

「ところで箱は大丈夫としても、肝心の従業猫は手配できるのですか?

 正直、猫がそんなことをする想像がつかないんですが」

 ムストくんの心配ももっともだ。

 俺だって半信半疑なんだよね。

 いや、日本で猫喫茶が成立しているのは知っているけど、あっちの猫はしゃべらないからなあ。

 なまじ口をきくだけに、猫から待遇その他で猛反発を食らうのではないかと。

 ストライキとか、簡単にやりそうだし。

「いえ、私が心配しているのは、お店が運営できるほどの大量の猫が集まってくれるかどうかということなんですが」

「それは大丈夫です。

 地域の猫の元締めと話をつけてありますから」

 あの化け猫なら、どうとでもするだろう。

 そのくらいはやって貰わないと。

 俺を脅すような真似をしやがって。

 責任を全部押しつけてやる。

 俺が拳を握りしめていると、ムストくんが唖然とした顔を向けてきた。

「そうですか。

 やっぱり凄いです、マコトさん」

「何がですか?」

「マコトさんが王都に来られたのは、つい先日でしょう。

 それからも認証の儀式待ちであまり動けなかったはず。

 なのに、もうそこまで手筈を整えているなんて、商人として脱帽するしかありません!」

 いや、だからこれはニャルーさんの方から。

「それがマコトさんなんですよ」

 ジェイルくん、したり顔でムストくんに頷くのはやめて。

 痛いから。

「それでは、私の方で適当な店舗の候補を探してみます。

 立地条件は何かありますか」

「そういえば、猫の行動範囲はあまり広くないと聞いたことがあるな。

 最初は、元締め猫の行動範囲の内側がいいかもしれない」

 従業猫は通勤するのか?

 住み込みが望ましいけど、ニャルーさんに相談してみないと判らないな。

「そうですね。

 ヨランド家のそばになるのでしょうか。

 至急、アドナ様に相談してみてください」

 俺が?

 まあ、そうだろうな。

 それでなくてもアドナさんを口説けと言われているんだし。

 いや色恋じゃなくて、店長就任だけど。

「では場所が決まるまでに、こちらで事業計画のたたき台を作っておきます。

 とりあえず単独店舗で開店するのですよね?」

「そうですね。

 軌道に乗れば、フランチャイズ方式で店舗を増やしていくことを織り込んでおいて下さい」

「判りました。

 それでは、今日の所はこれで」

 ムストくんは、張り切って部屋を出て行った。

 凄いねジェイルくん。

 広域展開する気なんだ。

 その金って、どっから出てくるの?

 やっぱ、俺が集めるんだろうな。

 ヒラのサラリーマンに出来ることじゃないんだけどなあ。

「大丈夫ですよ。

 実はもう、ララネル家からの出資が仮決まりになっています。

 もともとマコトさんはララネル公爵家の近衛騎士ですし、既にララネル公爵殿下ともお会いしていて、事業に出資頂いてもおかしくない状況が整いましたので」

「ええ?

 だって、俺はララネル公爵殿下とはそんな話をしてないけど。

 大体、公式訪問もまだだし」

「マコトさんは王政府の認証儀式でララネル公爵殿下に先導して頂いたでしょう?

 あのことで、マコトさんがララネル公爵の庇護下にあることが公認されたわけです。

 もう司法官閣下とアレスト興業舎の癒着だの何だのと言われる心配がなくなったんですから」

 ユマ閣下から、内々に出資のお話は頂いていたんですよ、とジェイルくんはこともなげに言った。

 でも王政府の手前、認証の儀式が済むまでは表沙汰には出来なかったらしい。

 俺がララネル公爵に会って親しくする所を見せる、というトリガーで、その出資話が進むそうだ。

「だったら俺とハスィーさんの婚約なんか、必要なかったんじゃ」

「そうはいきません。

 ララネル家の出資はあくまでマコトさんつまりヤジマ商会へのものですから、アレスト興業舎の資本とは直接関係していないという建前なんです。

 実際には同じなんですけれどね」

 ややこしいなあ。

 でもまあ、大体判った。

 アレスト興業舎は今でもギルドからの出資が大半を占めているから、ハスィーさんと俺の婚約が破談になったりしたら、たちまち資金を引き揚げられてポシャるかもしれないということだな。

 つまり、ギルドに金を返さないうちは動きがとれない。

 一方、ヤジマ商会への出資金は新規事業を始めるという名目で集めるので、それを公然とアレスト興業舎に回すことはできない。

 いや、実際にはそうするんだけど、一度は資金洗浄(マネーロンダリング)しないといけないらしい。

「ということは、ヤジマ商会で金を集めて事業展開して、その儲けでギルドの借金を返せばいいのか」

 あるいはそういう建前で。

「そうですよ。

 そうなれば、堂々とアレスト興業舎とヤジマ商会がひとつになれるというわけです」

 うーん。

 夢のような話だ。

 悪夢の方だけど。

 何度でも言うけど、これはもう一介のサラリーマンに対応できる状況じゃないぞ。

 でもやるしかないんだよなあ。

 金を集めて。

 同時に新しい事業を展開していかなきゃならないし。

 だって、その金は事業を行うという名目で集めるわけだから。

「それからララネル公爵殿下から、お誘いが来ています。

 実際には召喚ですね」

 バネェ。

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