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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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3.脅迫?

 仕方がない。

 ドリトル先生の時ほど大事(おおごと)にはならないだろうし。

 猫だからね。

 フクロオオカミみたいに暴走することもないはずだ。

 そう信じよう。

「喫茶店は判りますか?

 軽食くらいは出しますが、レストランではなくお茶を飲んだり、友達同士でお喋りしたりする店ですが」

「知っていますわ。

 王都の中心街にはかなりありますよ」

 そうだよね。

 アレスト市にもあったくらいだから、人口が50万人もいる都市にないわけがない。

 つまり、そういう店がやっていけるだけの中間層がある程度は存在しているわけだ。

 まあ、貧乏な人はそれ以上に多そうだけど。

「猫喫茶は、その店の従業員として猫がいる店です。

 もちろんお茶を出したり後片付けをしたりするのは人間の従業員ですが、それ以外にお客さんの相手をする担当として猫が雇われます」

「お客さんの相手って、何をするのでしょうか」

 アドナさんの疑問はもっともだ。

 何をするんだろう?

 俺、猫喫茶なんか行ったことないしな。

 調子に乗って言うんじゃなかった。

「色々ですが、基本は『癒し』ですね」

「癒し?」

「はい。

 先ほども言いましたが、猫の背中を撫でると人間は落ち着くんです。

 あるいは寄り添ってあげるだけでも、毎日の生活に疲れたお客さんは満足します」

 ホントか?

「あ、判ります!」

 アドナさんが手を打ってくれた。

「私も研究に行き詰まった時などは、ニャルーを撫でるとそれだけで落ち着きます。

 膝の上に載せるだけで幸せな気分になることもありますわ」

 それが猫というものだ。

 ていうか、こっちの猫も地球と同じなのか。

 違ってなくて良かった。

「アドナ、わしをそんな風に使っとったのかい」

「だってニャルーを撫でると気持ちがいいんだもの」

「わしはまた、奉仕してくれているもんだとばかり思っておったが」

「それも本当だけど、基本は私自身の癒しね」

 ニャルーさんは不満そうだったが、それが猫の仕事だろう。

「というわけで、猫喫茶で猫に相手をして貰うだけで癒される人がいるわけです。

 つまり、商売になります」

「なるほどの。

 じゃが、猫にも気が乗らない時もあるであろう。

 猫は嫌なことはやらないぞよ」

「そういう時のために、常勤ではなくて交代制にします。

 従業猫は、自分の好きな時間に働いていただければ良いわけです。

 強制ではないので、嫌なら店に出なければいいだけです」

 アドナさんが首を傾げた。

「それでは、スタッフが余ったり足りなかったりしませんか」

 経営センスがあるな。

 学者の卵じゃなかったのか。

 まあ、商人の娘でもあるからか。

「その辺は店長がやりくりすればいいでしょう。

 また、猫従業員は常に一定数が必要なわけではありませんから。

 お客さんが少ないときは、店に出ている猫の数を減らすとか」

 俺は一体、何を売り込んでいるんだろう。

 ていうか、何がしたいの俺?

「随分具体的じゃが、そんな店が本当にやっていけるのかの?」

「いけますよ。

 猫好きな人は常にいますし、色々な事情で猫と同居できない人も多いはずですから、例え一時といえども猫に癒されたいと考える人がいる限り、商売は成り立ちます」

 自分で言っててなんだけど、ホントだろうか?

 確かに日本では割合流行っているらしいけど、同じ地球であるはずの外国ではまだあまり普及してないというしな。

 こっちで猫喫茶が通用するかどうかなんて、全然判らないんだけど。

 だが、もう後には引けない。

 このまま押し通すしかない。

 しかし、大事なことなので何度も言うけど、俺って何がしたいの?

「マコト殿がそう断言するのならそうなのじゃろうが」

 ニャルーさんが、顔をペロッと前足で拭きながら言った。

「本当にやるとしたら問題は山積みじゃな。

 まず、初期投資が必要になるじゃろう」

 ニャルーさんって、ホントに猫?

 経済にも詳しい天才猫なのか?

 もう、どっちかというと化け猫とか猫又のたぐいなのでは。

 シッポが二つに分かれてないか?

「そうね。

 でも、何をするにしても元手が必要なのは当然だわ。

 いきなり猫が働くというのは無理がある」

「それはそうじゃが、わしにはそんな甲斐性はないぞ。

 そもそも猫なのじゃから」

 ニャルーさん、俺が雇ってもいいくらいなのでは。

 これだけの頭脳を遊ばせておくには惜しい。

 俺は、思わず言っていた。

「元手なら、集めればいいと思いますよ」

「集める?」

「はい。

 資金を持っている方に投資してもらうんです。

 まあ借金ですが、お店がうまくいったら少しずつ返せばいいわけです。

 実は、アレスト興業舎もそうやって立ち上げたわけで」

 何を言っているんだ俺!

 あれはギルドからの借金だろう!

 しかも、ハスィーさんが自分の身をカタにして引き出した資金だぞ!

「そういえば、アレスト興業舎? という団体はマコトさんが作ったのですね。

 フクロオオカミを雇用しているのもそこなのでは」

「いえ、私が作ったのではありません。

 アレスト伯爵閣下のご令嬢であるハスィーさんが、ギルドの執行委員として立ち上げたものなのですが、今では色々な方面から資金を集めています」

 あー。

 俺って営業には向かないわ。

 誤魔化しだらけじゃねえか!

 止めようこんなことは。

 だが、アドナさんとニャルーさんも暴走し始めていた。

「うむ。

 つまり、誰か先見の明があるお方にお金を集めて貰って、猫喫茶を立ち上げれば良いということか」

「そうね。

 別に私たちが自分で立ち上げる必要はないのかも。

 ニャルーは猫を集めるとか、説得するとかのお仕事をすればいいし」

 話がズレてるぞ。

 それは丸投げというんだ。

「ということで」

 ニャルーさんとアドナさんが、揃ってこっちを見た。

「マコト殿にお願いがあるのじゃが」

 やっぱそうなるのね。

 でも、無理。

「いや勝手すぎることは判っておる。

 だが、検討するくらいはしていただけないじゃろうか。

 わしには、かなり実現性が高い計画に思えるのじゃが」

「もちろん私たちも協力、ではなくて頑張ります」

 丸投げする気満々だなあ。

 まあいい。

 幸い、言質を取られるようなことは言ってない。

 検討はしよう。

 それだけだけど。

「判りました。

 こちらで考えてみますよ。

 アレスト興業舎でも、新事業を始めようと思っていたところですので、その選択肢の一つになると思います。

 でも、お約束は出来ませんよ?」

「それは当然じゃな」

 ニャルーさんは、またぺろっと顔を撫でた。

「しかし、上手くいく気がするのじゃ。

 何と言っても、マコト殿は猫喫茶が現実に存在している世界から来たわけじゃろう?」

 ニヤリ、と猫が笑った。

 恐怖!

「あ、マコトさんが『迷い人』だということは、知っている人は知っていますよ。

 ほとんどの人は知らないですが」

 のほほんとアドナさんが言う。

「ちなみに、私の祖父の専門は『迷い人』が歴史に与えた影響です。

 私もそちらの方面に進もうかと」

 罠?

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