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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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23.就職志願?

 次の日の昼飯の後、俺はジェイルくんに連れられてギルド本部に行った。

 ちなみにここで言う「ギルド」はソラージュ王国のそれで、ラノベみたいに国家を越えた組織ではないらしい。

 それはそうだよね。

 ソラージュは行政機能のかなりの部分をギルドに委託しているわけで、そんな組織が別の国にも関わっていたら、やってられないだろう。

 国家機密が駄々漏れになってしまう。

 よって、例えばソラージュの北にあるエラ王国やララエ公国にも、その国のギルドがあるということだった。

 帝国はまた別の方法をとっているとか。

 ちなみにギルドマスターとかいう人は存在せず、本部長と呼ばれる組織の長がいるだけらしい。

 別にチートとかではなく、ギルド評議会が評議員の中から選挙で選ぶそうで、単なる議長みたいなものだな。

 アレスト市のギルド支部長と同様、有力な商人などがなる場合が多いけど、ホントに有力な商人は自分の商売に専念するので、何というかむしろ政治家? の人が選ばれるらしい。

 そういえばアレスト市のギルド支部長だったレトさんも政治家だったような。

 マルトさんみたいに自分の商会を経営しながら評議員をやるようなわけにはいかないのだろう。

 実は本部長と言っても大した権限もないということで、どっちかというとむしろ調整役なんだろうね。

 だったら政治力がある人が選ばれて当然だ。

 ソラージュ王国のギルド本部は、やはり少し郊外にあった。

 アレスト市と同様、別に都心にある必要がないためで、もちろん土地が安い方に流れるということもあるのだろう。

 実際、敷地は広かったし建物も凄かった。

 もうちょっとでお城になりかねない規模の館で、かつては大貴族の居城だったんじゃないかな。

 広大な庭、というよりは広場には大量の馬車が並んでいて、商売人らしい人たちが行き交っている。

 建物自体も低層ながらどこで終わるのか判らないくらい広がっている。

 ちなみに、ここにもハロワがあるということだったけど、もちろん都心にも分室や出張所があるそうだ。

 さすがにこんな郊外にまで職を探しに来させるのは可哀相だからなあ。

 俺はもちろん貴族なので、自分の馬車の他にハマオルさんたちが乗っているお伴の馬車を引き連れてのご訪問である。

 ギルド側は慣れっこになっているのか、別に特別扱いされるというわけではなかった。

 ジェイルくんが窓口に書類を提出している間、俺はハマオルさんと一緒に待合室でぼやっとしていただけだった。

 だけど、やっぱり近衛騎士って凄かった。

 ジェイルくんが戻ってきたかと思うと、ギルドの制服を着た男が近寄ってきて、ご案内しますと言った。

 ギルド本部長に会えるという。

 ジェイルくん、何かやった?

 ハマオルさんにはそこで待っていて貰うことにして、俺はジェイルくんを連れて長い廊下を延々と歩き、階段を上り、田舎の学校みたいな廊下を歩き、また階段を上って着いた所がギルド本部長室だった。

 ジェイルくんも一緒に会えるらしい。

 助かった。

 ハマオルさんが残ったのは、ラノベと違ってギルド内部で襲われるとか、ギルド長が襲ってくるとかの事態が考えられていないからだ。

 日本だって、例えば経団連の理事長や商工会議所の会頭に会うのにボディガードを連れて行ったりしないよね。

 ギルドとは言っても、やっていることはその程度の事だから。

 緊張していたのが馬鹿みたいで、ギルド本部長は人の良さそうな初老の人だった。

 お互いに名乗り合って握手し、雑談して終わった。

 名刺交換のたぐいもしない。

 そもそも、こっちの名刺はいちいち手彫りで金がかかるからな。

 しかも、名刺があっても電話やメールの情報が載っているわけでもなく。

 そこに書いてある情報は、どっちにしても調べれば判るのだ。というのは、名刺を作るほどの人ならその道では結構有名で、馬車に乗って命じれば大抵は連れて行って貰える。

 産業革命以前の社会って、のんびりしているのだ。

 ちょっとした連絡にもいちいち人が走るんだもんなあ。

 というわけで、俺のギルド訪問と本部長挨拶はつつがなく終わった。

 ラノベと違ってギルド本部でのイベントはなかった。

 現実(リアル)だからね。

 商工会議所に行くたびにイベントが発生するはずもない。

「これからどうする?」

「ギルドに人材募集の依頼を出しましたから、数日以内に何か反応があると思います。

 就職希望者がいればハローワークから連絡が来ますので、こちらはそれに合わせて面接の日付を決めます」

 そうか。人材募集はハロワの担当なのか。

 なるほど。

 掲示板に貼ってある依頼票をちぎって受付に出すというわけにはいかないんだなあ。

 うっかり忘れていたけど、ソラージュに限らずこっちの世界は露骨なコネ社会だ。

 何をするにもまずコネが必要なんだよね。

 例えば、俺というかヤジマ商会がギルドを通じて人を募集したとして、それをどこかで聞いた人にいきなり来られても、こっちは対応出来ない。

 コネ、つまり信用がない人は採用できないからだ。

 それどころか普通は会っても貰えないだろう。

 俺が『栄冠の空』に入った時も、ギルドは通してないけどマルト商会というコネがあったから、すんなり行ったわけで。

 もっと言えば、シルさんがシイルたちを雇ったのも、俺というコネを通じてだった。

 結果的にうまくいったから良いようなものの、俺はかなり危険な綱渡りをしていたらしい。

 シイルたちがワルだったら、俺の責任になっていたところだ。

 紹介するということは、その結果に責任を持つってことなんだよね。

 ここが日本と違うところで、日本だと例えばどっかの政治家の紹介で会社にコネ入社することがあっても、政治家は責任なんか取らない。

 会社にしてみれば、そいつを採用した時点で「借りを返す」もしくは「貸しを作る」ということで収支決算が終わっているから、入社した奴がどうしようが政治家には関係がない。

 だが、こっちの社会では、もしコネを使ってどこかの組織に入った奴が犯罪を犯した場合、幾分かは紹介した奴の責任になってしまうのだ。

 そこまでいかなくても、無能だったり使えなかったりしたら、紹介した人の評価が下がる。

 ララネル家近衛騎士の俺が何かやったら、ララネル家にダメージがあるのと同じだね。

 よって、ギルドとしては俺に人を斡旋する場合、まずそいつが信用するに足るものかどうかを確認しなければならないらしい。

 手間がかかるなんてもんじゃないぞ。

 というわけで、誰かが訪ねてくるにしてもいきなりではなく、まずギルドから連絡があるというわけなのだった。

 よく考えたら、ハロワの機能ってまさにそれだし。

 連絡があるまでは暇だ。

 いや、その前に王太子府で知り合った? 人のご訪問とかがあるかもしれないから、準備だけはしておく必要がある。

 そういうわけで、俺とジェイルくんはそのまま帰宅し、アレスト興業舎の舎員を総動員してヤジマ商会の事務室を整備したのであった。

 何、屋敷の一室をそれらしく整えただけなんだけどね。

 俺の書斎とは別に、応接室みたいな場所を作って、ここで面接もすることにした。

 中庭に面した気持ちのいい部屋で、そのまま庭に出て行くことも出来る。

 窓が広く取ってあるので明るいし、俺の書斎もこっちの方がいいくらいだ。

 お客様にはリラックスしていただきたいからね。

 雨の日なんかはどうするのかと思ったけど、まあランプの類を総動員すれば何とかなるだろう。

 今日は天気がいいし暖かいので、開き戸を大きく開けて風を通すことにする。

 俺が新装なった応接室で寛いでいると、ヒューリアさんが来訪された。

 フレアちゃんの転居の用意が調ったので、日程調整に来たということだった。

 これはシルさんの命令だから、絶対にやるしかない。

 正直、俺がフレアちゃんを引き取ってどうなるというわけでもないけど、俺の義務なんだろうな。

「そうでもありませんよ」

 ヒューリアさんは、お茶を飲みながら言った。

 記念すべき応接室での接待一号である。

 もっともヒューリアさんはむしろ身内なので、ただの打ち合わせでしかないけど。

「フレアは帝国皇女というだけではなく、またシルレラの妹という事実を抜きにしても、帝国の中央護衛隊や官僚の方達に人気があります」

「そうなんですか」

「シルレラが行方不明になった時、中央護衛隊でシルレラに心酔している人たちが反乱を起こしそうになったのを鎮めたのはフレアですよ」

 そういえば、そんなことを聞いた覚えがある。

 まだ幼かったフレアちゃんが決然とした態度で、シルさんはいずれ皆さんを必要とするから今は自重して欲しい、と訴えたそうだ。

 凄いよね。

 ハマオルさんも、フレアちゃんには殊更丁寧に接していたしな。

「つまり、マコトさんがフレアを保護するということは、間接的に帝国の一部勢力を味方につけるということでもあるわけです」

 何それ。

 怖いこと言わないでください。

「判りました。

 こちらはいつでも良いので、ご都合が良い時にお越し下さい」

「では近日中に」

 ヒューリアさんが去ると、俺はソファーに深く身を沈めた。

 疲れる。

 今更だけど、なんでぺーぺーのサラリーマンの俺がこんな目に遭うんだろう。

 俺は別に起業したいとか経営者になりたいとか、全然思ってないのに!

 そもそも俺は本来使われる側であって。

 貴族とか、やってられないぞ。

「もし」

 おまけに、これからアレスト興業舎に資金を出してくれ、と頼んで回らなければならないのだ。

 いや、その前に面接か。

 俺の商会の従業員の。

「もし、そこの」

 俺が人を雇うなんて冗談だろう……ん?

 誰かがいるような気がして、俺は庭の方を観た。

 いた。

 小さい動物が座っていた。

 なんだ、猫か。

「ララネル家近衛騎士、ヤジママコト殿とお見受けするが、よろしいか」

 猫がしゃべった!

 いや、それはしゃべるか。

 ここは地球じゃない。

 馬だって話すんだから、猫や犬は当たり前だろう。

 って、猫ってこっちにもいたのか!

「ああ。

 私がヤジママコトだが、何かご用か?」

 何とか返答する。

 すると、その猫はぺろりと前足で顔を撫でてから言った。

「こちらでは従業員を募集していると聞いたのだが、雇っていただけまいか?」

 な、なんだってーっ!

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