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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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21.ヤジマ商会?

 俺とヒューリアさんは、ジェイルくんの尊い犠牲を尻目にさっさと王太子府を去った。

 悪いけど、ジェイルくんには自力で戻って貰おう。

 少し回り道してヒューリアさんを降ろす。

 バレル男爵の王都における拠点は、大邸宅だった。

 さすが大海運業者だ。

 今の俺の屋敷の倍くらいの規模がある。

 しかも王都の中心部だ。

 もっともヒューリアさんによれば、ここはあくまでも王都の事務関係の拠点に過ぎず、本当の王都支店というか事業所は湾岸にあるということだった。

 あ、言い忘れていたけど、ソラージュの王都は海に面している。

 大きな湾に沿うように発展してきたらしい。

 王都の名前はセルリユというらしいが、これだけの人口を養うための物資の運搬は、やはり海運でなければ対応できないということだろう。

 というよりは、そもそも大都市というものは普通、海や川沿いに出来るものだ。

 セルリユもご多分に漏れないということだね。

 アレスト市の人口があの程度に収まっているのもそれが理由だ。

 アレスト市は内陸の街だから、食料なんかはよそから運んでいたら大変なことになってしまう。

 現代日本とは違うのだ。

 こっちの世界では、陸上輸送はまだ馬車のたぐいしかないんだよ。

 あとは海運。

 だからアレスト市の郊外は畑だらけだったし、近くの川での漁も盛んだった。

 多少は他から輸入していたらしいが、辺境の街は自給自足できなければ生き残れないのだ。

 王都や州都レベルの都市になると、さすがに近くでの食料生産が間に合わないため、大量の物資を船で運んでくる必要があるというわけだ。

 うーん。

 ギルドというか、商人が力を持つわけだよね。

 貴族は衰退の一途を辿っているのかもしれない。

 ま、一方でその貴族自身が商売したり、あるいは大商人がのし上がって貴族になったりするわけで、地球の歴史でもそれは同じだったはずだし。

 権力構造や社会構成ってのは、変化していくものだよね。

 地球と違っているのは、こっちの世界では相対的に人類の力が小さく、地上の覇者というレベルにまでは達していないということだな。

 天敵はいなさそうだけど、野生動物や自然災害の力が大きくて、人類が好き勝手に振る舞って良いということにはなっていない。

 しかも魔素翻訳で、ある程度の知性を持つ動物とは会話が出来るため、精神的に来るものがあるしなあ。

 その証拠に、こっちの世界では差別のたぐいがあまり見られないんだよね。

 アレスト市でも、野生動物だからといって下に見るような風潮はほとんどなかった。

 フクロオオカミが人間の間に交じっても、ごく普通に対応していたしな。

 ラノベだと、エルフを上に見たり獣人を下に見たりするのがスタンダードだけど、こっちではそういうことはあまりないんじゃないだろうか。

 何せ、トカゲの人であるスウォークの方が人間より尊重されているけど、でも別に上位階層というわけでもないし。

 エルフやドワーフ、あるいはネコミミ髪の人とかも実際にいるし。

 全員会話が出来るもんね。

 話が通じる、という事はそれほどのことなのだ。

 地球では肌の色とかの違いで差別が出来てしまっていたけど、こっちはモロに動物だもんなあ。

 むしろ違いすぎて、逆に差別出来ないのかもしれない。

 独裁的な権力構造も、育ちにくいという気がする。

 感情が丸わかりになってしまうため、自己中心な人には誰もついていかないからだ。

 たまに強烈な個性で人を引きつける者がいたとしても、あまり乱暴だとよってたかって潰されてしまうのだろう。

 大衆の支持を得るには、どうしても共感が必要になるからね。

 こっちの貴族の当たりが柔らかいのも、基本的にはそういう姿勢でしか民衆を支配できないからだ。

 うーん。

 考えてみれば凄いことだよね。

 でも物わかりが良すぎてあまり争いが起こらず、そのために強いられた発展を遂げなくても済んでいるために、文明が遅れているのかなあ。

 所々に歪な発展の仕方をしている部分があるけど、これって多分地球から転移してきた人が関係していると思う。

 名前は残っていないけど、結構いたんじゃないかな。

 あっちこっちでこっそりオーバーテクノロジーを導入した人たちが。

「お帰りなさい」

 俺が自分の家に着いてエントランスに入ると、ソラルちゃんが出迎えてくれた。

 今のところ、俺の専属的なスタッフはこの娘だけだ。

 アレスト興業舎の王都出張所が店開きして、ある程度体制が整ったということで、ソラルちゃんは俺の家、というよりはこの屋敷に常駐になった。

 まあ、ここは出張所の分室でもあるんだけどね。

 それとは別に、ヤジママコト近衛騎士を代表とする会舎? が出来たらしい。

 らしいって無責任だけど、そういうのは全部ラナエ嬢の指示でジェイルくんがやっているから、俺はよく知らない。

 仮に「ヤジマ商会」と呼んでいるけど、そのまま定着しそうな勢いだ。

 俺が会長ね。

 で、ソラルちゃんはその従業員ということになっている。

 会社的に言えば、派遣というところか。

 俺もアレスト興業舎の役員なんだから、ソラルちゃんは部下と言えないこともないんだけどね。

 形式上は、アレスト興業舎の舎員であるソラルちゃんが、ヤジマ商会に派遣されて働いている、ということになる。

 こういう形式って、地球というか日本にもよくあったんだよね。

 何かの理由で子会社化した事務所に、親会社から人を送って働かせたり。

 もともと同じ会社の社員が同じ事務所で同じ仕事をしているのに、実は片方は派遣されていたり。

 その辺りは税金や何かが関係しているらしいけど、俺はよく知らん。

 言われるままに動くだけだ。

 パペットだよ(泣)。

「ただいま。

 何かあった?」

「今のところは何も。

 ララネル公爵家とバレル男爵家からの返事待ちというところです。

 ミクファール侯爵家はどうしましょうか」

「んー。

 何か言ってくるまではほっといていいんじゃない?

 ラナエ嬢も動くと思うし」

「判りました。

 あ、そういえばマコトさんがお留守の間にフレア様の遣いの人が来て、入居予定のお部屋の寸法を測っていきましたよ。

 全然足りないとか何かブツブツ言ってましたけど」

「ほっといていいから」

 帝国皇女様をお迎えするには狭過ぎることは判っているけど、こっちにだって事情があるんだよ。

 いくらシルさんの妹君でも、そこは譲れない。

 ラノベとは違うのだ。

 それで思い出した。

「王太子府で、俺の正体がバレてしまってね。

 面会の約束をしてしまった。

 名前忘れたけど、何とか芸能の人から連絡があったら予定に入れておいて」

「もうですか!

 マコトさん、あいかわらずそういう事は迅速で確実ですね」

 何それ。

 俺は何もしてないって。

 向こうから来るんだよ。

「あ、それからジェイルくん経由でアレスト興業舎や俺個人の商談が出てきそうだから、そこら辺はジェイルくんと相談して対応して」

「判りました。

 何かもう、動きが速すぎて悩んでいる暇もないです」

 ソラルちゃんは、愚痴みたいな事を言いながら去った。

 俺のせいじゃないよね?

 でも確かに、立て続けに色々なことが起こって流されている気がする。

 ジェイルくんたちがいるから何とかなっているようなものの、俺だけだったらとっくに溺れていただろうなあ。

 仕事もどんどん入って来るみたいだし。

 俺と面会してどうしようって?(笑)

 まあいい。

 そういう事は、他の人に考えて貰おう。

 通りがかった御者の小僧に頼んでお茶を入れて貰い、リビングで寛ぐ。

 大丈夫かと思ったけど、それなりのお茶が出てきた。

 何でもできるんだな。

 でも、確かにこういうことをさせるのは悪いよね。

 これからお客さんが大量に来るとしたら、接待要員とかを揃えておく必要があるかもしれない。

 ジェイルくんが戻ってきたのは、夕食の時間が迫った頃だった。

 すまん。

 どれだけの人に対応したんだよ。

「ただいま帰りました」

 ジェイルくんはそう言って、さすがに疲れたようでリビングのソファーにどっかと腰を落とした。

 やつれた感じに男の色気みたいなものがにじんで、ますますイケメン度が上がっている。

 出来る男は大変だな。

「どうだった?」

「とりあえず、商談希望者はまず私がアレスト興業舎の代表として対応することにしました。

 その中から厳選して、マコトさんの方に回します」

 やっぱりそうなるか。

 いや、そもそも俺の所に来られても何も出来ないんだけど。

「それに、あそこにいた人たちは基本的には商人ですからね。

 アレスト興業舎との取引を希望しているだけで、出資にはあまり興味を持っていません。

 商談はこっちで引き受けます。

 マコトさんのお仕事は、とりあえずお金を借りることですよ」

 そうだった。

 俺はハスィーさんの借金を何とかするために、ここにいるのではないか。

 いや、厳密に言えば違うかもしれないけど。

 それでも、まずアレスト興業舎をギルドから独立させるための資金を集めることが第一目標と言ってもいい。

 ユマ閣下のコマとしての俺の役割は、まずはそれだしね。

 要するに、俺はジェイルくんが回してくる金持ちを口説いて資金を吐き出させればいいんだよね?

 ぺーぺーのサラリーマンの仕事じゃないぞ、それ(泣)。

「それにしても、ラミット勲章の話は寝耳に水で大変でした」

 ジェイルくんが言った。

「相変わらず予測のはるか上をいきますね、マコトさん」

「俺だって同じだよ。

 でも、勲章貰ったことで何か変わったの?」

 信頼の証といったって、個人的な友誼だろう。

「マコトさん、ラミット勲章を授与するということは、その王族が相手の人物を保証するということです。

 マコトさんが王太子に背いたり、何か悪事を働いたら、王太子殿下の目が曇っていたということになるんですよ。

 責任の一部を取らされるかもしれません」

 な、なんだってーっ!

「それってつまり」

「はい。

 ララネル家の近衛騎士と同じくらいの信頼の証と言えます。

 マコトさんは、王太子殿下に人物を認められたということですね」

 何てこった。

 捨て身で俺にシバリをかけやがった。

 あの王太子、やっぱりユマ閣下並の腹黒だったのか。

 でも信頼されたのは俺自身じゃないよな。

「いや、俺の人物を見込んだというよりは、ハスィーさんへの信頼だと思う」

「それでも、直接会ってマコトさんを確認してからラミット勲章を授与したんですよね?

 やはり、マコトさんを認めたんですよ。

 王太子殿下は」

 どうだか。

 利用価値がある、と踏んだのかも。

 そんな俺にかまわず、ジェイルくんが続けた。

「王太子殿下の保証付きということで、貴族の方々がさらに殺到してくることも考えられますね。

 このままではやはり人手不足は否めませんか。

 ヤジマ商会のスタッフを揃える必要があります。

 ギルドに募集をかけてみましょう」

 何?

 ギルドにクエストを発注するの?!

「違いますよ。

 ヤジマ商会の従業員募集です。

 王都は人がたくさんいますから、コネ以外にもそうやって人を集める方法がとれるんですよ」

 それ、地球では当たり前だけど。

 そうか。

 ついに俺も、ギルドで冒険者を募集する立場になったか。

 パーティ単位がいいかな。

 それとも、技能で?

 剣士と僧侶と魔法使いと……。

「何ですかそれ。

 とりあえず、事務員と接待役ですね」

 ケチ。

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