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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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18.特権?

「すみません。

 時間が惜しかったので」

 俺の不機嫌を感じたのか、ミラス王太子殿下が心配そうな声を掛けてきた。

 だったら説明くらいして貰えませんか。

 すると、モレルさんが話し始めた。

「ラミット勲章は、王族が授けることが出来る一般章です。

 この勲章の特異な点は、授賞者に個人的な特権が付与される点にあります」

 時間が惜しいんじゃなかったの?

 ああ、そうか。

 何か邪魔が入らないうちに済ませてしまいたかったわけね。

 で、やってしまえば暇があるわけか。

 それにしても、言っていることがよくわからん。

「個人的な特権ですか?」

 何じゃそりゃ。

 勲章って、そういうものなの?

 確か、日本の法律では勲章にはいかなる特権も付随しないことになっていたはずだし。

 でも、太平洋戦争前にはあったらしいけどね。

 年金とか。

「少し長くなりますが」

 モレルさんは前置きして、王太子殿下を見た。

 殿下が頷くと、きちんとした姿勢になって話す。

 このモレルさん、最初に思ったよりはるかに有能な人みたいだな。

 杓子定規に見えたけど、貴族としての本分を弁えて、それをきっちりと守っていると思うべきだろう。

 それでいて、柔軟性も持ち合わせている。

 グレンさんが参謀だとしたら、モレルさんは副官だな。

 裏でグレンさんが動いて、表はモレルさんが守る。

 何だ、王太子殿下もいいスタッフを持っているじゃないか。

 王太子殿下がライン○ルトなら、モレルさんはキル○アイスか。

 体形やイメージは全然違うけど。

 グレンさんはミッター○イヤーとロイエ○タールを一人で演っている?

「およそ百五十年前の事です。

 当時、ソラージュ王国は某国と戦争をしていました。

 時の王陛下も前線司令部で督戦されていましたが、ある時最前線からの伝令として一般兵士が司令部に入り込もうとしたそうです」

 ソラージュも戦争をしていたのか。

 それはそうだ。

 この砦があるくらいだからな。

「当然、司令部付きの護衛隊がこれを阻止し、用件を聞こうとしましたが、兵士は『直接陛下に申し上げるように厳命されている』と言って拒みました。

 その態度に苛立った参謀が逮捕を命じた所、兵士は突然暴れだし、護衛隊を振り切って陛下の御前に飛び出した」

 それは無謀だ。

 メンツがどうとか以前に、暗殺の危険があるからそんなことをしたら即処刑だろう。

「もちろん一般兵士の身分ではそんなことが許されるはずもなく、その場で切り捨てられかけたのですが、王陛下が止められたそうです。

 その兵士のことは、たまたま王陛下が見知っておられたということで、信用されたわけですね。

 兵士は王陛下に直接伝言を伝え、結果としてその戦場での勝利に繋がったとされています。

 その後、時の王陛下によってラミット勲章が制定されました」

 ホントに長いな。

 でも読めてきたぞ。

「もうお判りだと思いますが、ラミット勲章の授賞者は身分に関係なく『授けた者にいつでもお目通りが叶う』という特権を与えられます。

 これが長じて、現在ではラミット勲章は信義の証、あるいは身分を越えた友好の印として扱われているというわけです」

 モレルさんの長い話が終わった。

 そういうことね。

 つまりミラス殿下は、このラミット勲章とやらを俺に授けることで、俺がいつでも王太子殿下に会える、もしくは連絡できるようにしたわけだ。

 これが友情の証かどうかは疑問だが、確かに双方にメリットがあるやり方だな。

「ちなみに、ラミット勲章を持っているからといって、王族全員の信頼を受けている、というわけではないですよ」

 グレンさんが付け足したが、それは当たり前だな。

 勲章の性質上、あくまで一対一の関係になる。

 ていうか、これって王族が身分違いの配下を持つためのツールじゃないの?

 近衛騎士と似ているな。

 俺って、そういう役割?(泣)

「後は、当然ですが年金などもついていません。

 舞踏会などで胸に付けていると、多少は感心して貰えるという程度ですね」

 アレスト市警備隊の名誉隊長とも似ている。

 そういう場所や人限定みたいな栄誉の印、手軽でいいよね。

 金にはならないけど。

「お気を悪くされなければいいんですけど」

 ミラス殿下が心配そうに言った。

「余計な邪魔が入る前に、どうしてもマコトさんにラミット勲章を受けて頂きたかったので」

「いや、いいですよ。

 ありがとうございました」

「良かった」

 でも、今度からは一言断ってね。

 その時、何事かを声高に話しながら近づいてくる人の気配がした。

 グレンさんが舌打ちして、態度を変える。

 それまでちょっとだらしなさそうだった様子から、一転してピシッと筋が通った態度になった。

「……あまり甘やかすものではないぞ」

「そうは言っても、多少は手心を加えて置いた方が」

 角を曲がって現れたのは、モレルさんやグレンさんと同じ制服を着た二人組だった。

 これが、さっき言っていた「あいつら」か。

 二人ともイケメンでも不細工でもない、普通人(パンピー)だな。

 でも貴族らしく、傲慢な態度が見え隠れしている。

 グレンさんやモレルさんとは、まずそこからして違う。

 なるほど。

 王太子殿下がハブるわけだ。

 二人は俺とヒューリアさんを認めて、同時に怒鳴ってきた。

「何者だ?」

「ここはミラス王太子殿下のお庭だぞ?

 って、ヒューリアか?」

「いいのだ。

 ララネル家近衛騎士のヤジママコト殿だ。

 少し聞きたいことがあったので、来て頂いたのだ」

 ミラス殿下が穏やかに言ったが、「あいつら」は納得しなかった。

「殿下。

 そのような得体の知れない者は、直接ここに迎え入れる事はなりませんぞ」

「近衛騎士か。

 その程度の身分で、王太子殿下にお目通りか。

 いい気なものだな」

 何だこいつら。

 頭が悪いにも程がある。

 ラノベに出てくる馬鹿な貴族って、ホントにいるんだなあ。

 ヒューリアさんを知っているということは、やっぱり「学校」出なんだろうけど、ユマ閣下やラナエ嬢と差が有りすぎる。

 学校が優れていたんじゃなくて、あの方々が凄いってことだね。

「よさないか!

 王太子殿下の御前であるぞ!」

 グレンさんが、さっきまでとは別人じゃないかと思えるような鋭い口調で言った。

 さすが。

「紹介しておこう。

 私の近習のレベリオとソロンだ」

 ミラス王太子殿下も、氷のような冷ややかな声になっていた。

 あの玉座で見たのと同じ、銀○英雄伝説の皇帝ライン○ルトもかくやというムードを醸し出している。

 やっぱ王族って、凄いよね。

 俺はそれを受けて二人に向き直り、丁寧に一礼した。

「お初にお目にかかります。

 ララネル家近衛騎士ヤジママコトでございます。

 よろしくご指導、ご鞭撻をお願い申し上げます」

 正式な貴顕に対する礼だ。

 この動作と口上、貴族相手なら誰にでも使える汎用型の挨拶としてユマ閣下やラナエ嬢に叩き込まれたからね。

 俺は近衛騎士なので、貴族は全員俺と同じかそれ以上の身分だ。

 だから、これさえやっておけば少なくとも失礼にはならないと言われたんだよな。

 まあ、本当言うと「あいつら」は貴族の嫡子ではあるけどまだ爵位を継いでいないので、厳密に言えば今は俺の方が身分は高いんだけどね。

「む。

 私はレベリオ・フラー。フルム伯爵家の嫡子だ」

「ソロン・サーレル。サーレル侯爵家嫡子」

 のけぞり気味になりながら言うなよ。

 でも、一応満足してくれたみたいだな。

 伯爵家に侯爵家か。

 それでこの程度か。

 ハスィーさんやラナエ嬢って凄いんだな。

 ヒューリアさんを見ると、かすかに頷いてくれたので、俺は王太子殿下に向き直って頭を下げた。

「それでは、これで失礼させていただきます。

 お目通りがかなって、光栄でございました」

「大儀であった」

 魔素翻訳って凄いね。

 そんな言葉、自分でも知っているとは知らなかったぞ。

 さて、やっと帰れる。

 そう思って頭を上げた途端、フルムだったか何だったかの人が言い始めた。

「次からは私たちを通すんだぞ。

 近衛騎士程度の身分で……」

「ヤジママコト殿は、ラミット勲章を授けられました」

 モレルさんが遮った。

 ちょっと怒気が籠もっているような。

 俺までどきっとしたぞ!

 フルムだったかは、俺の胸を見て忌々しそうに言葉を切る。

 やだねえ。

 お前らみたいなのとカカワリアイになりたくないぞ。

 勲章貰っといて良かった。

 って、王太子殿下の計算通り?

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