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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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17.授勲?

 こんな所でラノベの定番が出てこようとは。

 緊張していたのが馬鹿みたいだぜ。

 でも、油断は出来ない。

 これはラノベじゃないし、俺は主人公じゃないんだから。

 ていうか、むしろ悪役かも。

 あんなことを言っていたけど、この王太子殿下がハスィーさんに何の感情も持ってなかったとは思えない。

 でなければ、そもそもスキャンダルなんかになるはずがないからだ。

 となると、ヒロインであるハスィーさんをめぐる男の一人というところか。

 俺はよく知らないんだけど、美少女ゲームの定番であるハーレムものを、男女入れ替えたエロゲーとかがあるらしい。

 いや、エロまでいかなくても、狙って落とすというタイプのシミュレーションゲームね。

 普通? の恋愛ゲームだと、主人公が学園に入学して、同級生やら上級生やら下級生やら先生やらの美少女・美女と親しくなって何々する、というものになるけど、女性向けのゲームは主人公が女になるわけだ。

 当然、攻略対象は男だ。

 イケメンだったりテニス部やサッカー部の部長だったり文学青年だったり教師だったり、あるいは生徒会長だったり(笑)。

 王太子で生徒会長なんか、メインルートなんじゃないのか。

 でも、ハスィーさんがヒロインということはないな。

 完璧すぎてプレイヤーが感情移入できないからだ。

 同じ理由でユマ閣下やラナエ嬢も無理だろう。

 ヒューリアさんも違う。

 いやいやいや!

 俺は何を考えているのだ。

 そんなことより、現実(リアル)に対処しなければ。

「その生徒会には、ハスィーさんやユマさんも入っていたんですか?」

 そう聞くと、ミラス殿下は渋い顔になった。

「入ってません。

 そもそもは、王太子である僕にくっついていようという連中が集まって作った会ですからね。

 あの人たちには、そんな会に参加する理由がありませんから」

 おや。

 すると、ミラス殿下はハスィーさんとは交流がなかったと?

「あまり口もきけませんでしたね。

 徒党を組まなくても、自分の実力だけで十分やっていける人たちでしたから。

 あ、誤解しないで頂きたいんですけど、別に嫌われていたとか、敵対していたとかではありませんでした。

 無視されていた、という所なんじゃないかな」

 ミラス殿下は寂しそうに言った。

 感情が豊かで、いい人だな。

 王太子に生まれなかったら、もっと幸せだったかもしれない。

「いや、別に無視してはいなかったと思うぜ」

 突然俺の後ろから声がした。

 振り返ると、ミラス殿下と同年代らしい青年が立っていた。

 服装はモレルさんと同じだから、この人も王太子殿下の近習とやらなんだろう。

 それにしても、近習なのにこの口調。

 ここってマジで、王太子のプライベート空間なんだろうな。

「グレン。

 誓願者の方たちはどうした」

 誰よりも早く、モレルさんが鋭く言った。

 怖っ!

 さっきまでの笑った赤鬼とはまったく違うぞ。

 これが本来の姿か!

 少なくとも中ボスクラス。

「んー。

 レベリオとソロンに任せてきた。

 嬉々として引き受けてくれたよ」

 グレンと呼ばれた男は、皮肉げに返すと王太子に向けて一礼した。

「というわけで、今日の誓願の儀はおしまいです。

 後始末はよろしく」

「ご苦労様。

 でも、あいつらに任せて大丈夫なの?」

 ミラス殿下もあいつら呼ばわりか。

 誰なんだろう。

「そりゃもう。

 面倒なのは俺が先に片付けておきましたから。

 残ってるのは、ややこしい割につまらなくてどうでもいい話ばかりですよ。

 何か約束でもしたら、あいつらにやらせればいいんです」

「判った。

 助かったよ」

 よく判らないけど、どうやら誓願者とやらが来ていたらしいな。

 さっきの大広間にいた連中か。

 で、本来は王太子殿下が相手するところをバックレたので、近習が処理していたと。

 さらにこのグレンという人が問題になりそうなのを手早く処理して、後は同僚に任せてきたというところか。

「ところで殿下、こちらの方が例の?」

「そう。

 あ、マコトさん失礼しました。

 僕の近習の一人でグレンです」

 ミラス殿下が紹介してくれるのに従って、そのグレンという青年は俺のそばに歩いてきて気をつけの姿勢になった。

「グレン・ルワードです。

 ヤジママコト近衛騎士とお見受けします。

 本日は急にお呼び出しして、申し訳ありませんでした」

 俺は慌てて立ち上がって、何とか覚えた騎士の礼をした。

「ヤジママコトです。

 ヤジマは家名ですので、マコトと呼んで下さい」

「マコトさん、でよろしいでしょうか」

「はい」

「では、俺のこともグレンと。

 ミラスから聞いているかと思いますが、この場所限定ですがね」

 ニヤリと笑いかけてくるグレンさん。

 下品になりそうなのに、そんなことはない。

 むしろ爽やかだ。

 男の色気すら感じる。

 なるほど。

 この人が王太子殿下の片腕か。

 正直、モレルさんでは裏に回って何かするのは無理だと思っていたんだよね。

 王政府の認証の儀式の直後に俺を呼び出し、しかもヒューリアさんにエスコートさせて、無理なく王太子との会見を実現させてしまう腕があるようには見えなかったから。

 だが、このグレンさんなら可能だろう。

 作戦参謀だな。

 でも、俺この人の名前は覚えられないかも。

 イケメンなんだよ!

 それも、ミラス殿下とは対称的な「ワイルド」なかんじの!

 アレスト興業舎にもいなかったな、こういうタイプは。

 優秀な貴族、という奴だ。

 汚れ仕事も平気で出来る切れ者。

「グレンさんも、学校仲間なんですよね?」

 俺が聞くと、ミラス殿下が頷いた。

「グレンはルワード子爵家の者です。

 ルワード家は海に面した広大な土地を領地にしていて、経済力は凄いですよ」

「それと、俺が嫡子だっていうところが評価されたらしくて、めでたく殿下の近習に召し上げられたんですけどね。

 ホント、いい迷惑だよ。

 ヒューリアお前が羨ましい」

 グレンさんにボールを投げられたヒューリアさんが苦笑した。

「身から出た錆よ。

 せいぜい宮廷でコネでも作ってらっしゃい」

 やけに親しげだな。

 ひょっとして、恋人?

「違いますわ。

 貴族の中でも、貿易や商売を司る家系の裔として、昔からの知り合いというだけです」

「ヒューリアの所と俺の家は、俺たちが生まれる前から取引していましてね。

 子供の頃からちょくちょく会っていたんですよ。

 俺達みたいなのは、親にくっついて仕事を覚えるんで」

 ああ、そうか。

 だからグレンさんはヒューリアさんを羨ましいと言ったわけか。

 つまり、グレンさんにとっては王太子の近習などという仕事は、自分の将来にはあまり役に立たないのだ。

 むしろ、若い内から家業の貿易だか領地の統治だかの経験を積むことで、次代の家長としての足場を固める必要がある。

 だが近習に指名されてしまったために、それが出来なくなっていると。

「グレンがいてくれて、本当に助かっているんだよ。

 僕を呼び捨てにしてくれる、数少ない理解者だしね」

 王太子殿下が情けなさそうに言った。

 それはそうだろうな。

 そもそも、王太子殿下を呼び捨てに出来るような人は普通は近習になれないだろうし。

 このグレンさんも、人前では完璧な従者を演じているんだろうな。

「ところで殿下。

 あの話はもう、されましたか」

 グレンさんが聞くと、ミラス殿下は慌てて立ち上がった。

「そうだった!

 邪魔が入らないうちに、やってしまわないと」

 何?

 嫌な予感しかしないけど。

「マコトさん、こちらへ」

 モレルさんが俺を誘導して、ちょっと開けた所に立たせる。

 ミラス殿下が俺の真正面に立ち、その後ろにグレンさんとモレルさんが並んだ。

 ヒューリアさんは、俺の後ろだ。

 何が始まるんだ?

「マコトさん、すみませんが片膝をついて下さい」

 おい。

 これって、アレか?

 でも逆らえないので、その通りにする。

 頭を下げると、王太子殿下が俺の前に進んできたらしい気配がした。

「ララネル家近衛騎士ヤジママコト。

 帝国難民の救助において多大な貢献を成した事を讃えて、ミラス・ソラージュの名においてラミット勲章を授ける。

 今後もその知恵と力を、ソラージュおよびすべての国に生きる人々のために使うことを願う」

 続いて、俺の首にペンダントみたいなものがかけられた。

 またかよ!

 しかも、今度は意志確認すらなかったよ!

「マコトさん、もういいですよ」

 モレルさんが言うので、俺は渋々立ち上がった。

 ラノベにもないぞ、こんなの。

 俺が何したっての?

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