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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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15.美少年?

 俺とヒューリアさんは、モレルさんに従って廊下を進んでいた。

 戦闘用の砦らしく、ただ無骨で質実剛健なだけの、石造りの通路だった。

 少し行くと角があって曲がり、というのを何度も繰り返した。

 おまけに狭い。

 これは砦の特徴で、敵に攻め込まれた時に防御しやすいようになっているのだろう。

 戦時には有効かもしれないけど、平時だと面倒なだけだな。

 かなり歩いた後、唐突に少し広い場所に出て、そこが大広間らしかった。

 誰もいない。

 ドアが一定間隔で並んでいる。

 みんな一緒で特徴がないので、初めてここに来た人は迷うだろうな。

 それも戦闘用か?

「少々お待ち下さい」

 モレルさんがそう言って、ドアの一つを開けて消えた。

 待つしかないな。

 と思った途端に、モレルさんが戻ってきた。

「こちらへ」

 早いな。

 ここでも質実剛健か、それても人員削減の方だろうか。

 王太子だったら、もっとこう衛臣とかを侍らせて、その向こうに座っているとか、そういう演出がありそうなものだが。

 そう思ってひょいとドアをくぐった途端に、俺は棒立ちになった。

 ドアの向こうは、かなり広い部屋だった。

 学校の教室2つ分くらい?

 一番奥に豪華な椅子、というよりはもう玉座と言いたい程のでかい席に誰かがついている。

 誰か、というのはそれどころじゃないからだ。

 俺と玉座の間に通路を造るように、衛臣らしい人たちがずらっと並んでいるのだ。

 手前の方はまだ若くて興味ありげに俺を見ているだけだが、奥に行くに従って年齢が上がり、服装も豪華になっていく。

 そして、その大半が俺を無遠慮にジロジロ見ていた。

 好意的な視線ではない。

 品定めというか、上から目線というか、どっちにしてもあまりいい気持ちはしないぜ。

「マコトさん」

 後ろでヒューリアさんが呟いてくれて、俺はやっと我に返ってモレルさんを見た。

 モレルさんは頷いてくれて、小さく手で「こちらへ」と指示してくれた。

 いい人じゃないか!

 誤解してすみませんでした!

 鬼じゃなくて仏様でした!

 でも、周り中はみんな鬼な気がする。

 そしてラスボスはドラゴンか?

 俺は痺れた手に力を入れ、砕けそうな足を無理矢理動かして進んだ。

 奥の席に座っている人がだんだん大きくなってくる。

 あまり大柄ではない。

 だが、存在感が圧倒的だった。

 煌びやかな衣装に身を包み、ピンと背筋を伸ばして腰掛けているのだが、気合が入りすぎているのではないか。

 凄い緊張感だ。

 それだけではなく、ご本人の姿もそれに見合ったものだ。

 プラチナブロンドの髪に、アイスブルーの瞳。

 顔の造形は恐ろしいほど整っている。

 豪華な衣装を纏っているのでよく判らなかったけど、よく見ると細身で女の子と見まごうばかりの美形だ。

 これはアレだ。アレスト家の皆さんに通じるものがある。

 間違いなくエルフの血が入っているな。

 マジで少女漫画の王子様かよ!

 そんなのが現実にいたら、うっとおしいだけなんだけどなあ。

 やっぱ白馬とかに乗るのだろうか。

「そこで」

 モレルさんが囁いてくれたので、俺は玉座から5メートル辺りの場所で立ち止まった。

 ちょうど、並んでいる人が切れる場所だった。

 ちらっと見ると、整列しているというのは間違いで、結構バラバラに立っているようだ。

 それでも20人くらいはいるだろうか。

 貴族と平民が半々くらいか。

 みんな凄い豪華な服を着ている。

 この中では、ヒューリアさんを含めても俺が一番貧乏だと思って間違いない。

 ああ、嫌だなあ。

 認証式でも結構くらったけど、今回はさらに酷いぞ。

「跪いて」

 後ろにいるヒューリアさんの指示で、一緒に片膝をつく。

 来る途中で、ある程度の礼儀は教えて貰った。

 後は、向こうから声をかけてくるのを待つだけだ。

 公式の場では、身分が高い方が先に声をかけるのは、俺の世界と共通だ。

 今回は国とかの行事ではないけど、一応正式に召喚されたのでそうなるらしい。

 跪いて待っているのだが、王子様は何も言わなかった。

 長いよ?

 周りの人たちからも、ざわざわと私語が聞こえる。

 ヤバい。

 ひょっとして、さらし者にされている?

 いや、そういえば俺ってこの王太子殿下にとっては恋敵だったっけ。

 俺のせいじゃないし、そもそもハスィーさんとはまだ何もないんですが。

「……よく来られた」

 やっと王太子殿下からお声があった。

「この砦の中庭はなかなか見事だ。

 ゆるりと過ごしていかれるがよい」

 それだけ言うと、王太子殿下が動かれる気配がした。

 いや、俺は跪いて頭を下げているのでよく判らないんだけど。

 続いて誰かが歩く足音がして、それに追随して大勢が移動する気配。

「もういいですよ」

 モレルさんの声に俺が頭を上げると、部屋には誰もいなくなっていた。

 いや、俺とモレルさんに他に、もちろんヒューリアさんもいるけど。

「これでいいんですか?」

「見事でした。

 ああいう場合は、ただやり過ごすのが正解です」

 ヒューリアさんが言ってくれて、俺はほっとため息をついた。

「では謁見は終わりということで、帰っていいんでしょうか」

「王太子殿下のご下命がありましたでしょう。

 中庭を見ていかなければなりません」

 そういえばそんなことも言われたっけ。

 あれって、単なる社交辞令じゃなくて命令だったのか。

 何の感情も籠もってなかったから、聞き逃してしまったぞ。

 しかし、俺に中庭を見せてどうしようと?

 経済力の違いを思い知らせようとか?

「こちらです」

 表情が読めないなりに親切なモレルさんに先導されて、俺達は再び歩き出した。

 入ってきたドアを抜けて、また狭い通路を右に行ったり左に行ったり階段を降りたりする。

 どういうことなのか聞きたくてたまらなかったが、そんな雰囲気じゃないよね。

 モレルさんも、見事なまでに自分の感情を消しているし。

 でも、ヒューリアさんがちょっと変だ。

 何か、面白がっているような雰囲気が伝わってくるんだよなあ。

 俺はビビりまくりなんだけど。

 だって、この国のNO.2の手の平の上にいるんだよ!

 王太子殿下がちょっと力を込めただけで、俺は握りつぶされる。

 いや、俺だって貴族としては最低の身分だけど近衛騎士なんだし、理由もなくそんなに簡単に消されたりはしないと思うけど。

 でも、罠に掛けられてご無礼なことをしてしまったら、それだけで入牢は有り得るもんなあ。

 まさか、自分がそんな事態に追い込まれるとは。

 平凡な駆け出しのサラリーマンでしかない俺が、そもそもこんな場所にいること自体が間違っているのに。

 ユマ閣下に騙されて近衛騎士の叙任を受けたのは、やっぱ早計だったのでは。

 階段を降りて少し歩くと、突然明るくなった。

 ここが中庭か。

 振り返ると、石造りの壁が聳え立っている。

 こっち側に窓がないから、つまり死角になっているわけか。

 見回すと、あまり遠くない所にずっと壁が続いていた。

 どうやら、王太子のプライベートな空間らしい。

 ここで殺されて埋められても、誰にも見られないよね。

 モレルさんには敵いそうにもないし。

 ヒューリアさんも口封じされるか。

 いや、「学校」出なんだから、そう簡単には。

「すみません!

 お待たせしました!」

 突然、場違いな明るい声がして俺の目の前を誰かが駆け抜けて行った。

 その人はテラスの下にあるテーブルの前で止まると、何やら藻掻いている。

 四苦八苦しながら、上着に腕を通そうとしているようだ。

 走りながら着ようとしていたため、なかなかうまくいっていないらしい。

 モレルさんが無言で走り寄ると、後ろから上着を着せてやった。

「ありがとう、モレル。

 あ、こんな恰好で失礼します。

 着替えるのに手間取ってしまって」

 ともすれば美少女に見えるような小柄で美形なそのお姿。

 俺を見ながら爽やかに笑いかけてくるその人は、とても同一人物とは思えないけど、でも紛れもなくさっき謁見したばかりの王太子殿下だった。

 マジ?

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