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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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204/1008

8.貴族院?

 ドキドキしながら迎えた夕食だったが、結果的にはそれほど畏れる事もなかった。

 来たのは貴族ではなく、その代理人だったからだ。

 ジェイルくんはどうやら、俺に免疫をつけさせるつもりらしい。

 俺はまだ、一度も貴族と正式な会食をしたことがないからね。

 ハスィー邸でのディナーやイザカヤ(違)は、よく考えたら位階持ちの貴族は俺だけだったし。

 アレスト伯爵邸のアレは正式な会食なんてもんじゃなかった。

 まあ、マナー自体はハスィー邸で叩き込まれたから何とかなるかもしれないが、正式な食事をしながら貴族と会話なんかしたことないしな。

 ユマ閣下も言っていたけど、これからの俺は商売上、貴族との付き合いが避けて通れないわけで、そこら辺は何とかしないといけないとは思っていたんだけど。

 でもなあ。

 あまり参考にならないんじゃないだろうか、これ。

 本日のディナーに参加してくれたのは、俺のよく知っている貴顕の方々だった。

 王都にいる貴族ではない貴顕の方で、俺が知っている人は限られる。

 帝国皇女のフレアちゃんに、バレル男爵家のヒューリア嬢。

 そして何と、前アレスト伯爵のフルー様が来て下さった。

 フレアちゃんを除いては全員、貴族家の出ではあるけれど爵位持ちというわけではない。

 ちなみに帝国皇女(フレアちゃん)の爵位は正規のものだけど、別に領地があるというわけではない。

 でも皇族だからね。

 貴族よりは宮廷順位が上になる。

 俺の近衛騎士叙任の時、シルさんが「高位貴族」として立ち会ったのはそのためだ。

 ソラージュで言えば王族つまり王女だ。

 つまり皇女殿下(フレアちゃん)は本来なら近衛騎士のディナーなんかに呼ばれてホイホイ出席するような安っぽい身分じゃない。

 もっともフレアちゃんは身分を隠してソラージュ王都に来ているので、問題ないらしい。

「孫娘からの手紙で知りましたが、フレア様はシルレラ皇女殿下の御妹君(おんいもうとぎみ)とか。

 姉君には孫娘がお世話になっております。

 改めてお礼を申し上げます」

「いえ、わたくしも姉上から聞いておりますが、姉上はハスィー・アレスト伯爵公女様の配下として働いているとのことです。

 むしろ、こちらからお礼を申し上げなければなりませんわ」

 これ、フルー前アレスト伯爵様とフレア帝国皇女様の会話ね。

 フルーさんから見たら、ハスィーさんは孫なんだよなあ。

 見た目がせいぜい40くらいなので、あんたいつ子供作ったんだよ、と聞きたくなる。

 しかも、美形に渋いいぶし銀の魅力が加わって、地球にいたらもうそれだけで往年の映画スターか超プレイボーイ(違)か、というイメージだ。

 まあ、貴族なんだけどね。

 ちなみにフルーさんは息子のフラルさん(現アレスト伯爵)に跡継ぎが出来た段階で、引退という形で爵位を息子に譲ったそうだ。

 これは貴族にはよくある方法で、つまりなるべく早く跡継ぎを貴族社会に馴染ませるために、自分も若い内に引退してしまうのだ。

 もちろん貴族家として事業をやっていたりする場合はそうもいかないこともあるし、引退しながらも実権を握り続けたり、状況によって千差万別らしい。

 もっともフルーさんの様子を見ていると、どうも早く楽になりたくて爵位を息子に押しつけただけなのではないかという疑いが晴れないけど。

 アレスト伯爵家は先代から領地の統治を代官に任せてしまっていて、家族全員で王都に住んでいるくらいだから、領地貴族として仕事をするという感覚がまったくないのだろう。

 ただ、ニートなのかというとそうでもないらしい。

「すると、フルーさんは貴族院の議員でいらっしゃる?」

「そうですな。

 まあ、貴族院の実態は王陛下の諮問機関に近いのですが、意見をまとめて提出する程度のことはやっております。

 実際の政策に反映されるかどうかは王政府次第ですが、逆に言うと無責任に何でも議論できるため、結構頻繁に開催されておりますぞ」

 民主主義ではないものの、やはり議会はあったか。

 あ、本来なら「フルー様」とかそういう言い方になるんだけど、本人が「さん」付けでいいとおっしゃってくれたので、そうしている。

 この晩餐(ディナー)、プライベートだからね。

 もっとも最近では、貴族同士の会席なんかでも、めんどくさいし話が進まないので厳密な敬称をつけなくなってきているそうだ。

 そんなのラノベだけの話かと思っていたけど、よく考えてみれば当たり前だ。

 敬称を間違えたからと言って怒り出すような貴族は、こっちの世界では敬遠される。

 だって、魔素翻訳で真意が丸わかりだもんなあ。

 いくら「様」付けでも、敬意が籠もってないような奴とは付き合いたくない。

 逆に「さん」で呼ばれてもしかるべき礼儀を保っていれば問題はない。

 むしろ、敬称で呼べばいいだけの地球の貴族社会より、ハードルが高いと言える。

「貴族院議員と言えば、爵位を持つ方のみかと思っておりましたけれど」

 フレアちゃんが疑問を呈した。

 帝国ではそうなんだろうか。

「本来はそうですが爵位持ち(家長)は色々と忙しいですからな。

 大半は代理ということで引退した元爵位持ちが務めております。

 そうでない場合でも爵位持ちに依頼された有識者が多いですな。

 だから議会は老人ばかりで話がなかなか進まないわけです」

 そうなのか。

 フルーさんは実際の歳はともかく外見上は若すぎて、その中では浮いているんだろうな。

 それにしても俺の家のディナーのはずなのに、フルーさんとフレアちゃんの会話が弾んでいる。

 俺とヒューリアさんは黙々と食うばかりだ。

「マコト殿、会話に入ってこないと練習にはならないのでは」

 見かねたのか、フルーさんが振ってきた。

 そうだよね。

 つい遠慮してしまったけど、俺のためにわざわざ集まってくれたのだから何か話さないと。

「すみません。

 何もわかりませんので馬鹿な質問かもしれませんが教えていただけませんか。

 貴族院とはどのような機関なのでしょうか」

「ああ、それは貴族家のものでも知らない者がいますな」

 フルーさんが破顔した。

「わたくしも興味がございますわ。

 帝国議会とは違うものなのでしょうか」

 フレアちゃんが、よそ行きモードで繋げる。

 ヒューリアさんも興味深げにフルーさんを見た。

 フルーさんは食事の手を休めると胸の前で指を合わせる。

 カッコいいなあ。

「年寄りに任せると話が長くなりますぞ」

 マジでいい人だ。

「それでは、と。

 まず帝国議会とソラージュの貴族院は、まったく異なる目的の機関です。

 帝国議会は貴族間の利害調整を行う場であるのに対してソラージュの貴族院は王国の政策立案や問題点の調査・検討を行うことが目的とされております」

 そうなのか。

 全然違うな。

「王国の政策は王政府が決定するのではなくて?」

「その下請けと言いましょうか。

 貴族の立場から提示された問題や提案を検討して報告書を作成します。

 その結果が王政府に上げられ、政府はそれを元にして政策を行うことになっています。

 もちろん我々の献策を採用するかどうかは政府次第ですがね」

 ああ、だから諮問機関なのか。

 でも、そういう公的な機関があれば、政府としても提出された報告書は無視出来ないだろうな。

「どのような問題を検討されるのですか?」

「あらゆる問題です。

 政府から依頼が来ることもあれば我々が独自に提案することもあります。

 ですが機関の性格上、中長期的な政策の是非を問うようなものが多いですな」

 それはそうだよね。

 短期決戦の場合は、いちいち諮問機関に諮っている暇なんかないだろう。

 むしろ国家としての方向性を決めるような大問題がメインなのでは。

 その時フレアちゃんが口を挟んだ。

「お恥ずかしいですが、わたくしは帝国議会についてもよく存じません。

 王国の貴族院とは、違うのでしょうか」

 それは俺も知りたい。

 とりあえず俺には関係ないだろうけど。

「帝国議会は先ほど申したように貴族同士が互いに妥協点を図る場と言えましょう」

 さすが貴族院議員。

 他国のこともよくご存じらしい。

 まあ専門家だからね。

「帝国が様々な貴族領の集合体だということはご存じと思いますが、これは小さな国がより集まっているようなものです。

 帝国全体の政策は帝国政府が決めますが、各領地の運営は領主が行っているわけで利害の衝突が発生することもあります。

 それを公開の場で検討し、解決するための場ということですな」

 そうなのか。

 なるほど。

 帝国ってのは、小さな国が集まった連邦みたいなものなのか。

 で、帝国議会は国連だと。

 それは、領主としては出席せざるを得ないだろう。

 自分がいない間に勝手に自分に不利な決定が下されるかもしれないんだし。

 俺が納得していると、フルーさんが俺の方を向いてニヤリと笑った。

 元伯爵閣下?

「実は、貴族院も同様です。

 自家や自領に関係する政策が検討される場合、情報は出来るだけ早く得た方が有利ですからな。

 是非とも代理の者を参加させておくことをお勧めします。

 マコト殿も貴族なのですから無関係というわけではありませんぞ」

 な、なんだってーっ!

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