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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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203/1008

7.事務所?

 午後は、屋敷中を回って働いている人たちを紹介して貰った。

 この屋敷ってどうも俺個人の家というよりは、アレスト興業舎の迎賓館的な役割を持つ施設になるようだ。

 もちろんここがヤジママコトという近衛騎士の屋敷である事は確かなんだけど。

 ただ、その配下というか関連団体であるアレスト興業舎が間借りしている形になっているのだ。

 実際には逆なのだが、貴族の屋敷ということにしておいた方が、何というか格が上がるということで。

 俺自身もアレスト興業舎の役員ではあるので、そこに詰めている従業員は俺の配下として使える。

 一方、アレスト興業舎の事業は別の場所にある出張所で行うわけだが、重要な顧客をもてなしたりする場合はこの屋敷を使えるというわけだ。

 誰が考えたのかしらないが、大したもんだよね。

 で、この方法で一方的に得しているのは俺なんだけど、そこら辺は単純にアレスト興業舎の好意とみてはいけない。

 前に言った通り、アレスト興業舎としては俺を広告塔として利用する気満々なわけで。

 お客をもてなすにしてもアレスト興業舎の取引相手はほぼ平民だから、近衛騎士とはいえ貴族の館に招かれてディナーをご馳走になるとなれば、それは好感度が増すだろう。

 つまり、俺はその度にホスト役として駆り出されることになるわけなんだよね。

 高い家賃だ。

 仕方がないけど。

 すったもんだのランチを終えてぐったりしている俺に、ジェイルくんは「しばらくの間は食事の度にマナー教師が付きます」と無情に告げた。

 ラナエ嬢が乗り移っていたぞ、あれ。

 まあいいか。

 そういう役割なら、サラリーマンである俺は得意とするところだ。

 俺は北聖システムにはIT技術者として採用されたんだけど、世間で言われている「IT技術者」が純粋にソフトウェアだけを扱っているという認識は間違っている。

 (株)北聖システムは広くソフトウェア関係の事業を行っているが、俺が配属されたのは民間企業や地方公共団体相手のトータルアプリケーション販売だった。

 つまり、顧客は零細企業の経営者のオヤジや地方自治体の職員なんだよね。

 当然、ITには無知か、良くてドシロウト。

 そういう人たちをなだめすかして、何とかシステムに慣れて貰ったり、導入したシステムを塩漬けにせずに活用して貰ったりする仕事をやっていたわけで。

 だから接待とかはなかったけど、相手のご機嫌を取りながら話を進めるという技術は磨かれた。

 俺が本業のIT技術にあまり詳しくないのも、そっちにリソースを取られたからだな。

 もっとも俺は営業職じゃないので、実際の価格交渉とかプレゼンとかは担当外だった。

 既に導入が決定しているシステムについて説明したり、嫌がる零細企業の経営者のオヤジをなだめすかして端末の操作を叩き込んだりする仕事が多かった。

 考えてみたら、ディナーでもてなすって同じ事じゃない?

 アレスト興業舎の事業売り込みはジェイルくんたちがやってくれるから、俺は面白おかしく失敗談などを交えてアレスト興業舎自体の良さをアピールすればいいのではないか。

 楽勝だぜ!

 めんどくさいけど。

「こちらがマコトさん個人の執務室になります」

 ジェイルくんが案内してくれたのは、書斎を改造したと思われる事務室だった。

 いやもう書斎でいい。

 重厚なデスクとソファーセットがあってデジャブを感じたけど、これってアレスト興業舎の舎長室とか、ユマ司法官の個室そっくりではないか。

「俺の執務室って?」

「アレスト興業舎には関係なく、マコトさんがヤジマ家の事業を行うための司令室ですね。

 もちろん、アレスト興業舎のリソースをお使いになってもいいわけですが、切り離した方が有利なケースもあるかと思いますので」

 ちょっと待てい!

 そんな知らんぞ。

 俺、自分の会社持たなきゃならないの?

 アレスト市を出る時に言われた「新しい仕事」ってそれか!

 俺はまた、王都でパンダやってればいいものだとばかり思っていたんだけど。

 そんなはずはないか。

 甘かった。

 ラナエ嬢はともかく、使える者はとことんまで利用し尽くすユマ閣下が見逃してくれるはずがない。

 いや、いいんだけどね。

 どうせ、ジェイルくんあたりが仕切るんだろうし。

「そしてこちらがヤジマ商会の事業所となります」

 俺の執務室とやらに隣接する、結構広い部屋だった。

 机がいくつか並んでいるが、誰もいない。

 元は図書室か何かだったんじゃないかな。

 壁一面が書棚だったから。

「ここで誰が何を?」

「我々が詰めます。

 私も、出来る限りこちらにいるようにしますので」

 ああ、俺の従者役だもんね。

 でもジェイルくん、君はアレスト興業舎の出張所長なんじゃないの?

「出張所の仕事が軌道に乗ったら、後任に任せてマコトさん付きになる予定です。

 ラナエ舎長代理にも、了解を頂いていますよ」

 そうですか。

 俺には何の連絡もなかったけど。

 人事なんてそんなものだよね。

 俺って何の権限もない「顧問」とやらだし。

 それにしても、俺ってマジで案山子だな。

 案山子でいいんなら、それはそれで楽でいいかもしれないけど。

 突っ立っていてカラスとかに襲われたりするのは嫌だなあ。

 ちなみに、この事務所はアレスト興業舎王都出張所の分室を兼ねているそうだ。

 てことは、多分ソラルちゃんとか俺の馬車の御者の小僧たちは、こっちでの勤務になるわけだな。

「そういえば、ソラルちゃんはどんな役職なの?」

「彼女は総務の係長待遇ですね。

 マコトさんの秘書役が主な仕事ですが、他に備品の調達や契約関係を担当しています」

 みんな出世しているんだな。

 この屋敷を借りる時もソラルちゃんが自分の一存で決めていたけど、そのくらいの権限はあるのか。

 まあ、もともとマルト商会の会長の娘だし、そっちの方面の技能や経験は十分なんだろう。

 「待遇」というのは、つまり俺の秘書役をやるために、指揮系統(ライン)には入っていないからだね。

 つまり部下がいない。

 直属の上司は出張所長であるジェイルくんだから、相当自由に動けるわけか。

 うん。

 俺もサラリーマンだったから、その辺りはよく判る。

 会社の仕事って、必ずしも階級と一致していないこともあるし、職位に「長」とついていても部下がいらなかったり、いるとむしろ邪魔になったりすることもあるんだよね。

 普通、「長」は指揮系統(ライン)に属する管理職の役職ということになっているけど、部下がいるとその部下の世話をする必要が出てくる。

 色々指示したり、仕事内容をチェックしたり、それを元に査定する仕事もある。

 だけど、そんなことしていたらそれだけで1日が終わってしまう。

 部下がいるって、それだけ大変なのだ。

 一方、顧客や取引相手が同階級でいるうちはいいけど、そのうちに向こうの階級が上がってくると、役職なしでは押しが弱くなるんだよ。

 向こうが部長なのに、こっちが平では下に見られて取引上不利になったりして。

 だから、部下がいないのに課長とか部長とかの役職がある人が出てくるわけだ。

 もちろん、そんなに重要な仕事をする人には給料面でも優遇する必要があるしね。

 役職手当って、馬鹿にならないよ?

 毎月の給料に上乗せされるわけだし。

 「長」とついたら残業代が出ないので、それは不利なんだけどね。

 こっちの世界にはまだ「残業」という概念がないから、それは関係ないか。

 北聖システムでも、年期の入った平社員(役職なし)は「裁量労働」とかにされて、残業代がカットされていたっけ。

 世の中、厳しい。

 屋敷を一渡り見回った後、リビングに引き上げながらジェイルくんが言った。

「一休みしたら、レクチャーを受けて頂きます」

 何の?

「ソラージュの主な貴族について詳しい者を呼んでありますので、夕食までに頭に叩き込んでおいて下さい。

 今夜、早速何人かお招きしていますので」

 勘弁して!

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