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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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6.マナー指導?

 この商人の人の名前を思い出せないけど、俺にはこういう場合に頼りになる人がついてくれている。

「ムストさん、マコトさんはそういう事は気にしませんから」

 一見、ムストくんに注意しているようで、実は俺に向けた言葉だよね。

 こんなに有能な人が俺なんかに関わっていていいのだろうか。

 まあいいか。

「僕は近衛騎士になったばかりだ。

 ごく最近までは平民だったんだよ。

 公式の場ならともかく、こういう所ではざっくばらんでいい」

 俺も何を偉そうに。

 でもこう言わないと、「様」付けが延々と続くことになる。

「そう、ですか。

 ではマコトさんで」

 その辺りが限界だろうな。

「じゃあ、こっちはムストさんでいい?」

「滅相もない。

 近衛騎士を抜きにしても、マコトさんは雇い主ですよ。

 ムストと呼び捨てにして下さい」

 残念。

 対等にはなれなかったか。

「判った。

 これからよろしく頼む」

「了解です。

 お役に立てるように努力します」

 それはジェイルくんとよろしくやってくれればいいから。

「それにしても、早速来てくれたんだな」

「それはもう。

 新任の近衛騎士のご用とあれば大商いですからね。

 ……と思って張り切っていたんですが、もうすでにバレル男爵家と繋がっていたとは。

 あそこは大商人ですからね。

 私の出る幕はなさそうです」

 手を振るムストくんに、ジェイルくんが返す。

「そんなことはありませんよ。

 バレル男爵家とは、直接の取引はしない予定です。

 ムストさんも、バレル男爵家と取引しているのでしょう?」

「はい。

 私は仲介的な仕事がメインですから。

 王都の大半の商家とは取引がありますよ」

 それは凄いね。

 ああ、だからフレアちゃんがムストくんを知っていたのか。

 名前を覚えられるくらいだから、結構頻繁に出入りしていたんだろうな。

「ヤジマ家は立ち上がったばかりですが、これから王都で事業を展開する予定です。

 ムストさんのようなアドバイザーがついていただけるとありがたいですね」

 おい!

 ジェイルくん、何その俺が知らない計画?

 事業って何をするんだよ。

「こちらこそ。

 細々したご用がありましたら、是非お申し付け下さい。

 私から見たら、アレスト伯爵家やミクファール侯爵家、ララネル公爵家などは雲の上の存在ですから、少しでも繋がりを頂けるだけで見返りは十分です。

 何でもしますので、よろしくお願いします」

 ムストくんは、深々と頭を下げてから帰って行った。

 まあ、満足してくれたみたいで良かった。

 それにしても、俺ですら正式には昨日入ったばかりの俺の家に、もう来ているとは商魂たくましい。

「ムストさんは、掘り出し物ですよ。

 まだ規模は小さいですが、ああ見えて驚くほど色々な所に手づるがありそうです」

「使えそうで良かった」

 ジェイルくんは、俺を感心したような目つきで見て言った。

「いつも思うんですが、マコトさんはどうやってこうも簡単に最適な人を見つけてくるんですか?

 シイルくんたちやハマオルさんもそうですが、およそ考えられる限り最高の人材を、いとも簡単に配下に呼び寄せていますよね」

 何それ?

 俺、そんなことしたことないって。

 いつも向こうから来るんだよ。

 そもそも配下って何だよ。

 そんな人はいない。

 みんなアレスト興業舎の舎員でしょ。

「これからは違いますよ。

 というよりは、アレスト興業舎自体がマコトさんの配下になるわけですから」

 訳の判らないことを言うなあ。

 疲れているんじゃないのか?

 頼むよ、おい。

 君がいないと、俺は一瞬でドツボだぞ。

 少し心配になったが、ジェイルくんはそこで話を変えてくれた。

「ところで、遅くなりましたがいかがですか、新しい家は」

「うん、ちょっと豪華すぎて落ち着かないけど、快適だよ。

 あの天蓋付きベッドはやり過ぎという気もするけど」

「貴族なんですから、ああいうものに慣れていただかないと。

 他家に招かれた時のために、普段から環境に馴染んでいることが大切です」

 そういう意図があるのか。

 全然考えてなかった。

 大体、俺なんかに貴族って無理なんだよ!

「そういえば、さっき部屋の外に彼が待機していたけど」

 所在なさげに控えている何とか言う御者の小僧を指さすと、彼はびくっと縮こまった。

 そんなにビビらないでいいのに。

「貴族だったら、当たり前ですよ」

「だから、せめて自宅ではそういうのは止めて欲しいんだよ。

 俺は本質的に平民なんだから」

 必死で訴えると、意外にもジェイルくんはニヤッと笑った。

「判りました。

 そうですよね。

 マコトさんは、したいようにすればいいんです。

 お付きは取り止めます」

 助かった。

 しかしお付きの君、なんで不満そうなんだ?

 まあ判らんでもないか。

 待機している間は、絵本読み放題だもんね。

 外で肉体労働するのに比べたら、天国だろう。

 だがヤジマ家は、そういうのは認めない。

 本読んでいる暇があったら、働いて貰おう。

 違うか。

 よく考えたら、この小僧は別に俺の部下でもヤジマ家とやらの家臣でも何でもなくて、アレスト興業舎の舎員だもんな。

 俺がとやかく言うことじゃないよね。

「ところで腹が減ったんだが。

 パーティでは、結局何も食えなかったからな」

「そう思ってご用意はしてあります。

 少々お待ちいただけますか」

 ジェイルくんが「おい」という感じで合図すると、御者の小僧が弾かれたように飛び出して行った。

 そんなに命賭けなくても。

「厨房を開けたばかりで、大したものは出来ないのですが」

「何でもいい。

 ていうか、コックもいるの?」

「はい。

 フレア様をお迎えする以上、アレスト興業舎で作っていたごった煮で済ませるわけにはいかないでしょう。

 バレル男爵家とまではいきませんが、それなりの腕を持つ料理人は必須ですので。

 実は、この屋敷に入ることが決まった時から人選を済ませておきました」

 そうですか。

 そういえばそうか。

 フレアちゃんは帝国の皇女様だもんな。

 しかも、シルさんと違ってバリバリの直系だ。

 今までの人生で、一流のコック以外の人が作った料理を食べたことがあるかどうかも疑わしい。

 それにしても、金がかかるんじゃないの?

 俺、そんなに収入ないんだけど。

「この屋敷の維持費はアレスト興業舎の経費として扱いますので、気にしないで下さい。

 マコトさんには、それ以上に集金して頂くつもりですから」

 そう言って爽やかに笑うジェイルくんの背後に、黒く笑うラナエ嬢の幻が見えた。

 何させられるんだろう。

 いや、判っている。

 あの人たちは、俺を広告塔として使う気満々なんだろうな。

 今回の召喚で判ったけど、俺はただ新任の近衛騎士というだけでなく、貴族の間ではある種のトレンドというか、話題になっていることは間違いない。

 この人気? が続いている間に、俺を利用してアレスト興業舎の事業を売り込もうという腹だろう。

 しかし、現状ではせいぜい「名を売る」程度しか出来ないと思うんだけどね?

 ラナエ嬢やユマ閣下からも別に俺に何をしろ、という指令は来てないし。

 ひょっとしたら、そういうのは全部ジェイルくんがやることになっているのかもしれないけど。

 その場合は、俺は客寄せパンダとして言われるままに踊っていればいいわけだが。

 俺なんか、その程度なんだよな(泣)。

 しばらくして小僧が戻ってきて「用意できたそうです」と言うので、俺とジェイルくんは階段を下って食堂に行った。

 この屋敷は、基本的には貴族か裕福な平民が郎党と一緒に住むように設計されているので、食堂もかなり大きい。

 ラノベではほとんど出てこないけど、地球でも地主とか大商人とかは自宅にお客様を招いてもてなすのが仕事の一環でもあるから、ここも食堂は割合豪華な造りになっている。

 いや、一応事前に見て回っていたから、大体の構造は判っているんだけどね。

 ただ俺がソラルちゃんたちと一緒に見た時は、まだ大部分の部屋の家具なんかにはシートがかけられていて封印状態にあったから、稼働している食堂を見るのは初めてだったりして。

 なかなか凄いよ。

 ラノベやアニメではあまり描写がないけど、こういう所に金をかけるのが貴族というものらしい。

 テーブルや椅子は、とてもじゃないけどそこら辺の店では売ってなさそうな、立派なものだった。

 もっとも新品とは言い難い。

 年季の入った色合いや艶だ。

 アレスト伯爵家で、ランチだというのにリビングに通されたのは、ひょっとしたら立派な調度や食器類を売ってしまったからなのかも。

 こういう家具は、新しく作らせるとしたらいくらかかるか判らないから、多分ジェイルくんか誰かがどっかから譲り受けて来たんだろう。

 中古というよりはアンティークな家具で、こういうものを揃えられるかどうかで貴族の格というものが違ってくるのかもしれない。

 俺なんかじゃまったく出てこない発想だから、マジで助かった。

 近衛騎士ってのは、本人だけではやっていけないということだ。

 俺は幸運にもアレスト興業舎という組織がついてくれてサポートして貰っているから何とかなっているけど、そういうものなしで叙任されたらきついだろうな。

 それは、金が湯水のように出て行くに違いない。

 ララネル公爵家からの俸給も、思ったよりは高くはなかったということだな。

 ていうか、あの程度の収入ではとてもこんな屋敷は構えられないぞ。

「マコトさん、こちらです」

 ジェイルくんに誘導されて席に着く。

 テーブルの上座には、すでにお皿とかナイフがセットされていた。

 何?

 昼からディナー?

 すると、ジェイルくんの隣に立っていた知らない人が進み出た。

 誰?

「バレル男爵家からの紹介で来て頂きました。

 マナーの指導役です」

 ジェイルくん!

 聞いてないよ!

 俺の無言の抗議を無視して、その男は俺の後ろに立った。

 二人羽織?

「帝国式のランチでございます。

 フレア様がお越しになられれば、一緒にお食事されることも多いと思われますので、それまでに出来るだけ帝国式のマナーに慣れて頂きます」

 鬼めが!

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