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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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201/1008

5.帰宅?

 パーティは散々だった。

 といっても、俺が何か失敗したというわけではない。

 やたらに忙しくて、疲れ切ってしまったんだよね。

 だって、次から次へと人が押し寄せてきて、色々質問してくるのだ。

 相手の顔や名前なんか、しまいには混ざってしまってよく判らなくなったほどだった。

 あそこにいた人のほとんど全員と一度は話したと思う。

 後で聞いたけど、俺みたいなケースは本当に久しぶりだったらしいんだよね。

 もちろん、新しく位階を得る人は毎年一定数は存在する。

 代替わりや不慮の事故による爵位の継承で貴族は次々に入れ替わっていくもんだし、近衛騎士も例年、数人は叙任されるそうだ。

 でも、そうやって新しく貴族になる人は、そこに至るまでの経緯がはっきりしている。

 大抵の場合は、事前に大体誰が叙任されるのかわかっているわけだ。

 しかも、そういう人たちは叙任の前からある程度は貴族社会に馴染んでいて、まったくの新人? が出てくることはまずない。

 また、そういう形で新しく貴族になった人は新年の儀式でまとめて認証されるため、いわば年中行事になっているらしい。

 でも、俺の場合は突然だからね。

 まったくのノーマーク。

 近衛騎士の叙任は、もちろん王家や公爵家の権利なのでいつでも出来るわけだが、上記の理由で事前に大体決まっている。

 普通は、王政府で重要な役職を長年勤めた平民とか大規模に献金したり寄付したりした大金持ちが、その功績を讃えられて叙任されたりするそうだ。

 あるいは何か画期的な発明発見をした学者とか、文化的に多大な功績があったりする人とかね。

 そういう人たちの場合、対象者が若いケースはほとんどない。世間的にもある程度は名が知れたほどの人でないと、対象にならないのだ。

 ちなみに、そういった近衛騎士は王家が叙任するけど誰にするかは王政府が決めるので、王家の近衛騎士というよりは「王国近衛騎士」という扱いになるらしい。

 名目上は国王陛下が「親」になるんだけど、国家が表彰するような形で叙任される。

 日本でいうと、文化勲章とか文化功労者みたいなものだな。

 平和な時代が続いているので、武名とか何かの戦いの功績とかで近衛騎士に叙任される人はもう、ほとんどいなくなっているらしい。

 つまり文系理系の偉い人が最後に到達する地位というか立場という、出来レースになってしまっているんだね。

 だから俺の近衛騎士叙任は、本当に青天の霹靂だったそうだ。

 ララネル公爵ではなく、その娘であるユマ姫が公爵の名代として叙任したということも色々と憶測を呼んだ。

 女性とはいえ公爵家の長子だからな。

 おまけに結婚適齢期を過ぎかかっている。

 でも単なる嫁き遅れというわけではなく、王政府にその能力を認められて司法官に任命されている逸材だ。

 その動向(結婚)が、王国の政策に影響を与えかねないとして取り沙汰されているほどの姫君なのだ。

 さらに当の近衛騎士と言えば、最近色々と噂が聞こえてくるアレスト市で何かやっている当事者らしいとか。

 ギルドで臨時とはいえ上級職についているとか。

 「傾国姫」と婚約したってホント? とか。

 とにかくもう、俺は話題には事欠かない素材だったわけだ。

 だから俺の認証式が行われるという通知が出回った時には、都合がつく貴族の大半が出席を希望したらしい。

 普通ならあんなに大規模な式にはならないそうなんだけど、出席者が大量なので急遽準備したそうだ。

 その理由で俺の召還通知が遅れたという。

 俺が知らない間に、王都の貴族の間では色々な噂や憶測が乱れ飛んでいたと。

 そんなところに、俺がのこのこ出かけていったわけで。

 当然、質問攻めにあった。

 ジェイルくんに言われていたので、約束とか申し入れについては「今のところわかりませんので、後日正式に」と繰り返した。

 ララネル公爵殿下がそばにいてくれたので、無理強いされることもなかったしね。

 でも、実を言えば質問してくる方もちょっと遠慮気味で、今のところあまり深入りしたくなさそうな様子がありありと見えた。

 アレスト家の令嬢と、内々ではあるけど婚約しているという噂が流れていたこともあるらしい。

 後で聞いたら、アレスト伯爵が吹聴しまくっていたとかで。

 あの伯爵閣下、なりふり構ってないな。

 それはいいとしても問題はその婚約相手だ。

 ただの貴族令嬢じゃなくて、あの「傾国姫」なのだ。

 数年前に王太子殿下と色々あった記憶はまだ風化してないらしくて、下手に踏み込んで巻き込まれてはかなわん、という共通認識があるようだった。

 それでなくてもアレスト家やララネル家が関係しているだけではなく、ミクファール侯爵家ともトラブッているらしい、という噂もあって。

 どうも、ラナエ嬢を連れ戻しに来たミクファール侯爵家の使者を、ハスィーさんと俺で追い返した時の話が漏れていたようだった。

 俺って、何なのよ(笑)。

 ジェイルくんが警戒してくれていた意味での危険は存在しなかったものの、やたらに忙しかったのは事実だった。

 何せ、飲み食いする暇がまったくなかったもんなあ。

 パーティに行って飲まず食わずって何なんだよ。

 アレスト伯爵閣下も、もちろんその場にいた。

 彼は彼で、周りの貴族から質問攻めに遭っていたけどね。

 俺をダシにして、傾国姫に婚約攻勢をしかけてくる貴族たちを牽制しようという意図が丸わかりだ。

 ちらちらと俺を見てきたが、巻き込まれてやるいわれはない。

 無視だ無視。

 数限りない貴族の人たちと会話したけど、相手の名前や肩書き、言われたことはまったく記憶に残ってない。

 でも何か変な約束したり、言質をとられなかったことは確かだ。

 極力注意していたからね。

 疲れた。

 魔素翻訳のせいで、何か話す時は常に神経を集中して余計な意味が混じらないようにしなければならなかったし。

 それでなくても、相手は貴族なんだぜ!

 王族はいなかったみたいだけど、公爵や侯爵といった高位貴族もかなり混じっていたような気がする。

 しかも全員が爵位持ち、つまりその貴族家の当主か、爵位はなくても名代とか嫡子とかのホンモノの貴顕ばかり。

 まあ大半は男爵とか子爵とかの、自分でも商売していそうな方たちだったけどね。

 それもまた、苦行の原因になった。

 この時の俺ってベンチャー企業を始めたばかりの若造が、経団連とかのパーティに紛れ込んでオモチャにされていたようなもんだろう。

 しかも中身は経営者でも何でもなくて、偶然と幸運でたまたま妙に高い立場に押し上げられただけの、入社2年目のぺーぺーのサラリーマンだ。

 普通、死ぬよね。

 そういうわけで、体感的には永遠に続くと思われたパーティもようやくお開きになり、俺はララネル公爵殿下に付き添われて会場を後にした。

 エントランスでジェイルくんに引き渡されて、そのまま馬車へ。

 帰り道には、もう楽隊とか絨毯とかは無かった。

 それはそうか。

 ララネル公爵殿下も俺が疲れ切っていることが判ったのか、あっさり解放してくれた。

 もちろん、数日以内に挨拶に来いという命令は忘れなかったけどね。

 その辺りは、ジェイルくんとララネル公爵殿下の従者であるエランさんが調整することになるらしい。

 ヒューリアさんの父親であるバレル男爵閣下とも挨拶を交わして、近いうちに公式訪問しますと約束した。

 実際には、フレアちゃんの引き取りだけど。

 こないだ行った時は、男爵閣下が忙しくてろくに話せなかったしな。

 でも、今はもういいや。

 早く家に帰るぞ。

「準備は出来ていますから、帰宅されたらすぐに休めますよ。

 風呂も用意してあるはずです」

 ジェイルくんが言ってくれたけど、今は風呂よりはベッドだ。

 とにかく何も考えずに眠りたい。

 というわけで、俺は馬車の中でもう半ば寝込んでしまい、フラフラしている所を数人がかりで馬車から担ぎ出されたらしい。

 その辺、記憶がないんだよ。

 気がつくと、軟らかいベッドに寝ていた。

 見知らぬ天井だ。

 と思ったら、天蓋だった。

 そんな豪華なベッド、いつ入れたんだろう。

 慌てて起き上がると、見たこともない寝間着に着替えていた。

 誰かがやってくれたんだろうけど、これもまた俺の物じゃないよな。

 一瞬、どっかの豪華なホテルにでも連れ込まれたのかと思ったけど、部屋を見回すと見覚えはある。

 ソラルちゃんが、ここがいいですと言って俺の意見を聞く前に決めた、ヤジママコト近衛騎士の寝室だ。

 いや凄く気に入っているからいいんだけど。

 もちろん、この屋敷で一番いい部屋なんだけどね。

 ベッドから降りて明るい方に歩くと、扉の向こうには広すぎるスペースがあった。

 確かベランダというのは屋根がある屋外スペースで、バルコニーは屋根無しのそれだったっけ。

 ということは、ここはまさしくバルコニーだな。

 扉を開けて出てみると素晴らしい景色だった。

 かなり眠ったような気がしたが、まだ昼過ぎというか、夕方にはなっていないようだ。

 俺の部屋は3階なんだけど、それ以上に建物が少なくて木が多いので、何か避暑地にでも来ているような雰囲気がある。

 こんないい部屋に住んでいいんだろうか。

 ギルドの上級職用の家も良かったけど、桁違いだ。

 俺も出世したなあ。

 何したんだっけ。

 一瞬、足下が崩れるような気分に襲われたけど、考えないことにして部屋に戻る。

 廊下に続くドアを開けると、何といったか忘れたけどシイルの仲間だった御者の子が弾かれたように立ち上がった。

 俺の部屋のドアの横に椅子を置いて、そこで待機していたらしい。

 何冊か絵本が積んであるので、暇な時間に勉強していたのか。

 向上心に溢れていて感心感心。

「ヤジママコト様……マコトさん!

 ご用なら、鈴を鳴らしていただければ」

 俺は高齢者か?

「いや、そんなことしなくていいよ。

 自分でやるから」

 それでも従いてくるその子と一緒に階段を降りて、2階のリビングに行くと、ジェイルくんと向かい合ってソファーに座っている男がいた。

 何といったっけ、ジェイルくんを紹介してあげた商人の人だ。

 そいつは、慌てて立ち上がると最敬礼した。

「し、失礼しました!

 ヤジママコト近衛騎士様!」

 ラノベ丸出しだ!

 やだなあ、もう。

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