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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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4.認証式?

 そういえばギルドの臨時職員にされた時にも、仰々しい儀式があったっけ。

 役所とかそういう組織は新しく仲間に加わった人を迎えるのに、ことさらに大げさな演出をするってことを忘れていた。

「マコトさん」

 唖然としていると、ジェイルくんが後ろから囁いてくれた。

 そうだ。

 ここでコケると、俺はともかくユマ閣下やララネル家に恥をかかせることになってしまう。

 いや、そんなことは関係ない。

 普通にしていればいいんだ。

 俺は、深呼吸してから一歩を踏み出した。

 楽隊が何かのマーチのような曲を演奏する。

 嫌だなあ。

 絨毯を進んでいくと、その両側に派手な恰好の兵士がずらっと整列しているのが判った。

 儀仗兵か。

 騎士でも警備隊でもない制服でおよそ戦闘には向きそうにもない、あちこち装飾がついた制服なので間違いない。

 イギリスに行った時、バッキンガム宮殿の前に立っていた兵隊がそうだったからね。

 バチカンのスイス人衛兵も派手派手な服だった。

 示威効果しかないような軍服だったなあ。

 でも、だからといって戦えないというわけではないらしい。

 イギリスの衛兵って、目立たないようにだけどマシンガン持っていたもんな。

 やる時は殺れるのだ。

 結構長く歩いたような気がしたが、せいぜい20メートルくらいだっただろう。

 いつの間にか両開きのでかいドアをくぐった俺は、そのまま絨毯の示すままに進み続けた。

 入ったところは、ホールだった。

 絨毯は、そのホールの真ん中で突然左に折れて続いている。

 儀仗兵は室内ではずらっと並ぶんじゃなくて、所々に立っている程度だ。

 そんなに人数がいないんじゃないかと思う。

 真っ直ぐ進むとやはりでかい扉があって、その中が目的地らしかった。

 扉をくぐる。

 学校の教室くらいある部屋の中央に、豪華なテーブルがあった。

 その向こうに派手な服を着た高齢者が数人立っている。

 そのテーブルの両側にも数人。

 そして、部屋の両側は人でいっぱいだった。

 何十人もいるぞ、おい。

 しかも、その全員が豪華な衣装をつけている。

 貴族だな。

 たかが近衛騎士にこの歓迎ぶりって何?

 いや違うか。

 歓迎なんかしてない。

 見定めに来ているのだ。

 そう思うと逆に度胸が沸いてくる。

 俺、マジでぺーぺーのサラリーマンじゃなくなってきているような。

 決闘の時なんかに出てきた「俺」じゃなくて、いつもの俺なんだけど、冷静だもんな。

 こんなもん、高校の全校集会で表彰されるようなもんじゃないか。

 習字で文部科学大臣賞とったとかで。

 実質的に今までの俺と何も変わらない。

 習字がちょっと上手いだけの奴に、誰も関心なんか持たないだろうし。

 ゆっくり進んで、いかにもそこで止まってね、と存在感を示している色違いの絨毯の所で立ち止まる。

 正解だったらしい。

 ジェイルくんが、ほっとため息をつくのが聞こえた。

 あ、ジェイルくんは従者役でついてきてくれているのだ。

 貴族は、何事も自分で直接手を下すのではなく、「手の者」が代わりにやることになっている。

 そこら辺はユマ閣下やラナエ嬢に叩き込まれた。

 この「手の者」は護衛を兼ねる事も多く、だから文武両道の人は貴族から引く手あまただそうだ。

 そんな人がいていいんだったら、近衛騎士なんかいらないんじゃないかと思うけど、「手の者」がいていいのは公的な状況だけらしい。

 つまり、プライベートで動く時は、特に貴族同士の場合は「手の者」を同席させるのは大変な失礼になるそうで、だから近衛騎士という制度が出来たとか。

 もっとも、近衛騎士が武道の達人や護衛役だったのは昔の話で、今の近衛騎士は単なる身分と化していて、誰も護衛なんかは期待してないとか。

 まあ、近衛騎士は自由だから、護衛なんかやりたくなければやらないでいいしね。

 ユマ閣下とノールさんみたいな関係は珍しいらしい。

 そもそもノールさんって武芸大会で何度も優勝しているチートな人らしいから、本来の意味での近衛騎士なんだよな。

 そんな人と俺が、同格であっていいはずがないでしょう!

「ララネル家近衛騎士、ヤジママコト殿」

 突然、テーブルの向こう側に立っている人たちの真ん中の人が声を上げた。

「はい」

「近衛騎士の証をここに」

 俺が頷く間もなく、ジェイルくんがすっと進み出た。

 テーブルに複雑な彫金が施された金属製の板を置く。

 従者の鏡とでも言いたくなる動きでジェイルくんが下がると、代わってテーブルの向こう側の人たちがその板に群がった。

 何してんの?

 その人たちは手にとって撫でさすったり、顔に近づけてじっくり見たりしたあげく、板をテーブルに戻して引き下がる。

 全員で頷くと、また中央の人が声を張り上げた。

「近衛騎士の証を確認した。

 ヤジママコト殿を歓迎する」

 その途端、周り中からどっと歓声や拍手が上がった。

 口笛も聞こえたぞ。

 何これ?

「初めてお目にかかる。

 ライトール・ララネルだ」

 テーブルのそばに立っていた人が俺に握手を求めてきた。

「ララネル公爵殿下です」

 ジェイルくんが言ってくれたが、その前に判っていたよ。

 ユマ閣下の面影があるんだよね。

 黒髪と碧い瞳も同じだし。

 本人はまだ四十代に見えるけど、ユマ閣下は二十歳くらいで長女だそうだから、そんなものだろう。

 しかし、初対面なのに気安いな。

 公爵殿下なのに。

 今まで俺が出会った中では、断トツに高位な本物の貴族だ。

「ヤジママコトです。

 ヤジマは家名ですので、マコトと呼んで下さい」

「承知した。

 娘から話は聞いている。

 今日は、私についていなさい」

 ジェイルくんが頷いたので、ありがたくお受けすることにした。

 助かった。

 というのは、ライトール公爵殿下に続いて周り中から人が押し寄せて来たからだ。

 ほぼ全員が男。

 女性は一桁代だったと思う。

 女性の爵位持ちもいるんだ。

 挨拶と簡単な自己紹介をしてくれるんだけど、覚えられるわけがない。

 幸い、やってきた人たちはちょっと話しただけですぐに離れてくれた。

 今日は初めての顔合わせだから、とりあえず接触した、ということでいいらしい。

 向こうもこの状態で話し込んだりすることが無理なのは判っているだろう。

 ライトール公爵殿下は、俺の隣に立ってやってくる人たちを効率よく捌いてくれた。

 本当に助かります。

 たかが近衛騎士、貴族の最下位身分の若造に、なぜ貴族の最上位の公爵がそこまでやってくれるのか。

 やっぱり自分の娘が叙任した近衛騎士がスカだと、公爵家自体の恥だからだろうな。

 ジェイルくんはライトール殿下の反対側で、俺を守ってくれているようだった。

 いつの間にか例の板も回収している。

 マジで、ジェイルくんありがたいです。

 君がいなかったら俺は燃え尽きていたぞ。

 夢中で挨拶して握手して返礼しているうちに、いつまでも続きそうだった自己紹介の嵐もやっと止んだ。

 それを見計らっていたかのように、というよりは実際にそうしていたんだろうけど、テーブルの向こう側の高齢者の人が声を上げた。

「これで、新しき仲間であるヤジママコト殿の認証式を終了する。

 続いて歓迎会を行うので、皆様移動をお願いする」

 部屋いっぱいの人たちが、ぞろぞろと移動し始めた。

 え?

 まだ何かやるの?

「簡単な立食パーティだよ。

 まあ、それにかこつけたマコト殿の品定めだな。

 ジェイル・クルトといったか?

 残念だが、君は別の場所で待機になる」

「承知しました。

 公爵殿下」

「控えの間でもパーティの用意はしてあるはずだ。

 我々の従者たちもそちらに参加するので、この際親睦を深めておくのも良いだろう。

 何かあったら、遠慮なくララネル家の名を出してくれて良い。

 エラン、頼む」

 ライトール殿下のそばにひっそりと立っていた男が「仰せのままに」と答えた。

 エランさんと言うのか。

 ライトール殿下の従者だな。

 気づかなかった。

 忍者みたいな奴だ。

 ジェイルくんとエランさんとやらが頷きあって立ち去るを尻目に、ライトール殿下が俺の背中に腕を回して言った。

「ところでマコト殿。

 アレスト家のご令嬢と婚約したと聞いたが、ユマの事はどう思っているのかね?」

 それですか!

 死亡フラグじゃないよね?

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