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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第二章 俺が集金人(フィナンシャル・ディレクター)?

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3.城?

 例によって俺は何も判らないので、どこにつれていかれるのかすら不明だ。

 ぼやっと窓の外を見ていると、ジェイルくんが言った。

「本日どのようなスケジュールになるのかは、実のところ不明です。

 事前の情報収集がうまくいきませんでした。

 すみません」

 いや、いいって。

 まあ、確かに新しい貴族の召還で何をするかなんて、普通の人どころか大抵の貴族すら知らないよね。

 そもそも、そうめったにあることではない気もするし。

「じゃあ、臨機応変ということか」

「そうですね。

 もっともマコトさんの近衛騎士としての身分は確立しているので、面倒な事になる可能性は低いでしょう」

 それはよかった。

「ただし」

 ジェイルくんは、真剣な表情を作って言った。

「とりあえず、何か約束などを持ち出されても、安易に受けないで下さい。

 何か罠があるかもしれません」

「判った。

 頷かないようにするよ」

 当然の用心だな。

「それにしても、マコトさんさすがですね」

「何が?」

「全然緊張してないように見えますよ。

 大したものです」

 そうなの?

 ていうか、確かに何で俺ってこんなに落ち着いているのか。

 慣れたかな。

 色々あったからなあ。

 フクロオオカミに跨って山に登ったり。

 警備隊の隊長と決闘したり。

 近衛騎士としての演技を強いられているうちに、感性が麻痺してしまったか、あるいはクソ度胸がついたのかもしれない。

 中身はヘタレだとしても、態度に出なければ人には判らない。

 こっちの世界では魔素翻訳があるから、何か話したら動揺が判ってしまうけれど、しゃべらなければそれもない。

 あれ?

 ジェイルくんが気づかないってことは、魔素翻訳が効いてないってことか?

「そんなに落ち着いて見える?」

「口調もいつもと変わらないし、まったく平静に見えますよ。

 まあ確かに、これまでに比べたら確かに大した問題ではないでしょうけれど」

 ジェイルくんにも判らないってことは、声にも出てないということか。

 ひょっとして、内心も落ち着いているのか俺?

 うーん。

 確かに、就活で面接を待っている時の方がドキドキではあるな。

 ああ、そうか。

 別にこれで何かが決まったり、失敗して不合格になったりするわけではないからかも。

 もう入社試験には受かっていて、合格証書を貰いに行く時のようなものだからだな。

 でも、初めての体験なのは確実だから、少しくらいは興奮しているはずなんだけど。

 ジェイルくんにも判らないのか。

 俺は、目の前で何かの書類をめくっているジェイルくんを見た。

 あいかわらずイケメンだ。

 どうみても、こっちの方が主人公くさいんだけどなあ。

 でも、こういう配役ってないことはない。

 俺はあまり観てないのだが、昔の喜劇とかは今の状況に近かったらしい。

 主役は三枚目で、脇役が二枚目なのだ。

 主役が馬鹿やって事態を混乱させて、イケメンの方が必死でそれを収拾するという。

 で、なぜか美女は三枚目の方に惚れるし、最終的には三枚目がうまくいって終わる。

 脇役のイケメンは、骨折り損のくたびれ儲けというような筋が基本だ。

 喜劇というか、コメディだからね。

 まずい。

 そんな気がしてきた。

 ラノベだと、主役はどんなに三枚目でもイラストでは結構イケメンに描かれるから、この法則には当てはまらないんだよな。

 昔のアニメだと、主役が三枚目でライバルがイケメン(ただし残念)というのも多かった気がする。

 うる☆やつらなんかそうだよね。

 でもあれはギャグだ。

 そもそも事態が収拾されないで終わるから、リアルに当てはめるのは無理だ。

 いやいやいや!

 何を馬鹿なことを考えているのだ俺は!

「そろそろ、着きますよ」

 ジェイルくんの声が我に返った俺が窓の外を見ると、馬車はちょうどでかい門をくぐるところだった。

 その門の向こうに、また門がある。

「セルリユ城ですね。

 ソラージュの王城です。

 といっても今は陛下の居城というわけではなく、行政機関が入っているようです。

 王陛下やご家族は別の場所にいるとか」

 そうなのか。

 まあ、百年も戦争しないでいると、そうなってしまうのかもしれない。

 そもそも、このセルリユ城って戦闘用というか要塞じゃないみたいだしな。

 皇居は、もともと江戸城だからお堀があるわけだ。

 平城だから、そのくらいの防衛施設は当たり前に持っている。

 だけど、このセルリユ城にはそういうものがないんだよね。

 埋め立てられたのかもしれないけど、むしろ最初から権威の象徴か何かとして作られたのかもしれない。

「そうですね。

 王陛下がおられるお城が最前線になるということは、つまりその時点でもう戦争には負けているわけです。

 だから、王城はむしろ平和な時の王の権威のためのモニュメント、といった意味合いが強いですね」

 さすがジェイルくん。

 よく知っている。

 つまり、こっちの世界ではあまり攻城戦なんかは行われなかったんだろうな。

 地球の歴史でも、戦闘用の城とか城砦が多く作られるのは、ある程度人口が増えて大規模な軍同士がやり合うようになってからだった、と聞いたことがある。

 拠点防衛とかそういう意味合いが強いのだ。

 それってつまり、大規模な軍がいくつも動いていて、ここで持ちこたえれば何とかなる、という状況でないと発生しない。

 まあ、国境線を守るという意味はあるけれどね。

「そういえば、アレスト市の南にもお城ってあるの?」

「帝国との国境にはありますよ。

 街道が峡谷を通る場所に築いた城砦ですが。

 後は、古い時代に作られた砦がいくつかあったはずです」

 そうだろうな。

 実際、こないだの帝国の難民は街道なんか通らずに山脈を越えてきたし。

 少人数なら、山を越えれば国境なんかあっさり突破できる。ていうか大軍にも出来るだろうけど、大型の兵器なんかは持ち込めないから、あまり意味がない。

 軍隊が動くためには、それなりの装備がいるからな。

 つまり、その砦は大規模な軍を食い止める役目しかないわけだ。

 城っていうのは、作るのに莫大なお金がかかるし、維持運用にも金がかかる。

 それでいて、平和な時にはあまり役に立たない。

 関所として使う場合でも、そんなに大規模なものはいらないし。

 無用の長物だな。

 というような事をあれこれ考えているうちに、馬車はお城の門をいくつかくぐって立派なエントランスに着いた。

 とはいえ、ここはむしろ裏口に近いようで、あまり身分が高くない貴族などが出入りする所らしい。

 平民用の入り口はまた別にあるし、王族や高位貴族用にはもっと立派なエントランスがあるそうだ。

「でも今では、ここは役所みたいなものですから。

 貴族が来るのは、それこそ出生・臨終の登録や爵位の継承などの特別な場合だけです。

 それも、大抵の場合は『手の者』がやるらしいので、こういう入り口はめったに使われないんじゃないでしょうか」

 さようですか。

 そのめったにない、新しく貴族になった奴が何かされる機会が今というわけだ。

 めんどくさいなあ。

 大体、王様がいないってことは、ここはもうホントに単なる役所だろう。

 俺は役人に呼びつけられただけだ。

 窓口に行って書類に判子押して終わりじゃないのか。

 馬車が止まり、いつものようにジェイルくんが先に降りて、ドアを開けてくれる。

 グチグチ言いながら馬車を降りた俺は、突然の大音響に棒立ちになった。

 楽隊がずらっと並んで演奏している!

 しかも、エントランスには真っ赤な絨毯が敷いてあるぞ!

 楽隊の前に立っている人が叫んだ。

「ララネル公爵家近衛騎士、ヤジママコト殿、入城!」

 どうしよう?

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