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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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22.野望?

 俺がビビッた様子に気づいたのか、ジェイルくんは慌てて手を振った。

「違いますよ!

 私はノーマルです!」

「それは良かった。

 一瞬、疑ったよ」

 だってジェイルくん、しょうゆ顔の美男子なんだもん。

 俺もよく知らないけど、昔のBL漫画にはこういう顔つきの優男がよく出ていたような気がする。

 最近は、ガタイのいい男が……いや、止めよう。

「いい機会だから、マコトさんにお話ししておきます」

 ジェイルくんは、姿勢を正した。

「アレスト伯爵邸で、私がクルト交易の会頭の息子だということは聞かれましたよね?」

「うん。

 結構な大商人なんだって?」

「そうですね。

 交易商人、つまり貿易業者としては一応ソラージュで五本の指に入ります。

 親族経営というか、最初に仕事を始めた人の息子達から枝分かれした親戚が幹部として経営しているんですが、一応トップとして会頭がいます」

「ジェイルくんは、今の会頭の息子?」

「そうですが、あまり関係ありませんよ。

 本人の実力がすべてですから」

 そうだろうな。

 こっちの世界では、組織にしろ個人にしろ、基本は実力だ。

 組織加入の条件はコネで、割合と緩い場合もあるけど、そこからは誰かの贔屓なんてことはほとんどない。

 誰かを贔屓しても、そいつが駄目だったら贔屓した方の見識が疑われて評価が下がるからな。

 組織の中でも力を示さなければ昇進しないし、下手するとクビになってしまう。

「次の会頭を決める方法は、単純に競争です。

 クルト交易から離れて、一定期間外部で修行するわけです。

 私を含めた次世代の者は、各地の懇意にしている商人の元で修行しています」

「ジェイルくんは、マルトさんの元でやっていたわけだ」

「はい。

 ですが、先ほどお話ししたように、私はマルトさんにお断りしてアレスト興業舎に入りました。

 うちの実家との関係があるので出向という形をとっていますが、私としてはマルト商会はもう退職したつもりです」

 そうだったのか。

 なるほど。

 マルト商会所属のまま、王都のアレスト興業舎出張所所長になるというから不思議だったんだよね。

 まあ出向社員が管理職をやる場合がないわけではないけれど、王都出張所みたいな言わば独立部署の長というのは珍しいと思っていた。

 その辺り、ラナエ嬢やシルさんは承知の上での人事なんだろうな。

「でも、確かクルト交易を諦めたわけではないと言っていたんじゃない?」

「アレスト興業舎でも実績を上げれば同じ事ですから。

 でも、正直言えばもう競争自体にはあまり興味がないんです。

 クルト交易の会頭という立場は魅力ですが、今の私にはもっとなりたいものが出来ましたから」

 そうなのか。

 アレスト興業舎で実績を積んで、クルト交易の会頭を目指すというのは確かに王道だけど、そうじゃない方向に行くということ?

「というよりは、クルト交易は道標というか、今はまぁ手に入れられるものなら獲ってもいいか、という程度のものですね。

 私の野望は別にあります」

 凄いな。

 ホントに俺と同年代なんだろうか。

 ぺーぺーのサラリーマンと、将来大商人になる男との差はこの時点でここまで広がっているんだな。

「その野望とやらは聞かないけど、当面はアレスト興業舎で働いてくれるんだよね?」

「もちろんですよ。

 実はラナエ舎長代理にも内諾を得ているんですが、アレスト興業舎の王都出張所がある程度落ち着いたら、私はマコトさんの補佐役として働くことになっています。

 というよりは、現時点でも出張所長よりはマコトさんの渉外の方にウェイトを置いています」

 それでいいのか、アレスト興業舎?

 いや、ありがたいけど。

 ジェイルくんがついていてくれないと、多分俺はこの王都で潰れるからね。

 何せ、右も左も判らない。

 俺、こっちの世界に転移してきてまだ半年かそこらだよ?

 例えばいきなりアメリカとか中東とかに行って、半年後にそこで自立したり会社を経営しようとか思ったら、凄いことになるだろう?

 普通は無理だよね。

 言葉が通じるとしてもだ。

 だって、周りの人が常識だと思っている知識が全然判らないんだし。

 努力はするけど、どうしても現地に詳しいサポーターが必要だ。

 今まで何とかやってこれたのは、やはりハスィーさんを初めとする皆さんのおかげということで。

「それはありがたい。

 ということで、早急にお願いしたいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

 ジェイルくん、何か嬉しそうだな。

 そうやっていると、コリー犬か何かに見えてくるぞ。

 激しく振られているシッポの幻が見える。

「ホテル住まいが落ち着かないんだ。

 宿泊料も無駄だと思うしね。

 俺もしばらくは王都にいなきゃならないと思うんで、家を借りられないかな」

「家、ですか」

「うん。

 出来ればちょっとした商談ができるような事務室があって、数人が長期間生活できるようなところがいいな。

 家賃がどれくらいか判らないんだけど、俺が払うから。

 近衛騎士の俸給で払えるところならどこでもいい」

「それなら、アレスト興業舎の社宅として用意できますよ。

 そのつもりで、資金も預かっています」

 いや、その金はハスィーさんの借金だろう!

 てことは俺の借金でもあるわけで、それだったら最初から俺が払った方がいい。

 何せ、今の俺にはララネル公爵家からの俸給があるのだ。

 王都の家の家賃がいくらか知らないけど、払える額なら俺が払う。

 ていうか、払えない家なら借りない。

 でも、少なくともあのホテルの豪華な部屋よりは安いはずだ。

「判りました。

 早急に探しておきます。

 確かに、購入した方がマコトさんの資産にもなりますしね」

 ジェイルくんは何か勘違いしているようだけど、借りるだけだからね?

 こっちにはアパートとかないだろうから一軒家は仕方がないけど、それもベッドルームがいくつもあるようなのは希望してないから!

 アレスト市と違って相場が高いだろうし。

 丸投げしていいのか不安だったけど、候補が出てきたところで選べばいいかと思い直す。

 そうこうしているうちにホテルが見えて、馬車が止まった。

 早速ジェイルくんが降りてドアを開けてくれる。

 嫌だけど、人前では近衛騎士としてこうしなければならないらしい。

 頭を下げるジェイルくんを尻目にエントランスに踏み込むと、ハマオルさんが立っているのが見えた。

「ハマオルさん」

「マコト殿」

 言葉が少ないな。

「どこにいらした……いたんですか」

「マコト殿についておりましたが?」

 え?

「ハマオルはマコトさんの護衛ですから」

 ジェイルくんが言った。

「先ほどのお付きの馬車に同乗していましたが、貴族街に入る時に御者席に乗り込んで貰いました。

 これからはずっとハマオルがつきますので、そのつもりでいて下さい」

 マジ?

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