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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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19.偽装婚約?

 何がどうなっているんだ?

 それがはっきりしないうちは、うかつなことは言えない。

 ここで情報不足でしくじったら、破滅という気がするぞ。

 俺はトイレに行くふりをして、ジェイルくんを誘ってリビングを脱出した。

 一応、二人で本当にトイレに行って、並んで用をたしながら小声で会話する。

 いや、案内のメイドさんがトイレの前で待っているので。

 無駄に広すぎるアレスト伯爵邸だから、トイレも結構遠いのだ。

 案内なしでは、絶対に迷う。

「ジェイルくん、白状しろ!

 何か知っているんだろう?」

「マコトさんが知らない方が驚きですよ。

 ご自分の事でしょう」

「俺は全然聞いてないよ!」

「そうなのですか?

 てっきり、ハスィー様と相思相愛なのかと。

 このところ、毎晩お宅に通い詰めだったじゃないですか」

 あれが噂になっているのか。

 それはそうかもしれないが、二人きりというわけでもないのに。

「ラナエ嬢やシルさんに、ユマ閣下まで一緒なんだぞ。

 女子会に俺が割り込んでいるようなものだ。

 色恋沙汰が起こるはずないだろ。

 いや、そんなことは後だ。

 ひょっとして俺、ハスィーさんと結婚することになっているの?」

「もちろんですよ。

 今回の王都行きも、ご家族にお会いして許可を得るためのものだと。

 アレスト興業舎内、いやギルドでもそれが共通認識です」

 何てことだ。

 そうか。

 だからギルドの退職時の挨拶回りで、みんなあんな笑顔だったのか。

 いやいやいや!

 有り得ないでしょう!

 エルフの伯爵令嬢と俺が?

 A○Bのセンターが、劇場の下働きのバイトとどうにかなるようなもんじゃないか!

「マコトさん、本当に判らなかったんですか?

 ハスィー様も、当然お伝えしているものだとばかり」

「そんなこと言われても。

 あ、そういえば名前を呼ぶときに『様』を止めて、呼び捨てにしてくれと言われたっけ」

「……貴族の令嬢の名前を呼び捨てにしていいのは、婚約者か親しい年上の親戚だけですよ。

 それが貴族の常識です」

 そんな常識なんか、俺が知るわけないだろう!

 そういえばあの時、確か俺は「今は敷居が高いけど、そのうち」とか答えたような。

 あれで誤解されたか!

 ていうか、俺ってもうOKしたことになっている?

 絶句していると、ジェイルくんは不意に左右に目を配ってから囁くように言った。

「これはマルトさんから聞いたのですが、マコトさん、アレスト興業舎の予算はどこから出ていると思われますか?」

「どこからって、ギルドだろう」

「それはそうです。

 ですが、本当はハスィー様がギルド評議会にかけあって、ご自分の結納金を担保にギルドから借りて投資されているとのことです」

 何だってーっっ!

 つまり、あの予算はハスィーさん自身の身をカタにした借金だったというのか!

 これまでも、あまりにも予算申請が簡単に通り過ぎると思っていたけど、そういうことか!

「じゃ、じゃあハスィーさんは自分の結婚を餌にして、ギルドから金を引き出していたのか!」

「そうです。

 ギルドにしても、手堅い投資ですからね。

 領主のご令嬢を人質にとっているようなもので、例え失敗しても焦げ付きはないと踏んだのでしょう。

 ですが、もしハスィー様のご結婚が無しになってしまうと、途端に多額の負債がのし掛かってくることになります。

 請求は、ハスィー様を通してアレスト伯爵閣下に行くことになりますね。

 大問題ですよ」

「ご領主様ならそのくらいの金は」

「それはどうでしょうか。

 昨今の貴族家は、どこも内実が苦しいはずですよ。

 アレスト家は領地の統治を代官に任せているので経営責任からは逃れていますが、逆に言えば融通できる余剰資産はあまりないと言っていいと思います」

 でも、領地があるんだし。

「王政府は、貴族の領地の勝手な売買を禁止しています。

 すなわち、大っぴらに土地を担保にして借金をするのも禁止ということですね」

 それはそうか。

 そうしないと、ある日突然、大富豪や外国の貴族が自国の領地を所有することになってしまうかもしれない。

 日本だって、外国人が土地を買うには色々と制限があったはずだ。

 いやこれは日本だけではなく、世界中同じといっていいだろう。

 というよりは、本当は外貨の持ち込みすら制限されている国も多いんだしな。

 ならば。

「ハスィーさんにとってみると、とりあえず結納金が入る予定があるという芝居を続けるしかないわけか」

「お芝居ではないでしょう。

 少なくともハスィー様は、結婚については本気だと思います。

 ただ、本当に結納金だけで借金が返せるかというと、疑問ですね。

 他の方法で、アレスト興業舎をギルドから買い取れるだけの資金を用意できればいいのですが。

 ギルド側も、おそらくそんなに早急には負債の返済は求めていないはずですから、時間的な余裕がないわけではないと思いますけれど、ね」

 何てこった。

 それじゃあ、俺はこの婚約を断れないじゃないか。

 少なくともアレスト興業舎の経営が軌道に乗って、借金を返せる目処がつくまでは、結納金が存在するように見せかける必要がある。

 いや、違うか。

 結納でなくても、アレスト伯爵閣下に出して貰えばいいだけなんじゃないか。

 アレスト興業舎に対する出資という形で。

「どうでしょう」

 ジェイルくん、話の腰を折らないで!

「アレスト伯爵家にそれほどの余裕があるかどうか」

「でも、ララネル家やミクファール家は増資に応じると言っていたけど?」

「公爵家や侯爵家とは、財力が違います。

 そもそも、両家は自家で領地の統治を行っているので、動かせる流動資産が段違いですから」

 そうなのか?

 でも、民間のマルト商会なんかも増資で資本を出しているんだから、不可能ではないと思うんだけどな。

 何せ、娘が舎長をやっている会舎だし、そもそも自分の領地で事業を行っているんだからね。

 ハスィーさんも、別に無理に俺なんかと結婚しなくてもいいはずだ。

 よし。

 提案してみるか。

 それでも、とりあえず今は婚約話はこのまま進めるしかないよなあ。

 少なくともギルドには、話がうまく進行しているように見せないといけないし。

「いや、何で断るんですか?

 ハスィー様を妻に出来るんですよ?

 家柄やあのお美しさを抜きにしても、素晴らしい女性だと思いますが」

 ジェイルくん、判ってないね。

 俺なんか、手段だよ。

 使い勝手のいい道具なんだから、その分を越えてはいけない。

「だからだよ。

 あれほどの女性が、自分の身を賭けてまでアレスト興業舎を立ち上げたんだ。

 俺を利用して。

 だから、俺としてもその期待に応えなきゃならないけど、だからといって俺がそれにつけ込むわけにはいかないだろ?」

「そうでしょうか。

 私には、とっくに目的と手段が入れ替わっているようにしか思えませんけどね……」

 ジェイルくんが何か言っているが、スルーする。

 当面の目標は決まった。

 この婚約、見事受けて見せましょう!

 あとはアレスト伯爵に対する出資のお願いだな。

 結納ということにして、後で婚約がなかったことになったら出資に切り替えて貰えばいいか。

 メイドさんに案内されてリビングに戻ると、もう昼食の皿は片付けられていた。

 女性陣とフレロンドくんの姿もない。

 残っているのは前アレスト伯爵フルーさん、現アレスト伯爵のフラル閣下、そして次期アレスト伯爵のフロイさんの3人。

 ぞれぞれの前には食後のお茶が出され、思い思いの姿勢で寛いでいらっしゃる。

 あ、これほどの人たちなら、男でも名前を覚えるな、俺も。

 美形だけど、桁違いだから。

 後ろの方に例の執事の人が控えているけど、やっぱり名前を思い出せない。

 俺って(泣)。

「相談は済んだかね?」

 フラル閣下が真面目な顔つきで言った。

 俺は、思わずジェイルくんと顔を見合わせた。

 バレてる?

「そう、構えなくてもよい。

 別に君らに敵対しようというわけではないのだ。

 というよりはむしろ、懇願したいところでね」

「懇願、ですか?」

 なぜか真ん中に座っている前アレスト伯爵フルーさんが、手を組みながら言った。

「そうだ。

 最初に言っておくが、この婚約自体にはまったく問題はない。

 アレスト伯爵家は諸手を挙げて、貴殿を歓迎する。

 だがマコト殿には申し訳ないが、結納金は払えない。

 アレスト伯爵家は、すっからかんなのだよ」

 マジ?

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