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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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17.美形家族?

 やっぱ、ジェイルくんもただ者ではなかったか。

 シルさんの時もぶったまげたけど、まさかジェイルくんが御曹司とはねえ。

 そういえばジェイルくんって、最初に出会った時から態度や話し方がきちっとしていて、ハスィーさんたち貴顕に対する礼儀作法も完璧だったもんな。

 大商人の御曹司なら、そこら辺は幼少から仕込まれていて当然か。

 そのジェイルくんは、何と伯爵閣下に対して反論していた。

「止めてください。

 クルト家には、まだ何人も跡継ぎ候補がいて誰が跡を継ぐかは決まっていません。

 そもそも現会頭の子が後継者になるとは限りませんし」

 なるほど。

 財閥とかにはよくある型かな。

 親戚の中で、一番優秀な人が跡を継ぐわけだ。

 でもジェイルくんくらい優秀なら余裕で跡継ぎなんじゃないの?

「娘から話は聞いているよ。

 あのマルトに『片腕』と言わせたそうじゃないか。

 奴は本当にそう思っていなければ、そんなことは言わないぞ」

 ああ、アレスト伯爵は当然だけどマルトさんをよく知っているわけだね。

 アレスト市のギルド評議員を務めるほどの大商人だから、領主が知らないはずがない。

「マルトさんには感謝しています。

 でも、私のわがままでマルト商会を離れてしまいましたから」

 え?

 ジェイルくんって、マルトさんの命令でアレスト興業舎に来たんじゃなかったのか?

「そうか。

 ということは、もう後継者レースからは脱落したと」

「いえ」

 ジェイルくんが目を光らせた。

 何それ?

 ラナエ嬢そっくりなんだけど?

「目標が出来ましたので、とりあえずクルト交易は手に入れようと思い直しました。

 幸いアレスト興業舎でも立場を頂けましたし、挽回は十分可能と考えています」

「そうか。

 なら、私もジェイル殿を応援しなくてはね。

 それが結果的に娘の為にもなるだろうから」

 アレスト伯爵閣下は、そう言って笑った。

 何かよく判らないけど、うまくいったらしい。

 でもまあこれでジェイルくんが食事会に同席していても不自然ではないことが判明したわけだ。

 ていうか、そもそもこの食事って俺がアレスト伯爵に呼びつけられたんだよね?

 伯爵閣下の最初の発言といい、どうも俺が考えていたような単なる顔合わせではないような気がする。

 何かもやもやするなあ、とか思っていたら奥のドアが開いて人が入ってきた。

「あら、もういらっしゃっていたの?」

 綺麗な声がして、振り向いた俺はそのままの姿勢で固まった。

 ハスィーさんを数倍ゴージャスにしたような美女が快活に笑いながら近づいてくる。

 年齢が判らん。

 いや、ぱっと見にはやっぱり30くらいに見えるんだけどね。

 でもエルフだから。

「マコト殿。

 私の家内だ」

 やっぱし。

「サエリア・アレストです。

 あなたがヤジママコトさんね。

 娘がお世話になっています」

「いえ、ハスィーさんにはもう返せないほどのお世話をかけていまして。

 あ、ヤジマは家名ですのでマコトと呼んで下さい」

 口が勝手にいつものパターンを紡いでくれて助かった。

 美形だ。

 ハスィーさんと同等か、それ以上だな。

 こちらの方が『傾国姫』に相応しいんじゃないのか?

 人妻だけど。

「ほお。

 ハスィー『さん』なのかね?」

 アレスト伯爵閣下が、なぜかニヤリと笑った。

「結構、結構。

 まあ、それは後だ。

 みんなはまだなのかい?」

「すぐに来ますよ。

 今更ですが、マコトさんに初めてお会いするというので支度に手間取っているの」

 何で?

 伯爵家の方たちが、たかが近衛騎士に会うのに何を支度しなければならないの?

 何か背筋に冷たいものを感じたけど俺は平静を装った。

 ところでみんなって?

「遅くなりまして」

 ゾロゾロと入ってきたのは美形の集団だった。

 どなたも20代から40代くらいに見える。

 幼児が一人いる。

 目が眩むような豪奢な金髪と白い肌。

 ラノベでも、こんなシーンはねえよ!

 無駄に美形を大量に登場させても、あまり読者ウケしないからな。

 前に(シルバー)エルフのアレナさんが、自分たちが集まるとお互いに銀髪が眩しくて困るというような話をしていたけど、それの金髪版だ。

 髪だけじゃないけど。

 あまりにも眩しくて、とても直視していられない。

 ハスィーさん一人でも耐えられないんだから集団で出てきたら勝てるわけないだろう!

 無理ゲーすぎる!

「こちらが私の父、つまり前アレスト伯爵だ」

「フルー・アレストだ」

 手を差し出されたので握り返す。

 この若作り集団の中で唯一年長に見える人だった。

 といっても見た目はせいぜい40代くらいか。

 でもアレスト伯爵のお父上なんだとしたら、下手すると70歳以上なんじゃないか?

「ヤジママコトです。

 ヤジマは家名ですので、マコトと呼んで下さい」

「了解した、マコト殿」

 おお、結構堅いというか真面目なかんじだ。

 アレスト伯爵の父親なんだから、もっとアレかと思っていたけどそうでもないらしい。

「こちらが私の母だ」

「ライネです。

 孫と親しくしていただいているそうで、ありがとうございますね」

 孫か。

 つまり、ハスィーさんのお祖母さんかよ。

 いや、どうみても中年の物凄い美女にしか見えないんですが。

 この方は金髪といってもほぼプラチナブロンドだ。

 ハスィーさんに遺伝子が受け継がれている。

 エルフってスゲー!

 いや、俺の脳がアレスト家の方たちをエルフと認識したのは正しいよ。

 この人たち、どう見ても普通の人間じゃないもんな。

 美形の長命種といったところか。

 待てよ。

 エルフが長命種だということは、(シルバー)エルフのアレナさんたちも同じなのか。

 アレナさんは、自分たちは傍系だと言っていたけどエルフには違いないわけだ。

 つまり、アレナさんも見かけ通りの年齢ではないことになる。

 二十歳くらいに見えていたんだけどなあ。

 でも、その辺りの外見だと、ひょっとしたらもっと若い可能性もあるわけで。

「息子だ。

 今のところ次期アレスト伯爵の予定だ」

「フロイです。

 お噂はかねがね」

 ハスィーさんの兄上だな。

 見事なくらいアレスト伯爵閣下に似ている。

 つまり物凄い美男子だ。

 俺より年下に見えるが、これで一児の父親なのか。

 何歳なんだろう。

「マコトです」

 めんどくさくなってヤジマは省略した。

 ここまで追い詰められると、もうどうでも良くなってくると言うか、かえって腹が据わるもんだな。

 フロイ伯爵公子は後ろにいた女性の肩を抱き寄せて言った。

「僕の妻と息子です」

 あ、ちなみに公子というのは爵位がない貴顕の男性に対する敬称ね。

 女性なら公女だ。

「ユリタニア・アレストと申します。

 よろしくお願いします」

 何をよろしくすれば?

 いやスゲー美少女なんだけど、アレスト家の人たちとは少し方向性が違っている。

 嫁だからね。

 純粋な金髪というよりシルバーブロンドというか、金に所々銀が入り交じったような色合いで、ゴージャスさではむしろ上かも。

 エルフなんだろうな、やっぱり。

「息子のフレロンド。

 まだ一歳です」

 フロイさんの言葉で、ユリタニアさんが抱いている赤ちゃんの顔をこっちに向けてくれた。

 フレロンドくんは賢そうな目で俺を見て笑った。

 この子、既に一生のリア充が保証されているよ!

 すでに整っている顔に翡翠の瞳。

 当然金髪。

 可愛いというよりは、もう神々しいような。

 ここまでいったら将来的に性格が歪んでも仕方がないのかも。

 アレスト伯爵みたいに。

 いや、フロイさんは至極マトモに見えるけどね。

 それにしてもホントに少女漫画の世界ってあるんだなあ。

 俺は思わず姿勢を正すと、ユリタニアさんとフレロンドくんに向けて丁寧に頭を下げた。

「ヤジママコト、ララネル家近衛騎士です。

 奥様とご子息が、末永くご健勝あらんことを」

 俺、何やってるの?

 柄じゃないよなあ。

 でもユリタニアさんは頬を染めて頷いてくれた。

 振り返るとジェイルくんが俺の後から皆さんと挨拶を交わしている。

 良かった。

 この人達、ホントに身分を意識させないね。

 まあ、エルフからみたら人間なんかみんな同じなのかもしれないけど。

 ジェイルくんが挨拶を終えて、目立たないように頷いてくれた。

 何とか切り抜けたらしい。

 やれやれ。

 アレスト伯爵閣下が言った。

「ということで、お互い紹介も済んだと思う。

 では祝おうではないか。

 新しい家族の誕生を!」

 はあ!?

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