表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/1008

13.インターミッション~ソラル・マルト~

 マコトさんについていく。

 最初にあの山道で会った時から、なぜかそう思いこんでいた。

 理屈じゃなかった。

 もちろん恋とか、そういうものでもないと思う。

 よく判らないけど。

 もっと切羽詰まっていて、使命感みたいなものもあって。

 でも、大変な事になるということだけは判っていた。

 それでも構わない、というよりはむしろだからこそ、という気分で。

 不思議なのだけれど、どうして私は初めからそんな風に思いこんでいたのか。

 運命?

 違うと思う。

 もし、最初に出会った時に父親が別の決断を下していたら、ソラルはあっさりとマコトのことを忘れただろう。

 商人の見習いとして、まだまだ学ぶことは多い。

 父親のやっている事業の規模が見えてきた頃だったし、その仕事も表に出せるものだけではないことも判ってきていた。

 後を継ぐのなら、脇目もふらずに突っ走る、いやそうではなくて一歩一歩歩み続ける必要があることは理解していたのだ。

 山道で遭った障害物。

 あの『迷い人』は、ソラルにとってはそれ以上のものではなかったはずだ。

 だがあの父親が、信じられないことにマコトを保護したのだ。

 数語の言葉を交わしただけで、まだまったくといって良いほどマコトを知らないうちに。

 有り得ないことだった。

 乾坤一擲に近い勝負の最中だったはずだ。

 もし、あそこで教団との関係が明るみに出れば、マルト商会は潰れはしないまでも、大幅に事業を縮小しなければならないところだっただろう。

 だが、父親はあっさりチップを載せ替えた。

 ソラルは近くで見ていたが、父親に葛藤はまったくなかった。

 むしろ、そんな自分に少し戸惑ってもいるようで、ソラルに対してこれで我々も中央に進出できるかもしれない、と口走ったりしていた。

 そんな父親ではなかったはずだ。

 もっと、冷徹と言えるほどに状況を把握しコントロールする人だったのに。

 『迷い人』とは、それほどのものなのか。

 半信半疑でマコトと会話して、それだけで判った。

 というより、納得した。

 判らないが、了解してしまった。

 別に、マコトのことを信じたとか、忠誠心を抱いたとか、守りたいと思ったとかではない。

 洗脳や魅了のたぐいでもない。

 ただ、そう思ったのだ。

 この人についていけばいいのだ、と。

 ソラルは、アレスト興業舎王都出張所の受付になるカウンターを拭きながら考える。

 正確には、ついていくだけでは十分ではないと思っていた。

 そういう人材なら、今のアレスト興業舎には事欠かない。

 というより、アレスト興業舎以外にも結構いるだろう。

 司法官とか、ギルドの執行委員とか。

 舎内にも、幹部であるだけではなく、侯爵令嬢や帝国皇女とかの、とんでもない存在すらいる。

 人間以外もいるのだ。

 そういうやり方も、間違ってはいない。

 能力や立場に応じて、それなりの方法で付き従うのは有りだ。

 だが、ソラルには欲があった。

 近くにいたい。

 いや、繰り返すが恋愛ではないのだ。

 抱かれたいとか、そういう感情はない、と思う。

 マコトがどうしてもというのなら吝かではないが、駄目なら駄目で別に構わない。

 だから努力した。

 マルト商会からの出向ではあまり内部には入り込めないと判断して、正式にアレスト興業舎に就職した。

 傍目には判らないようにして、色々と動いた結果、見事に秘書という役目を獲ることが出来た。

 もっとも、その立場を狙っていた人が他にいたかどうかは知らない。

 案外、穴場だったのかもしれない。

 秘書は素晴らしい。

 とりあえず、公式にマコトに渡る情報はすべてソラルの手を経るのだから、ある意味囲い込んだようなものだ。

 もっとも、マコトの場合は他にもチャンネルが多すぎて、特に重要な情報はソラルの関知しないところで流れることもしばしばだったが、贅沢は言えない。

 何せ秘書なのだ。

 立場的には、マコトのすぐ後ろについていることになる。

 この立場は何としても死守しなければならない。

 だから、マコトが王都から呼び出しを受けてアレスト興業舎の経営から離れることが判った時は、即座に父親を説得した。

 マルト商会の王都支店は、支店とは名ばかりでアンテナショップのような状態だったが、これを強化する必要がある。

 つきましては、是非とも補強をお願いしたく。

 父親は苦笑したが、了解してくれた。

 だけでなく、言い訳はいいから好きなようにしろと言ってくれた。

 思えば、ソラルがアレスト興業舎に正式に就職するときにも何も言われなかった。

 片腕たるジェイルがアレスト興業舎に入り浸りになっているのにも文句をつけないどころか、むしろ奨励すらしていたようだ。

 確かに、アレスト興業舎に深く関わることで、マルト商会の売上げや利益は上がっている。

 しかしそれは、これまで頑なに独立を守ってきた(というポーズを周囲に見せていた)マルト商会が、局外中立から踏み出すことを意味する。

 娘と片腕を送り込んで、マルトはどういうつもりだ、と囁かれているのも知っている。

 どういうつもりかって?

 思うことをやっているだけでしょう。

 父親の気持ちが、何となくだが判る気がする。

 もう、そんなことはどうでもいいのだ。

 マルト商会自体が、父親の興味の対象ではなくなってしまっているのかもしれない。

 自分と同じように。

 もちろん、有用な道具であり自分の武器であるから、蔑ろにはしない。

 それは変わらない。

 けれど、もし万一マルト商会が原因でマコトに問題が生じるようなら、あっさり切り捨ててしまっても不思議ではないだろう。

 だから、とソラルは思う。

 お父さんも、こっちにくればいいのに、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ