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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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12.証明?

 この娘に見覚えがある理由が判った。

 シルさんの面影があるんだよ。

 もちろん、表面的には全然似てないんだけどね。

 でも、言われてみると血族に見える。

 肌の色とか顔の骨格とか。

 でもね。

 女の子で美少女だからといって、何をやっても許されるとは思うなよ。

 ラノベじゃあるまいし。

 第一、その程度では俺は納得しない。

 シルさんの本名? は帝国の皇族名簿に記載されていて、誰にでも参照できるはずだ。

 つまり、シルさんの名を出して妹と名乗ったからといって、それがそのまま通るはずがないだろう?

 両脇に手を添えて、どうだ参ったかとばかりにふんぞり返っている美少女に、俺は冷たく言った。

「それで?」

「……!

 今言ったでしょう!」

「シルレラ皇女殿下の本名か?

 そんなものは、その気になれば誰にでも調べられる。

 あんたが妹だという証拠としては不十分だ」

 女の子は、じゃなくて自称フレアちゃんは虚を突かれたような顔つきになった。

 この攻撃を跳ね返されたことがなかったんだろうな。

 まだまだだね。

 世の中には、帝国皇女だと言われて平伏す奴だけじゃないんだよ。

 普段から、伯爵公女のエルフや侯爵令嬢や公爵の名代といった貴顕と日常的に接しているモブだっているのだ。

 慣れだよ、慣れ。

「というわけで、それだけじゃあんたを信用する理由にはならないな。

 それに」

「……何よ」

「あんたは、最初から俺を騙そうとしたな。

 つまり現時点での信用度はマイナスだ。

 そんな奴を信頼できるか?」

「……いいえ」

 へー。

 認めたか。

 意外に素直ないい娘なんじゃないか。

 でもまあ、だからといって信用できるかどうかとは別だけどね。

「案内はいらない。

 同行も御免被る。

 証拠を揃えて出直してこい。

 まだその気があるんならな」

 うおおおっ!

 これ、ホントに俺?

 厨二化してない?

 してるかもしれないけど、ここで折れたらそれこそラノベかハーレムアニメだ。

 本当にシルさんの妹だったらヤバいのでは、という後悔もあったけど、仕方ないよね?

 俺は、騙そうとしてくる相手には断固反発するのだ。

 当たり前だろう?

 人を馬鹿にして、それで済むと思っているのか?

 そのまま自称フレアちゃんの脇を擦り抜けて大通りに出る。

 美少女は、ついてこなかった。

 さすがに諦めたか。

 少なくとも、今日のところは戦略的撤退だろうな。

 本当にシルさんの妹だったら、このくらいで諦めたりしないとは思うけどね。

 それはまた、別の話だ。

 サラリーマンになって、思い知ったことがある。

 信用が第一だ。

 そして一度信用を失ったら、そのビジネスはそこで終わりだ。

 どんなに誠実にやってきても、たった一度裏切っただけで、今までの実績は全部パーになってしまうんだよ。

 そして、それをせめてゼロに戻すだけでも膨大な時間と努力、そして純白の誠実さが必要になる。

 それが仕事というものだ。

 学生時代のなあなあや甘えは通用しない。

 嫌われようが気分を害されようが、仕事の本当の障害にはならないけど、嘘だけは駄目なのだ。

 そこんところを判ってなかったんだろうな。

 フレア姫様は。

 まあ今回のは戯れ言だと判っているから、俺もそこまで拒否っているわけではないんだけどね。

 あ、俺って少なくとも彼女の正体については信用しちゃっているみたいだな。

 その理由も判っている。

 魔素翻訳では、嘘はつけないからだ。

 だから、彼女の名がフレアであるということも、シルさんの妹だということも本当だろう。

 いや、そう思いこんでいる精神障害患者という可能性はあるけど、だったら俺に絡んでくる理由が不明だ。

 それに、そこまで複雑怪奇な仕掛けをしてくる人って、まずいないだろうし。

 俺がちょっと不思議に思ったのは、フレアちゃんが最初にムストの使いだと言った時、嘘をついているようには感じられなかったことだ。

 いや、正確に言えば違和感はあった。

 印象的な上下関係がちぐはぐだったんだよね。

 説明しにくいんだけど、例えばある人が「○○に言われて来た」と言った場合、その○○の立場がその人の上位にあるのか下位にあるのかで、言い方が違ってくるだろう?

 フレアちゃんの言い方だと、どうもフレアちゃんの方が上位という感じがしたんだよね。

 けれど、はっきりとした上司と部下という感覚でもない。

 直接的なつながりはないんだけど、立場としてはフレアちゃんの方が上という感じ?

 言葉では難しいけど、そういうことだ。

 さらに言えば、後でムストとは無関係だと言った言葉にも嘘は感じられなかった。

 だったら、おそらくこういうことだ。

 ムストとは直接の主従関係ではないが、フレアちゃんが上位にあるような関連はある。

 そして彼女の今回の俺との接触には、ムストは絡んでいない。

 そういう仮定を元にすると、何となく今回の状況が判ってきそうだけどね。

 とりあえず、今日はここまで。

 まあ、いずれまた現れるだろう。

 待っているぜ。

 そんなことを考えながら、さすがに精神的に疲れた俺は大通りを引き返してホテルに戻った。

 幸い、一本道で迷いようがなかった。

 フロント? で駆け寄ってこようとする従業員を断って、自分の部屋に戻る。

 こっちでもキーはあるんだよね。

 どうも、地球の技術体系のうち産業革命以前のものは移植されているようだ。

 つまり、その前に来た『迷い人』が伝えたんだろうな。

 もちろん、違っているかもしれない。

 技術製品といっても多種多様で、既にこちらに存在する技術基盤で実現可能なものから、高度な工業基盤が必要なものまで色々だし。

 高精度な鉄の加工とか、精密工学は再現できていないのだろうな。

 それでも、例えば部屋の鍵といったものは既に存在している。

 もちろんそっくりそのままというわけではなく、欠けているものも多い。

 それに、見たところ技術はともかく文化的には中世ヨーロッパが主軸になっているようだ。

 アジアとか中東、アフリカ的なものがほとんど見当たらないのだ。

 ここは位置的には日本のはずなんだけどな。

 違うか。

 多分、地形自体が地球と違うと思う。

 大陸の形はどうか知らないが、かなり違っていても不思議ではないだろう。

 太陽や月が同じように見えるからといって、大地の構成まで一緒とは限らないしね。

 アレスト市で見たこっちの世界の地図は不正確きわまりなかったけど、それでも俺が覚えている地球のどんな場所にも合わなかったからな。

 判っているのは、ソラージュがあるのは北半球の温帯あたりだということと、帝国は赤道に近いということくらいか。

 地軸の傾きは地球と同じくさいけど、測りようがないから判らん。

 まあ、現時点ではそんなことはどうでもいい。

 俺は別に世界地図を作りたいとか、世界一周したいという野望を抱いているわけではないしね。

 ただ安定した社会的地位、出来ればしっかりした会社の正社員(相当)の立場を手に入れて、毎日を安らかに過ごしたいだけなのだ。

 そんなささやかな願いすら、実現するのがどんなに難しいか。

 実際、もう正社員とか有り得そうにもないからなあ。

 誰が近衛騎士なんかを社員として雇うかっての。

 俺がオーナーでも、そんなめんどくさい奴を雇う気にはなれん。

 だとすると、もうアレしかないのか。

 ベンチャーの起業。

 俺が?

 笑っちゃうよね?

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