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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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10.御用商人?

 魔素翻訳での言葉だ。

 嘘は言っていない。

 だとすると、こいつはこの僅かな時間で俺が近衛騎士であることを見破ったことになる。

 それとも、『迷い人』だということまでバレているのか?

 王都、恐ろしい場所!

 いや、待て待て。

 魔素翻訳だから嘘はつけないけど、嘘じゃないからといって真実とは限らない。

 これについてはユマ閣下やラナエ嬢と議論したことがあるのだが、魔素翻訳においても嘘はつけないことはない、という結論だった。

 つまり、言っている本人が本当だと思いこんでいれば、それは本人にとっては真実だから、聞いている方も嘘をつかれたとは感じない。

 地球でもよくあるよね。

 陰謀論なんかで、いったん信じ込んでしまったら、それ以外の事は見えなくなるっていう。

 魔素翻訳でも、そういう思いこみは看破できないらしいのだ。

 別に真実の判定をやっているわけじゃなくて、本音が伝わるというだけだからな。

 つまり、今ムストが言った「俺の正体」とやらは、現時点でムストがそう思っているというだけだ。

 面白い。

 聞こうじゃないか。

「僕の正体が何だっていうんだ」

「マコト、君はその近衛騎士の従者だろう?」

 ほら、間違えてる。

「なぜ、そう思う」

「このホテルに入ったのが貴族、それも近衛騎士だと知っていたな。

 さらに従業員が丁寧に接したことも見たと言ったからさ。

 そばで見ていた以外、どうやってそんなことが判るというんだ」

 結構いいセンいっているけどね。

「配下の商人かもしれないだろう」

「君は商人じゃないよ。

 特有の『臭い』がない。

 ついでに言うと、自分の手を汚す仕事をしているわけでもないな。

 いや、前はしていたかもしれないけど、最近は指示するだけだ。

 それでいて、割と身体は鍛えている。もっとも護衛といった柄ではないし、特別な武術や技能がある風にも見えない。

 若すぎて、年季の入った何らかの専門家というわけでもなさそうだ。

 だとしたらもう、誰か偉い人に仕えてその命令を伝達する役目、つまり貴族の従者しかいないじゃないか」

 大したものだ。

 俺は、思わず拍手してしまった。

 このムスト、観察力と洞察力はホームズ並かもしれないな。

 しかし、これほどの奴をジェイルくんに引き合わせてもいいのか?

 下手すると、有能さではジェイルくんとタメを張るかもしれないぞ。

 それに、ここまで有能ならとっくに誰かの紐付きでもおかしくない。

 例えばどこかの大貴族とか、あるいは王宮の誰かとか。

 まあいい。

 紹介するだけなら、別に害はないだろう。

「判ったよ。

 明日、は無理としても明後日にでも繋ぎをつけてやれると思う」

「ありがたい。

 本当言えば、近衛騎士自身の知古を得たいものなんだが、いきなりだとこっちの準備もあるしな。

 今は配下の商人で十分だ。

 明後日だな」

「出来たらだぞ。

 時間はどうする?」

「こっちはいつでもいい。

 都合の良い時刻が決まったら、この店に伝えておいてくれ」

 店の誰かを取り込んでいるな。

 王都の商人って、凄いなあ。

「それでは、俺はこれで」

「飯代は置いていけよ」

「判っているよ」

 ムストは、テーブルに硬貨をいくつか置いて出て行った。

 一緒に食うのかと思ったけど、結構忙しそうだな。

 まあいい。

 これで一食分浮いた(笑)。

 俺は、しばらくして運ばれてきたランチを食った。

 なかなか美味い。

 やっぱ、アレスト市って辺境だったんだなあ。

 まあ、この店があのホテルの客御用達ということもあるかもしれないけど。

 そんな店にも、スパイがいる。

 どうせ俺の食事の様子も後で聞き出すんだろうな。

 せいぜい従者らしく振る舞ってやるさ。

 ていうか、俺って実際にも近衛騎士よりは従者に近いのかもしれないな。

 何せ、心構えが平民だし。

 それにしてもムストとの会話は楽しかった。

 考えてみたら、こっちの世界に来てからあんな風に対等に語り合える人って会ったことないんだよね。

 いつも上か下かで。

 しかも、基本的には仕事上の付き合いでしかないので、話す時は緊張しているし。

 最近では、ユマ閣下やハスィーさん、ラナエ嬢なんかとはほぼ対等に話せるようになってきたけど、相手は年下の女の子だからなあ。

 シルさんは年上の女性、というよりは姉御だし。

 やっぱり、同輩というわけにはいかないんだよな。

 ムストはその辺、遠慮することなく話せて気が楽だった。もちろん、こっちの情報はなるべく出さないように注意してはいたけど。

 いずれにしても、ムストとは今後長い付き合いになりそうな気がする。

 予断は禁物だけどね。

 その辺りもジェイルくんに確認して貰おう。

 食い終わった俺は、そのまま店を出た。

 こっちにもチップの習慣がないので助かる。

 多少の現金は持ってきたけど、なるべく金は使いたくないしな。

 我ながらケチ臭いなあ(泣)。

 このホテルに帰れなくなると困るので、とりあえず引き返してフロントに相談したら、小さな木の板を渡された。

 迷ったら、辻馬車でも捕まえてこれを見せれば連れて帰ってくれるそうだ。

 怪しい人に誘われて、知らない店とかには入らないように、と念を押された。

 田舎者だと思われているなあ(笑)。

 俺は、この王都の三十倍くらいある大都市で生活していたんだぞ、と言いたくなったが我慢だ。

 そんな都市、こっちの世界にはないもんな。

 でも実を言うと、家賃の関係で俺が住んでいたのは東京都内じゃなくて埼玉だったんだけどね。

 通勤1時間以内でも、アパートは割合にあるから。

 家賃は半分で。

 でも毎日の通勤地獄には参っていたけど。

 俺はまだ若いからいいけど、毎日同じ電車で隣り合わせる人たちの中には、高齢者としか思えない人もたくさんいたからなあ。

 髪の毛が真っ白の人とか、太っていつも汗をかいている人とか。

 何十年もああいう生活をするのか、と思ったら気分が萎えたけど。

 でも、正社員だったからね!

 出世できるなんて全然思ってなかったけど、定年まで頑張れば年金が出ると思えば我慢できた。

 本当、あの年金制度って馬の鼻先にぶら下がったニンジンだよね。

 サラリーマンとしての給料の額は、ある意味どうでもいいんだよ。

 その範囲内で生活すればいいんだから。

 でも、それとは別に、引退したら働かなくても毎月金が貰えるという制度は、人間の精神を鼓舞するのに偉大な力があると思うんだ。

 こっちの世界にはないみたいだけど、いずれは導入したいよね。

 少なくとも、俺が定年になる前には是非。

 ホテルを出た俺は、とりあえずブラブラと歩き始めた。

 アレスト市と違って、人通りが多い。

 さっきホテルで聞かされた通り、辻馬車もよく見かける。

 これ、現代日本で言うとタクシーなんだけど、どうも公共交通機関がないせいか、かなり多数走っているみたいだ。

 昔のイギリスとかでは、馬が引く路面電車が走っていたはずだけど、まだそこまで文明が進んでいないのかもしれない。

 鉄道って、技術のブレイクスルーが必要だと聞いたことがあるからね。

 鉄の精錬と圧延の技術がないと、レールが造れないらしいのだ。

 鉄を精製するにはかなり高温の炉が必要だけど、これは地球でも西暦5世紀辺りで実現出来たと聞いている。

 いや、ヒッタイトとかで。

 何かのラノベで、誰かが語っていた知識だから、いいかげんかもしれないけど。

 でも、均一の性質とか堅さとか、つまり鉄を製品として造るのは大変で、高度な技術がないと無理だという話だった。

 つまり、少なくともソラージュの技術は現時点ではそこまで到達していないんだろうな。

 剣とかはあるけど、戦艦とか戦車を造れるほど大規模な精製と製造はまだ無理だ。

 鉄道も。

 そんなことを考えながら歩いていると、大通りのような道に出た。

 人通りが本当に多いな。

 秋葉原の歩行者天国程度の密度がある。

 客引きもかなり出ている。

「お兄さん、寄っていかない?」

 いきなり声をかけられて思わず立ち止まると、そこには美少女がいた。

 美人局?

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