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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?

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4.労働許可証?

「……はい。これで結構です。特に問題がないようですので、仮労働許可証を発行します」

 よかった。

「発行に5日ほどかかりますので、来週以降にギルドの受付においで下さい」

 あ、やっぱ役所だ。

 そうか、こっちにも週ってあるんだ。

 そう訳されたってことは、月もあるんだろうな。

 年も。

 問題はそこじゃなくて、ラノベで読んだみたいに受付の平係員が自分の判断でギルドカードを発行するってのはおかしいよね。やっぱ公的な証明書やカードは上の承認が必要だろう。

 形式的だとしても。

 今回はギルドカードじゃなくて、役所の正式な許可証だから、時間がかかるのは当たり前だ。

 あれ?

 てことは、許可証が出るまでは働けない、というよりは就活自体できないということ?

「そうですね。もっとも、就職活動自体は可能です。許可証の発行までは働けませんが、その間に就職を決めてください」

 ハスィーさん、簡単に言うけど、就活ってそんなに簡単ではないです。

 労働許可が出るのを待っている外国人なんか、よほどのコネがないと誰も雇わないと思うぞ。

 それでは、と言ってハスィーさんは出て行った。入れ替わりにイケメンが入ってきて、ご苦労様でした、と言ってくれる。

 なんでこんなに丁寧なんだろう。

「いかがでしたか?」

「緊張しました」

「まあ、形式的なものですから。お疲れと思いますので、とりあえず休憩がてら食事にしましょう。どんなお仕事にするかは、午後から考えるということで」

 そんなにとんとん拍子にいっていいのか。

 マルトさんのコネだろうか。

 俺は、自分で言うのも何だが、結構めんどくさい性格だ。簡単に言うと、疑り深くてマイナス思考。

 そのくせ、調子に乗ったら馬鹿なことをやってしまうという困ったもので、それが原因で友達なくしたり嫌われたりしたことも多い。

 そんな体験をしてきているので、物事は常に悲観的な方向から考えるようになっている。

 これには実質的な効果もあって、最初から駄目だと思っていたら、実際に駄目でもショックが少ない。

 そして、俺の今までの人生でうまくいった事より、駄目だった方が圧倒的に多かったことから、この方法論は正しいと思っている。

 でなければ、とっくに潰れていたと思うしな。

 あと、俺の性格としては無理はしない。

 高校も大学も現役で入ったけど、自分の実力で大丈夫な所を選んだだけだ。

 就職では、自分の実力がどの程度なのか判らなくて苦戦したが、入れてくれた所では何とかやっているので、結果的には正しい選択だったんだろう。

 だけど、あの時はマニュアルがあったし、グーグル先生もいた。

 でも今度は異世界だよ。

 しかも、俺の準備が全然出来てない。

 履歴書もないし、資格もない。

 それどころか、こっちの世界で有用な能力や技術が何なのかすら判らない。

 判ったとしても、俺にはそんなものはないだろう。そもそも、俺はこっちの言葉がわからない。

 いや、話は出来るけど、読んだり書いたりできないということは、つまりは肉体労働しかないんじゃないのか。

 あ、沈んできた。

 イケメンは、ハロワを出て近くの店に連れて行ってくれた。

 こっちでも普通に食堂があるらしい。

 まあ、ハロワのそばだからかもしれないけれど、結構賑わっていた。ざわざわと騒音レベルで会話が聞こえる。つまり、高級な店ではない。

 もっとも昼には少し早いせいか、あまり混んでなかったので、高校の食堂にあるみたいな長いテーブルの端に向かい合って座る。

 ちなみに、俺の高校は結構伝統がある、要するに昔の校舎とかをそのまま使っているボロい公立校だったので、内装も出てくる飯も凄く安っぽかった。

 どっかのアニメに出てくるようなレストランを想像しないように。

 それでも定食の他にうどんやカレーなどはあったのだが、こっちはランチしかないらしくて、何も注文しないのにシチューとパンが出てきた。

 飯場だね。

 最近、そういう言葉を聞かないけど、俺はバイトで山奥の工事現場のタコ部屋に追い込まれたことがあって、そういう状態の食堂というか飯を食う場所を知っている。

 つまり、荒っぽくて少し不潔で乱暴というか、ナプキンなんかもちろんないし、お茶はでかいヤカンから直注ぎだし、メニューなんてものはなくてみんな一緒。

 そういえば、マルトさんとこの食堂も同じだったな。多分、あまり効率的な料理施設がないんだろう。

 大量に作ってみんなに同じものを出すわけだ。それが一番安くできる。

 メインがシチューなのもそれだな。食材を大量に使って一度に作れるから。それに、鍋物やカレーなんかは大量に作れば作るほど、美味くなると聞いたことがある。

 マルトさんとこの飯はまあ、美味かったけど、肉体労働者向けだったしな。こっちも多分同じだろう。

 イケメンが、シチューとパンを運んできた人にお金らしいものを渡していた。よく見えなかったが、丸くて薄い金属製で、つまり硬貨は俺の世界と大体同じようなものらしい。

 お金は、最初は色々なものが使われるけど、なぜか丸くて薄い金属に収束されていくらしいからな。紀元前のお金も金属の円だったとか、高校で習った気がする。

 もっとも、金属加工技術が進むまでは、でこぼこして歪だったらしいけど。

 そんなことはいい。

 とりあえず、奢ってくれるみたいなので、ありがたく頂く。

 考えてみれば、俺はこっちのお金をまったく持ってないわけで、マルトさんがいなければ飢え死にか、食うに困って泥棒とかやって捕まって奴隷落ちか死刑がオチだろう。

 なんて運がいいんだ。

 やっぱ主人公補正効いているのかも。

 そういえば、このイケメン、えーと名前聞いた気がするけど忘れたが、どんな立場なんだろう。素直に考えたらマルトさんの部下というところだけど、使い走りにしてはイケメンすぎるし、いやこれは関係ないかもしれないけど、頭も良すぎる気がする。

 頭の良さってのは、別に勉強が出来るとか偏差値が高いとかだけじゃない。

 成績が悪くても、物凄く頭が回る奴はいる。それは学校時代から何となく判っていたが、サラリーマンとして働くようになって思い知った。

 本当に切れる、いや突然暴れ出す方のキレじゃなくて、頭が高速回転しているような人って、マジいるのだ。

 ただ考えるのが速いというだけじゃなくて、同時に色々なことを考えることができるとか、最初から結果がわかっているように動くとか。

 ラノベの主人公で、やたらに複雑に考えてモノローグが多いのがいるけど、あんなかんじだ。

 そういう人って、話す言葉や行動に無駄がないんだよね。あまり迷わないし、最短距離を突っ切るというか、動きがやたらに効率的だ。

 そして、不必要なことはしゃべらない。

 かといって冷たいとか、言葉が足りないというわけでもない。

 ああ、そういえばハスィーさんも同じタイプだったな。頭がいい、というか知能指数というよりはEQつまり「心の知能指数」が高いんだな。

 あ、このEQって用語は大学の講義で習った。俺、一応心理学科出だから。

 ちなみにEQの意味は、確か「自分や他人の感情の知覚と、感情のコントロール能力」といったところだったっけ。

 心理学をやると、そういう知識ばっかやたらと増えるんだよ。

 でも別に人の心が読めるとか、集団を言葉で操るとかそんなのじゃないから。

 文学部の学科だったから、精神科医とも違う。まったく趣味みたいなもので、就職には全然役に立たなかったなあ。まあ、面白かったからいいけど。

 就職できたし。

 元の世界では。

 今はもう関係ないけど。

 俺とイケメンは、別に話をすることもなく黙々と飯を食った。

 割と美味かった。

 ラノベでよく、異世界に行ったら飯が不味くて、主人公が料理の知識でチートするという設定のものがあるが、あまり現実味はないと思うんだよね。

 人間が人間である限り、味の追求がないはずはない。不味かったら、絶対に誰かが改良しようとするはずだ。

 地球の歴史でも、動力機関がなかった頃どころか、古代文明の時代から香辛料とかソースみたいなものは開発されていたはずだし。

 狩猟文化だと、そこまで味に凝る余裕がないかもしれないが、農耕文化になって裕福な階層が出来ると、その人たちは絶対に味の追求に走る。

 そして、上の方で定着したものは、文明が進むに従って下の階層に降りてくる。

 こっちの世界だと、生活には割合余裕があるように思える。もちろん何かの原因で農産物が不作だったりしたら、喰うに困る状態になるかもしれないが、その場合でも味の追求はなくならない。

 人間って、それくらい賎しいというか、快楽の追求には容赦がない生物なんだよね。あ、これって会社でそういう蘊蓄を語るのが好きな先輩がいて、残業の後飲みにつれていかれて、酒の席で延々と聞かされた知識ね。

 多分、本当だと思うよ。

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