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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?

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3.観光?

 数日後、司法官事務所から正式に俺宛の「召喚状」が届けられた。

 めんどくさそうな書類で、やたらに複雑な文章が並んでいて、俺の読解力ではまったく判らない。

 ユマ閣下に説明して貰ったら、簡単に言うと都合の良い時に王都の宮内庁? に出頭して下さい、と書いてあるとのことだった。

 ちなみに宮内庁というのは俺の脳が困って無理に魔素翻訳した結果だと思うけどね。

 貴族の管理などを行う役所だから、一番近い単語としてそれになったのではないかと。

 特に日時は指定してないが、そこはなるべく早く、最低でも数ヶ月以内にね、ということらしい。

 やたらに余裕があると思ったが、そうでもないと言われた。

 こっちの世界では、まだあまり高速で確実な輸送手段がないし、そもそも手紙や通達も送ったらすぐに届くわけではないからな。

 また、俺が何かトラブルに巻き込まれていて、それを解決するまでは動きが取れないというような場合も考えて、あえて期限は切っていないのだと。

 でも、だからといっていつでもいいというわけではなく、遅れたらその理由を説明出来なければ相当印象が悪くなるらしい。

 いつものようにアレスト興業舎の舎長室に幹部が集まって、俺の王都訪問対策の真っ最中である。

 みんな忙しいのに、そんなことにかまけていていいのか?

 いいらしい。

「マコトさんの場合は、現時点では特にトラブルに巻き込まれているわけでもないので、遅くとも一月以内には着いた方がいいでしょうね。

 ちなみに、アレスト市から王都までは乗合馬車で1週間ほどかかります」

 そんなにかかるのか。

 まあ、現代日本と違って新幹線や高速道路があるわけではなし、それどころか道路が舗装してあるかどうかも怪しい(というより、間違いなくされてない)んだから、それでも早い方なのかもしれないな。

 馬車にしても、その条件では一日に50キロ程度しか進めないだろう。

 ということは、アレスト市から王都までは道なりで約350キロ、東京から名古屋というところか。

 ソラージュ王国、案外狭いんだ。

 でもこれは、俺が21世紀の地球の人間だからそう思うだけのことだ。

 江戸時代だったら、江戸に住んでいる人は箱根を越えることすら大変で、あの辺には妖怪が出るから近寄るなと言われていたそうだし。

「そういえば、王都への交通手段って乗合馬車だけですか」

「自力で馬車を仕立てたり、急いでいる時は馬を使ったりする人もいますが、大抵の人は乗合馬車を使うか、歩きですね。

 お金の有る無しよりは、急いでいるかどうかで決まります」

 ちなみに馬車に乗る余裕がないような人は、そもそも旅行なんかしないそうだ。

 こっちの人は、江戸時代の人がそうだったように、歩くことを苦にしない。

 道があまり良くないので、馬車に乗るにしてもかなり疲れるし、時間的にも徒歩とそんなに違わないからだ。

 どうせ疲れて所要時間も変わらないなら、歩いた方がお金もかからなくていいということらしい。

 ちなみに、俺が今まで馬車に乗ってあまり疲れたことがないのは、ギルドとか司法官とかの専用馬車だったからだと言われた。

 つまり、高価でショックアブゾーバー的な仕組みがついているからなんだと。

 長距離用の乗合馬車にはそんなものはついてないので、かなり苦労するぞと脅された。

 そういえば、転移してきて始めてアレスト市のマルト商会に行った時は、マルト商会の荷物用馬車に乗せて貰ったけど、確かに乗り心地は最悪だった気がする。

 あの時は転移のショックで気分的にどん底だったせいであまり気にはならなかったけど、今の状態でそんな馬車に乗ったら嫌になるだろうな。

 ユマ閣下が説明してくれた。

「マコトさんは近衛騎士なのですから、本来なら身分から言っても馬で行く所です。

 何らかの理由でそれが出来ない場合は、少し豪華な馬車を仕立てるべきでしょうね。

 新任の近衛騎士が、一般人に混じって乗合馬車で王都に来た、というのはあまり外聞がよくありませんから」

 ああ、なるほど。

 面子って奴ね。

 うちの会社でも、海外に出張する場合なんかは課長クラス以上ならビジネスクラスを使うことになっていたな。

 そうしないと、相手に舐められるとか、相手を軽んじていることになるかららしい。

 ビジネスクラスも使えないような会社なのか、あるいはその程度の社員を送ってくるのか、という理由のようだけど、正直俺にはよく判らん。

 でも、上の方では色々あるんだろう。

「では、私も馬車を雇うことになるのでしょうか」

 いくらかかるんだろう。

 金に余裕がないわけじゃないけど、最初からあまり散財したくないなあ。

「それについては、アレスト興業舎が全面的にバックアップいたします」

 ラナエ嬢が言った。

「当舎の役員が、業務で王都に出張するわけですから、専用馬車を用意させて頂きます。

 もちろん、お代は不要ですわ」

 やけに気前がいいな。

 何か裏があるのか?

「いや、アレスト興業舎でも何台か馬車を購入しただろう」

 シルさんが補足してくれた。

「ラナエが気張って典礼用の高価な奴も一台入れたんだが、今のところ使い道がなくて困っていたんだ。

 それに、私たちはマコトのバックアップをすると言ったはずだ。

 一人で王都に行かせるはずがないだろう?」

 それはありがたい。

 そんな行ったこともない場所に一人でいかされたら、俺はどうなることか。

 初めてのお使いなんだから、誰かに見守っていて貰いたい。

「マコトさんの随行員としては、兼任ですが数人を考えています。

 後は護衛として一チームというところでしょうか」

「それは大げさなのでは」

「とんでもありません。

 近衛騎士としては最小限です。

 マコトさん、まだ判ってないみたいですが、あなたは貴族なんですよ」

 そうか。

 俺って貴族だったのか。

 ホントに判ってなかったみたいだな。

 ラノベでは、結構高位の貴族が一人でフラフラ彷徨き回っていることが多いけど、実際にはそんなことは許されるはずがない。

 地球にしたって、似たようなものだろう。

 ちょっと極端だけど、日本の天皇陛下だって動く時は供回りが十人単位でいるものな。

 護衛や警備に動員される人たちは、多分桁が2つくらい違うだろうし。

 貴族としては最低の爵位である近衛騎士にしても、お付きの人くらいはいて同然ということか。

 で、そのお付きの人って誰?

「それは後のお楽しみということで」

 楽しみじゃないよ!

 まあいい。

 とりあえず、乗合馬車に乗らなくて済むだけでも十分だ。

「マコトはあまり気にするな。

 随行とは言っても、マコトにつきまとうわけじゃない。

 実は、アレスト興業舎でも王都に出張所を造ることになってな」

 シルさん、今度は何ですか?

「当舎が発展していけば、どうしても王都を無視できなくなりますから。

 そもそも、当舎の事業はアレスト市を含む辺境地域だけで治まるものではありません。

 まだ時間はかかりますが、いずれは王都を含む中央に出て行かなければならないでしょう。

 情報収集や地固めのために、王都に拠点を構築することになったわけです」

 ラナエ嬢、それいつ決まったの。

 もう俺、完全に蚊帳の外だよね。

 舎長代理とか言われていい気になっていたのが馬鹿みたいだ。

 シルさんが、俺の顔を見て慌てて言った。

「誤解するなよ。

 マコトを軽んじているわけじゃない。

 そういう些事は私たちに任せておけということだ」

 そうですか。

 俺は何をすればいいんでしょうね。

 いや、何をしてもいいのか。

 だけど何もしなくてもいい、というわけではなさそうだな。

「繰り返しますが、マコトさんにやって頂きたいことは色々あります。

 ご身分から言っても、今のマコトさんはかなり有効なコマ……人材なのですから、放り出してそのままということはありませんよ」

 今、コマって言ったよね?

 ユマ閣下にとってはそうなんだろうけど、面と向かって言われたらさすがに来るものがあるぞ。

 いいよ。

 判ったから。

 俺は俺で、好きなようにしてやる。

 王都観光、上等じゃないか。

 考えてみたら、俺ってまだアレスト市しか知らないんだよね。

 帝国との国境とかに行ったけど、あれは山の中だったし。

 これって、日本に観光に来たガイジンが、日本海沿いの辺鄙な街しか知らないのと同じなんじゃないの?

 そろそろ俺も東京に行って、アキバとかスカイツリーとかを見ても良い頃ということだよね。

 旅費はアレスト興業舎が出してくれるらしいし。

 困ったらアレスト市に逃げ帰ってくればいいか。

「マコト、王都に行く目的を忘れるなよ」

 忘れたいのに!

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