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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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20.決着?

 俺は、その場で突っ立ったまま目を閉じた。

 瞑想というほどのことじゃないけど、こっちに転移して来てから今までの事を思い浮かべる。

 巨大トカゲの喉切り死体とか。

 いきなり宿無しで無職だぞ。

 突然の就活は辛かったなあ。

 冒険者になんて、なりたくなかった。

 体力不足でぶっ倒れたり、フクロオオカミに跨って山登りとか、何の罰ゲームだよ。

 そもそも。

 何で、俺がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!

「用意は出来た。

 いつでもいいぞ」

 俺が言うと、前に出てきている警備隊の誰かがオストの方を向いて確認し、叫んだ。

「では、始め!」

 その瞬間、俺は全力で駆けだした。

 真っ直ぐにオストに向かう。

 オストは、一瞬驚いたようだがすぐに腰を落として両手を広げた。

 組み合うつもりだな。

 俺は、何も考えずに加速する。

 これまで毎朝、ジョギングしながらスパートの練習をやってきた成果がここに。

 みるみるオストが迫ってきて、俺は警棒を両手で握りしめ、振り上げて叫んだ。

「ズゥウォウリャァァアーーッ!」

 いきなり転移させられて、散々苦労させられた憤り。

 今まで溜め込んだ黒い感情を、警棒に全部載せてやる。

 自分でもどうなっているのか判らないくらいの恨み辛みを込めて、俺は警棒を振り下ろす。

 ていうか、そうしたような気がする。

 もう一人の俺は、俺よりメチャクチャに怒っていたみたいだな。

 目の前が一瞬、真っ暗になったくらいで。

 警棒が何かに当たって跳ね上がるのを感じながら、俺は足を止めずに駆け抜けた。

 オストにぶち当たる寸前に、ちょっと進路をずらしたからね。

 毎日練習しておいて良かった。

 示現流の訓練方法なんかもちろん知らないけど、例えば木に向かって行く場合、真正面から突進したらぶつかるしかないわけだ。

 だから、すれ違う瞬間に左右どっちかに避ける必要がある。

 その訓練もやっていたんだけど、うまくいったらしい。

 手から飛んでいこうとする警棒を抑えながら、俺は足を緩めて停止した。

 かなり通り過ぎてきているな。

 10メートルくらいは離れてしまったみたいだ。

 警備隊の連中が、ほとんど俺の目の前にいる。

 みんな、ぽかんと俺を見ているんだけど、どうかしたのか?

「マコトの兄貴!」

「舎長代理!」

「ヤジママコト近衛騎士!」

 後ろの方で、歓声が上がっていた。

 振り向くと、まず躍り上がって喜ぶアレスト興業舎の連中が見えた。

 フクロオオカミなんか、後ろ足で立ち上がっているぞ。

 そいつらが口々に叫んでいる。

「勝った!」

「凄い!」

「マコトの兄貴、強い!」

 そこで、やっと気がついた。

 オストが倒れていて、警備隊の人たちが駆け寄るところだった。

 オストは肩を押さえて丸まっているようだ。

 やったのか?

 凄いぞ示現流。

 俺は、今になって正気に戻った気分で警棒を手にしたまま、ゆっくりと歩き出した。

 いや、後ろの警備隊の連中が襲いかかってきやしないかとびくびくものだったんだよね。

 何せ、連中の隊長をぶちのめしてしまったわけだし。

 でも、誰も何も言わなかったし、襲ってくることもなかった。

 助かったぜ。

 オストのそばを通り過ぎると、奴はあいかわらず肩を押さえたまま動けないみたいだった。

 鎖骨でもやったか?

 悪い事したけど、俺だって必死だったんだぜ。

 下手すると職を失うかもしれなかったんだし。

 後がないんだよ。

 キレたサラリーマンを舐めるな!

 警備隊の人たちが、オストを担架みたいなものに載せようとしていたが、俺はかまわずに歩き続けた。

 足がガクガクだ。

 反動が来ているな。

 突然のスタートダッシュは、やっばり体力的に無理があったみたいだ。

 明日は筋肉痛かなあ。

 まあいい。

 今日はもう、帰って休もう。

 いや違うか。

 これからどうすればいいんだっけ?

 ユマ閣下のシナリオは、全部パーになっちゃったし、それ以前に俺の頭の中も空白だ。

 普段の生活で、考えることを人任せにしているとこうなるのか。

 アレスト興業舎の隊列の前まで戻ると、一番前にいたフォムさんがビシッと敬礼してくれた。

 ギルド警備隊の敬礼は、映画で見たアメリカ陸軍などのものに近い。

 マッチョがやると、凄く様になるんだよね。

「ご苦労様でした!」

「うん。

 お返しします。

 助かりました」

 握りしめていた警棒をフォムさんに渡す。

 フォムさんは、押し頂くように受け取った。

 何か勘違いしているみたいだな。

 不意打ちの卑怯な手で、おそらくはこっちを押さえ込もうとした相手をすれ違い様にブッ叩いただけなんだけどね。

 ふと見ると、みんな動いていない。

 フクロオオカミも伏せの姿勢に戻っている。

 ああ、そうか。

「待機止めていいよ」

 その途端、みんなが歓声を上げて駆け寄ってきた。

「感激です!」

「舎長代理があんなに強いなんて、知りませんでした」

「マコトの兄貴!」

 ああ、判ったから。

 俺、倒れそうだからほどほどにね。

 適当にいなしていると、隣に立っているフォムさんが不意に身体を硬くしたのが判った。

 振り向く。

 警備隊の人が立っていた。

 歳の頃は中年にさしかかりというところだが、物腰がゆったりしているので老けて見えているのかもしれない。

 いや、何というか表情と姿を見ただけで、いい人だと判ってしまう。

 オストほどじゃないけど、装飾がついた制服を着ている。

 結構偉い人だな。

「ギルド警備隊第一中隊長、セア・ソロア大尉です。

 警備隊とアレスト興業舎警備班の合同訓練を開始してもよろしいでしょうか」

 え?

 普通だ。

 たった今、俺が隊長を叩きのめしたことは無かったことになっているのか?

 見ると、オストが倒れていた辺りにはもう、誰もいなかった。

 警備隊を見ると、平然と整列していた。

 あれって、オストの暴走だった?

 まあいいや。

 ユマ閣下のシナリオに戻れるのなら、それに越したことはないしな。

「了解しました。

 警備班長フォム・リヒト中尉、よろしくお願いします」

「は!

 フォム・リヒト中尉、アレスト興業舎警備班の指揮を執ります!」

 それを確認してから、後ろのフクロオオカミたちにも声をかける。

「これからは、フォム班長の命令に従え!」

「判りました! マコトの兄貴!」

 これでいいだろう。

 俺はセア大尉に「後はよろしくお願いします」と言ってそこを離れた。

 足と手が震えているのに気づかれたくないからな。

 幸い、ホトウさんたちがすぐに俺を囲んでくれた。

「マコト、大丈夫?」

 人に聞こえないように、ホトウさんが聞いてくる。

 この人は、俺の実力を知っているからね。

「何とか。

 でも、気を抜くと座り込みそうです。

 今日はここで引き上げたいんですが、出来ますか?」

 ホトウさんは一瞬考えてから、にこっと笑ってくれた。

 いや、目がゴ○ゴだから、ちょっと怖いけど。

「少し待ってて」

 ホトウさんが囁くと、セスさんが駆けだして行く。

 すぐに戻ってきてホトウさんに囁くと、ホトウさんが声を上げた。

「スラウさん!」

 すぐに警備班のスラウさんが抜け出してきた。

「何でしょうか」

「司法官が、急な用件で舎長代理を呼んでいるそうです。

 ここは任せて良いでしょうか」

「了解しました。

 お気をつけて」

 あっけないもんだな。

 ホトウさんは、表情を変えずに言った。

「マコト、今言ったことは本当だよ。

 司法官の馬車が広場の外れで待っているから、そこまで歩ける?」

 俺の状態がバレているなあ。

「出来ます」

「後ろにいるから、安心して」

 俺はぎくしゃくと歩き出す。

 正直、膝が崩れそうだった。

 今頃になって、生まれて初めて本気で奮った暴力の反動が来ているらしい。

 それでも歩いているうちに、膝や腰が安定してきた。

 脱力は戻らないけど。

 ふと気づくと、広場の民衆が左右に分かれている。

 俺の通り道を開けてくれているようだ。

 その向こうに、あの司法官の馬車が見える。

 本当に馬車を回してくれたのか。

 あと少し頑張れば、あの馬車で横になれるか。

 そう思って足に力を込めた途端、いきなり周り中から歓声が上がった。

 何だ?

 近衛騎士とか、アレスト興業舎とかの言葉が切れ切れに聞こえるけど、あまりにも五月蠅くてよく判らん。

「マコト、手を振ってあげて」

 ホトウさんが言うので、反射的に手を上げて振ったら、歓声がさらに高まった。

「何なんです?」

「マコトの勝利を祝っているんじゃないかな。

 あのオストって人、どうも嫌われ者だったらしいから」

 そうなの?

 困るなあ。

 勘違いはもう、いいかげんにして欲しいよ。

 ラノベじゃないんだし。

 厨二がクセになりそう。

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