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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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15.順調?

 ハスィー様は、とてもそんな気になれないとおっしゃって帰ってしまわれたので、代わりにラナエ嬢にテープカットをやって貰って、アレストサーカス団は開団した。

 人が後から後から門に吸い込まれていく。

 俺はもちろん、アレスト興業舎の方に避難して、書類にサインなどしていた。

 管理職は現場には出ないのだ。

 いや、俺の会社だと課長になってもプレイングマネージャとか言われて働かされていたけどね。

 実際、シルさんやロッドさんたちは駆け回っているみたいだし。

 でも俺は経営者だから、そんなことはやらなくていいのだ。

 経営者の仕事は、責任を取ることだ。

 責任を取るような事故が起きるまでは、だから用なしとも言える。

 何かあったら責任とって辞めればいいわけで。

 そういえば、前にテレビとか見ていて、担当部署のミスで凄まじい被害を出したり、失言で国が面目を失ったりしたような企業経営者や政治家が、ただ辞めるだけで責任とったことになってしまうことが疑問だったんだけどね。

 てめえの進退くらいで、この被害がどうにかなるのかって。

 でも、実際にはそれしかないんだよな。

 だって、起こってしまったことはもうどうしようもない。

 責任の取りようがないわけだ。

 だからトップが辞めるという事は、責任を取るというよりはむしろ、ケジメをつけるといった方がいいかもしれない。

 そこで手打ちにしましょう、というわけだ。

 トップの辞任なんか付け足しだよね。

 でかい組織のトップの席って居心地が良すぎるというか、権力や財力がついてくるから、それを失うのってその人にとっては大変なことなのかもしれない。

 俺は何とも思わないけどね。

 そもそもなんで俺がアレスト興業舎舎長代理なんていう立場にいるのかよく判らないし。

 柄じゃないことは見え見えだ。

 ラナエ嬢とか、シルさんとか、もっとふさわしい人がいくらでもいるんだけどなあ。

 だから、多分俺は万一の場合のトカゲのシッポなのだ。

 そう思えば、過分な給料を頂いてぼやっとしている今の立場も過ごしやすくなるというわけで。

 サインは面倒だけど。

「あ、マコトさん。ここにいましたか」

 ジェイルくんがやってきた。

 何か面倒事が?

「いえ、サーカスは順調です。

 フクロオオカミが大人気で、握手するための列が伸びています」

「そうだろうなあ。

 フクロオオカミが疲れないように気をつけないと」

「30分交代でローテーションしてますから大丈夫だと思います。

 本人たちも、楽しんでいるようですし」

 でも、今はいいけどこれが毎日続くと気に病む人【フクロオオカミ】が出そうだな。

 握手会は、もっと考えた方がいいかもしれない。

「それにしても、フクロオオカミと握手するだけのために人が並ぶとは思ってもみませんでした。

 マコトさん、どこからあんなことを思いつくんですか?」

 それはもちろんA○Bだよ(笑)。

 言えないけどね。

「ということは、今のところ問題は起きていないということですね」

「はい。

 ただ、そろそろお昼なので、食事が心配です。

 こちらで用意した分では足りなくなるのではないかと」

「ケータリング業者の人に、弁当を用意して貰ったんだっけ?」

「そうですが、予想より遙かにたくさんのお客さんが来ているんですよ。

 皆さん、帰りそうにないですし」

「自分で弁当を持ってきている人はいるのかな」

「あまりいないと思います。

 こういう時は、外で食べたいでしょうし。

 大体、まだ時間的にすべてのブースを回っていないはずですから、意地でも全部観ていくつもりの人が多いのではないかと」

 出し物は合計で十ほど用意したけど、一度に観られる人数が少ないんだよね。

 フクロオオカミの言葉は魔素翻訳範囲内でしか聞こえないし、その範囲は割合に狭いから。

 こっちとしては、客が一度に全部観ておしまいじゃなくて、何度もリピートして貰いたいと考えているんだけどなあ。

 客にしてみれば、何度も金を払うよりは無理してでもクリアしておきたい所だろうな。

「とりあえず飯については、舎員食堂の奴を回そう。

 ラナエさんに言って、用意して貰って下さい。

 それでも足りなかったら、こっちで買い出しとかした方がいいかもしれないな」

「了解しました。

 お客様には出来るだけ食事を供給するということでよろしいですね?」

「お願いします」

 ジェイルくんは、ひとつ頷いて出て行った。

 あれはもう、対策を考えているな。

 俺の指示というか命令を仰ぎに来ただけだろう。

 専門用語で言質を取るという。

 そうすれば俺の責任になるからね。

 俺なんかが付け焼き刃で考えることくらい、とっくに準備しているに決まっている。

 有能な部下がいると、経営者は楽でいいなあ。

 昼過ぎになっても誰も来なかったので、俺は舎長室を出てみた。

 いつもは舎員食堂があるスペースが、がらんとしている。

 長机を含めてサーカスの方に出張中らしい。

 てことは、俺の飯もないわけか。

 困った。

 ハスィー様がおられない以上、俺はアレスト興業舎を離れるわけにはいかないんだよね。

 つまり、飯を食いに行けないことになる。

 それが責任者というものだ。

 我慢するしかないか。

 そう思って舎長室に引き返して座っていると、ソラルちゃんが来た。

「マコトさん。遅くなりました。

 お食事持ってきました」

「ありがとう!」

 空腹に秘書、地獄に仏だな。

 ソラルちゃんが手にしているのは、ケータリング業者が用意した弁当だった。

 サンドイッチもどきで、フルーツとかもついていて、かなり割高だ。

 いや、ディズニー○ンドとかに比べたら良心的な価格だよ?

「よく手に入ったね。

 足りないんじゃなかったの?」

「予め、スタッフの分は取り分けておいたんです。

 絶対不足すると思ったので。

 舎員食堂のご飯も動員するつもりで、具材をいつもより多く仕入れていましたけど、それでも不安でしたから」

 なんだ、もうとっくに対応済みか。

 それでも、人混みは予想を上回ったんだろうな。

 今度から、保存が利く食材とか乾き物とかを常備しておいた方がいいかもしれない。

「お茶を沸かす暇がないので水ですが、これもどうぞ」

「助かるよ」

 ソラルちゃんは、自分の分も持ってきていた。

 実に気が利くというか、秘書として万全だな。

 でも、サーカスを手伝わなくていいの?

「大丈夫です。

 最初は混乱したんですが、今はお客様も慣れてきて、フクロオオカミに驚いてパニックになるような人もいなくなりましたし。

 あと2時間くらいたったらご案内係のスタッフと交代しなければならないんですが、それまでは暇です」

「休み時間なのに、すまないね」

「いえ。私はマコトさんの秘書ですから、これでも優遇されているんですよ。

 時々抜けてもマコトさんのご用だと思われて文句を言われませんし」

 結構ちゃっかりしているようだ。

 でも、この程度の立ち回りができないと秘書なんか無理なんだろうな。

 まあ、ソラルちゃんが日本で言う「秘書」かどうかは別にしてだけど。

 何てったって、仕える対象である俺の仕事ってほとんどないからね。

 スケジュールだってスカスカだ。

 だから、いつ俺に聞かれてもいいように、情報を仕入れておくだけでいいとも言える。

 それだけだって大したものなんだけど。

 俺とソラルちゃんは、ソファーで向かい合って昼飯を食べながら雑談に興じた。

 いや、むしろソラルちゃんからの現場報告?

「サーカスは、うまく回っている?」

「はい。やはりフクロオオカミが注目の的です。

 特に握手会は大人気で、何度も並ぶ人が出ています。

 凄いアイデアですね」

 著作権というか実用新案というか、大丈夫だよね?

 日本には知られないよね?

「その他には?」

「やっぱり『傾国姫』の劇が人気です。

 最初は1時間おきだったんですが、今は30分おきでやっています」

「それは、役者さんたちが大変だろう」

「シルさんが『こんなこともあろうかと思ってダブルキャストにしておいて良かった』と言ってました。

 でも、今はトリプルキャストにした方がいいか悩んでいます」

 やっぱりか。

 まあ、あれは観る価値はあると思うよ。

 ハスィー様には悪いけど、そこに魚がいると判っているのに釣り糸を垂らさないわけにはいかない。

 もっとも、慣れてきたら混雑もだんだん落ち着いてくるとは思うんだけどね。

 そのうち、違った劇もいくつか作ってローテーションで上演するべきだろうな。

「そういえば、軽業はどうだった?」

「人間だけのものはあんまり。

 でも、フクロオオカミが絡むと人気ですよ。

 それに、ツォルくんの一人寸劇がウケています」

 何だそれ?

 ツォルの奴、すでに役者として独り立ちしたというのか?

「凄く面白いんですけれど、あれってツォルくんの日常なんですよね。

 あれが芸になるって思いついたジェイルさんも凄いと思いますけれど」

 訂正。

 単なる天然ボケの一人芝居だったようだ。

「まあ、概ね順調というところではないでしょうか」

 ソラルちゃんは、食べ終わると少し休憩してくると言って去っていった。

 俺もどっかで寝てこようかな。

 いや、このソファーで一度寝てみたいと思っていたんだよね。

 迷っていたら、アレナさんが入ってきた。

「あ、いた。

 マコトさん、決裁書にサインお願いします」

 鬼が!

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