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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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11.陰謀?

「理由をお聞きしても?」

 まあ社交辞令だけどね。

 話があると言ってきたのはフォムさんだし。

「はい。

 まず、私はもう警備隊ではあまり昇進できないということがあります。

 アレスト興業舎に出向した時点で、それはほぼ決定していたことなのですが」

 ああ、本社にいないと駄目ということか。

 いや、むしろ役所の人事制度かな。

 俺の仕事の一つに、とある市役所の外郭団体というか、第三セクターにシステムを導入するというものがあったんだけど、そこで職員の人に教えて貰ったことがある。

 そういう団体には、その団体が採用した職員の他に、市役所の正規職員が出向してくることがあるのだそうだ。

 出向と言っても期間が決まっているというわけではなく、まあ市役所の本体からはじき出されて流れ着いたというか。

 そして、一度来てしまったら定年までもう、戻れない。

 大抵の場合、50過ぎたりしてもう先が見えたりしている人が来るのだが、何か失敗したとか偉い人に目をつけられたとかで、若い頃に飛ばされてくる人もいる。

 そういう人は、定年までそういう団体や、役所の支所・出張所なんかを転々としながら過ごすらしい。

 隠語でそれを「衛星」と呼ぶと教えて貰った。惑星(本庁)の周りをいつまでたっても回り続けて、決して本庁には行き着かないからだそうだ。

 本当かどうかは知らないよ?

 でも、例えば中央官庁や県庁なんかでも、入庁して出世していくと、ポストがどんどん少なくなってくるので、だんだんと外に出されたり退職したりすると聞いたことがある。

 当然だけど、上に行くほど役職は少ないからね。しかも、役所も最近は年取ってからも下っ端でいい、ということではないらしい。

 役所の職員は、長くいればいるほど給料が上がるので、下っ端でそういう人は嫌われるのだそうだ。

 だから出て行けと。

 世知辛いなあ。

 役所に就職するのは止めよう。

 そう思っていたんだけどね。

 今はギルドの臨時職員だったりして。

 いや、話が逸れたけど、つまりフォムさんは若くして警備隊の本流から「はじき出された」わけか。

「そうですか」

「まあ、それは最初から判っていたことで、今更というわけではありません。

 もともと警備隊では孤立しがちで、居場所がなかったものですから」

 フォムさんでもそうなのか。

 マッチョな割に、この人って結構気配りが効いて有能なんだよね。

 臨機応変に動けるし、伝統にとらわれずに考えることもできる。

 でもそれは同時に、仕事を自分の思い通りにやったり慣例を無視したりするということでもあるから、そういう性格が警備隊という保守的な組織には合わなかったのかもしれないな。

 フォムさんって、シルさんやユマさんの評価が凄く高いんだよ。

 でもああいう人たちに評価されるってことは、保守的な人にはウケが悪いということなんだろう。

 ギルドや警備隊なんて、ガチガチの役所だから年功序列的な風習が当然だし。

「念のために言っておきますが、私はアレスト興業舎における仕事には何の文句もありません。

 それどころか、この仕事に巡り会った幸運を噛みしめているほどです。

 アレスト興業舎への出向は私にとってラッキー以外の何物でもないわけです。

 ですから、警備隊を辞職してこちらに来たいと」

 つまり、フォムさんもアレスト興業舎の正規の舎員になりたいということですか。

 いいんじゃないでしょうか。

 ロッドさんと違って、引き留められているわけでもないみたいだし。

 言葉を選びながらそういうことを言うと、フォムさんはちょっと俯いて言った。

「ただ、心配なのは私が警備隊を辞めてしまうと、警備隊からの圧力がさらに高まると言うことです。

 これまで以上に、無理なことを要求してくるようになるでしょう」

「要求、ですか?」

「はい。これはシル事業部長やラナエ事務部長にも報告済みなのですが、フクロオオカミの運用について、警備隊から希望、というよりは要求が最近エスカレートしてきています」

「そんなことが」

「現実を無視、といったら言い過ぎですが、少なくとも現場の我々から見て常軌を逸しているとしか思えない運用を行おうと考えているようです」

「例えば?」

「市中のパトロールにフクロオオカミ分遣隊を同行させるとか、犯罪者の制圧にフクロオオカミを使うとかです」

「馬鹿な!」

 そんなことになっていたのか!

 それを、フォムさんが食い止めていたということか。

「そんなに大したことはしていません。というよりは出来ません。

 ただ、ヤジママコト舎長代理のおっしゃる『フクロオオカミを人間の諍いに巻き込まない』という方針を貫いているだけです」

 まだヤジママコトか。

 堅いな。

「それは、ありがとうございます」

 俺の方針というよりは、フクロオオカミとの雇用契約の条件なんだけどな。

 もちろん俺の考えも同じだ。

 騎士団の時も、それでユマ閣下とやりあったくらいだ。

 野生動物たちを人間の都合に巻き込むわけにはいかない。

 いずれはそうなるにしても、始まったばかりの今は駄目だ。

 下手すると、交渉が決裂するどころか「人間VS野生動物」の戦争にまで至ってしまうかもしれないからだ。

 まずは、フクロオオカミや他の野生動物を人間の社会に自然に馴染ませることだ。

「私も全面的に賛成です。

 フクロオオカミたちは、権勢欲や物欲がほとんどない分、何らかの誘惑にのるという心配はあまりありません。

 しかし、人間関係に疎いことから容易に利用されやすいと思われます。

 人間社会における立場を確立する前に変なイメージがついてしまうと、後々まで禍根を残しかねません」

 うん。

 フォムさん、いい人だな。

 魔素翻訳って、露骨に本心が伝わってくるから凄いんだよね。

 詐欺師はひどくやりにくいだろうなあ。

「判りました。

 でも、今フォムさんがこの話をするということは、何らかの事態が進行中ということですか?」

「その通りです。

 今回の領主代行官の呼び出し、あれがトリガーと言ってもいいでしょう。

 あの話し合いにより、ヤジママコト舎長代理が警備隊の名誉隊長の位階を得ることで、警備隊はアレスト興業舎の舎員を部下として使うことができるようになります」

「はい」

「次の手として、おそらく警備隊はフクロオオカミの市街地パトロール隊への同行を求めてくるはずです。

 それは方法論としては正しいですが、あまりにも時期尚早です。

 しかも指揮権は警備隊が持つわけで、これを放置していたら大変なことに」

「判っています」

 俺は、あえてフォムさんの言葉を遮った。

 フォムさん、興奮して声が高くなり始めていたからね。

 店内には他のお客さんも増えてきたし、誰が効いているか判らない以上はここで言うべきことじゃないから。

「それは、既にご承知だという意味でしょうか」

「はい。

 と言っても、私ではありません。

 ラナエ部長とシル部長が、対応策を練っています。今回の領主代行官の要求に応えたのも、その一環です」

 実際のシナリオは、ユマ閣下が書いているんだけどね。

 ホントに恐ろしい人だよ、あのお姫様は。

 ラナエ嬢から聞いたところによると、学校時代のユマ閣下は『略術の戦将』と呼ばれていたそうだ。

 戦略と戦術の両方に熟達した参謀ということで、用意周到・臨機応変の常勝将軍だったとか。

 机上演習なんかでも、ユマ閣下を味方に出来れば残りの全員が敵に回っても勝てると言われていたらしい。

 ちなみに、なぜ将軍なのかというと、自分から王様とか支配者にはなりたがらないということで、いつも誰かの下で能力を発揮しようとするタイプだからという。

 自分がトップになってしまうと、途端にやる気を失って、負けないけど勝てない戦ばかりするようになると。

 ヤン・ウェ○リーみたいなもんか。

 俺は、それも多分ユマ閣下の策略ではないかと思っているけどね。

 自分が表に立つのが嫌なんじゃないかな。

 めんどくさいとか。

「そうですか」

 フォムさんは、目に見えてほっとした表情を見せた。

 結構思い詰めていたのかもしれないな。

 悪い事したかも。

 シルさんやラナエ嬢に報告しても、動きがなかったどころか、俺が代官の言いなりになってしまったように見えたんだもんね。

 でも、大丈夫!

 シルさんとラナエ嬢、そしてユマ閣下に抜かりがあるはずがない!

 俺?

 何か関係がある?

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