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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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9.名誉隊長就任?

 任命式は、それから2日後だった。

 代官側も急いでいるらしい。

 こちらとしても異存はないので、俺はいつもの通りシルさんとラナエ嬢、それにフォムさんを伴って警備隊本部に出かけた。

 ラナエ嬢は、アレスト興業舎側の証人というよりは貴族出身のご令嬢としての立会である。

 シルさんは、帝国皇女の立場をあまり吹聴したくないので、アレスト工業舎の事業部長としての参加だ。

 貴族はラナエ嬢だけで十分らしい。

 ちなみに、最初の時にシルさんやラナエ嬢の正体が代官にバレてなかったのは、ユマ閣下が司法官として情報操作をしていたからだったようだ。

 あとはギルド側、というよりはハスィー様が隠蔽していたとか。

 代官は警備隊の指揮権を持っているはずなのだが、警備隊は調査機関ではないので、そういった情報には疎いのだ。

 情報があっても代官は報告されない限り判らないわけで、これはなかなか致命的な弱点と言えるかもしれない。

 普通なら、司法官と代官は協力しあうはずなんだけどね。

 司法官側がユマ閣下だから。

 実際の所、トニさんは代官としては有能かもしれないけど、公爵家の名代とガチでやり合えるほどの器ではないということかもしれない。

 もっとも、仕方がないとも言える。

 代官は施政の専門家であって、調査や情報収集能力があるわけではないからだ。

 その点、司法官はそっちの専門家と言えるからね。いや、個人の能力というよりは寄って立つ組織の性質として。

 マジでユマ閣下の敵に回らなくて良かったよ。

 ユマ閣下に限らず、俺は誰も敵に回したくない。そのために色々と頑張っているつもりなんだから。

 安全第一、無病息災。

 それが俺のモットーなのだ。

 任命式は、近衛騎士の奴より簡単なくらいだった。

 警備隊の偉い人たちが後ろに数人並んでいて、代官が紙に書かれた言葉を読み上げ、俺がその紙を受け取るだけだ。

 それでいいらしい。

 もちろんそれだけじゃなくて、別の立派な紙に立ち会った人たちと代官、そして俺がサインする。

 証人の前で俺がギルド警備隊の名誉隊長に任命されたことが、それで証明されるそうだ。

 ちなみに紙は2枚あって、ギルドと領主代行官事務所の両方で保存される。

 俺には、ギルド職員証と同じような小さな板が渡された。

 これが階級章で、やはり色々と凝った彫金がされていた。

「警備隊の名誉隊長は、長年功労があった警備隊の退職者や、外部要員でありながら警備隊に多大な貢献をした人に授与される名誉の印です。

 階級としては高いですが、実際には配下につく者がいないので、有名無実な役職と言えます。仮に命令しても、誰も従わないでしょう。

 せいぜい、警備隊本部の廊下を歩いていると大抵の者が敬礼してくれる、といった効力しかありませんね」

 俺が渡された階級章を見ていると、ラナエ嬢が説明してくれた。

 つまり、地球でいうと勲章みたいなものかな。

 パーティとかに行くとき、これを着けていると箔が付くという程度か。

 ちなみに無給だそうである。

 当たり前か。

「それでも警備隊の正規の階級なんですよね?」

「そうですね。

 ただそれはアレスト市ギルド警備隊の階級なので、他の領地の警備隊では通用しません。

 まあ、敬意は払って貰えるでしょうけれど」

 だから、代官はあっさり寄こしたわけだ。

 警備隊の階級を持っていても、警備隊では俺なんか員数外にして指揮系統(ライン)から外しているわけで、実質的に何の意味もないからな。

 金もかからないし。

 それでいて、俺が警備隊の位階を持つことで、俺の配下にあるアレスト興業舎の舎員たちを警備隊の予備隊員と見なすことが出来る。

 まあ、それが代官側の思惑なんだけどね。

 その代官が近づいてきて、にこやかに言った。

「おめでとうございます、ヤジママコト名誉隊長」

「ありがとうございます。

 これで、私がアレスト興業舎の警備班に警備隊との合同勤務を命令すればいいわけですね」

「そうなりますな。

 まあ、実際の指揮は警備隊が執りますから、ヤジママコト名誉隊長の手を患わすことはないでしょう」

「わかりました」

 俺が引っ込むと、ラナエ嬢が進み出た。

「アレスト興業舎の警備班がギルド警備隊に協力するに当たって、条件を決めさせていただきたいのですが」

「条件、ですか? 必要でしょうか」

「はい。アレスト興業舎で雇用している者の雇用条件を、警備隊とすり合わせておきたいのです。

 その条件を双方が承認することで、契約の締結ができます」

 トニさんは苦い顔になった。

 この人、政治家にしては感情が顔に出すぎという気がするんだけど。

 それとも演技か?

「それは警備隊とアレスト興業舎の問題では?」

「警備隊は、領主代行官の指揮下にあるのですから、領主代行官にもその条件を承認していただく必要があります。

 でなければ、こちらの雇用条件に外れた命令を下されるかもしれませんので」

 トニさん、益々渋い顔。

 だが、不意に平静に戻るとにこやかに言った。

「もちろんです。

 では、どこか落ち着いた所で条件を詰めましょう」

「ではこちらへ」

 ラナエ嬢と代官は、シルさんを伴って去っていった。

 後は任せておいて大丈夫、というよりはもう俺の出番はないな。

 ふと気づくと、部屋から警備隊の偉い人たちが消えていた。

 あの人たちも、俺なんかの訳の判らない任命式に立ち会わされて、あまりいい気分ではなかっただろうしな。

 代官が無理言ったせいで、つまらないことで時間を取られたとか思っているんだろう。

 実際にもそうだし。

 帰ってしまおうかと思っていたら、声がかかった。

「ヤジママコト名誉隊長」

「フォムさん」

「フォム中尉です」

 フォムさんが敬礼して言った。

 フォムさんって、ゴツいイケメンというか、マッチョな人なんだよね。

 外見は肉体派に見えるけど、実際には深慮遠謀なタイプだとユマ閣下が言っていた。

 ユマ閣下が言うんだから、本当なんだろう。

 こないだの代官攻略クエストでも、見事な回避を見せてくれたし。

「フォムさんは中尉だったんですか」

 意外に階級、高かったんだな。

 俺に中尉と聞こえるということは、つまり士官だ。

 まだ二十代のはずだから、かなりのエリートだね。

 ギルドのプロジェクトに出向して来たんだから、警備隊としてもそれなりの精鋭を送り込んできたというところか。

 いや、むしろ異端者を寄こしたのかもしれない。

 ラノベなんかで時々出てくる、国家公務員上級職試験に受かったキャリアなんだけど、ヲタクだったり奇矯な性格だったりして持て余され、吹きだまりに飛ばされたというような。

「名誉隊長は、位階でいうと少佐に相当しますから、私より上官です。

 アレスト興業舎では、ヤジママコト舎長代理は私の上司の上司ですから、つまり私はヤジママコト名誉隊長の部下ということです」

 フォムさんは真面目に言った。

 少佐か。

 アニメとかだと、特殊部隊を指揮したりする階級だな。

 いや実際にはよく知らないけど。

 どっちにしても、戯れ言だから。

 笑っちゃうよね。

 ギルドの上級職に近衛騎士、そして警備隊の少佐って、俺って何なの?

「ヤジママコト名誉隊長は、これからどうされますか?」

「あ、ヤジマは家名なので、私のことはマコトと呼んで下さい。

 これからですか?

 帰舎するだけですが」

 思わずいつものフレーズが出たが、フォム中尉はまったく気にせずに言った。

「それではお伴します、マコト名誉隊長。

 ……少し、ご報告したいことがありますので」

 へえ。

 つまり、警備隊の本部では言えないことなんだよね。

 ていうか、マコト名誉隊長はないよね?

「わかりました」

 俺は残っていた人たちに挨拶して、フォムさんと一緒に警備隊本部を出た。

 俺はギルドの上級職一般服だし、フォムさんは警備隊の制服だから、別に変ということはない。

 だけど、結構目立つんだよなあ。

 ハスィー様と一緒の時ほどではないけど。

 おまけにフォムさんがマッチョで威圧感があるせいか、すれ違う人たちが心なしか避けていくような。

 そういえば腹が減ってきたな。

 そろそろお昼か。

 アレスト興業舎に戻ってしまったら、なかなか時間が取れなくなるかも。

「フォム中尉。

 どこかでランチを取りませんか」

「了解です」

 同じ事を考えていたな。

 さて、どこに行くか。

 やっぱ、こういう時はあそこだろう。

「店は私に任せて下さい。

 私が上官なので、お代は持ちます」

「ありがとうございます」

 フォムさんは、嬉しそうに言った。

 やっぱ給料安いんだろうか。

 それなら、奮発してもいいよね。

 歩くことしばし。

 店に着くと、フォムさんが青い顔になった。

「ここですか?」

「そうです。ランチが美味しいですよ」

 俺は『楽園の花』のドアを開けながら言った。

 今日は、僧正様いないだろうな?

 いたりして。

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