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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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7.指揮権?

 クエスト『領主代行官事務所攻略』は、意外な結末を迎えた。

 楯役の警備隊員が敵前逃亡、リーダーである近衛騎士が膝をつきかけた所で、僧侶と魔法使いが実力でラスボスを撃破してしまったのである。

 敵役を解除された領主代行官、いやトニさんは打って変わって丁寧に接してくれた。

 フォムさんを呼び戻し、事務員に改めてお茶を入れなおすように命じて、トニさんは本題に入る。

「本日お呼びしたのは、警備隊へのフクロオオカミ導入の件でご相談したいことがあるからです」

 俺に対する言葉も丁寧になっている。

 俺はともかく、アレスト興業舎の職員が生半可なものではないことを認識したのかもしれない。

 俺を蔑ろにすると、途端に反撃がありそうだからな。

 俺の部下から。

「まだ本決定ではないのですが、ギルドの警備隊本部より連絡がありまして、近日中にアレスト興業舎の警備班と合同で、フクロオオカミが所属するパトロール隊を結成して本稼働したいと」

 その話なら聞いている。

「私も報告は受けております」

「領主代行官が口出しすることではないのですが、有事の際の行動規範について、予め規定しておくべきかと思いまして。

 騎士団では、既にフクロオオカミ部隊の実戦運用経験があると聞きました。

 アレスト興業舎では、どのように対応されたのでしょうか」

 そう来たか。

 正直、俺はお手上げだ。

 報告は受けているけど、事後承諾で何も知らないんだよね。

 ラナエ嬢を見ると、頷いて話し始めた。

 いやー、頼りになる部下っていいね。

「騎士団の行動規範に手を入れたものがございますから、その写しを回しましょう。

 フクロオオカミはほぼ人間と同じレベルで規約を理解できますので、特に問題はないかと思います。

 現時点ではあまりサンプル数が集まっておりませんが、今のところフクロオオカミ側が規約違反を行ったというケースはございません」

「それは良かった。

 ではフォム・リヒト警備隊員、そういうことで」

「了解しました」

 フォムさん、鉄面皮というか、さっき逃げたことなど微塵も感じさせない堂々たる態度だ。

 複雑な思惑が絡み合うギルド警備隊の第一線でやっていくためには、このくらいの腹芸が出来ないと駄目なのかもしれない。

 俺も見習わなければ。

 でも、どうもフォムさんってスキルありそうなんだよね。

 『回避+3』とか。

 俺にはそんなものはないから、真似しても駄目だろうな。

「他には何か、ございますでしょうか」

 ラナエ嬢が聞くと、トニさんはちょっと口ごもってから額の汗を拭いた。

 汗かきなのかな。

 俺もそうだから、気持ちはわかる。

 緊張する時はダラダラ汗が出るからね。

 って、緊張しているのか?

 何で?

「……ヤジママコト近衛騎士、いやアレスト興業舎舎長代理にお聞きしたいのですが」

「はい?」

「以前、騎士団と合同でフクロオオカミ部隊を動かしたことがあったという報告が入っています」

「ええ。少し……やっかいな事が起こりまして」

 そこから先は、うかつには言えない。

 帝国からはまだ何も言って来ないし、ソラージュの当局にはユマ閣下を通じて報告が上がっているはずだけど、行政省が知っているかどうかが判らないからだ。

 お役所の縦割り行政って、世界が違っても変わらないんだな。

「いや、私の方にも司法官から報告書が届いております。

 それは良いのですが、部隊運用時の命令系統についてよく判らない、というよりはぼやかしてあった部分が気になりまして」

 うーん。

 アレのことだろうな。

 俺が近衛騎士になった件。

 あの時は、ややこしい方法で司法官の関与を回避したんだよね。

 事実上は騎士団とアレスト興業舎の合同作戦だったんだけど、司法官は関わってないことにしたのだ。

 まあ、建前上はだけど。

 だが、建前だからこそ言えないこともある。

 フクロオオカミの指揮系統の話とかね。

 なるほど、判ってきた。

 警備隊でも、騎士団と同じ問題が発生しているわけだ。

 騎士団と違って、警備隊はギルドの配下だから同じくギルドの関連団体であるアレスト興業舎とは相性がいいように見えるが、実際には違う。

 まったく別の組織であり、しかも警備隊は領主代行官の指揮下にあるのだ。

 アレスト興業舎はそうではないから、警備班に所属するフクロオオカミや人間は警備隊の命令には従わなくてもいい。というよりは、従ってはいけない。

 この辺、社会的な組織に所属したことがない人にはよく判らないかもしれないけど、組織が違ったら基本的に関係がなくなるんだよね。

 いやいや、そんなことはないだろうって?

 例えば、警察官は一般人に命令できるけど、一般人は警察とは関係がないから?

 違うんだよなあ。

 この場合、警官は警察を通じて日本という国家に所属しているんだよね。

 一般人も、それは同じだ。

 そして、日本国には法律というものがあって、国民の行動を規制している。

 普通の人は知らないけど、そうなのだ。

 だから、警官が一般人に命令できる。

 でも、何もかもというわけではないのは勿論だよね。

 犯罪が起こったか、非常事態か、そういう時だけだ。そう法律に規定してある。

 で、話を戻すと代官はギルドの警備隊に対する命令権があるんだけど、ギルド自体にはない。

 いや、徴税とか行政業務はギルドに委託しているけど、それは命令できるということではない。

 まして、ギルドの関連団体であるアレスト興業舎とは何の関係もない、というか民間団体としての関係しかないので、出来たとしてもせいぜい「指導」だ。

 警備隊はもっと無関係といっていい。

 だから、今回のケースではフクロオオカミが所属するアレスト興業舎の警備班が警備隊と合同で働く場合の指揮権が問題になるというわけだ。

 代官としても、それは警備隊とアレスト興業舎で決めてね、と丸投げするわけにもいかないだろうしなあ。

 俺は、考えているふりをしながら口を開いた。

「おっしゃる通り、その件に関しては玉虫色の方法で対処しました。

 その結果、現在はアレスト興業舎の郵便班は騎士団指揮官の命令に従う形をとっております」

 これ、正しいんだけど実際には嘘。

 魔素翻訳では伝わらないだろうな。

 でもトニさんは、ほっとしたようだった。

「そうですか。

 それでは、警備隊についても同様の方法で」

「それは難しいでしょう。

 騎士団については、司法官閣下のご命令で少し特殊な方法をとっておりますので」

 ここは難しいけど、上手く誘導できれば。

 いや、俺だって経験を積んでいるんだよ。

「ほう。その方法とは」

「アレスト興業舎の職員を、騎士団の配下にするわけにはいきませんので、アレスト興業舎内部に騎士団所属の者を配置し、その命令に従うという形にしております」

 これは本当。

 あの難民騒動の後、ユマ閣下と俺たちは色々協議して、その形に落ち着いた。

 しょうがなかったんだよ。

 でも、最初にそういった事例を作ってしまえば、後はそれが本道になるからね。

 ユマ閣下だから納得してくれたやり方だけど、他の司法官だったら無理だっただろうな。

 ラッキー。

 だが、それは代官も同じだったらしい。

 案の定、トニさんは難しい顔になった。

「しかし、ギルド配下とはいえ民間団体の職員に警備隊の指揮権を与えるわけには」

「だから、形式上です。

 上位者に騎士団の指揮権を与えておけば、その配下の者は従いますから。

 ただ、一般隊員レベルでは指揮権を発揮できませんから、幹部クラスの役職を頂いたわけです。

 もちろん名誉職ですが。

 名誉騎士隊長というか、そんなものです」

 ここが正念場なんだけどね。

 ちらっとシルさんとラナエ嬢を見たが、平然としている。

 俺のお手並み拝見といった所かな。

 ドジ打っても、後で挽回できると思っているのかもしれない。

「ふむ」

 トニさんが思案顔になった。

「今でも、警備隊員がアレスト興業舎に出向しているはずですが」

「出向者では、舎員とは言えません。

 司法官に確認したのですが、ギルド警備隊の隊員は、緊急時には無条件で警備隊の所属上位者の命令に従うとのことでしたよね?

 それでは命令系統が維持できませんので、どうしても舎員に権限者が必要なわけです」

「形式的でもいいわけですか」

「そうなりますね。騎士団の場合も、騎士団員に対する実質的な権限がなくてもいいということで、配置しています」

「……よろしいでしょう。

 領主代行官の権限で、しかるべき位階と法的な根拠がある者に対して、警備隊の役職を授与することが出来ます。

 警備隊の名誉隊長はいかがでしょうか。

 もっとも、警備隊員の部下を配置するわけにはいきませんので、有名無実な役職になりますが」

 俺は、わざとらしくラナエ嬢を振り返って囁いた。

「これでいいかな?」

「よろしいのではないでしょうか」

 うん、お墨付きが出た。

「判りました。

 アレスト興業舎の職員がその称号を得ることで、警備班は警備隊と合同で動くことができます。

 もちろん、上位者の命令には従います」

「それは重畳」

 トニさんは嬉しそうだった。

 懸念事項が解決したからか?

 ふと思いついたように聞いてみる。

「その、名誉隊長、ですか。

 警備隊の中では、どの辺りの階級なのでしょうか」

「高いですよ。

 総隊長、総隊次長に続く上から三番目です。

 もっとも警備隊員は指揮系統に従って動くので、階級が高いからと言って誰にでも命令できるわけではありませんし、指揮下にいない者は直接命令がない限り、従う必要がないのですが」

 なるほど。

「了解しました。

 その叙任というか、任命を受けるにはどうすれば?」

「簡単です。

 警備隊の本部で、証人を揃えて任命式を行います。

 近日中に、任命式を行いましょう。アレスト興業舎では、対象者を選んでおいて下さい」

 俺は、思わずフォムさんを見た。

 フォムさんは、ゆっくりと両手で×を作った。

 そうだよね。

 しょうがないなあ。

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