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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?

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1.ハロワ?

 何か疲れてしまってぼーっとしていると、ドアが開いて知らないイケメンが入ってきた。

 なんだよ、こいつ?

 初めて見る顔だ。

 すらっと背が高い。といっても、俺とタイというところだが、スタイルが良すぎて高身長に見える。

 顔は物凄く整っていて、中性的な美貌だ。いわゆるしょうゆ顔という奴だな。男らしさには欠けるけど、日本だったら絶対にモテる。

 着ているのは日本だったらスーツといえそうな、頭脳労働者的な服だ。しかも高級くさい。

 具体的に言えば、生地も縫目もしっかりしていて、さらにデザインがいい。

 にもかかわらず、明らかにカジュアルではない。こいつ、多分かなり高い地位にいるぞ。

 こっちにもこんな服があったのか。

「ヤジママコトさん?」

「お、おう」

 唸り声で答えてしまった。ちょっと意表をつかれたもので。

 イケメンは気にすることなく、身振りで俺を招く。

「マルトさんから命じられまして。ジェイル、といいます。ヤジママコトさんを、ハローワークにご案内するように、ということです」

 ハロワって言ったよ!

 いや、実際にはハローワークなどという発音はしてないのは判るんだが、その声というか音を聞いた俺の耳にはハロワとして聞こえるのだ。

 これが魔素の力か。恐るべし。

 いやいや、こっちの世界にもハロワってあるんだなあ。というか、ハロワ的なものが。

 もちろん本物のハロワがあるはずもない。だが、このイケメンが考えている施設だか組織だかは、俺が知っているハローワークというものに近似しているのだろう。

 魔素の効果がわかってきた。自動翻訳的なこともやっているのだ。

 何かの言葉を発すると、発声者が考えているものの概念も一緒に伝わる。聞いた方は、その概念に一番近い、自分が知っているものとして受け取る。

 だから、例えば俺がテレビとかスマホとか言っても多分通じない。こっちの世界には、それに相当するものがないからだ。

 いやいや、そうでもないか?

 例えば魔法で動く通信機とか、魔素で画像をやり取りできるテレビ電話みたいなものがあるのなら、そういうものとして伝わるかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は荷物を持ってイケメンに従った。

 ここに戻ってこれるかどうか判らないので、着替えた服も全部持って行くことにする。

 マルトさんの会社? の作業服みたいなものも着たままだが、これは貸してくれていると考えていいだろう。

 イケメンと俺は、例の倉庫群の脇を通って敷地を出た。改めて見回してみると、ここは街の外れというか、少なくとも住宅地ではなさそうだった。

 かなり広い道路が走り、その両側には比較的大きな建物が並んでいる。工業団地という奴か、あるいは物資の集積地区なのかもしれない。

「どれくらいかかるんですか」

 一応、丁寧語を心がける。

 イケメンの年齢は、外見上は俺とタメだが、相手は世話になっている会社の従業員なのだ。

「20分くらいです」

 イケメンが律儀に答えてくれる。そうか20分か。どれくらいなんだろう。

 よく考えたら、こっちの時間の単位が判らない。少なくとも時分秒ではないことは確実だが、それでも20分と聞こえるということは、このイケメンがそれくらいだと思っているわけだ。

 いや、正確に言えばイケメンが感覚的に掴んでいる距離(時間)を、俺の単位に置き換えると20分ということだ。

 その根拠というと、どうなんだろう。1時間の3分の1か?

 まあ、現代日本でも、どれくらいかと言われれば感覚的に答えるので、あまり正確ではないかもしれない。

 ここで「20分とはどれくらいか」などと聞けるはずもないので、俺は黙って従った。

 歩きにくい。

 靴が合ってないのだ。

 だが、もともと履いていた靴は仕事用の革靴であり、昨日結構歩いたことで靴攣れができかけている。

 だから仕方なく履いているのだが、これでは自分の靴の方がましかもしれない。ゴムとかプラスティックなどという便利な材料がないので、貸して貰った靴は硬い革みたいなものでできているのだ。

 肉体労働作業用のシューズなんだから、仕方がないかもしれないが。

 だが、今更履き替えたいとも言えないので、黙って歩く。出来るだけ早く、履き替えなければ。

 歩いているうちに、道の両側の倉庫らしきものが消えてゆき、ちょっとした屋敷や商店みたいなものが現れ始めた。

 住宅地ではない。むしろ商業地区とでも言えそうな場所だ。それも、一般人が買い物をするというよりは、会社などが業務で商品を仕入れたり販売したりする場所である。築地とか、そういう場所のようだ。もちろん魚市場ではないが。

 物資の集積場のそばに、それを捌く場所があるのは当然で、まだまだハロワがあるような雰囲気ではない。

 そのまま歩き続け、次第に小さな家が増えていき、それでも庭というか敷地が広い家ばっかだなあ、と思っていたら、唐突にハロワがあった。

 あー、そういや現代日本のハロワも、こういう辺地にあったっけ。いや、俺が大学の時に住んでいた場所自体が辺地だったからなんだが。

 ところでなぜハロワだと判ったのかというと、雰囲気が俺が知っているハロワにそっくりだったからである。

 就活の時に、どんなもんかなという好奇心で地元のハロワに行ってみたことがあるのだが、何というか独特の場所だった。

 活気がありつつ不景気というか、希望と失望が入り交じっているというか、矛盾する雰囲気が漂っていたのだが、今俺の目の前にある建物がまさにそれなのだ。

 人の出入りは多い。

 さらに、建物の壁にもたれたり、近くに座り込んだり、ぼーっとしている人もいる。

 かと思うと、せかせかと歩き去ったり、虚ろな笑顔で入っていく人もいる。

 あー、これはハロワだわ。

「こちらです」

 イケメンが、棒立ちになっている俺を促すので、とぼとぼと付いていく。

 こんな気持ちでハロワ(違)に来ることになろうとは。俺の会社に採用されたとき、もう二度と関係がないと思っていたのに。

 いや、確か定年後に再就職するまでは、失業保険を貰えると聞いたことがあるので、その時までは縁がないものと考えていたからなあ。

 だって、俺正社員だったからね。ていうか、契約社員でも雇用保険はあるけど。

 いずれにしても、このハロワとは関係のない話だ。そもそも、こっちの世界で失業保険なんかありそうにない。あれって、結構社会保障が整備されてから導入された制度だったはずだし。

 民主主義かどうかすら判らないこっちでは、人権も怪しい気がする。あ、そういえばこっちの政治ってどうなっているのだろう。やっぱり貴族や奴隷とかいるのだろうか。

 ハロワもどきの中は雑然としていて、パソコンのたぐいがないことを除けば日本のハロワにそっくりだった。というよりは、昔の日本映画に出てくる役所のような場所に似ていた。

 もちろん雰囲気が、だけど。

 カウンターがあって、その前に行列が出来ている。そこで仕事の希望とかを聞いて、斡旋してくれるようだ。

 これがハロワの本来の姿なのかもなあ、と感心していたら、イケメンが俺を壁際に誘導し、「ここで少しお待ち下さい」と言って離れていった。

 見ていると、カウンターの列とは別の相談者窓口のような所で、偉そうな人に声をかけている。

 コネがあるらしい。

 ラッキーだな。

 俺はリラックスしようとして、初めて結構緊張していることに気がついた。それはそうだ。異世界で何も判らないまま、仕事を探そうとしているのだ。

 むしろ、今まで平気だったことが脳天気過ぎる。

 ここは異世界なのだ。

 しかもハロワ、ラノベで言えばギルドの支部のようなものではないか。

 ああ、そういえばギルドってあるらしいな。俺にそう聞こえたということは、ハロワとはまた別に、ギルドと訳せる組織があるのだろう。

 もっとも俺の知っているギルドって、ラノベの知識だからなあ。冒険者組合って、こっちには本当にあるのかもしれない。

 で、冒険者って何をするの?

「お待たせしました」

 イケメンが戻ってきた。そういえばこの人、どうしてこんなに丁寧というか、へりくだっているんだろう。

「あちらで話を聞いて頂けるそうです」

 カウンターに並ばなくてもいいらしい。

 イケメンの誘導で、奥の方に向かう。

 なんかVIP扱いじゃない?

 こんなことして貰っていいのだろうか。

 ていうか、これってラノベの展開じゃないか。転移者が妙に重要視されたり、親切にされるって。ああいうのは厨二だけだと思っていたけど、本当だったのか。

 え? ひょっとして、俺って主人公補正とかついている?

 狭いドアを開けると、そこはテレビドラマに出てくる警察の取り調べ室のような陰気な部屋だった。机と、椅子が二つ。

 それ以外には何もない。

 甘かった。

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