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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?

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2.夕食会?

「近々、アレスト市の代官から呼び出しがあるかもしれません」

 その日、いつものようにソファーでくつろぎながら居酒屋形式の夕食を食っていると、突然ユマ閣下が言い出した。

「マコトさんにご相談したいことがあるようです」

「今度は何だ?」

 シルさんがうろんな口調で言う。

「面倒なことなら、お前が食い止めろよ。

 マコトのご主人様なんだろう」

 この人、口調と物腰が合ってないんだよなあ。本人は男爵家の娘だと言い張っているけど、その気になれば帝国皇族にふさわしい作法を完璧にこなせるのだ。

 でも、普段の口調は冒険者だ。

 やっぱ何か隠していることがありそうだよね。

「それが、どうも警備隊を通じて上がってきた要件ということで、司法官の出る幕ではなさそうなのです」

 ユマ閣下が律儀に答えた。

 司法官の配下は騎士団だから、警備隊は指揮系統が違うからね。

「代官から?

 何でしょうか。わたくしは何も聞いておりませんが」

 ハスィー様も知らないのか。

「わたくしも同じですわ。

 事務部門の問題でもなさそうですけれども」

 ラナエ嬢が聞いてないということは、根が深いかもしれないな。

「そうだな。

 マコト、お前には心当たりはないのか」

「ありませんよ。

 そもそも私の耳が一番遠いと思いますが」

 俺が慌てて答えると、みんなが一斉に首を傾げた。

 ここはハスィー邸。

 恒例の夕食会の最中だ。

 最初は屋敷の主人たるハスィー様と同居人のラナエ嬢、そして俺の3人だったディナー、じゃなくて単なる夕食を食うだけの集まりだった。

 だがある日、ユマ閣下がいきなりハスィー邸を尋ねて来たかと思うと夕食の時間まで居座り、一緒に飯を食って、それがお気に召したらしく、次の日から仕事が許す限り参加するようになった。

 ユマ閣下の仕事って、事実上自分で予定を決めているので、つまりはほぼ毎日ということになる。

 しばらくしてシルさんまで加わり、現在の所5人がフルメンバーとなっている。

 ハスィー様もラナエ嬢も、最初は渋い顔をしていたんだけど、いつの間にか押し切られてこの5人が揃うのが当たり前になってしまった。

 ちなみに、俺を含めて誰一人として夕食代を払ってない気がする。

 とてつもない金額の借りが積み上がっているんじゃないかなあ。

 それにしても、凄い面子だよね。

 エルフの伯爵令嬢、侯爵令嬢、公爵の名代に帝国の皇女と、高位貴族のサロンさながらだ。

 しかも全員が美少女もしくは美女。

 そんな中にモブ顔の男が一人混じっているんだから、客観的に見たらハーレムアニメみたいだろ?

 いや、俺だって一応近衛騎士なんだけど。

 貴族としては断トツに低い位だし、そもそも名ばかりなのは明白だから、いつもは大人しくみんなのご意見を拝聴しているだけなんだが。

 最近、何となく単なる夕食の付き合いというよりは、どうも情報交換の場と化しているような気がするんだよね。

 というよりは、政策の企画と立案、さらには問題対処のための打ち合わせの場というか。

 ギルドの執行委員とその関連団体の幹部、そしてアレスト市の司法の元締めが揃っているんだよ。

 もう癒着どころの騒ぎじゃない。

 その気になったら、このメンバーだけでアレスト市自体を乗っ取れるんじゃないのか。

 ギルド所属の警備隊に睨みを効かせ、司法官配下の騎士団を動かせる立場の人たちなのだ。

 威嚇としては間違いなく最強戦力となりうるフクロオオカミ部隊も握っている。

 クーデターを起こす必要すらない。

 事実上、アレスト市はすでにこの方たちの支配下にあるような。

 厨二どころじゃないぞ。

 現実だ。

「マコトはどう思う?」

 いきなりシルさんが聞いてきた。

 何だっけ?

 ああ、代官さんか。

「と言われても、私はその人について全然知らないので」

 見当もつきませんねと言うと、ユマ閣下とラナエ嬢の間に目配せが走った、ような気がした。

「そういえば、まだマコトさんは代官と会ったことはなかったでしたわね」

「というよりは、代官の存在自体を知らないんじゃないのか」

 失礼な。

「一応、知識としては知ってますよ。

 アレスト市の三大権力者の一角でしょう。

 ギルド支部長、司法官と並んで」

 その権力者の別の一角たる司法官閣下は、この場で平然と食後のお茶を飲んでいるけど。

 何かが間違っている気がする。

「それはそうなのですが。

 良い機会ですから、最初から説明させていただきましょうか」

 ラナエ嬢が言って、他の面々は待機の姿勢を取った。

 まあ、俺以外には周知の事実だろうし。

「よろしくお願いします」

「それでは、と。

 アレスト市に限らず、ソラージュは領地ごとに領主がいるのはご存じですね」

「はい。アレスト市ならアレスト伯爵ですね」

 ハスィー様にちょっと礼をすると、美麗なるエルフは頷き返してくれた。

 ハスィー様の父親だ。

「アレスト市には現在、伯爵閣下はおられず、代官が統治を行っています。

 この代官の正式名称は『領主代行官』で、文字通り領主の権限を代行できます。

 とはいえ、領主の代理というわけではございません。身分的には、ソラージュ行政省の執行官となります」

 知らない単語が出てきたな。

 行政省、という役所があるのか。

 ていうか、俺の脳がそう魔素翻訳したわけだが、大体判る。日本でいうと、政府そのものというか、王政府とその出先機関みたいなものだろうな。

 なぜなら、ソラージュ王国は民主主義ではないからだ。

 選挙で選ばれた議員や内閣といったものは存在しない。

 代わりに王様と政府の各機関を支配する貴族がいるわけだが、多分議会めいたものはあるだろう。

 ローマ帝国だって、元老院があったんだし。

 そういうのは今は関係ないから置いておくとして、選挙がないということは、アレスト市には民主的に選ばれた市長といった存在がいないことになる。

 市議会もない。

 代わりにギルドの評議会があって、領地単位の法令なんかはここで決めているのだろう。

 ある意味、ギルドが市議会であり市役所なんだよね。

 なるほど。

「現在のソラージュでは、実は領主の権限はかなり制限されております。

 昔は自領に対する法的な執行権や徴税権があったのですが、およそ百年前の戦争に伴う混乱後の王国政府の決定により、それらの権限は制限されました。

 その結果、現在の領主は事実上、単なる地主といったレベルの権限しか持っておりません。

 代わりに、司法権、徴税権、統治権をそれぞれ司法官、ギルド、代官が持たされているわけです」

 それは凄い。

 高校時代に世界史の授業で習った英国の大憲章(マグナ・カルタ)の逆みたいなものか。

 あれは国王の権限を制限したものだったはずだけど、こっちでは逆に領主/貴族の権限が制限されたと。

 かといって、国王が絶大な権限を持っているというわけでもなさそうだし。

 政治体制としては、変な発展の仕方をしたわけか。

 そもそも、三権分立めいた政治体制が敷かれているみたいだけど、あれって市民階級が力を持たないと出てこない発想なんだけどね。

 ああ、そうか。

 市民というか、ギルドが力を持ったわけか。

 相対的に、国王と貴族の力が低下したと。

「それで、代官は領主の仕事を代行すると」

「はい。でも代官は実質的な実行力は持たされていません。かわりに、ギルドの警備隊が警察業務を行っていて、これの指揮権は代官にあります。

 また、徴税はギルドがこれを代行します」

 そうなのか。

 警備隊って、ギルドの私兵だと思っていたけど、そうでもないらしい。

 まあ、騎士団の配下みたいなところもあるし、お互いに監視しあっているということか。

 で、代官は警備隊の力をバックに領地を治めると。

「代官は、直接の徴税権を持ってないんですね」

「そうですね。

 もっとも法的にはある、というよりは責任を持たされているのですが、実際の業務はギルドに委託して行っています。

 警備隊も同じようなもので、法的には代官の配下なのですが、所属はギルドになります」

 よく判らないな。

 何か、わざとお互いの実働戦力や権限をごちゃ混ぜにした、というよりは重ね合わせたような。

 これだけ入り組んでいると、単独で突出することは出来そうにない。

 お互いに相手を常時監視しているようなものだし。

 そうやって、どれかが先鋭化するのを防ぐ意味があるのかも。

「なるほど。

 では、代官が行うことは」

「統治です。

 ギルドや警備隊、また市民への命令権を与えられています。

 ですが、それを実際に行うのは他の組織というわけです」

 変な話だな。

 代官の必要性がよく判らない。

 そもそも領主がいるんだったら、統治もその貴族にやらせればいいだけなんじゃないのか?

 ていうか、それがむしろ当たり前だろう。

 地球の歴史ではそうなっているよね?

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