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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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26.再会?

 昼前に馬車が到着して、俺や避難民の人たちのほぼ全員が乗車した。

 アレスト興業舎の人たちや冒険者の半数は、キャンプを片付けてから戻るらしい。

 すみませんね、俺だけ。

 俺がいるせいか、『ハヤブサ』他数人の冒険者が護衛についてくれたけど、まあ何事も起こるはずもない。

 ちなみに、例のリナ姫様はアレスト興業舎の馬車ではなく、ハスィー様が回してくれたらしいギルドの立派な馬車に乗っている。

 もちろん、リナ姫様からは一緒に乗れという命令、いやお誘いがあったけど、俺はまだフクロオオカミの臭いが取れないのでご遠慮申し上げると言って、逃れることが出来た。

 あんなめんどくさそうなお姫様、金輪際関わり合いになりたくないしな。

 ていうか俺、こっちに来てから貴族のお姫様らしいお姫様に会ったのって、これが初めてかもしれない。

 伯爵令嬢でエルフ、侯爵令嬢、公爵令嬢で公爵の名代、さらには帝国皇女という、極めつけのお姫様たちに出会っているのに、誰一人としていわゆる「お姫様」らしい人はいなかったからな。

 いや、容姿は全員ラノベのお姫様並、もしくはそれ以上なんだけど。

 態度がね。

 ちょっとがっかり……いや、そんなことはないよ?

 皆さん、親しみ深くて素晴らしい方ばかりだし。

 生活力が有りすぎるけど。

 何しろ、全員が誰に頼るわけでもなく、自力で生活費を稼いでいるというのが凄い。

 そんな貴族のお姫様、ラノベにもなかなかいないって。

 チート持ちの冒険者でもないのにね。

 まあそれはいい。

 問題はこれからだ。

 アレスト興業舎はどうなってしまうのだろう。

 俺が乗っているのも結構立派な馬車で、新品だ。

 ソラルちゃんによれば、アレスト興業舎でも今後はこういった備品が必要になるということで、ラナエ嬢が購入したらしい。

 あれか?

 大企業の経営者が、会社の費用でビジネスジェット機を購入するようなものか?

 どこまでいくんだよ、アレスト興業舎。

 ていうより、よくそんなに金があるな。

 何かカラクリがありそうだけど、知らなかったふりをしておく。

 巻き込まれたくない。

 万一の時は、秘書が勝手にやったことにしよう。

 いや、この場合は事務部長か。

 実際そうなんだけど、責任取らされるのは俺だろうなあ。

 まあ仕方がない。

 いつも楽をさせて貰っているんだから、落とし前くらいはつけるさ。

 俺の馬車には秘書らしく、ソラルちゃんも同乗して、俺が出張していた間のことを色々と報告してくれた。

 特に問題になるようなこともなく、というよりは難民対応でアレスト興業舎のリソースの大半が拘束されていたため、業務はアイドリング状態だったという。

 それはそうだよね。

 アレスト興業舎に所属するフクロオオカミは全員、駆り出されていたわけだし。

 その世話をするための要員も大半は同行。

 警備班や郵便班は機能停止、サーカス班も開店休業状態だったらしい。

「事務部門も、伝票整理とかだけですね。

 ラナエ部長はあちこち飛び回っていらしたようですが」

「あー、それはそうだろうなあ」

 おそらく司法官相手に丁々発止とやり合っていたのだろう。

 契約金額の件で。

 何せ、舎のリソースの大半をこの仕事に投入したわけだしな。

 おまけに、司法官の指名で舎長代理(俺)まで駆り出されている。

 どれだけむしり取れるか、渉外の腕の見せ所だ。

 いや、ラナエ嬢は渉外じゃないんだけど。

 そういえば、アレスト興業舎には営業部門がなかったな。

 これまではほぼコネで仕事を受注していたわけだが、体制が整ってきた以上、これからは積極的に売り出していく必要があるかもしれない。

 営業部を立ち上げるか。

 ギルドにしても、アレスト興業舎が自力で仕事をとってこれた方が経費的に楽になるはずだから、反対はしないだろうし。

 営業部長はラナエ嬢、と言いたいところだが、それでは事務部門は誰がやるのかというと、今は人がいないなあ。

 まあいいか。

 いざとなったら、ハスィー様に適当な人を紹介して貰えばいいのだ。

 あるいはマルトさんとか。

 『栄冠の空』は駄目だろうけど。

 あ、そういえばジェイルくんはどうだろう。

 ラナエ嬢に営業と渉外をやって貰って、ジェイルくんに事務部門を任せるとか。

 でもジェイルくんはマルト商会からの出向だから、部門トップは難しいかも。

 というような事をぼんやり考えているうちに、懐かしいアレスト興業舎の倉庫じゃなくて本舎が見えてきた。

 俺が、この舎の舎長代理だというのは未だに冗談としか思えん。

 入社1年ちょい、ぺーぺーの平サラリーマンが、そんなことできるはずないでしょう。

 いっぱしの経営者ぶっているが、ドシロウトもいいところだし。

 だから、色々考えていてもあまり人には言ったことがない。

 そもそも、俺の案がそのまま通るはずがないもんね。

 だから、こういうものはサジェッションに止めるべきなのだ。

 ラナエ嬢あたりに言っておけば、そのうちにしかるべき人材が配置されるに違いない。

 経営者は、細かい人事に首を突っ込むべきではないのだ。

 めんどくさいし。

 馬車は、アレスト興業舎の中庭に入って停車した。

 すでに前庭には大テントが張られていて、難民の皆さんはそこに収容されているらしい。

 フクロオオカミの姿は見えなかった。

 大活躍だったからな。

 今頃は、本舎内の宿舎で休んでいるんだろう。

 近いうちに、何かボーナスを出さなきゃな。

「ヤジママコト近衛騎士!」

 かん高い声がして、数人の女性がこっちに向かってくるのが見えた。

 あの、何と言ったっけ、帝国の元従士長さんが止めようとしているけど、無視されている。

 しまった。

 逃げ損ねた。

 やだなあ。

「リナ・レストルテ様」

 それでも女性の名前は覚えているのだ。

 ああ、こんな自分が嫌だ。

「お話しがあります。

 わたくしの領地奪還と地位の回復について……」

「マコト様。お疲れ様でした」

 リナ姫様の口上を、断固たる声が遮ってくれた。

 ラナエ嬢が、ジェイルくんを従えて立っていた。

 いつものヒラヒラドレススカートが、こんなに頼もしく見えたのは初めてかも。

 出鼻を挫かれたリナ姫様が、うろんな目を向けるが、ラナエ嬢はびくともしない。

 まあ、役者が違うからね。

「あなたは?」

「アレスト興業舎の事務部長でございます」

「そう。わたくしは帝国レストルテ領の」

「ラナエ・ミクファール侯爵公女をご紹介させていただきます」

 ジェイルくん、君もえぐいね。

 リナ姫様は、ぐっと押されて黙った。

 それでも前に出ようとするが、そこにさらに綺麗な声が被さってきた。

「マコトさん!

 ご無事でしたか」

 光、いや桁違いの美女が駆け寄ってくる。

 いや、凄いよ。

 フクロオオカミの突進よりインパクトがあるかも。

「ハスィー様」

 エルフの美女は、息を弾ませて俺の前に立つと、俺の手をとって握りしめてくれた。

 何この歓迎ぶり?

「良かった。お怪我をされたという報告は、間違いだったのですね。

 歩けないほどの傷を負われたと聞かされて、心配しておりました」

 股擦れのことをバラした奴がいるのか!

 許せん!

 誰だ?

「特に問題はありません」

「良かったです」

 ふと振り向くと、リナ姫様がぽかんと口を開けてハスィー様を凝視している。

 初めてハスィー様を見ると、大抵の人はそうなるよね。

 ちょうどいいや。

 ここで引導を渡してあげよう。

「ご紹介させていただきます。

 アレスト興業舎舎長、ハスィー・アレスト様です。

 ハスィー様、こちらはリナ・レストルテ様」

 あえてギルドの執行委員とは告げない。

 こっちの方が、俺との関係が深く聞こえるだろ?

 ハスィー様は、一瞬で悟ったらしい。

 ラナエ嬢と電光石火の目配せを終えると、慇懃に腰を折った。

「ハスィー・アレストです。

 何か、ご要望がありますでしょうか?」

 でも敵対行動ありありだ。

 もはや威嚇に近いぞ。

 リナ姫が、ぽつりと言った。

「ソラージュの……傾国姫?」

 ハスィー様の噂は、帝国にまで広まっているのか。

 さすがにこれでノックダウンだろうと思ったのだが、リナ姫様はしぶとかった。

 よろけながらも立ち直り、パンチを繰りだそうとした瞬間、場違いな大声が響き渡った。

「皇女殿下!」

 何だ?

 全員が驚いて振り返ると、あの帝国の元従士長とかいう人が全力で駆け出していた。

 その先にいるのは、シルさん?

「ああ、本当に皇女殿下だ!

 お懐かしゅうございます、シルレラ様!」

「ハマオルじゃないか。

 何してるんだ、こんな所で」

 ハマオルさんは、シルさんの前で崩れ落ちるように跪くと、差し出されたシルさんの手を握りしめて、泣き出してしまった。

「シルレラ様。

 よくぞご無事で。

 今までどうしておられたのですか。

 中央護衛隊では、シルレラ様が行方不明になられた後、あやうく反乱が起こる所だったのですぞ。

 除隊して捜索に向かおうとする者が相次ぎ、フレア様がいらっしゃらなければ本当に」

「判った判った。

 いくらでも聞いてやる。

 ここじゃまずいから、こっちに来い」

 シルさんは、辟易しながらハマオルさんを引っ張って消えた。

 リナ姫様は、蒼白になっていた。

「シルレラ皇女殿下?

 ここは、一体どうなってますの?」

 ホントだよ。

 どうなってるんだろうね?

 ていうか。

 やっぱいたんだ。

 シルさんの股肱の臣。

 ラノベかよ!

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