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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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25.撤収?

 それからはまあ、順調に進んだと言っていいと思う。

 俺は何もしてないけど。

 ロッドさんの指示でフクロオオカミの半数に背負い袋が取り付けられ、小さな子供達が収容された。

 山男と冒険者たちが余った子供を背負い、その親たちを同行して山を下る。

 ロッドさんはその指揮を執るために去っていった。

 残った人たちと数人の冒険者、そして俺はフクロオオカミに身を寄せて暖を取りながら夜明けを待つ。

 いや、寒いの何のって。

 途中で気がついて、難民の人たちを呼び集めてみんなで押しくらまんじゅうみたいなことをして過ごした。

 何か、どっかでこんな状況を読んだことがあると思ったら、高校生の時に読んだハインラインの「宇宙の戦士」だった。

 主人公が新兵訓練で、荒れ地に仲間達と放り出されて、みんなで集まって一晩中暖め合うんだよね。

 眠りかけては小突かれ、輪から押し出されて寒さで目を覚まし、臭い息を吹きかけられては悪夢を見て飛び起きる。

 それを夜明けまで続けるのだ。

 あの本を読んで、俺は絶対に自衛隊にだけは志願しないと心に誓った覚えがある。

 どっちみち、適性検査か何かでハネられていただろうけど。

 フクロオオカミがいる分、俺たちは恵まれていたけど、それでも寒かった。

 俺はなぜかいつも中心にいたので判らないけど、外側の人は冷えただろうな。

 まあ、子供達はほとんど下ろしてしまって、後は丈夫そうな大人ばかりだったからまだマシだ。

 ちなみに、あのリナ姫様を含めた女性陣は、別の所で集まって過ごしたらしい。

 フクロオオカミはいないけど、毛布の類は全部あっちに回したから、こっちほど寒くはなかったんじゃないかな。

 しかし、俺たちが来る前は難民の人たち、どうやって夜をやり過ごしていたんだろう。

 死人が出なかったのが不思議なくらいだぜ。

 ひょっとしたら出ているのかもしれないが、それは知りたくないので俺も黙っていた。

 そういうのはユマ閣下とノール司法補佐官に任せるよ。

 やっと夜が明けて、残り少ない薪でお湯を沸かしてみんなでボソボソと非常食料を食っていると、思いがけないほど早くフクロオオカミが現れた。

 救助隊の本隊の前衛だろう。

 どうも、夜明け前から登ってきたらしい。

 そいつらが背負ってきた薪や鍋などでキャンプファイヤーをやって、シチューなどを作る間、俺達山頂組はみんなでぼーっとしていた。

 俺はゴロゴロ転がって休んでいるフクロオオカミの真ん中にいたので、リナ姫様も近寄ってこなかった。

 臭うんだよね。

 帰ったら即、風呂と洗濯だ。

 昼になる前に、冒険者や山男さんたちにミクスさんを含めた本隊が現れた。

 指揮はロッドさんで、この人もタフだよね。

 アレスト興業舎の作業服を着ていて、あくまで自分は司法官とは関係ないということで通すつもりらしい。

 もう正騎士だってバレていると思うんだけど。

 俺の股擦れはかなり回復してきているが、さすがにまだフクロオオカミ騎乗は無理なので、歩いて降りることにする。

 こっそりロッドさんに頼んでおいた、股擦れ用の軟膏が届いたのも大きい。

 麓に出来た医療キャンプの薬剤師さんが、運良く用意していたそうだ。

 ラッキー。

 ミクスさんの背中が空くので残っている難民の人たちに奨めてみたが、誰も乗ろうとしない。

 怖いこともあるけど、どうも俺専用のフクロオオカミだと思われているらしい。

「でも、ロッドさんも乗ってましたよね?」

「最初の時は、あらかじめミクスさんから降りて近づきましたし、ミクスさんは難民の前には姿を見せなかったんですよ。

 ハリルたちだけでもインパクトがあるのに、ミクスさんを見られたらバニックになりそうでしたので」

 それはそうか。

 体長3メートルのツォルたちでも猛獣を通り越して魔獣くさいのに、ミクスさんクラスになったらもう、見た目は怪物だからな。

 話してみれば知的で優しい、とびきりいい人【フクロオオカミ】だと判るのに。

 そうしてみると、難民の人たちがミクスさんを見たのは、俺を乗せていた時が始めてか。

 ツォルたちだけでもビビッていたところに、二回りくらいでかいフクロオオカミが人を乗せて出てきたんだから、それは驚いただろうな。

「それはそうですよ」

 ロッドさんはそう言って笑った。

「しかも、乗っている人は近衛騎士ですからね。

 おまけに教団の僧正様の遣いときている。

 素直になるはずです。

 私の時には、まるで喧嘩腰でしたから」

「それはすみませんでした」

 ロッドさんも、苦労したんだな。

 俺がいいとこ取りをしてしまったのか。

 でも、俺だって股擦れがひどくて死にそうになったからね。

 全部、ユマ閣下のせいだ。

「これからどうするんですか」

「少し休んで昼食を終えたら、すぐに全員で下山します。

 麓ではもう、病人や子供達のアレスト興業舎への搬送が始まってますよ」

 また手早いことで。

 ん?

 司法官の手配じゃなくて、うちなの?

「この件については、司法官は極力関係がない形に持って行きたいと。

 帝国から何か言ってきた場合に、我関せずで押し通すつもりでしょう。

 よって、今回の救出劇はアレスト興業舎が主導したことになります。

 これはラナエ事務部長とハスィー様も了承済みとのことです」

 あいかわらず、政治的に動いているなあ。

 まあ、司法官の仕込みにラナエ嬢が乗ったというところか。

 ラナエ嬢のことだから、結構ふっかけただろうな。

 でも、それすらもユマ閣下のシナリオ通りだとしたら、もうどうでもいいやね。

 考えるのは止めよう。

 慌ただしい昼飯と休憩の後、ロッドさんの指揮で撤収が始まった。

 後で知ったけど、この辺りは野生動物との協定で空白地帯ということになっていて、人間も野生動物も極力荒らさないという約束が出来ているらしい。

 キャンプファイヤーくらいはいいけど、大規模に木を伐採したり、罠を仕掛けたりすると協定違反になるらしく、冒険者と山男の人たちは念入りに難民の痕跡を消して回っていた。

 この状況は、ミクスさんを通じてフクロオオカミのマラライク氏族へ伝わり、いずれはフクロオオカミの氏族会議で報告されるそうである。

 他の野生動物にも一応伝えられるとのことだが、あまり関心がないとのことだった。

 協定に加盟している野生動物は色々いるんだけど、大抵は自分の殻に閉じこもっていて、人間や他の動物とは関わり合いになりたがらないという。

 フクロオオカミは、例外的に人間と接触したがる野生動物だそうだ。

 それはそうだろうな。

 アレスト興業舎にいるフクロオオカミたちを見ていれば判る。みんな、好奇心旺盛で進取の気質に富んでいる。

 抽象概念も楽々と理解し、それをリアルに応用できる。

 厨二の若いのが出るくらいだし。

 人類が滅んだら、次の支配種はフクロオオカミで決まりだな。

 それはともかく、俺たちは午後一で揃って野営地を後にした。

 もう一晩ここで過ごすのは無理そうな人たちもいたしね。

 衰弱している女性陣をフクロオオカミと山男さんたちが背負い、後は何とか歩いて貰って下山する。

 登ってくるときは長く思えたが、下りは急げば日没までには裾野にたどり着けるということだった。

 俺の股や足の具合を計算に入れてないのではないかという疑いが晴れないけど、いよいよ駄目だったらミクスさんに載せて貰うことにして、俺は最後尾につく。

 山登りは降りる方が疲れるという話だけど、それは本当だと思う。

 なぜなら、やっと平地に出た時には俺は死にかけていたからだ。

 それでも、最後まで自分の足で歩ききったぞ俺は。

 まあ、俺以外も、難民の皆さんを含めてみんな大丈夫だったみたいなので、自慢にはならないけど。

 それでも最後までヘタレは見せられないので、ミクスさんと供に『栄冠の空』のテントまで歩いて行って、そこでぶっ倒れたらしい。

 もう辺りが暗かったのも幸いした。

 幸いホトウさんが居てくれて、人目に付かないようにテントに収容してくれたそうだ。

 そうだ、というのは記憶がないからだ。

 いやー、人ってマジで失神するんだね。疲れすぎると。

 股擦れも悪化して酷かったけど、その痛みを感じないくらい疲れて眠り続けたようだった。

 気がついたら、夜が明けていた。

 メチャクチャに腹が減っていたが、それが気にならないくらい身体中が痛い。

 筋肉痛だろうな。

 何が近衛騎士だ。

 馬にもフクロオオカミにも乗れない、それどころかろくに歩けない騎士がいるものか。

 何とかして、この肩書きを外さないと。

 俺みたいなインドア派にとっては、今後何かあるたびに死にかけることになりかねない。

「起きました?」

 テントの前でぼさっとしていると、ソラルちゃんが来てくれた。

 ていうか、まだここに残っていたのか。

「私はマコトさんの秘書ですから。

 それより、お腹は空いてませんか。昨日、夕食なしで寝たみたいですけど」

「空いているけど……身体が痛くて」

「何か食べておいた方がいいですよ。

 昼食後に出発するみたいですから」

「そうなの?」

「はい。

 昨日、あるだけの馬車で子供と女性をアレスト興業舎に送ったんですけど、それでもまだ衰弱している人が残っているんです。

 だから、馬車が引き返してきたらすぐに残った人たちも送るそうです。

 マコトさんも疲れているんですから、馬車に乗っていきましょう」

 ちなみに、シルさんは後方支援のためにとっくに引き上げたそうだ。

 馬車では私もご一緒しますね、とソラルちゃんは嬉しそうに言った。

 そうか、助かった。

 疲れすぎていて思い当たらなかったけど、この状態でアレスト市まで歩かなければならないのかと思うとぞっとする。

 あ、ちなみに今俺が言った「アレスト市」は、家や畑がある場所のことね。

 行政区上は、ここらへんもアレスト市に含まれるのだ。

 日本と違って、こっちの「市」は街だけではなく、領域内すべてを示すらしい。

 つまり、アレスト領だな。

 だから、荒野に村がぽつんとあってもそこはアレスト市○○村になる。

 だったらアレスト県と訳せばいいと思うのだが、魔素翻訳は市なのだ。確か、中国の行政区分がこっちに似ていると聞いたことがある。

 あそこは、市の中に県があるからね。

 それはともかく、俺はなるべく人目につきたくないということで、テントに隠れて過ごすことにした。

 飯はソラルちゃんに頼んで持ってきて貰った。

 ニート、いや引きこもり生活っていいよね。

 テントだけど。

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