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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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23.狼騎士?

 準備が整ったのは、2時間ほど後のことだった。

 今回は俺とフクロオオカミだけではなく、騎士団が集めた山男たちと一緒に登るらしい。

 その他にも、アレスト興業舎が雇った『栄冠の空』の冒険者が十人ほど。

 そっちはユマ司法官が、ということはノール司法補佐官の指示でシルさんが手配していたということで、さすがに抜け目がない。

 ユマ閣下が何かというと人に丸投げするのは、ノールさんのせいなんじゃないのか。

 言えば何でもやってくれるんだもんなあ。

 ド○えもんのポケットか何かと勘違いしているのかも。

 フクロオオカミのうち4頭【人】はロッドさんと一緒にまだ山の上にいるので、俺と一緒に登るのは7頭【人】。

 つまり、キャンプにはもうフクロオオカミは残らない。

 総力戦である。

 フクロオオカミのほとんどは、ハーネスをつけて救援物資を背負っていた。

 例外はミクスさんで、郵便班が開発したフクロオオカミ用の鞍をつけている。

 鞍に跨るのは俺だ。

 とても怖いです。いや、ミクスさん本人じゃなくて。

 体長4メートル弱のミクスさんは、座っていてもその頭の位置が地上2.5メートル辺りにある。

 つまり、背負われている俺の目は地上3メートル近い位置にあるわけで。

 高いよ!

 馬に乗ると、視界が異様に開けて新しい世界が見えると聞いたことがあるけど、そんなもんじゃない気がする。

 その俺とミクスさんに従うように、アレスト興業舎所属のフクロオオカミたちが並んでいた。

 全員、警備班が考案したとかいう警備隊の制服に似せた上着を着けている。

 郵便班やサーカス班のフクロオオカミもお揃いだ。

 最初見たときは、何か大昔のアニメみたいで吹き出しかけたけどね。

 ほら、山○ズミロッキー何とかとかで、動物が上着だけ着ているキャラデザインがあったじゃない?

 下半身丸出しで。

 リアルであれ見ると、実に笑える。

 本人たちはとても気に入っているらしいので、俺も人前では笑わないようにしているけど。

 フクロオオカミの後ろには、冒険者や山男さんたちがバラバラに立っていた。

 この人たちは、整列なんか無理だから、誰も何も言わない。

 でも、山男さんたちはフクロオオカミに圧倒されて、みんな引きつった顔をしているな。

 『栄冠の空』所属の冒険者たちも、ちょっとびびっているようだった。

 そりゃそうだよね。

 体長3メートル強の野生動物がずらっと並んでるんだから。

 おまけに変な服を着た奴が、先頭のひときわでかいフクロオオカミに乗っているし。

 そう、俺はアレスト興業舎の野外作業服(上級職用)の上から教団のマントを被り、しかも首に赤いスカーフを巻いているのだ。

 どうみても、何かを激しく勘違いしている拗れた厨二。

 なんでこの歳になって、コスプレしなきゃならないのか。

 いや歳は関係ないかもしれないが、俺は断じてコスプレの趣味なんかないのに!

 さらに言えば、何のコスプレなのかすら判らん。

 痛いだけだ。

 そういう現実はとりあえず忘れることにして、俺は視線を戻した。

 俺の前には、ユマ閣下を先頭に騎士団員がずらっと並んでいる。

 こっちは見事な整列だ。

 法と秩序の専門家だからな。

「ヤジママコト近衛騎士。

 先行救助隊の指揮をお願いします」

 ユマ閣下が、よく通る声で言った。

「了解しました」

 俺は精一杯声を張り上げる。

 近衛騎士だから、司法官といえども命令じゃなくてお願いになるのか。

 実はさっき、ユマ閣下に正式に司法騎士を解任して貰った。

 だからもう、俺はユマ閣下の配下ではないのだ。

 なぜそうするのかというと、もちろん先方が司法当局や騎士団を拒絶しているらしいからだ。

 つまり、俺は近衛騎士兼アレスト興業舎の舎長代理として、この救出隊を率いることになっている。

 実際の指揮を執るのは『栄冠の空』の冒険者のリーダーで、俺はオブザーバーというか、くっついていくだけだ。

 アレスト興業舎の舎長代理として、フクロオオカミをまとめるという役目はあるけど、俺がそんなことしなくたってミクス三番長老がきっちりやってくれるから、まさしく用なしだ。

 それでも、付け焼き刃の近衛騎士という肩書きが使えるのだそうだ。

 ユマ閣下、ホントにあるもので何とかしようとするなあ。

 出来てしまいそうだから凄いけど。

 ノール司法補佐官の合図で、俺は怒鳴った。

「出発!」

 俺の仕事は、ここでおしまい。

 後はくっついていくだけだ。

 それも、俺はミクスさんに跨っているだけで歩くことすらしないけど。

 救助部隊は、一斉に動き始めた。

 といっても、まずは山男さんたちが獣道を辿り、その後から冒険者たちが続き、最後にフクロオオカミが一列になって登っていく。

 俺、というよりはミクスさんはどん尻だ。

 いや、さすがにミクスさんくらいでかいフクロオオカミが前にいると、視界が遮られたりして危険だからだそうで。

 ちなみに、難民達が座り込んでいる地点はあらかじめ確認してあるので、山男さんたちが知っているルートを辿るだけだそうである。

 フクロオオカミ達が登ったルートは、とてもじゃないけど人間が辿れるものではないらしく、そんな道を登っていったロッドさんって大したものだ。

 ミクスさんの話では、ほぼ垂直な壁を3メートルくらい飛び上がるような箇所もあったらしい。

 とんでもない話だ。

 その時同行しないで良かった。

 フクロオオカミの列が前を通り過ぎて、ついにミクスさんが動き出した。

 ミクスさんが小さく吼える。

「マコトさん、なるべく揺れないように歩きますので、力を抜いて私の背に寄りかかるようにして下さいね」

「はい。よろしくお願いします」

 俺は、言われた通りミクスさんの背中、というよりは首筋に密着した。

 モフモフを期待したのだが、どっちかというと針金の束にしがみついたような感触だった。

 その下には、鉄板のように堅いくせに躍動する筋肉がある。

 パネェな。

 フクロオオカミって、どれだけ強靱なんだ。

 こんな方たちとは、人類は絶対に敵対してはいかん。

 フクロオオカミ用の鞍は、馬の鞍と違って下半身が固定されている。

 出来るだけ安定するように出来ているのだが、それでも俺はゆっくり動くジェットコースターにしがみついているような気分になった。

 先は長いよね。

 こういう時は、頭を空っぽにしてただ漫然と過ごすのが正しい方法だ。

 ミクスさんは、黙々と登り続ける。

 俺の体重は、人間の成人男子の平均はあるんだけど、大丈夫なんだろうか。

 大丈夫なんだろうな。

 俺と同じくらいの体重のロッドさんを載せて、道なき道を踏破したらしいから。

 人が通れる山道なんか、散歩道のようなものだろう。

 駄目だ。

 そういうことは、今考えるべきではない。

 ていうか、考えるな。

 そのまま、何時間過ぎただろうか。

 いや、それくらいに感じたんだけど。

 しがみついているだけなのに、もう俺は疲労困憊だった。

 でも、ミクスさんは登り続けている。

 ということは、山男さんたちや冒険者の皆さんも登り続けているんだろう。

 フクロオオカミは言うに及ばず。

 こんなガテン系の仕事、嫌なのになあ。

 手が痺れてきたので、組み替えて痛みを何とか誤魔化しながら聞いてみた。

「あと、どれくらいでしょうか」

「まだ半分も来てませんね」

 無情。

 しかも、いつの間にか傾斜がきつくなっているような気がする。

 俺の姿勢が前傾しているのだ。

「坂、急になっていませんか」

「私たちが最初に登ったルートと比べたら、平地のようなものですね」

 さすが山男さんたち。

 じゃなくて、フクロオオカミたちは、多分山腹を直線で突っ切ったんだろうな。

 傾斜もこんなもんじゃなかっただろう。

 凄いもんだなあ。

 俺は、再び「無」を目指した。

 何度か悟ったような気がしたが、手の痺れに加えて股が痛み出し、さらに両足にも激痛が走るようになった頃、ようやくミクスさんが止まった。

 気がつくと、地面が水平になっている、気がする。

「着きました」

 ミクスさんが言ってくれたが、俺はミクスさんの背中で身体を起こすのが精一杯だった。

 あかん。

 俺はもう、駄目かもしれん。

「ヤジママコト舎長代理!

 お待ちしていました」

 声がするので見下ろすと、ロッドさんが立っていた。

 ここが目的地か。

 周囲は、傾斜はあるけどそれなりに開けた場所で、木がポツポツと生えているだけの荒れ地だ。

 そして、そこら中に人がいた。

 所々に塊のような集団がいる。

 あちこちで火が炊かれていて、暖をとっているようだ。

 振り返ると、フクロオオカミの群がミクスさんの後ろに並んでいる。

 その後ろに山男さんたちと冒険者達が立っていて、つまり俺はミクスさんに乗ったまま、先頭に立って難民達に向き合っている恰好だった。

 と、難民の中から一人の男が進み出た。

 元は立派だったと思われる泥だらけの軍服らしき服を纏い、腰には剣を履いている。

 髭面なのでよく判らないが、まだ若そうだった。

 歳の頃は30くらいだろうか。

 鍛え上げられた体躯と鋭い眼光で、ホトウさんといい勝負に思える。

 怖いよ!

「ヤジママコトか?」

 何て答えればいい?

 いや、正直が一番。

 どうせ魔素翻訳だ。

「そうだ」

「証拠は?」

 疲労で頭がうまく回らないかと思ったけど、口が勝手に話してくれた。

「ロッドが私を呼んだのを聞いただろう」

「そんなものは、何とでも言える」

 それはそうだよね。

 俺は、ミクスさんの背中を叩いた。

 ミクスさんがすぐに寝そべってくれたので、俺は死にものぐるいで足を動かして鞍から下りる。

 膝が崩れかけた。

 まずい。

 座り込みそうだ。

 足を僅かでも曲げたら最後だ。

 従って、膝を真っ直ぐに伸ばし続ける必要がある。

 股が痛え。

 バランスを崩さないようにゆっくり動き、気をつけの姿勢で直立する。

 顔に出さないようにして、男を見た。

「これなら、納得してくれるか」

 多分、当たりだと思うんだ。

 肩から教団のマントを外して目の前に男に差し出すと、その男は震える手でマントを握りしめた。

「僧正様」

「ラヤ僧正様から預かってきた」

 すると、難民の誰かが叫んだ。

「王国の近衛騎士?」

「騎士様か?」

 首のネッカチーフに気づいたか。

 それはどうでもいいと思うんだけどね。

 ノールさんが、どうしても着けていけというから。

 ロッドさんが、自慢するように声を張り上げた。

「ソラージュ王国、ララネル公爵家近衛騎士、アレスト興業舎舎長代理、ヤジママコト殿!」

 厨二だ。

 やめてくれ!

 突然、ミクスさんを含めたフクロオオカミが一斉に吼えた。

「マコトの兄貴!」

「マコトさんの兄貴!」

「兄貴バンザイ!」

 止めろ!

 これ以上、厨二を拗らすんじゃない!

 振り返って睨み付けたら、みんな一斉に黙って腹ばいになった。

 体長3メートルだからね。

 それだけで、地響きと埃だ。

 あいかわらず、俺の言うことは過剰に聞くなあ。

 前にツォルに言った、いいかげんな話を守っているらしい。

 上司には絶対服従ってか。

 ざっと音がして、驚いて頭を戻したら、先頭の男を含めた難民が全員、跪いて頭を下げていた。

「元帝国中央護衛隊従士長、ハマオル以下127名。

 ヤジママコト王国近衛騎士の指示に従います」

 だーかーらー、そういうのは止めて。

狼騎士(ウルフライダー)だ!」

 マジで厨二かよ!

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