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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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15.発見?

 結局、フクロオオカミの第一陣が帰ってきたのは、日が暮れてからだった。

 山脈の西に向かった連中で、そっち側は物凄い角度の崖が続いていて、アルプスアイベックスでもなければ下りてこられないらしい。

 だから、フクロオオカミ斥候たちは山裾をずっと回ってきたのだが、何の痕跡も無かったそうだ。

 空振り覚悟の斥候なので、これは仕方がない。

 帰ってきたフクロオオカミを褒めてやると、連中は実に嬉しそうだった。

 遊びか何かだと勘違いしているのかもしれないけど、人間や馬では出来ない仕事だよね。

 これはユマ閣下を責められないな。

 俺だって、軍事利用を考えてしまったくらいだから。

 夜が更けても、騎士団の人たちはアレスト興業舎の作業部隊と協力して薪を集め、キャンプファイヤーを作ってフクロオオカミを待った。

 もちろん、俺も寝ずに待機だ。

 シルさんやホトウさんも、別に俺を諫めなかった。

 もっともホトウさんたちは、交代で寝ているみたいだったけど。

 それはそうだ。

 何が起こるか判らないんだから、冒険者は休める時に休んでおく必要がある。

 俺?

 冒険者じゃないからね。

 それに、ここでキャンプしている以上、おそらく後でゆっくり休める時間はあると踏んでいる。

 だって、こういう仕事の基本は「待ち」なんだよ。

 俺なんか、そもそも仕事自体がないし。

 そう考えて待っていたんだけど、結局最後のフクロオオカミが帰ってきたのは、真夜中になってからだった。

 そして、そのフクロオオカミが朗報をもたらしてくれた。

 目標を発見。

 担当者は奇しくもサーカス班のツォルとナムス組だった。

 さすが問題児だけあって、ツォルはナムスが止めるのも聞かずにひたすら山を登り、ついには尾根にまで到達してしまったらしい。

 そして発見した。

 ノール司法補佐官に呼ばれて、俺とシルさんも報告に立ち会った。

 ユマ閣下もいる。

「発見場所は分水嶺付近。

 人数は、およそ百名。大半が女子供で、疲労困憊して座り込んでいた。

 男たちは武器を所持。

 それ以外の荷物は少なく、食料や水が不足している模様」

 念のために、ツォルとナムス【フクロオオカミ】から別々に報告を受けた後、ノール司法補佐官はふむ、と考え込んだ。

 帝国との国境は山脈の尾根だと聞いている。

 つまり、国境侵犯したかどうかは微妙なところだ。

 ここは、俺たちが口を出すべきじゃないな。

 ユマ閣下も黙っている。

「その者達は、自力で下りてこられそうか」

 ボウバウッ!

「無理っス。しばらく見てたけど、動きが無かったっス」

「それは、夜だからではないのか」

「だとしても、あまり早くは動けないように見えたっス」

「おそらく、下りてこられるとしても、人間の足では数日はかかるでしょうね」

 駄目か。

 ほっといたら、間違いなく全滅するだろうな。

 少なくとも女子供は。

 ノール司法補佐官は、フクロオオカミ達にご苦労だった、と声を掛けてユマ閣下と一緒に司法官の馬車に向かった。

 まあ、どっちにしても夜が明けるまでは動きようがないからな。

「マコトさんの兄貴!」

「ツォル、ナムス。よくやったな」

 俺が声を掛けると、案の定ツォルの奴がじゃれついてきた。

 でも疲れているのか、動きがいつもより鈍かったので余裕で避ける。

「兄貴! ひどいっスよ」

「じゃれつくのは止めろと言っているだろう!

 お前は重すぎる!

 それに、臭いがついて大変なんだよ!」

 さらに飛びかかろうとしてくるツォルを、ナムスが身体を張って止めてくれた。

 よくやった。

 後で何か特別ボーナスを出さないと。

「今日はもう休め。無理するんじゃないぞ。

 帰ったらバーベキューだ」

「いやっほう!」

 単純な奴で良かった。

 ナムスが蔑むような目つきでツォルを見ていた。

 まあ、ほどほどにね。

 ツォルとナムスが他のフクロオオカミの所に行くのを見てから、俺も自分用のテントに戻った。

 アレスト興業舎でもテントを持ってきていて、俺用の小さなテントはその真ん中にあった。

 誰かが張っておいてくれたんだろう。

 助かる。

 みんなには悪いけど、俺って別にアウトドア派じゃないし、野宿とかは御免だからね。

 疲れていたのですぐに眠って起きたら、もうキャンプは大車輪で活動していた。

 夜明けとともにノール司法補佐官、というよりはもう司令官の命令が下ったらしい。

 水は貴重なので塗らしたタオルで顔を拭いていると、シルさんが来た。

「おはよう、マコト。

 早速だが、ユマから話しがあるそうだ」

「司法官からですか」

 嫌だなあ。

 いや、別に嫌いとかじゃないけど、苦手なんだよね。

 ハスィー様やラナエ嬢とは、また違ったプレッシャーを感じるのだ。

 実際にも、司法官という権力者だし。

 下手打ってアレスト興業舎に悪影響が出てしまったら、みんなに申し訳がたたない。

「いつまでも避けられるもんでもないだろう。

 覚悟して行ってこい。

 私が付いていってやるから」

 シルさん、ありがたいです。

 シルさんがいなかったら、俺は駄目かもしれません。

「そんなことはないだろう。

 どこで何していても、誰と会ってもマコトはマコトだよ」

 シルさんが、珍しく照れているようだ。

 一応、身支度を調えてから司法官の馬車に向かった。

 馬車の前には、ユマ司法官閣下とノール司法補佐官、そしてロッドさんがいた。

「おはようございます」

 ユマ閣下に挨拶すると、閣下は何も言わずに頷いた。

 まだ堅いな。

 俺はもう、そうでもないんだけど。

 一晩寝たら、軽くなった。

 まあ、実際にフクロオオカミを軍事利用しようとしたわけでもないしな。

「閣下」

 俺たちがユマ閣下の前に立つと、ノール司法補佐官が促すように声をかけた。

「マコトさん。お願いがあります」

 ほら来た。

 何かとてつもなく嫌なことくさいな。

 しかも、避けられそうにない。

 身構えた俺に苦笑して、ユマ閣下は続けた。

「結論から言いますと、アレスト市司法官および騎士団は避難民の救出に動くことになります。

 ただし、現場は峻険な山中であり、騎士団が所有する馬車や馬では到達できません。

 また、徒歩による救助隊が迅速に到達することも不可能です」

 判ってますよ。

 フクロオオカミでしょう。

 賛成です。というよりは、それなら是非やらせていただきたいと思います。

 そう言おうとしたら、ユマ閣下は遮るように続けた。

「具体的には、もちろん騎士団およびアレスト興業舎の要員が救助に向かいますが、フクロオオカミの報告によれば避難民はすでにかなり危険な状態にあるということです。

 救助に赴いても、間に合わない可能性があります。

 従って、作戦としてはまずフクロオオカミが救難物質を背負って先行し、時間を稼ぎます。

 その間に救助隊本隊が急行することになります」

「フクロオオカミの救急援助隊はすでに用意を完了しています!

 命令があり次第、出発できます!」

 ロッドさんが口を挟んだ。

 越権行為かと思ったけど、ノール司法補佐官は何も言わない。

 ユマ閣下も、何事もなかったかのように続けた。

「ですが、フクロオオカミだけでは当然のことながら誤解されます。

 まず間違いなく、避難民から攻撃されるでしょう。

 そうなったら救助どころではありません。

 従って、どうしても人間が同行する必要があります。

 現時点では、人間を乗せて尾根まで登れるフクロオオカミが一名しかいないことと、またフクロオオカミに騎乗できる人間も限られていることから、ロッド正騎士がその任にあたります」

 いいんじゃないですか。

 ミクスさんなら、ロッドさんを乗せて尾根までいけるだろうし。

 ロッドさんはやる気満々だし。

 俺に断る必要もないでしょう。

「つまり、これは騎士団の作戦になります。

 よってマコトさん、あなたには近衛騎士の叙任を受けていただきたいのです」

 な、なんだってーっ!

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