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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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14.駐留?

 フクロオオカミが帰ってこないうちに、山脈が近づいてきた。

 そろそろ山の裾野にさしかかるんだけど、ここから見えるだけでも切り立った崖とかが凄い。こんなところに填り込んだら、軍隊でも遭難しそうだ。

 難民の人たちも、せめて家族連れでなければいいんだけど。

 そうこうしているうちにノール指揮官の号令がかかり、全隊は停止した。

 ここにキャンプを設営するらしい。

 何も遮る物がないだだっ広い場所なので不用心かと思ったけど、かえって安全だそうだ。

 いや、夜なんかこっそり近寄ってこられたら、危ないんじゃないの?

「フクロオオカミがいるから大丈夫だよ。何かが接近してきたら、何キロ先からでも判ると言っている」

 ホトウさんが説明してくれた。

 そういえば、フクロオオカミが全員斥候に出たわけではないんだった。

 三番長老のミクスさんの他にも、若いフクロオオカミが2頭【人】残ってくれている。

 これって、ユマ閣下じゃないけれど、こっちの世界の軍事常識を変えてしまえるかもな。

 索敵や状況把握がメチャクチャ楽になるだろうし、機動力もハンパじゃなくなる。

 でも駄目だ。

 いくら直接戦わなくても、フクロオオカミが役に立つと判れば、敵はそこを狙ってくる。

 「目」を潰すのは、軍事的常識だからね。

 やっぱ、今後はこういった仕事は断ろう。

 今回はもう、仕方がないから出来るだけ協力するとして、今後は救助とか行方不明者の捜索とかに特化した仕事だけを受けるようにすればいいかも。

 そんな仕事ばかりが都合よくあるとも思えないが、とにかく軍事方面で活躍するのは絶対駄目だ。

 これは、ミクス三番長老【フクロオオカミ】にも言っておかないとな。

 まあ、人間並みに頭が切れるとしたら、フクロオオカミ側もそう簡単に司法官の口車に乗るとも思えないけどね。

 俺がぼやっと考えている間にも、騎士さんたちやアレスト興業舎の作業員が、引いてきた馬車から荷物を下ろしている。

 テントがいくつか張られ、物資が納められた他、司法官の馬車を中心にして簡易型のテントハウスが建てられた。

 呆れるほど手際がいい。

 騎士って検事であると同時に災害対策要員だと聞いていたけど、そのせいかこういう野外活動は凄いというか慣れているな。

 犯罪者の捕縛や対応ももちろんやるのだろうけど、万一の場合は魔王災害の被災者などを救助したりすることも任務のうちだからだろう。

 それだけ考えたら、俺のフクロオオカミ活用方法に近いんだけどなあ。

 ユマ閣下は司法官というよりは戦略家、軍師だから、どうしても軍事方面に考えてしまうんだろうな。

 止めてくれよ。

 こっちを巻き込まないで欲しい。

 俺はともかく、ツォルたちを利用しようとするのは許せないんだよ。

「マコト、呼んでいるみたいだよ」

 ホトウさんに言われて、俺は初めて騎士さんの一人がそばに立っているのに気がついた。

「ヤジママコトさん」

「はあ」

「ノール司法補佐官殿がお呼びです」

 それだけかよ。

 役人って奴は。

「マコト、私がついていってやるから、会ってこい」

 シルさんが言ってくれた。

「いいんだろう? マコト一人で来いとは言われてないんだよな?」

 騎士さんは、一瞬躊躇ったがすぐに頷いた。

「問題ない」

「よおし、ホトウ、ちょっと行ってくる」

 ホトウさんは、軽く手を上げた。

 それだけ?

「マコト、行くぞ」

 いいのかなあ。

 とはいえ、お役人に逆らってもいいことはない。

 俺は渋々、騎士さんに従った。

 ノール司法補佐官は、司法官の馬車から離れたテントにいた。

 小さな机が持ち込まれていて、地図らしい紙が載っている。

「ヤジママコトさんをご案内しました」

「ご苦労」

 ノール司法補佐官、ええいもういいや、ノールさんが顔も上げずに答えると、騎士は敬礼をして去っていった。

 凄いな、この規律。

 今の騎士さんも、こんな長距離行軍の後なのに、どうやったのか騎士服をピシッと着こなしているし。

 アレスト興業舎とは正反対だ。

 ロッドさん自ら、ボロ服でうろつき回っているくらいだからな。

「ヤジママコトです。何かご用でしょうか」

 正直、ビビッているんだよ。

 これほどの男を前にして、平静でいられるわけがないだろう。

 後ろにシルさんが控えてくれてるにしても、怖い物は怖い。

 これからフクロオオカミを前衛に出すから協力しろと言われても、今なら頷いてしまうかもしれない。

「忙しいところを申し訳ない。

 フクロオオカミの帰還が遅れているので、とりあえず今後の対応を知らせておきたかっただけだ」

 ずいぶん、軟らかい声だった。

 部下の騎士たちに投げかける言葉とは大違いだ。内容もそうだけど、音量やトーンが全然違うんだよね。

 プロだ。

 これほどの人は、悪いけど俺の会社にはいなかったな。

 社長はもちろん、重役たちもへらへらしているようなのばっかで、こっちに来たら一発で伸びてしまいそうだ。

 だが、俺がここで伸びるわけにはいかない。

 伸びたらおしまいだからな。

「ありがとうございます」

「アレスト興業舎とは、今後とも協力していきたいと考えている。

 連携は取れるだけとっておくべきだろう」

 なんか、ジワリと攻められた気がした。

 それはそうだろうな。

 ノール司法補佐官の上司であるユマ閣下とは、ちょっと行き違って、俺が逃げた恰好だ。

 ここらで太い釘を刺しておくのは部下として当然と言える。

「そうですね。フクロオオカミの運用については、こちらもまだ五里霧中です。

 無理のない運用を行う必要がありますから」

「……我々は、とりあえずここでフクロオオカミ斥候の帰還を待つことになる。

 その報告次第で対応が変わってくるわけだが、一つ聞いておきたい。

 フクロオオカミ、およびアレスト興業舎は現状の運用状況をどれくらい継続できる?」

 そうきたか。

 確かに、これは俺じゃないと答えられない質問だ。

 ロッドさんに聞けばフクロオオカミ関係は判るだろうが、アレスト興業舎としての対応はここにおけるトップの決断にかかってくるからな。

 そのトップとは俺だ。

 ユマ閣下は、これを見越して俺を引っ張ってきたのか?

 それほど単純な話じゃない気もするけど。

 まあいい。

 一つ一つ片付けていこう。

「アレスト興業舎としての判断は、この事態が収束するまでお付き合いするということになります。

 実際の対応は、シル業務部長から」

「フクロオオカミにとっては、どれだけ長期化しようが大した問題ではない。

 もともと野生動物で、この程度は日常生活のうちだ。

 補給物資は、とりあえず2日分を携行している。我々の後から追加の物資を載せた馬車を送るよう指示して来たから、取り消さない限りは継続する。

 つまり、現時点では舎長代理の意志通り対処できる。

 あまり長期化するようなら、要員の交代が必要になるが」

 シルさん、堂々としたものだ。

 相手が司法補佐官なのに、まったく臆していない。

 来て貰えて良かった。

 やっぱ、こういう人になりたいよね。

 多分俺には無理だろうけど。

「了解した。

 ちなみに、騎士団はこの作戦を1週間程度で完了すると見積もっている。

 それ以上になるようなら、補充や交代も考慮に入れることになる」

 つまり、終わるまで止めるつもりはないということか。

 それはそうだ。

 問題が解決しないうちに引き上げてどうする。

 この辺りが役人の辛いところだな。

 駄目でした、では終わらないのだ。

「以上だ」

 物凄く簡潔に、ノール司法補佐官の話は終わった。

 それきり手元の書類に目を落としてしまったので、俺とシルさんは無言でテントを出て引き上げた。

 ビジネスライク過ぎるけど、役人なんかあんなもんだろうな。

 いや、ノールさんの場合は役人というよりは軍人か。

 これ以上、カカワリアイになりたくないなあ。

 早く終わって欲しいよね。

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