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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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11.親睦?

 ユマ閣下は、ゆったりと落ち着かれているようだった。

 出発の前に何か演説でもするのかと思ったけど、それはないみたいだ。

 その代わり、ノール司法補佐官が整列した騎士たちに何か号令していた。

 かなり遠いので魔素翻訳が働かず、何を言っているのかわからない。

 それでも、聞いているだけで背中がしゃきっとしてくるような鋭い口調である。

「私のような小娘が何か言うより、こういうことはノールが適任です。

 そもそも私は何かあった時に責任を取るために同行するのであって、部隊の指揮をとるつもりはありません。

 というよりは、無理です」

 ユマ閣下は、実に気さくだった。

 本当に公爵令嬢なのだろうか。

 どうも、俺が出会ったお姫様達ってラノベから出てきたような性格の人が多いな。

 というよりは、そればっかだったりして。

 特に帝国皇女なんか、厨ニに特化したラノベのキャラみたいだ。

 その皇女様も同行しているんだろうな。

 馬車の窓から外を見ると、ちょうどシルさんが通り過ぎるところだった。

 俺に気づいてニッと笑いかけてくる。

 馬に乗れるんだ。

 いや、帝国の近衛隊とかで訓練を受けたそうだから、当たり前か。

 ホトウさんたち『ハヤブサ』の姿もあった。

 みんな徒歩だ。

 冒険者は馬には乗らないんだろうな。

 しかし、歩きで馬についてこれるのだろうか。

「この時点では、あまり急いでも仕方ありません」

 ユマ閣下が言った。

 この人もテレパスか。

「なぜでしょうか」

「現時点では、騎士団は目標を見失ったままですので、大まかな方向しか判っていません。

 それでも、最後に目撃された場所と時刻から、大体の推定位置は特定できていますから、とりあえずそちらに向かっています」

 そうなのか。

 部隊の戦術行動なんか、俺は知らないからね。

 何せ、そういうゲームはほとんどやったことがないのだ。

 美少女を口説く奴とか、麻雀くらいしか経験がない。

 戦略ゲームの経験はゼロなんだよ。

 ラノベには、そういう実際の軍隊の動きなんか出てこないしな。

 いや、出てくるラノベもあるんだけど、そこら辺はよく判らないのでいつも読み飛ばしていたし。

 大体、ラノベって軍隊を出しても結局は主人公個人の行動をトレースするだけだから、あまり軍隊全体の動きは出てこないのだ。

 まして、ラノベで出てくる軍隊は魔法を装備していることが多いし。

 大魔法で相手を吹き飛ばしたり、偵察も出さずに敵の位置や戦力が判ったりするような話では、残念ながら今の状況の参考にはならないだろう。

「すると、当分はこのまま行くわけですか」

「山脈からある程度の距離までは、各地に分散している騎士団を糾合しつつ、標準速度で進みます。

 どちみち、今は補給物資を一緒に運んでいますから、あまり速度を出せないんです。

 尾根が望める地点にベースキャンプを作って、そこを拠点として捜索を行います」

 なるほど。

 つまり、帝国の反乱集団が今いる位置が不明であると。

 でも、どっちにしてもその連中は、いつかは山を下りてくるわけだ。

 だからその場所で待ちかまえて、一網打尽にするという作戦か。

「ベースキャンプの位置はどうやって決めるのですか」

「山脈を越えても、どこにでも行けるわけではありません。地形からして、どうしてもそこを通らなければ平野に出られない、という場所が何カ所かあります。

 斥候の報告を受けて、それらのうちのどの地点にするか決めます」

 凄い。

 ラナエ嬢が言っていたっけ。

 ユマ閣下は、学校時代は机上演習や戦略ゲームでは無敵だったと。

 指揮官でありながら、作戦参謀というわけか。

「というのが、軍事素人の小娘の机上の空論です」

 いきなり、ユマ閣下が悪戯っぽく笑った。

「今言ったようなことをノールに話しましたが、どうするかはノール次第ですね。

 頭の中で描いた絵と、実際の状況はまったく違いますから」

 だから私は引っ込んで、全部ノールに任せているんですよ、とユマ閣下は言ってまた笑った。

 何とも魅力的というか。

 実に居心地が悪い。

 だって、相手は司法官閣下なんだよ?

 日本で言ったら、住んでいる市の警察署長とか地方検事とか、そのレベルの人だ。

 しかも公爵令嬢にして公爵名代。どっかの政治家の娘、それも奥様代行を勤めるレベルの要人のようなものだ。

 そんな人に親しげにされて、庶民の俺が落ち着いて返せるわけがないだろう?

「そんなに構えないで下さい。ハスィーやラナエが居ないところで、是非マコトさんと親睦を深めたかっただけなのですから」

 何言ってるの、このお姫様は!

「私などと親睦を深めても仕方がないと思いますが」

「そうでしょうか。現時点でも、ギルドが多大な予算を投入して進めている大規模事業の事実上のトップで、しかもブレーンとして『学校』出身者の貴族令嬢たちや、帝国皇女まで周りに置いている。

 そんな人を、司法官が無視できると思いますか?」

 そうなのか?

 それは、色々と誤解が重なった結果であって、そもそもハスィー様の野望(違)から始まった騒動なんだよ。

 俺自身は全然大したことがない、というか何もしてないし。

「マコトさん個人の見解はともかく、周囲の評価はそういうことになるのですよ。

 まあ、どんなに状況が変化しても態度を変えないマコトさんも、実に好ましいですけれどね」

 俺は、どっちかというと怖いね。

 魅力的な女の子(多分、ユマ閣下もハスィー様やラナエ嬢と同年代だろう)からこんなこと言われたら、舞い上がってしまいそうだけど、俺は疑り深いのだ。

 これまでに、人間関係では散々辛酸を舐めているからな。

 美人がおべんちゃらを言う時は、絶対何か目的がある。

「ふうん。これは困りましたね。むしろ警戒されてしまいましたか」

 ユマ閣下、いちいち内心を声に出さないで下さい!

 そういうの、本当に怖いんですから!

 俺が戦々恐々としていると、ユマ閣下は下を向いてブツブツ呟いたかと思うとパンと手を打った。

「では、今回の状況について説明しましょう」

 突然何だ?

「いえ、マコトさん個人のことには触れて欲しくないようなので、今回の事案の背景と、これからの作戦行動についてお話ししようと。

 いかがですか?」

「それは、ありがたいです」

 とりあえず、親睦がどうのという話題から離れてくれるのは嬉しい。

 というよりは助かる。

 それに、俺には未だに何がどうなっているのか、よく判っていないからな。

 司法官閣下が説明してくれるというのなら、聞きましょうとも。

 ユマ閣下はにっこり笑うと、嬉々として話し始めた。

 畜生、凄く可愛いではないか。

 俺には経験がないが、例えば高校の教室とかで、クラス一の美少女が自分の趣味について説明してくれているようなものだ。

 やっぱ、ユマ閣下も女の子なんだよなあ。

 でもただの女の子じゃない。

 度胸も頭脳もあるし、人に任せるべきところでは引っ込んでいるという処世術も身につけている。

 そもそも、支配層の技能というか、人を扱う術に長けていらっしゃる。

 これはハスィー様やラナエ嬢にも共通している資質で、そういう訓練も受けているのかもしれない。

 あるいは血統か?

 でもこの国、大丈夫なの?

 こんなのをほっといたら、知らないうちに国ごと若い女性たちに乗っ取られてしまいかねないぞ?

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