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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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10.出陣?

 翌朝出勤すると、アレスト興業舎の庭はフクロオオカミと人でごった返していた。

 馬車も大量にある。

 何でこんなに、と思っていると、ホトウさんが俺に気づいてくれた。

「マコト。急いで。もうすぐ司法官の馬車が来るみたいだから」

「急ぐって、何をですか」

「着替えだよ。マコトの服はもう用意してあるはずだから」

 また服か。

 ホトウさんに言われた通りに舎長室に行くと、ソラルちゃんが待っていた。

「マコトさん、すみませんが急いでこれに着替えてください。靴も揃えておきましたから」

「何なの、この服は」

「アレスト興業舎の野外制服です。マコトさんのは指揮官用ですね。下着類の換えは持ってこられましたか?」

「いや、ない」

「では、この制服の予備と一緒にこちらで用意しておきますので。

 急いで下さいね」

 それだけ言うと、ソラルちゃんは去っていってしまった。

 さすが俺の秘書。

 俺の知らないうちに、色々と用意しているようだ。やっぱり俺、いらないんじゃ。

 というより、俺の似顔絵を貼り付けた案山子でも置いておけば間に合いそう。

 しかし、いつの間に制服なんか用意したのか。

 そういえば、シルさんがアレスト興業舎独自の私兵が欲しいとか言っていたしな。

 ホトウズブートキャンプ出身の元悪ガキ連がそうなんだろうと思っていたが、兵というからには揃いの制服が必要だ。

 つまり、そういうものを作ったんだろう。

 それにしても、指揮官用か。

 ギルドの臨時職員になった時のことを思い出すなあ。あの時は一日警察署長服で恥ずかしかった。

 着替えてみると、意外にも地味でほっとした。

 深緑の地で、黒い糸の刺繍がついている。

 それ以外はシンプルで、儀礼服ではないようだ。

 そういえば野外服とか言っていたっけ。

 作業服、もしくは戦闘服のたぐいだろうか。

 ギルドと違って、アレスト興業舎は現場仕事が主だから、機能的で動きやすくて目立たないデザインになっているのかもしれない。

 それでも、こっちの世界ではまだ既製服がないから、全部オーダーメイドである。

 相当金がかかっているはずだ。

 よくそんな金があるものだ。

 本当にギルドが出しているのか?

 前から思っていたけど、アレスト興業舎って予算申請が簡単に通ってしまうんだよね。

 俺なんか、課長に言われて何度も稟議書書いたけど、一度で通ったことなんかなかったもんなあ。

 仕事に必要だと言っているのに、上の方で難癖つける奴が必ずいて。

 まあいい。

 ここは日本じゃないし、俺の会社でもない。

 そんな心配は、ハスィー様やラナエ嬢に任せておけばいいことだ。

 俺は、とりあえず司法官の命令を遂行しなければ。

 まあ、ついていくだけだけど。

 本当に馬車に乗せてくれるんだろうな。

 実は馬だった、とか嫌だぞ。

 そういえば、何も考えずに手ぶらで来てしまったけど、ひょっとしたらこのクエストって長期なんじゃないのか。

 山の中に行くと言っていたし、難民集団を追うのなら街や街道はむしろ避けるだろうから、道なき道を踏破することになったりして。

 しかも、多分解決するまでは終わらない。

 長期遠征になってしまう。

 それで、こんなに大騒ぎになっているのか。

 どうしよう。

 悩みながら庭に出てみると、ちょうど門から立派な馬車が入ってくるところだった。

 四頭立ての巨大な馬車だ。

 その後から、少し小型の馬車が続いている。

 さらに、騎馬の騎士が数名。これは護衛だろうな。

 やっぱ大事だ。

「マコトさん、こちらです」

 ラナエ嬢が呼んでいるので行ってみると、俺を上から下まで眺めたあげく、まあまあいいでしょう、とおっしゃった。

 そこに、シイル配下らしい子供達が二人がかりで大きなバッグを運んでくる。

「装備と荷物は用意しておきました。

 何日かかるか判りませんので、とりあえず3日分の着替えと予備の制服です。

 もっと長期化するようでしたら、後で届けさせます」

「はあ」

 至り尽くせりだな、おい。

 長期化するのは判っていたのか。

 知らなかったのは、俺だけだったらしい。

「それから」

 ラナエ嬢は、俺の正面に立つと手を伸ばして襟を直しながら小さく言った。

「マコトさんの護衛として、『ハヤブサ』をつけます。シル部長とロッド班長も同行するので、問題ないと思われますが、万が一の場合はご自分の身を第一にお守りください。

 最悪の場合でも、マコトさんだけは無事で帰還するように」

 ぞっとした。

 そこまでのことなのか!

 舐めていた。

 考えてみれば、これから赴くのは戦場といってもいいんだぞ。

 他国の、それも血の味を覚えた武装集団が相手なのだ。

 どうしよう。

 手が震えてきた。

「大丈夫です」

 俺の口が、勝手に言っていた。

「無理はしません。それに、司法官閣下がご一緒なんですよ。そばを離れないでいる限り、ひょっとしたらアレスト市にいるより安全かもしれません」

 笑いながら言うんじゃない、俺。

「……そうですわね」

 ラナエ嬢も笑ってくれた。

 やせ我慢が役に立ったか?

 でも、今更逃げられないんだから、ハッタリを効かせるしかないだろう?

「マコトさん」

 何と、ハスィー様がいらっしゃる!

 わざわざ来て下さったのか。

 まあ、アレスト興業舎始まって以来の大規模案件だからな。

 総力戦といっていい。

 これで失敗したら、アレスト興業舎は下手すると潰れはしないまでも、かなりの苦境に陥りそうだ。

「ハスィー様、大丈夫です。

 初仕事、利益をあげてみせますよ」

 実際には、前にラナエ嬢がギルドからパーティ企画を請け負ったから、アレスト興業舎の仕事としては初じゃないんだけど。

 でも、俺の仕事としては初だからね。

「……ご無理はなさらないで下さいね」

「はい」

 いいなあ。

 こんな絶世の美女に木綿のハンカチーフを振って貰えるなんて、日本だったら有り得なかったな。

 いや違う!

 真っ赤なスカーフだよ!

 木綿のハンカチ振られたら、お別れになってしまうじゃないか!

 危ないところだった。

 まあ、いずれにしても我が異世界サラリーマン人生、ここに成れりというところか。

 まだ始めてから数ヶ月しかたってないんだけど。

 日本でも、1年ちょっとしかやれなかったし。

 こんなところで終わって堪るか。

「ヤジママコト殿。こちらへ」

 何と、ノール司法補佐官が御自らやってきた。

 いや、いくら俺だって、こんな凄い人なら男でも一発で覚えるって。

「了解です」

 ハスィー様とラナエ嬢に軽く頭を下げて、ノール司法補佐官に続く。

 お二人は居残りだ。

 これは当然だけどね。

 でも、事業部門は総力戦だ。

 『ハヤブサ』やロッドさん以下の郵便班はもちろん、護衛班やサーカス班からも人が出ているようだ。

 フクロオオカミは全員参加で、従ってその世話係というか仕事仲間の子供達も大勢が出るらしい。

 もっともまだ小さくて体力がない子供は除外されていると思うけど、シイルが子供達を指揮しているのが見えたので、年長組は全員かもしれないな。

 あ、そういえばジェイルくんは残るようだ。

 まあ、みんな出払ってしまったらアレスト興業舎が停止してしまうからね。

 司法官の馬車の前には、煌びやかな上下に身を包んだユマ閣下がいた。

 こっちは野外服といっても、活動的ながら騎士服に近い派手な衣装だ。

 司法官こそ「私はここにいる」もしくは「我は来た」をアピールしなければならない立場だからな。

 目立ってナンボだろう。

「マコトさん。おはようございます」

「おはようございます、ユマ閣下」

 そういえば、ユマ閣下の呼び名ってこれでいいのだろうか。

 名前を呼んだのは初めてという気がするけど、失礼だったか?

 ララネル公爵家名代、とか言わなければならなかったのかも。

 幸いにもユマ閣下もノール司法補佐官も何も言わなかった。

 見逃して貰えたらしい。

 ユマ閣下が馬車に乗り込む。

 俺は、持っていた荷物を御者の人に渡してから、ユマ閣下に続いた。

 中には持ち込めないみたいだしね。

 馬車の中は、かなり広かった。

 前に、ハスィー様や教団のラヤ僧正猊下と一緒にギルドの儀礼用馬車に乗ったことがあるが、あれは4人乗るのがやっとで、しかも座っているしかなかったな。

 でも司法官の馬車は、6人くらい乗れるようになっている上に、テーブルや書類棚まで備え付けてある。

 指揮機能や簡易法廷が造れるような装備があるのかもしれない。

 場合によっては、この馬車が遠隔地における裁判所になるのかも。

 ノール司法補佐官は、軽くユマ閣下に敬礼すると、ピシッとした姿勢で去った。

 あの人、司法補佐官と言っているけど、どうみても現役の騎士だよね。

 それも、裁判の資料を集めたり、街を見回ったりするんじゃなくて、戦闘指揮や統治もこなせる本物の騎士だ。

 本人の戦闘力も相当なものだろう。

 ユマ閣下の護衛も兼ねているんだろうな。

「ノールは、近衛騎士です」

 不意に耳元で囁かれた。

 ぎくっとして振り向くと、ユマ閣下が悪戯っぽく笑っていた。

「ララネル公爵領から、司法省に出向していて、現在は私の司法補佐官を務めて頂いています。

 王都では闘技会などで名の知れた騎士ですが、近衛騎士になる前はララネル公爵家の専属衛士でしたから、万一の場合もノールのそばにいれば安全です」

 いや、それはユマ閣下の話でしょ。

 俺なんか、絶対肉の楯くらいにしか思われてないよ!

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