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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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9.飛び込み契約?

 その後すぐ、ノール司法補佐官とロッドさんが呼ばれて、その場で説明が行われた。

 同時に、ラナエ嬢が契約条項をその場で作製して仮契約を求める。

 契約の特記事項としてフクロオオカミ非交戦規定が披露されると、ノール司法補佐官はちょっと眉を上げただけだったが、ロッドさんは興奮して何度も膝を叩いた。

「そうです! その通りです! フクロオオカミは、人間なんかの争いに巻き込まれるべきじゃない! 私たちは」

「ロッド正騎士。そこまででよろしい」

 ノールさんに言われてピタッと黙るあたり、ロッドさんも騎士なんだなあ。

 規律というか、上官には無条件で服従を叩き込まれているのだろう。

 嫌だねえ。

 しかし、だからこそ信用できると言える。

「ロッド正騎士にフクロオオカミの指揮を任せたいと思いますが、了承して頂けますか?」

 俺は疑り深いんだよ。

 現場が暴走してやってしまったあげく、後から誠に遺憾でした、の一言で済ませられたら堪らないからな。

 ロッドさんなら、司法官の命令に背いてでもフクロオオカミを守ってくれるはずだ。

 上司の、つまりアレスト興業舎の舎長代理である俺の命令があれば。

 ていうか、責任は俺がとるからそうしろと言っておかないと。

「こちらは異存ありません」

 ユマ閣下は言ってくれたが、すぐに続けた。

「こちら側の条件としては、ひとつあります」

「何でしょうか」

 ラナエ嬢、ナイス。

 俺は引っ込んでいよう。

 柄にもないことやって、精神的にへとへとだ。

 後は任せた。

「フクロオオカミ部隊の運用時に、マコトさんにも立ち会って頂きたいのです」

「……舎長代理は、騎士団の強行軍について行ける技能を有しておりませんが」

 そりゃそうだよね。

 だって乗馬だろ?

 フクロオオカミに至っては言うに及ばずだ。

 何、無茶振りしてくれるの。

「ご心配には及びません。部隊の展開時には、私も同行します。

 司法官専用の馬車がありますから、同乗して頂ければ」

 ああ、なるほどね。

 国境を突破してきた帝国の反乱軍残党を見つける。

 これは騎士団とフクロオオカミでも可能だ。

 だが、その後はどうする。

 いきなり戦闘が始まるようなことはないかもしれないが、騎士に制止されたくらいでは、暴走している集団は止まらないだろう。

 どうしても、ソラージュの権威をバックにした存在が出て行く必要がある。

 フクロオオカミとの協定の改定には、ハスィー様ご自身が立ち会わなければならなかったのと同じだ。

 ユマ閣下は、アレスト市の筆頭司法官であると同時に、ソラージュの公爵名代でもある。

 これだけの権威を持ち出されたら、どんな集団でもとりあえず立ち止まって交渉せざるを得ないはずだ。

 だって、それを蹴ったら確実にソラージュ全体を敵に回すことになるんだから。

 でも、何で俺なんかを同行させようするんだ?

 このお姫様にして軍略家は?

「その必要がありますか?」

「ある、と申しておきます。理由については、今は明かせませんが」

 謎が多いなあ。

 そんな面倒そうな話に乗るのは嫌だよ。

 そもそも、俺はアウトドア向きじゃないんだ。

 フクロオオカミとの協定の時も、ハスィー様専用馬車に乗せられて、肉体的にはともかく精神的に消耗したからな。

 ラナエ嬢、断っていいから。

 というより、断って。

「承知しました」

 えええっ!

 なんで了解しちゃうの?

 自分が行くんじゃないから?

 そんな俺の無言の抗議は届かず、ラナエ嬢は淡々と契約書にその条項を付け加えたらしい。

 俺はまだ複雑な字は読めないから、よく判らないけれど。

 仕方がない。

 今回限りだからな。

 一刻を争うということで、その後俺たちはすぐに司法官事務所を辞して、アレスト興業舎に戻った。

 細かい指示や説明はシルさんとロッドさんに任せて、俺はラナエ嬢と一緒に舎長室に籠もって打ち合わせだ。

 アレナさんやマレさん、ソラルちゃんも呼ばれて、その場で正式な契約書が作製された。

 凄いよ、この人たち。

 全員女性で、まだ若いのにこの有能さ。

 しかもみんな美人だ。

 それは関係ないか。

 ラナエ嬢が書いた下書きを、アレナさんが清書し、それをマレさんがチェックする。

 ソラルちゃんは、俺の秘書としてそれを聞いていた。

 1時間くらいで、今回の飛び込み案件の契約書類が出来上がってしまった。

 その間、俺はぼやっとしていただけで、最後にサインして終わり。

 ラナエ嬢とマレさんが、その書類を持ってギルドのハスィー様に報告しに行くのを尻目に、俺は舎内を見回りに出てみた。

 だって、やることないんだよ。

 何か手伝いたいと思っても、その技量がない。

 事務が駄目なら現場と思ったけど、行ってみたらもう、みんなプロの仕事をしていた。

 俺も冒険者だったことがあるんだけどなあ。

 全然、ついていけない。

 手伝おうとしたら迷惑そうな顔をされたので、退散してフクロオオカミ・エリアに逃げ込む。

 ミクス三番長老が、ロッドさんと一緒に若いフクロオオカミに説明しているところだった。

 フクロオオカミが増えたなあ。

 十頭【人】だったっけ。

 随時増員するとか言っていたから、もっと増えるんだろうな。

 俺をほっといて、事態がどんどん進んでいるみたいだ。

 仕方なく、俺は舎長室に戻ってぼけっとしていた。

 うちの社長も、こんな気持ちになっていたんだろうか。

 一度経営側に回ってしまうと、自分で何かすることが出来なくなってしまうんだなあ。

 知らなかった。

 暇なのは嬉しいけど、暇すぎて嫌だ。

 ドアにノックがあって、すぐにシルさんが入ってきた。

 ノックする意味ないよね。

「マコト、司法官事務所と正式に契約を交わしてきた。出発は、明日の朝だ。

 参加するフクロオオカミと人の準備、および装備の用意はこっちでやるから、マコトはハスィー様に直接説明してくれ。

 一応、ラナエがギルドで説明してサインを貰ってきたが、急いでいたので不十分だったそうだ」

「はあ。それはいいですけど、他に何か俺に出来ることってありますか」

「ない」

 言われちゃったよ!

「マコト、トップは決断することが仕事で、それ以外は些細な事だ。後は部下を信じて任せるんだよ。

 それに、今回はマコトも出るんだからな。

 明日の朝、司法官の馬車がここまで迎えに来るから、遅れないように出てこいよ」

 シルさんは、それだけ言って出て行ってしまった。

 そういえば、俺も行くんだったっけ。

 現場は山脈だと言っていたな。

 山の中と言えば、学生時代に緊急に金が必要になって、騙されて山奥の工事のバイトでタコ部屋に叩き込まれた時以来だ。

 あの時は酷かったけど、今度は帝国の反乱軍が相手だという話だし。

 いや、そういう言い方だとス○ー・ウォーズみたいだけど、むしろ武装難民の集団と言った方がいいか。

 それに、フクロオオカミのいきなりの実戦投入。

 不安だらけだ。

 嫌だなあ。

 俺、本来は下っ端のサラリーマンなのに。

「マコトさん。そろそろ行きますわよ」

 ラナエ嬢がいきなり入ってきた。

「どこへですか?」

「もちろん、ハスィー邸です。今夜はディナーをご一緒して、とことん聞かせて頂くと、ハスィーが申して下りました」

 ラナエ嬢、丸投げしてこないでよ!

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