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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

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2.呼び出し?

 夕方まで眠ったようで、起きた時はかなり楽になっていた。なぜ起きたのかというと、ドアが激しくノックされたからだ。

 フラフラしながら起き上がって一階に下り、ドアを開けるとハスィー邸でお馴染みの中年の女性が立っていた。

 夕食と、翌朝の飯を担当してくれている人だ。

 タフィさん。

 俺は、相手が女性である限りは年齢にかかわらず忘れないのだ。

「ハスィー様が、夕食の用意をするようにとおっしゃるので来ました」

 見れば、食材とおぼしきものが入った袋を下げている。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 本当にありがたい。

 そのまま台所に案内すると、タフィさんは早速仕込み始めた。

 俺は寝間着代わりのロープ姿だったので、とりあえず寝室に引き返して着替える。

 まだ持っている、冒険者用の野良着だ。

 いや、洗濯しているから清潔だよ?

「出来たらお呼びしますので、休んでいてください」

 何ていい人なんだろう。

 いや、ハスィー様がいい人なのか。

 ラナエ嬢から情報が伝わったな。

 俺は野良着のままベッドに横たわって待った。

 うとうとしていたら、下から呼ぶ声が聞こえたので下りていくと、ハスィー邸でお馴染みの簡易型ディナーの準備が整っていた。

 といっても皿のたぐいが足りないので、かなり大雑把に盛りつけられている。

 美味そうだ。

「食べ終えられたら、お皿は流しに浸けておいてください。こちらに明日の朝食分を用意してありますので。

 それではまた、明日の朝来ます」

 そう言って帰ろうとするタフィさんをつかまえて、ハスィー様へのお礼を言付けた後、家の鍵を渡した。

 俺が寝ている可能性があるのでというと、最初は渋っていたタフィさんも受け取ってくれた。

 ちなみに、この鍵はお掃除のおばさんにも渡してある。

 ギルド御用達の掃除のプロなので、信用できるからだ。

 家に盗まれるようなものがないせいもあるけど。

 ほとんどの金は、ギルドの口座に預けてあるからね。

 タフィさんが帰った後、俺はハスィー様の心づくし(違)の夕食を食べた。

 そういえば最近、夕食は毎日ハスィー邸で食っていたので、この時間に家にいることは希だったな。

 まだ本調子ではないのでゆっくりと食べたが、案外回復しているらしく、残さず平らげることが出来た。

 お皿を流しに運ぶと、明日の朝食が目に入った。

 ホテル並だな。

 ああ、いい人たちと知り合いになれて本当に良かった。

 そのままトイレに行ってからベッドに直行して寝た。

 結局、俺は3日間仕事を休んだ。

 毎日タフィさんが飯を作りに来てくれたし、お掃除のおばさんは予定を変更して朝と夕方に来てくれて、洗濯物を処理してくれた。

 もちろん割り増し料金になるが、その支払いはギルドの給料から天引きなので、何ということもない。

 それに、前にも言ったけどギルドの上級職の給料って、凄いんだよ。

 日本でサラリーマンやっていた俺には信じられないくらい、一般職員と差がある。

 アメリカの会社なんかでは、役付きと役無しで下手すると数倍から十倍くらいの給料の開きがあると聞いたことがあるけど、まさしくそれに近いくらいだった。

 お掃除の料金なんか、どうでもいいと思えるほどだ。

 でも改めて考えてみたら、俺はハスィー邸での食事やサービスに対して何も支払いをしてないんだよね。

 それは拙いのではないかと思いついて、回復したらハスィー様や世話になった人たちにお礼をすることに決めた。

 ソラルちゃんとキディちゃんには、例の店でのランチでいいだろう。

 タフィさんにも何か。

 ハスィー様たちはどうするかなあ。

 お金で買えるものなんか、かえって失礼だろうし。

 4日目に、久しぶりにアレスト興業舎に出舎すると、色々な人が声をかけてくれた。

 俺って意外に存在感があったのか?

 シルさんやホトウさんは背中を叩いてくるので痛かった。

 だがやっぱり一番酷かったのはフクロオオカミで、ツォルの奴なんかいきなりのし掛かってきて、押しつぶされる所だった。

 家庭犬の感覚でじゃれつくんじゃない!

 お前の身体は凶器なんだぞ。

 服にはフクロオオカミの臭いが染み付くし、くしゃくしゃになるしで、ツォルの奴は長老のミクスさんにお仕置きされたそうだ。

 臭い制服を上だけ脱いで、溜まっていた書類にサインした後、俺はギルドに向かった。

 まずは自宅に寄って、臭くない制服に着替える。

 予備があって良かった。

 プロジェクト室に行くと、ハスィー様がわざわざ立ち上がって迎えてくれた。

「マコトさん! もう大丈夫なんですか?」

「はい。ご心配をおかけしました。いきなり休んで失礼しました」

「病気なら、仕方ありません。早く治って良かったですね」

「タフィさんを寄こして頂いたおかげです。本当にありがとうございました」

 お忙しそうだったので、適当に切り上げる。

 帰り際にハスィー様は「今夜は快気祝いをしましょう」と囁いてくれた。

 嬉しいね。

 アレスト興業舎に戻るとちょうど昼で、シイルたちがやっている炊き出しじゃなくて昼食をみんなに混じって摂った後、舎長室の俺の机でダベッていると、ソラルちゃんが来た。

「マコトさん、郵便班のロッドさんがお話があるそうです」

「ロッドさんが? いいよ、通して」

 通すも何も、ロッドさんは班長としてこの部屋の鍵を持っているんだけどね。

「失礼します。郵便班のロッドです」

 ロッドさんは、珍しく騎士服姿だった。

 この人は、出向してきて真っ先にフクロオオカミにハマッた一人で、出勤する時は騎士姿だが、すぐに冒険者風のボロボロの野良着に着替えて仕事をしている。

 フクロオオカミと一緒にいると、どうしても臭いが付くし、騎士服なんかすぐにズタズタになりかねないからだ。

 そういうわけで、俺はこの人のことを「いつもボロボロの服を着ている細身のイケメン」という風に認識していたんだが、騎士服を着るとカッコいいんだよね。

 もともと細身のハンサムで、絶対名前なんか覚えてやるものか、と思わせられる人の一人なのだ。

 その人が、何の話を?

 俺は、会社の偉い人たちがやっていたのを見て覚えていたパターンで立ち上がると、ロッドさんをソファーに誘った。

 よくテレビドラマで出てくるアレね。

 俺も経営者になってきたなあ。

 中身はゼロだけど。

「お忙しいところを失礼します」

 ロッドさんは、恐縮しているようだった。

 いつも思うんだけど、なんでみんな俺が忙しいとか思っているんだろうね。

 そもそも、俺なんかに礼を尽くすこと自体が変なのに。

 やっぱハスィー様の後ろ盾か?

「大丈夫です。今日は緊急の要件はありませんから。

 それで、何でしょうか」

「は。実は、私は騎士団から出向している身でして」

 知ってるよ。

「つまり、まだ籍は騎士団にあります。本当は一刻も早くアレスト興業舎に移籍したいのでありますが」

 ああ、そんな話もあったっけ。

 フクロオオカミにハマり過ぎて、フルタイムをこっちに捧げたいとか言っているらしい。

 ラナエ嬢から聞いたけど、そんなことをされたらギルドと騎士団の間に亀裂が入りかねないので、ロッドさんの上司とラナエ嬢が諭して思いとどまらせたそうだ。

 それにもめげず、ロッドさんは騎士団の上司や仲間を口説いて、もう何人も追加で出向させているとか。

 ありがたいような迷惑なような熱血漢らしい。

 外見はむしろ冷静沈着な事務屋というかんじなんだけどね。

「移籍の件でしたら」

「いえ。それは別の話です。実は、郵便班ではある程度のフクロオオカミの運用の目処がつきました。

 単体行動では、満足のいく結果が得られています。

 そこで、いよいよ騎士団との合同訓練というか、実用試験にかかりたいと考えて騎士団に上奏したのですが、私の上司を通じてヤジママコト舎長代理に会いたいという話が来まして」

 なんですと?

「私とですか? ハスィー様ではなく?」

「はい。ハスィー様は舎長ですが、ギルドの執行委員ですし、実務にはほとんどタッチしておられないことが知られまして。

 そういった政治的なことではなく、実働部隊のトップと打ち合わせしておきたい、ということのようです」

 なるほど、そう来たか。

 まあ、当たり前だよな。

 騎士団は、ギルドやアレスト興業舎とはまったく別の組織だ。

 何かを一緒にやる前に、実情を把握しておきたいと思うのは当然かもしれない。

「判りました。いつお伺いすればよろしいでしょうか。それとも、上司の方はこちらを視察希望ですか?」

「それはもっと後ということで、とりあえず舎長代理と個人的にお会いしたいとのことです。よろしいでしょうか」

「あ、はい。大丈夫ですが」

 まあ、個人として会うのならいいか。

 政治的なことが出てきたら、ハスィー様に丸投げすればいいし。

「ありがとうございます。すぐに日程を調整してお知らせします」

 手回しがいいな。

 それだけ急いでいるということか?

「そういえば、ロッドさんの上司って、どなたなんでしょうか」

 ロッドさんは、ちょっと怯んだみたいだった。

「いえ、お会いしたいと申しているのは私の直接の上司ではありません」

「?」

「アレスト騎士団を統括する、司法官閣下です」

 誰それ?

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