表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/1008

1.病気?

 ニューイヤーパーティも無事に終わって、ギルドは通常営業に戻った。

 どうも、こっちには正月休みとかいう制度はないようだ。それどころか、週休2日制もない。

 今まで仕事がなくて事実上休んでいたことが多かったのと、毎日忙しくて気づかなかったんだけど、こっちの世界には決まった休日ってないらしいんだよね。

 つまり、組織なり店なりが毎週特定の日に休みになる、ということがない。

 基本的に年中無休だ。

 それでは駄目だろうと思うのだが、実際にはみんな結構自分勝手に休んでいる。

 誰もはっきりとは言わないのだが、何となく週に1.5日とか、月に5~6日とか、その辺りを基準にして休暇をとっているようだった。

 もちろん、勝手に休んでいいというわけではなく、上司にあらかじめ届ける必要がある。

 ただし、突発的な事態や病気・怪我などの場合は後から届けてもいいらしい。

 定時出勤・退勤がないということは前に書いたけど、出勤自体もかなりファジイに運用されているのだ。

 だったら、怠け者は果てしなく怠けるだろうと思いがちだが、実際にはそんな例はほとんどないようだ。

 そういう者は、組織からはじき出されてしまうのだ。

 こっちの世界では、日本とは比べものにならないくらい、就職が厳しい。

 まず、ある職業につくためには、その職業に必要な知識や技能をあらかじめ持っている必要がある。

 入ってから研修ということがないのだ。

 もちろん、仕事しながら学ぶのは当たり前だけど、それは研修ではなくて自力での修行になる。

 しかも、採用はほぼコネだ。

 ギルドなんかも、入所試験があるというわけではなくて、誰かの推薦を受けてまあ使ってみるか、ということでインターンとして働き始め、使えることが判ったら正採用ということになるらしい。

 そして、出来ることが判った段階で昇進する。

 年功序列ということは、あまりないようだ。

 ハスィー様があの若さで執行委員という役職につけたのも、実力を証明したからだな。

 俺みたいなのは例外中の例外なのだ。

 いやー、俺って超ラッキー。

 俺の場合、具体的には【プー】→【マルト商会】→【栄冠の空】→【ギルド】という形で所属が変わってきたわけだが、マルト商会を除いては全部「実績がある」と見なされて採用されたんだよね。

 俺は何もしてないんだけど。

 だが、本人が何もしなくても、就活は出来る。

 『栄冠の空』が俺を採用したのは、マルト商会が俺のことを保証したからだ。

 ハスィー様が俺をギルドの臨時職員として採用出来たのは、『栄冠の空』でクエストを成功させた(と代表が保証した)実績があったからなのだ。

 全部コネ。

 だが、いったん採用されたらもう縁故はない。

 実力があることを証明して、実績を上げ続けなければ、首になってしまう。

 そこまでいかなくても、昇進しない。

 これは俺みたいな臨時職員だけではなくて、正規の職員でも同じらしい。

 ちなみに俺の場合、アレスト興業舎の舎員たちが色々やってくれるので、まだ首が繋がっている。

 管理職って、自分が働くのではなく、部下を働かせることが重要だからね。

 俺の場合、部下ということになっている皆さんが有能すぎて、俺が何もしなくても高評価になっているらしい。

 いいよね。

 まあそういうわけで、怠けていると思われたらすぐに首になるから、みんな頑張って出勤してくるということになる。

 でもまあ、頑張りすぎて潰れたら元も子もないので、適当に自分で休んでいるそうだ。

 もちろん、偉くなればなるほど制約は増える。

 ハスィー様レベルになると、仕事内容がほぼ公務になるので、相手の予定に左右されてなかなか休めないらしい。

 ラナエ嬢とかアレナさん辺りが、ハスィー様が疲労でダウンしないように、時々ガス抜きをしているようで、俺にもその役が回ってきたりする。

 いや、年下の上司で絶世の美女と一緒に休暇を過ごすって、素晴らしいんだけどね。

 俺はいつでもお相手したいんだが。

 残念なことに、ハスィー様がアレスト興業舎の舎長で、俺が舎長代理だから、なかなか一緒に休むというわけにはいかないんだよね。

 トップとその次が一度に休むのは、やっぱりまずいでしょう。

 まあそれはいい。

 とにかく、ギルドを含めてこっちの組織では出欠はかなり寛大だ。休みたい時に休んでいい。責任が取れるのなら。

 病気になった場合なんかもそうで、電話とかメールがないから、家から出られない場合は連絡のしようがない。

 家族持ちなら、誰かが伝令となって報告出来るけど、俺みたいな独り身は駄目だ。

 そういう場合は、組織の方である程度は対処してくれるようだった。

 ということで、ある朝起きようとすると頭がガンガンして熱っぽく、寒気がして咳が出るのでそのまま寝ていたら、昼頃になってソラルちゃんとキディちゃんが尋ねてきた。

 ドアが激しくノックされているのに気がついて、毛布にくるまったまま玄関まで行って鍵を開けると、二人が心配そうに立っていた。

「やっぱり。来ないから心配していたんですよ」とキディちゃん。

「最初はギルドの方に行っているのかと思ったんだけど、アレナさんがギルドにも来ていないからおかしいって」とソラルちゃん。

 すまん、もう少し小さな声で言って。

 頭に響くんだよ。

「すみません。とりあえず寝てください。後は私たちがやりますから」

「お医者さん、呼んできますね」

 ソラルちゃんが俺を支えて二階の寝室に連れて行ってくれる一方、キディちゃんは家を出て行った。

 医者を呼んでくれるらしい。

 呼ぶって言っても、電話なんかないから、誰かが迎えに行くしかないんだよな。

 ベッドに横たわって毛布を被ると、ソラルちゃんが水を汲んできてくれた。

 ありがたい。

 もうそれだけでいいくらいだ。

 ソラルちゃんは、下で何かしているようだった。今日は通いのお掃除おばさんが来ない日だから、何もないんだけどね。

 掃除してくれているのかもしれない。

 と思ったら、しばらくして熱いスープを持ってきてくれた。

 素晴らしい。

 こういう時は、家族とかが欲しくなるよね。

「飲めますか? 無理しなくてもいいですよ」

「いや、ありがとう。飲みたいよ」

 実際、それまでは何も感じなかったのに、スープの臭いを嗅いだ途端に猛烈に腹が減ってきた。

 ふうふう言いながら啜っていると、ソラルちゃんはようやく笑顔を見せてくれた。

 いいなあ。

 女の子に惚れるって、こういう状況なんだろうな。

 俺だって、ここが日本で仕事とか将来に不安がなかったら、今のソラルちゃんにはマジで惚れたかもしれない。

 異世界で臨時職に就いている状況だと、ちょっと色恋に走るのは無理がある。

 そんな余裕はないんだよ。

 しばらくしてドアがノックされたので、ソラルちゃんが下に向かい、すぐに薬剤師らしい人を連れて戻ってきた。

 もちろん、キディちゃんの顔もある。

 案内してくれたんだろうな。

 でないと、治療しようにも俺がどこに住んでいるのか判らないから。

 日本に比べたら、一事が万事この調子で、めんどくさいものだ。

「舎長代理、どうかされましたか?」

「頭が痛くて寒気がして、咳と熱が。あと脱力感も」

「なるほど。では少々失礼して」

 薬剤師さんは、アレスト興業舎が非常勤で契約している人だった。

 ちなみに女性である。

 建物内に医務室を作ったので、常駐ではないけど居てくれることになっている。今日は、運良くアレスト興業舎内にいたらしい。

 実は、アレスト興業舎の郵便班が取り寄せたフクロオオカミ秘伝の薬草が人間にも役に立つかどうか、テストもして貰っている。

 人間の薬がフクロオオカミに効くかどうかについては、まだ怖いのと余裕がないのでテストを凍結しているけど。

「……はい、結構です。風邪ですね。このままじっとしていれば、数日で治ります。

 人にうつさないように、治るまでは出舎しないでください」

「判りました」

 薬剤師さんは、いくつかの薬を置いて帰って行った。

 ちなみになぜ医者ではなく薬剤師なのかというと、こっちの医者は外科に特化しているからだ。

 地球で言う内科医は、全部薬剤師に含まれている。

 外科手術の時の麻酔とか化膿止めなんかの時には手伝うけど、原則として病気以外は対応しない。

 王都あたりでは、外科と内科を統合した「病院」もあるらしいが、アレスト市辺りだとまだ分化したままだ。

 ちなみに、外科の医者とも非常勤で雇用契約を結んではいる。

 まだお世話になったことがないけど。

 でも、いずれは必要になるだろうなあ。

「スープ、まだありますからお腹が空いたらどうぞ。冷えても飲めるので」

「ありがとう。助かったよ」

「いえいえ。今度、『楽園の花』亭のランチを奢って頂ければ」

 キディちゃん、パネェね。

 スープを作ってくれたのはソラルちゃんなのではないのか。

 まあいいか。

 薬剤師さんを呼んでくれたのはキディちゃんだし。

 二人が出て行くと、俺はため息をついて目を瞑った。

 こっちに来て、初めての病気だ。

 違う世界に来たんだから、ひょっとしたら未知の病原体とかが襲ってくるのではないかと密かに恐れていたんだけど、案外罹らないもんだね。

 今度のもただの風邪みたいだし、病気も地球とほぼ共通しているとみていいだろう。

 細菌やウイルスレベルでは、結構頻繁に交流があるのかもなあ。

 動物なんかは希だけど、ひょっとしたら植物の種や、もっと言えば大気なんかはお互いにかなり交換され続けているのかもしれない。

 まあいい。

 俺は、ズキズキする頭を抱えて、眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ