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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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24.傾国姫?

 そうか、そういうことか。

 いや、俺が学生時代にイギリスに行った時、劇場で「レ・ミゼ○ブル」を観たんだけどね。

 日本のアニメだと「○ゼットちゃん物語」になっている奴。

 そのコゼ○トちゃんが出てきたんだけど、物凄く可愛い女の子だったんだよ。

 可憐で健気で。

 でも、後でその役者が少年だったことを知って愕然としたことがあったもんなあ。

 世の中、そういうものなのかもしれない。

 それにしても、シイルだったとは。

 このフリフリドレスの美少女が。

 衝撃の光景に俺が立ちつくしていると、ミクスさんが吼えた。

「シイルは女の子ですよ。私やシルと同じで、誤解されやすいタイプで」

 な、なんだってーっ!

 本当に女の子だったのか。

 いや、誤解するよ!

 だって、シイルは出会ったときから子供達をまとめていたし、イケメンそのものだったし。

 そういえばミクスさんはともかく、シルさんについては俺も初対面の時は男だと思ったからな。

 ボーイッシュな美女とか美少女は、こっちだと男と同じ恰好をしていると見間違えやすいのだろう。

 それにしても、シイルが。

 全然気がつかなかった。

 いや、悪ガキと絵本を取り合って格闘している姿が目に焼き付いていたからな。

 イケメンじゃなくて、ボーイッシュ美少女だったわけか。

「マコトさん?」

「あ、いや、間違えていてすまなかったな」

「いえ、ボクも男みたいな恰好で、男みたいな行動していたし」

「それにしても、堂々たる演技だったぞ。ずっと練習していたのか?」

「はい。最後にハリルちゃんの背中に飛び乗るんですけれど、大人の女の人だとハリルちゃんの動きがぎこちなくなってしまうので。

 ボクくらいの重さなら、ハリルちゃんも上手くやれることが判って、ボクに決まりました」

 ハリルちゃんか。

 フクロオオカミも、シイルたちにとってはもう、年下の仲間なんだな。

 子供達を引き込んだのは偶然だけど、最良の一手だったのかもしれない。

 いや、引き込んだのはシルさんだけど。

 俺は何だかよくわからんうちに関わっただけで。

「シイルさん、というお名前ですのね」

 ずっと黙っていたハスィー様が言った。

「はい、舎長」

「あなたも舎員なの?」

「予備班のリーダーをさせて頂いています。ハスィー様」

 おお、堂々たる対応じゃないか、シイル。

 貴顕に対する態度は合格だ。

 君も成長したな。

 お兄さんは嬉しいぞ。

「そう。ところで、あなたはマコトさんとはどういったご関係なのでしょうか」

「あ、はい。もともとボクたちが仕事を探していた時に、マコトさんが」

 それからシイルは、俺と絵本にまつわる物語を嬉しそうに説明した。

 あいかわらず、俺の行動については誤解しまくりだったけど。

 そういえば、ハスィー様はアレスト興業舎の内情についてはあまりご存じないんだったっけ。

 俺たちも予算を申請するばかりで、内容までは詳細には報告してないからな。

 シイルたちを雇った経緯も、これまで聞いていなかったらしい。まあ、ラナエ嬢がそこまで細かく解説したとも思えないし。

 ハスィー様の表情が、シイルの説明を聞いている内に次第に和らいでくるのが判った。

 そうだよな。

 自分の少女時代を演じた相手がどんな者なのか、やはり気になるか。

 あ、そういえばシイルが女の子と判った以上、呼び捨てはまずいかもしれない。

 これからはシイルちゃんと呼ぶか。

 それも何か、まずい気がするけど。

「……というわけで、ボクたちはマコトさんのおかげでアレスト興業舎に雇って頂いたわけです」

「判りました。時間をとって頂いてありがとう。お仕事に戻ってください」

 納得して頂けたようだ。

 まあ、こうやってギルドの執行委員の疑問点を解消するのが仕事と言えないこともないけどね。

 サービスとしては、最優先だ。

 何てったって、予算を握られているんだから。

「おう、マコト……舎長代理。舎長も、おられましたか」

 シルさんが来た。

 俺相手には、どうしても地が出るようだ。ハスィー様にはすんなり敬語が出るんだけど、しょうがないな。

「シル事業部長。先ほどは見事な演劇を拝見させて頂きました。感心しましたわ」

 シルさんも部長になっていたのか。

 舎長代理なのに、知らなかった。

 だって、ずっと「シルさん」で通してきて、何の不都合もなかったし。

 そんなことはどうでもいい。

 ハスィー様の機嫌が元に戻ってしまった。

 シルさんもそれが判ったのか、素早く辺りを見回して「くそっ、逃げたか」と呟くと、精一杯の愛想笑いを浮かべてハスィー様に対峙する。

「あれは、まあ、初公演として効果的なものを、と」

「確かに効果的でした。ギルドの評議委員の方々は、みんなで存分に笑っておられましたから」

 そうなのか?

 正直、全然気づかなかったけど、ハスィー様のことをよく知っているギルド評議会のメンバーがそう出るのは納得できる。

 ハスィー様、愛されているんだろうな。

「いえ、あれは一番インパクトがある題材をということで。ラナエ事務部長が、アレスト市の市民やギルド員向けの良い物語があると」

「やはり! ……ラナエの仕業ですね!」

「あー。はい。『傾国姫』の話は、アレスト市の人なら誰でも知っているからということで。ラナエ部長が」

 シルさん、強調しすぎ。

 メラッ、とハスィー様の背後に何かが立ち昇ったようだった。

 ラノベか?

 怖いよ!

「そうですか。よりによってあの話を。道理で、見てきたような演出だったはずです。ラナエ……あなたという人は!」

 シルさんは、腰が引けていた。

 地雷を踏んだことに気づいたらしい。

 爆発に巻き込まれる前に、逃げないと命が危ないと顔に書いてあった。

 そうか。

 あれは『傾国姫』の物語なのか。

 で、それって何?

 ハスィー様は、俺の方を向いて「お先に失礼します」と一礼してから、アレスト興業舎の建物の方に行ってしまった。

 ラナエ嬢を捜すのだろうか。

 まあ、パーティの方はあとはお開きになるまでやって、最後に締めればいいだけだし。

 舎長が消えてしまったのなら仕方がない。

 俺がやっておくか。

 そのための代理だ。

「マコト。まずかったか?」

「まずいですよ。ハスィー様、カンカンです」

「そうか。道理でラナエの奴、妙にコソコソしていたわけだ」

 それでもシルさんは、ハスィー様の怒りの矛先が自分に向かなかったことで安心したのか、引けていた腰が元に戻っていた。

 やっぱり、舎長の怒りは怖いよね。

 しかも、まともな理由で怒られるのならまだしも、よく判らない事でギルドの執行委員を敵に回してしまいそうだったのだ。

 ラナエ嬢を怒っていいと思う。

「まあ、そう言うな。ラナエはよくやってくれている。あのストーリーが効果的だったのはマコトだって判るだろう」

「それは判りますが……そういえば『傾国姫』って何なんですか? 初めて聞いたんですが」

 まあ、大体判っているけどね。

「私も噂でしか聞いたことがなかったけどな。ラナエに詳しく教えて貰った。

 マコトも聞いているんじゃないか? ハスィー様が、アレスト市でギルドの執行委員をやっている理由」

「一応は」

「実際には、あの劇のようなことはなかったそうだけどな。それでもハスィー様の進退を巡って、一時期王政府と王太子陣営の間が焦臭いことになりかけたんだそうだ」

「それは聞いてませんでした」

「結局は何とか収まったらしいけどな。それでも、その騒動はスキャンダルとなってソラージュの王都を吹き荒れたらしい。

 で、誰が言い出したのかは知らんが、いつの間にかハスィー様のことを『傾国姫』と呼び始めた奴がいて、それがあっという間に広まってしまったと」

「噂ですか」

「だが、強力だぞ? キャンセルする方法がないんだからな。

 王政府と王太子を手玉に取った運命の(ファム・ファタル)

 存在しているだけで、国を傾けるほどの美女ということで、ハスィー様は王都にいる商人や貴族の間で、そう呼ばれるようになってしまったんだそうだ。

 当然、地元のアレスト市の市民もみんな噂くらいは聞いている。

 領主の令嬢のことだからな。

 だからまあ、『傾国姫』というのはハスィー様の二つ名だよ」

 キターッ!

 二つ名だってさ!

 ラノベかよ!

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