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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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21.開催?

 ハスィー様は、堂に入ったものだった。

 親友のはずのラナエ嬢からの無茶振りにも慌てることなく、優雅に立ち上がると舞台に進み、向き直って参加者に向けて一礼した。

 その間に、ラナエ嬢はするすると舞台から下がっている。

 凄い度胸だな、お二人とも。

 行動だけを見ると、あらかじめ打ち合わせてあったようにも思えるが、多分それはないだろう。

 もしハスィー様が最初から挨拶するつもりだったら、もう少し前に行動を起こしていたはずだ。

 つまり、これはラナエ嬢の完全な不意打ち。

 もっとも、ハスィー様もこの程度のことは予測していたとも思われる。

 パーティの開始を告げる人の次に、主催者の挨拶があるのが当たり前だからだろう。

 今回のニューイヤーパーティはアレスト興業舎が請け負ったわけで、つまりアレスト興業舎の舎長であるハスィー様が主催者であるとも言える。

 でも、これだけの人の前で堂々とじゃれ合うなよな、お二人とも。

「アレスト興業舎舎長のハスィーです」

 やっぱ美人だなあ。

 ていうか、いつものギルドの制服姿より何倍も美人に見える。

 もう、人間とは思えないほどだ。

 エルフだから、というわけではあるまい。それとも、アレスト家のエルフってみんなこれほどの美形なんだろうか。

 だったら実に羨ましい一族と言える。

 貴族でなくたって、どっかの貴族や、いやむしろ王家が嫁取りに来て貴族になってしまうだろうな。

 あ、そういやハスィー様って、王太子殿下から言い寄られていたんだっけ。

 そんなことを思いながらハスィー様に見とれていたら、いつの間にか挨拶が終わったらしく、ハスィー様が席に戻ってきた。

「お疲れ様です」

「もう慣れましたけれど、面倒ではありますね」

 ハスィー様は、俺の耳に口を寄せて、他の人に聞こえないように言った。

 やっぱりそうか。

 そうだよな。

 そもそも、ハスィー様はまだ17歳の女の子なんだよ。

 ラナエ嬢も同じだけど、本来ならこんな所で責任者やら管理職やっているような歳ではないんだけどね。

 しかし、ハスィー様も俺に愚痴を言ってくれるようになったのが嬉しいな。

 毎夜のディナー、というよりは居酒屋風夕食の席で、散々馬鹿話をした効果が出ているのかも。

 気がつくと、客達がテーブルに群がって料理を取っている。

 バイキング形式だから、あっという間になくなってしまいそうだ。

「ご心配なく。上級職の方々の分は、確保してあります」

 アレナさんが寄ってきて言った。

 なるほど、俺たちがいるすぐそばにもテーブルがあって、料理や飲み物が載っていた。

 なぜか、お客さんたちはこっちには来ない。

 いや、当たり前か。

 俺も前に会社主催の年末立食パーティとかに出たことがあるが、偉い人たちが集まっているテーブルの料理は、他のテーブルが空になってもずっと残っていた。

 近寄りがたいものがあるんだよね。

 でも今は、俺とハスィー様はギルド上級職以上なので、ここで食う権利がある。

 なかなか美味だった。

 シイルたちがこの倉庫の厨房で作っている飯とは、やはり雲泥の差があるな。

 さすが、プロのケータリング業者は違う。ギルドなんていう大口の顧客向けだから、料理人も思う存分腕を振るったことだろうし。

 ラナエ嬢は、これを乗っ取るとか言っていたけど、無理とは言わないまでも結構難しいんじゃないのか。

 そんなことを思いながら食っていると、マルトさんやレト支部長が近寄ってきて、食い物どころではなくなってしまった。

 改めて、他の評議員の人たちにも紹介された。

 ハスィー様以外の執行委員は、なぜか俺に近寄って来なかったけど。

 やはり、成り上がりには冷たいのかもしれない。

 生え抜きの役所の人からみたら、異分子以外の何物でもないしな。

 その点、ギルドの評議員というのは他に本業があって、ギルドの意志決定のみを行う役職なので、俺みたいなぽっと出にも慣れている。

 というか、そもそも彼らも出自は色々で、民間との付き合いも長く、家柄とか勤務年数などで差別するような感覚がないらしい。

 まあ、地球の会社で言えば外部取締役だからな。

 この人たちにとっては、ギルドの職員なんてものは十把一絡げに見えるのだろう。

 自治体の議員と役所の職員みたいな関係か。

 まさにその通りだが。

「……宴たけなわでございますが、ここで少しお時間を頂きまして、アレスト興業舎サーカス班が行う出し物をお楽しみ頂きます」

 突然、よく通る声が響き渡った。

 この声はラナエ嬢か。

 もう、完全にアレスト興業舎の「顔」だ。

 俺もハスィー様も、もういらないな。

 ざわざわ雑談していたお客さんたちが、一瞬で押し黙る。

「なるべくみなさんが舞台を見られるように、分散してください」

 すぐに、同じ地味な服を着た人たちが控えめに人を誘導して、押し合いへし合いしないように、舞台の方に注目させる。

 何だ、あの人たちは?

 ていうか、あの服は?

「アレスト興業舎の舎服です。ユニフォームがあった方がいいだろうということで、仕立てました」

 いつの間にかそばに来ていたソラルちゃんが教えてくれた。

 ユニフォームって、こっちにもあるんだな。

 少なくとも、俺の脳が魔素翻訳でユニフォームだと解釈できるような服が。

 ソラルちゃんも、同じ服を着ていた。

 ちょっとぴったりしすぎている気がするけど、地味で上品な制服だ。

 いかにも動きやすそうな造りになっていて、作業服でありながらフォーマルさも感じられる。

 日本の私立高校の男子体操服のようだ。

 女性だと、胸とか腰のあたりが曲線を描いているので、妙に刺激的だ。

 いつの間にそんなものを。

 予算申請書にサインしたっけ?

「業務予算に混ぜて通したらしいですよ。仕事で必要だからといって」

 よくやるよ。

「俺たちは、着ないでいいの?」

「ハスィー様とマコトさんは、今日はギルド職員ですからお客様です。

 ご存分にお楽しみください」

 何か、ソラルちゃんの顔が黒いというか、その笑みは何?

 聞こうと思っている内に、ソラルちゃんはすっと消えてしまった。

「少し、怖いですね」

 ハスィー様は、ちょっと怯えているようだ。

 何か仕掛けてくる気なのが丸わかりだからな。

 ラナエ嬢とシルさんが敵に回ったようだし、あの二人が組んだらもう無敵だろう。

「そういえば、俺にも出し物の詳しい事は教えてくれなかったんですよね」

「ラナエも、何も言ってくれませんでした。

 覚悟はしておきましょう」

 俺とハスィー様が頷き合っている間に、舞台と客席の準備が整ったようだった。

 客席側のテントの上部が半分くらい閉められ、舞台が明るくなったように浮かび上がる。

 そして、大きな壁のような板を持った連中が出てきて、舞台をすっかり覆ってしまった。

 凄いな。

 こういう演出って、多分引き抜いた旅芸人の一座の人がやっているんだろう。

 本職の劇団のようだ。

 これではもう、サーカスとは言えないんじゃないのか?

「それでは、始めます。演技中は、くれぐれも舞台には近寄らないようにお願いします。

 また、大きな野生動物が出ますが、絶対に安全ですので、ご心配なさらぬように申し上げます」

 それはそうだな。

 言っておかないと。

 壁がするすると後退していく。

 さて、どんなものになっているんだ?

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