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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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20.パーティ?

 アレスト興業舎に向かう途中で、同じ方向に向かっている家族連れを何組も見かけた。

 みんな、着飾っているようだ。

 初詣みたいなものなのかもしれない。

 こっちの世界は、生活に宗教色が薄い。教団にしたって宗教というよりはボランティア団体みたいなものだからな。

 神様が助けてくれるとか、お願いすればいいことがあるというようなムードが薄いらしい。

 地球では、地域に合った様々な宗教が発達したわけだが、こっちではあまりそういう区別はないようだ。

 ちなみにどっかで読んだけど、例えばイスラム教は中東の気候や環境に合致した教えになっているらしい。

 自然環境が厳しいので人間の努力ではどうにもならないこともあるから、「すべてアラーの思うまま」といった丸投げな結論になったり。

 妻は4人までというのも、別にハーレムを推奨しているわけではなく、男が妻子を残して死んでしまった場合に、生き残った男が残された家族を引き取って養えるように、という考え方から出てきた教えだと書いてあった。

 こっちの宗教には、そういう切羽詰まったものがないんだよね。

 もっとも、俺は宗教団体というと教団しか知らないから、ひょっとしたら他の国にはもっと過激な宗教があるのかもしれないけど。

 でも、年末とか年始とかを祝わないというはちょっと変な気がする。

 この際だから、聞いてみるか。

 ハスィー様も、「学校」の卒業生だし。

 知識人としては、この国でも有数のはずだ。

「少しお尋ねしても良いでしょうか」

「どうぞ?」

「ギルドが職員向けにニューイヤーパーティを行うのは判るんですが、他の人たちはそういうことはしないんですか?」

 ハスィー様は、少し首を傾げ、人差し指を口唇に当てた。

 何この、物凄い萌えの塊は!

「そうですね。

 例えば王宮では、それなりの儀式があります。陛下が国民に向かって年始の挨拶をしますし、その後で王族と貴族がお城に集まって色々儀式をします。

 ただ、貴族も色々とやることがありますので、必ずしも当主が出席する必要はありません。しかるべき理由があれば、代理出席が認められます」

 それはそうだろう。

 例えば自分の領土で大災害とか反乱とか起こっていたら、新年の儀式どころじゃないだろうし。

 でも、やっぱりそういうのはあるんだな。

 どこの世界でも同じか。

 王制をとっている以上、当たり前だ。

「もっとも、庶民は特に何もしないことが多いそうです。

 わたくしも、庶民のことはあまりよく判らないのですが、タフィなどに聞いたところでは家族で少し贅沢な食事をする、といった程度ということでした」

「そうなのですか。

 では、ギルドのパーティというのは異例なのですね」

「実は、ギルドのニューイヤーパーティは最初は公式のものではなく、ギルドの新年式の後、職員が費用を出し合って自発的に始めたものらしいです。

 それが大規模になり、ギルドの予算にも計上されるようになって、ついにはギルドの式より盛大になってしまったのが現状だと聞いています」

 軒を貸して母屋を取られたか。

「今では公式の行事なのですね」

「ギルドの予算には計上されていますが、新年式と違ってパーティは参加自由です。

 もっとも家族連れで参加出来るので、新年式には出られなくてもパーティには無理にでも参加する人も多いと聞いています」

 色々あるんだなあ。

 そういえば警備隊ってギルド配下の組織だから、隊員はパーティに参加する権利はあるわけだ。

 でも、ローテーションで仕事を回している以上、誰かが貧乏くじを引くわけで、色々と葛藤があるんだろうな。

 その分、参加できるのにしないという選択肢はなさそうだ。

 五百人というのは家族を加えた人数だろうから、そう考えてみると意外に少ないのも?

 人口三万人の都市の役所だったら、役人が千人くらいいても不思議じゃないだろう。

「パーティに参加できるのは、正規のギルド職員とその家族だけです」

「では、私などは該当しないのでは」

「マコトさんは、臨時職員ですが正式に任命されていますから、正規職員ですよ」

 それ以前にアレスト興業舎の舎長代理なのですから、どちらにしても出席する権利、いえ義務がありますけれど、とハスィー様は笑った。

 そうか。

 ギルドって、正規の職員はかなり限られているんだろうな。

 日本と同じで、現場の末端はバイトとかパートが占めているんだろう。実際、日本の役所でも図書館なんかは正規職員はほとんどいないらしいし。

 やっぱ俺って、凄くラッキー?

 ていうか、ハスィー様とこうやって一緒にいられるだけで、人生の運をすでに全部使い果たしている気がするけど。

 アレスト興業舎に着くと、俺はとりあえずハスィー様をエスコートして事務室にご案内した。

 すでに到着していたアレナさんとマレさんにお任せする。

 というのもおかしいか。

 名目上だが、ハスィー様はアレスト興業舎の舎長だからな。俺が図々しく使っている舎長室の本当の主なのだ。

 ただし、実際の業務は何も判らないハスィー様は、パーティや余興についても完全にお客様だから、今日は徹頭徹尾何もしないで頂く。

 あ、パーティの挨拶くらいはして頂く予定になっているか。

 俺だって実際の業務はよく判らないのだが、何か手伝えることがないかと思ってウロウロしていたら、ジェイルくんに「舎長室でハスィー様のお相手をお願いします」と命令されてしまった。

 俺もお客さんだったか。

 ホント、役立たずだなあ俺。

 舎長室では、マレさんとアレナさんが書類を広げてハスィー様に何やら説明していた。

 俺は舎長代理権限で二人を追い出し、ハスィー様のおもてなしに専念することにした。

 今日くらいは、仕事の事は忘れて頂きたいからね。

 ハスィー様は苦笑していたが、反対はしなかった。

 この人も仕事の虫だから、誰かがストッパーをかけないと、際限なく働いてしまうんだろうな。

 少し小腹が空いてきたので空を見たら、太陽がかなり高くなっていた。

 そろそろ昼飯の時刻だ。

 ちなみに、パーティは正午というか、昼食の時間に始まる。

 こっちでは夜間照明があまりうまくないので、こういう行事は明るい内にやることになっているのだ。

 つまり、パーティは昼食を兼ねていて、日没前にお開きになる予定だ。

 窓から外を見ると、それまで広い庭を思い思いにうろついていたギルドの職員とその家族が、テントに吸い込まれていくのが判った。

 そろそろ開演じゃなかった開場らしい。

「では、行きましょうか」

「はい」

 さっきと同じく、ハスィー様に腕を貸してテントに向かう。

 もうみんな配置についたのか、舎内はがらんとしていた。

 フクロオオカミたちの姿も見えない。

 あれだけでかい図体なんだから物凄く目立つはずだが、今はどこかに隠れているのだろう。

 正式にお披露目するまでは、ギルド職員の目からも隠す必要があるからね。

 テントの入り口には、今回は立哨がいなかった。

 その代わりにアレナさんがいて、俺とハスィー様を引っ張って奥の方に進んでいく。

 テントの上部は開け放たれていて、結構明るい。照明が事実上ないからなあ。サーカスも、このままでは夜は無理だ。

 何とか夜間照明を工夫できないもんだろうか。

 日中だけの営業だと、売上げに不安が残るからな。

 などと俺らしくもなく経営的な問題をぼんやり考えていたら、何と舞台のかぶりつきに案内されてしまった。

 何か貴賓席というか、そこだけ椅子が並んでいる。

 ギルドのお偉方がすでにずらりと座っていた。マルトさんやレト支部長の姿が見える。

 いや、俺だって偉い人なら男でも覚えるよ。

 舞台になる部分は、いつの間にか高さ10センチほどの台が出来ていて、客席とは明確に区切ってあった。

 客席と言っても、ただの地面なんだけどね。

 一般の客は地面に座るわけにもいかないので、みんな立っている。

 あっちこっちに長テーブルが置いてあって、料理や飲み物が並んでいた。

 みんな早く食いたそうだが、さすがにギルドの正規職員というか、「待て」状態でおとなしく待機している。

 この辺りは、日本とそっくりだなあ。

 サラリーマンの(サガ)というべきか。

 許可が出ないと、飲み食いもできないのだ。

 俺とハスィー様が最後だったらしく、席につくとほぼ同時にラナエ嬢が舞台に出てきて一礼した。

「ようこそいらっしゃいました。わたくしはアレスト興業舎のラナエ・ミクファールと申します。

 ただいまより、ギルドのニューイヤーパーティを開催いたします。

 ギルド執行委員であり、アレスト興業舎の舎長であるハスィー・アレストよりご挨拶させて頂きます」

 いきなり丸投げかよ!

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