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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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19.正装?

 ギルドの年始総会の会場は、ギルド本館の大ホールだった。

 プロジェクトの発足式と、俺の任命式が行われた所だ。

 参加可能なギルド職員は全員強制参加だ。

 でも何をやるのかというと、偉い人がだらだらと話すのを突っ立ったまま聞くという、地球の似たような式と何も変わらない退屈な時間だった。

 俺は、一応上級職ということで、ギルドの職員の皆さんと向かい合う形で整列させられていた。

 端っこの方だけど、おかげで欠伸もできない。

 ハスィー様は執行委員ということで中央にいらっしゃるし、アレナさんやマレさんは整列した職員の皆さんの中に埋もれてしまって、どこにいるか判らない。

 おまけに、話している人との距離が微妙に遠いために、魔素翻訳が聞こえたり駄目だったりするので、話の内容が切れ切れにしか伝わってこない。

 忍の一字でひたすら我慢し続けること2時間、これは俺の体感時間だが、やっと終わって解放された時は、心底ほっとした。

「マコトさん」

 解散の号令がかかるとすぐに、ハスィー様が来てくれた。

「ハスィー様」

「退屈でしたでしょう? でもこれで、年初の仕事は終わりです。ギルドの業務は、警備隊などの常備業務を除いては、すべて止まります。

 しばらくは休めますよ」

「その前に、パーティがありますけれどね」

「ふふっ。そうですね。これからが本番です」

 ハスィー様は、笑みを浮かべて手を軽く合わせた。

 美人すぎる。

 いいのだろうか。俺がこんな美女、いや美少女のそばにいたりして。

 何か間違っている気がするんだよなあ。

 しかしハスィー様はそんな俺に構わず、近寄ってきたアレナさんとマレさんを呼んで何か指示してから言った。

「ではマコトさん、行きましょう」

 もう行くんですか。

 それは、アレスト興業舎には人手はいくらあってもいいけど。

「違います。ギルドの総会は制服が義務づけられていますが、パーティは無礼講です。

 マコトさんの服も用意してありますから、わたくしの家で着替えていただきます」

 な、なんだってーっ!

 ああ、そうか。

 それはそうだよね。

 家族も呼べるパーティに、職員だけ制服を着ていっても仕方がない。

 当然、みんな自分の家に帰って着替えてから、家族を連れて会場に出かけるわけだ。

 俺もハスィー様も、当然だがギルドの儀礼用上級職制服なわけで、俺はともかくハスィー様たち女性陣がそのままパーティなんかに出るはずがない。

 それは判るんだが、どうして俺まで?

「あら、マコトさんだっておしゃれするべきでしょう。わたくしとラナエで一着仕立てておきました」

 ラナエ嬢も噛んでいるのか!

 何ともはや。

 しょうがない。

 後で、お二人には何かお返ししないとな。もう、絶対返せないくらい、世話になりっぱなしな気もするけど。

 ハスィー様は、それからギルドの評議員さんらしい偉そうな人たちに挨拶して、俺と一緒にギルドを出た。

 エスコートは俺か。

 こんな貴顕の護衛が俺一人というのは心許ないが、そもそもハスィー様っていつも一人で歩き回っていて、道で行き交う人に普通に挨拶されていたしな。

 まして、今はギルドの儀礼服を着ているのだ。

 こんな目立つ人を襲う奴もめったにいないだろう。

 ハスィー邸に着くと、タフィさんたち使用人が待ちかまえていて、俺は着替えを押しつけられてリビングに放置された。

 ハスィー様は、使用人みんなで飾り付けられるらしい。

 普段着でも目が眩むようなお姿なのに、着飾ったらどうなることやら。

 俺の着替えは、案の定ぴったりだった。

 身体データを知られているからな。

 どんな服なのかと思ったが、意外といっては何だが普通のタキシードみたいな上下だった。

 生地や仕立ては上等だったけど。

 なんか、この辺りは地球の西洋風の衣装が浸透しているんだよね。

 ギルドや騎士団の制服にしても、どことなく見覚えがある服だったし。

 ちなみに、服に関しては明らかに近世から現代のヨーロッパ風で、例えばアジアやアフリカ、中東といった地域のものは皆無だった。

 気候的に近いからかもしれないが、むしろずっと前にやってきた『迷い人』が持ち込んだと考えた方が、しっくりくる。

 その人、服屋とかデザイナーとかだったのかもしれないな。

 服だけではなく、色々な面で地球の影響が見られるのは、みんな『迷い人』のせいかもしれない。

 転移してきた大抵の人は、そのまま死んでしまったり、あるいは市居の一般人として生涯を終えるのかもしれないけど、中には大きく社会的な影響をもたらした人もいたのだろう。

 俺は、そんな英雄にはなりたくないけどね。

 定年まで勤めて年金貰って……は無理だとしても、何とか働かずに生きていける程度の金を貯めて引退したい。

 あ、俺ってもう、日本に帰ることを諦めてしまっているな。

 方法がまるで判らないんだからしょうがないけど。

 帰った人の話は、こっちでも地球でも聞いたことがない。

 まず、無理だろうね。

 実際の所、今更帰ってもあまり面白くない気もする。

 それはこっちよりは安定しているかもしれないけど、これだけ長期間無断欠勤した以上、もう北聖システムは間違いなく首になっている。

 今更再就職に挑むのもなあ。

 正直、こっちで頑張る方がましかもしれないのだ。

 ハスィー様というコネもあるし。

 ギルドを首になったら、何とかハスィー様の使用人として雇って貰えないだろうか。

 ラナエ嬢でもいい。

 あのお二人についていけば、まず食いっぱぐれはなさそうだからな。

「お待たせしました」

 ハスィー様がリビングに入ってきた。

 凄い。

 いや、着飾ったというほどではない。

 だが、ドレススカートなんだよ!

 ラナエ嬢のものと違ってあまり飾りのないシンプルなラインだけど、それがまたハスィー様に似合っているのいないの。

 色は白だ。

 純白のミニドレスのエルフって、ここまでいくのか。

 もうモデルというレベルですらないな。

 まさしく傾国の姫だ。

「どうなさいました?」

「あー。よくお似合いです」

「ありがとうございます」

 ハスィー様は、微笑んでスカートの裾を摘み、少し膝を曲げて簡易だが正式な挨拶をしてくれた。

 ホント、身分が違う。

 ラノベみたいにはいかないなあ。

 そもそもラノベの場合、こういうシーンはツンデレだもんな。

 そんな台詞は恥ずかしすぎて言えないし、ハスィー様も返してくれないだろう。そもそも、ハスィー様ってツンデレじゃないし。

 無理矢理ハスィー様から目をもぎ放すと、タフィさんと目があった。

 ニヤニヤしている。

 それどころか、腕を組むようにけしかけてくれているぞ。

 いいのか、俺。

 やるしかないのか、俺。

 仕方がない。

 膝がガクガクするのを隠して横に並び、腕を差し出す。

 ハスィー様は、当然のように腕を組んできた。

 俺より10センチほど背が低いので、何というかちょうどいい組み方になる。

 今までやったことがないのでよく知らないけど、女性が少し腕を上げて男にすがるような恰好になるわけだ。

 いや、こういうの、俺ホントに駄目。

 人には分相応とか、格というものがあってだな。

「それでは、参りましょう」

 ああ、忘れていた。

 こういう時って、男の意志は関係ないんだったっけ。

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