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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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18.開幕準備?

 あっという間に年の暮れが迫ってきた。

 といっても、俺はまだカレンダーが朧気にしか判らないので、みんながそういうのを聞いてそうかと思うだけだが。

 多少は寒くなったが、俺の感覚では日本の秋の終わりとか冬の始まりといったところで、外出するときも軽いコートで十分だ。

 あ、でも家に居るときはさすがに暖炉で火を炊くようになった。

 もちろん、俺にそんな高等技術があるはずもなく、家政婦のおばさんが用意してくれる薪に火をつけるだけだ。

 リビングに作り付けになっている暖炉には感激したけど、使ってみるとあまり暖房効果はないことが判った。

 昔のストーブみたいで、近くにいると汗をかくほど暑くなるのだが、少し離れるともう寒くなってくる。

 結局、部屋の中でも厚着をした方がいいことになる。

 小さいときに、田舎の親戚の家に泊まったけど、昔の日本建築は隙間風が吹くので厚着をして炬燵に入っていたなあ。

 こっちには炬燵がないので、俺は膝に毛布をかけている。

 寝るときは、上等の布団に毛布を重ね着する。いや、ギルドの上級職の給料って、楽々それが出来るくらい高いんだよ。

 ベッドやなんかもふかふかだしな。

 ハスィー様に感謝だ。

 あのままマルト商会の寮にいたら、結構悲惨なことになっていたかもしれない。

 この寒空に出て行って、冒険者としてクエストをこなすなんて、俺に出来たかどうか。

 こうしてみると、結構際どい綱渡りをしているな、俺も。

 というように、俺の生活面では一応の満足を得ていたのだが、仕事の方は結構めんどくさいことになっている。

 シルさんとか、あの郵便班のせいで、消費する予算やら認可する仕事やらが格段に増えてしまい、書類仕事が増大しているのだ。

 さらに、それに伴ってトラブルも増えている。

 フクロオオカミも、新しく4頭【人】が着任して合計10頭【人】になった。

 人間も増え続けていて、もう何人いるか判らないほどだ。

 まあ俺が知らないだけで、事務方は把握しているはずだからいいんだけど。

 ソラルちゃんに聞けば、即座に教えて貰えるし。

 ところで、俺が提案した医療班については、まず薬剤師や骨接ぎの技能者の人選が行われ、交渉が始まっている。

 同時に、人を診るための医者なども手配している。こっちはパートタイムになるはずだ。

 リーダーはジェイルくんだから、安心して任せているというか、丸投げしているけどね。

 ジェイルくんも、ラナエ嬢の補佐をしながらだからよくやるよ。

 ジェイルくんこそ、アレスト興業舎に引き抜きたい人材なんだけど、マルトさんが手放さないだろうしな。

 今のところ、フクロオオカミも人も病気などに罹ることはなく、多少の怪我人が出ているくらいなので何とかなっているが、出来るだけ急いだ方がいいんだけどね。

 ところで当面の課題は、ギルドのニューイヤーパーティ(だったっけ?)だ。

 いや、ギルドの総会自体はギルドの大会議室で行われるんだが、それが終わった後に、参加者およびギルド職員が家族連れでアレスト興業舎に来ることになっているのだ。

 余興を見せるだけでなく、パーティ自体もこっちでやることになったらしい。

 これはラナエ嬢の手腕で、アレスト興業舎としてギルドからパーティ準備と開催をひっくるめて請け負ったのだ。

 無謀だ。

 だって、何の実績もないんだぞ。

 素人の集まりだし。

 ギルドだって、いつもはケータリング業者に任せているはずなのに。

「もちろん、わたくし達だけでは何も出来ませんわ」

 ラナエ嬢は、会議の席で平然と報告した。

「ですが、アレスト興業舎が役に立つ、少なくとも金食い虫ではないということを、早急にギルドに示すことが重要です。

 また、わたくしどもは様々なノウハウを出来るだけ早く学ぶ必要があります。

 よって、今回のパーティの余興だけでなく、全体を請け負うことで存在感を示すとともに、興業舎の経験値を増やすことにしました」

 いや、言うのは簡単だけど。

「ギルドが例年使っているケータリング業者を雇いました。アレスト興業舎は、彼らの業務を手伝いつつ、ノウハウを盗みます。

 最終的には、業者自体を吸収してしまうことを考えております」

 怖っ!

 誰だ、こんな凄い人を野放しにしたのは!

 でも王宮がラナエ嬢を採用しなかった理由がはっきりわかったぜ。

 もしこんなのを内部に入れたら、近いうちに王宮ごと乗っ取られてしまうかもしれないからな。

 かといって、野放しにするのも怖いが、王宮としても他にやりようがなかったのだろう。

 「学校」が終わった後、ラナエ嬢が見合いづくしだったのも頷ける。

 王宮としては、出来るだけ早くラナエ嬢をどっかの貴族に片付けてしまいたかったんだろうな。親には相当の圧力がかかっていたに違いない。

 でも、ソラージュ王宮、間違ったかもしれないぞ。

 こんな辺境に追いやって安心していたら、そのうち足下を掬われかねない。もうアレスト興業舎という「力」を手に入れてしまったからな、ラナエ嬢は。

 下克上の足音が聞こえる。

 そういうわけで、アレスト興業舎は総出でパーティの準備に追われている。

 パーティ自体も庭に張った大テントでやるので、宴会と演劇の準備を並行して行わなければならず、大混乱に陥っていた。

 ギルドからの連絡で、参加者数は五百人近くになるということで、急遽その分の用意が必要になったんだよね。

 最初はサーカスらしく、座席を用意しようとしていたんだけど、場所的にとても無理だということが判って、立食式のパーティになった。

 もちろん、飲み食いしながら劇を観るのではなくて、パーティがある程度進行した時点で余興という形で行うらしい。

 俺はよく知らない。

 パーティはラナエ嬢が、演目はシルさんが全部仕切っていて、口を出す必要がないのだ。

 というか、やれと言われても何も出来ないしな。

 シルさんは、旅芸人の一座からノウハウを吸収して、着々と準備を進めているようで、悠々たるものだ。

 さらに一座から、軽業師や脚本家などを引き抜いてしまったらしい。

 実は残りの人たちも、アレスト興業舎の仕事が軌道に乗ったらこっちに参加するということで話がついたそうだ。

 どこまで話をでかくするんだよ。

 パーティについては、ラナエ嬢の総指揮のもと、ケータリング業者の人たちが黙々と働いている。

 アレスト興業舎の豊富な単純労働力の提供が大変喜ばれていて、どうもこれが終わった後はその業者に人を貸し出す算段になったらしい。

 もう商売しているのか!

 才能がある人が居場所を見つけると、とんでもないことになるという好例だな。

 俺?

 だから何もしてないって。

 やっているのは、書類にサインすることだけなんだよ。

 ギルドの金だと思えば、別に気にならないし。

 でも、ハスィー様、ホントに大丈夫か?

 とんでもない金額になっているぞ?

 まさか、ドリトル先生の話をしただけで、こんなことになるとは。

「マコトさん、パーティの準備はやっておきますので、そろそろ行ってください」

 ジェイルくんが声を掛けてきたので、俺はアレナさんやマレさんたちギルドからの出向組と一緒にギルドに向かった。

 俺も一応、ギルドの特別職員だからね。

 総会に参加する義務があるのだ。

 めんどくさいなあ。

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