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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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16.隠蔽?

 サーカス班が焦臭い。

 その情報をもたらしてくれたのは、例によって眼鏡っ娘の会計係ながら茶髪でミーハーのマレさんだった。

 お騒がせキャラでありながら、育ちの良さを感じさせる気品も併せ持つという不思議系(違)だ。

 ホントこの人は、本業でも十分有能なんだけど、情報を集めて報告してくれることにかけては一流の域に達している。

 すごく助かっているんだけどね。

 アレナさんは、ちょっと真面目すぎてそういう事には向かないし、俺の秘書役をやってくれているソラルちゃんは事務班なので、少し距離を置かれてしまっているらしい。

 焦臭いというのは、どうやらシルさんがアレスト興業舎の他のグループに隠れて色々やっているらしいことだそうだ。

 別に悪いことをしているわけではないんだが、妙に秘密主義だったり、その癖他の班に所属している人やフクロオオカミに協力を頼んできたりして、動きが掴めないのだという。

 もちろん、理由はあった。

 例の、ハスィー様からの依頼で行うことになった、ニューイヤーパーティの余興である。

 違ったっけ。

 ハスィー様としては、ギルドの偉いさんたちにフクロオオカミを披露する程度の気持ちだったらしいが、シルさんが乗ってしまったのだ。

 本格的な興業を企画しているらしい。

 ところが、その内容をいくら聞いてもはぐらかされるばかりで、「マコトには迷惑かけないから」という台詞で誤魔化されている。

 いや、何かあったら舎長代理を押しつけられている俺にしわ寄せが来るんだからね。

 無関心ではいられない。

 追加予算を組んで、アレスト市に来ていた旅芸人の一座を引っ張り込んだり、怪しげな大道具・小道具を製作しているという情報も入っている。

 これはもう、看過できないということで、俺はソラルちゃんを連れてサーカス班が根城にしている裏庭のテントに向かった。

 新年会まで、あと一月もないんだし。

 ああ、そういえば今はもう冬のはずなんだけど、体感的にはあんまり寒くない。

 日本でいったら、秋の終わりとか冬の始まりくらいか。

 ソラージュ王国は、緯度でいうと結構赤道に近い所にあるのかもしれないが、それにしては星座が日本と同じなので、多分これは地形や海流のためだろう。

 ジェイルくんによれば、夏は結構暑くなるのだが、からっとした暑さなのでそんなに辛くないということだ。

 俺は、転移したときは東京の23区内にいたはずである。

 こっちと地球が同期しているとしたら、ソラージュ王国は日本と同じ場所にあるはずなのだが、地形からして違うもんなあ。

 大体、東京はこんな山の中の盆地みたいな場所にはなかったぞ。

 そもそも、俺が転移したのは春なのに、こっちに来てみたら明らかに秋だったし。

 半年くらいずれて、その分経度的に横にズレたのか?

 考えても、もちろん判るはずがないので放置しているけど、いずれは突き止めたいものだ。

 俺がじゃなくて、誰か学者さんに頼んで。

 それはともかく、裏庭に回った俺は巨大なテントの入り口で侵入を阻まれた。

 シイル配下と思われる子供が二人、腕を組んで立ちふさがっていたのだ。

「入れてくれないか」

「ここは、何人であっても許可がない者は入れません」

「俺でもか」

「マコトさんでも、です」

 言い切った子は、日本で言うとまだ小学校の中頃くらいだろうか。

 この使命に命を賭けているような顔つきをしている。

 シルさん、私兵ってこういうことか?

 それにしては、ホトウズブートキャンプに連れて行かれたかつての悪ガキ共の姿が見えないのが解せない。

「あっマコトさん!」

 シイルが駆け寄ってきた。

 子供達は、シイルを見るとパッと向き直って敬礼のようなことをした。

 何コレ?

「すみません。この子たちが、失礼しませんでしたか?」

「いや。立派に命令を果たしているみたいなんだが……入れてくれないんだ」

「あー、ちょっと待ってて下さい」

 シイルは素早くテントに飛び込む。

 数十秒で戻ってきた。

「マコトさんと、ソラルさんならいいそうです。すみませんでした」

 ああ、そんなに息を弾ませることはないって。

 シイル、いつ見ても一生懸命でいいなあ。

 この年にしてはイケメンだし。

 中性的な美少年の需要は、いつの時代、どこの世界でも尽きることはないんだろうな。

 成長したら、ジェイルくんみたいになるんだろう。

 いいなあ。

 主人公になれるかどうかは、生まれた瞬間にはもう、決まっているからな。

 モブな俺とは大違いだ。

 俺は、念のために立哨中の子供達に「よくやった。ガンバレ」と声を掛けてから、テントに入った。

 ソラルちゃんが、神妙についてくる。

 秘書らしいぜ。

「ご案内します」

 シイルくんが先頭に立って、3人で進む。

 でかいテントだった。

 どうやら、俺がドリトル先生の話をした時に出てきた「サーカスはテントでやる」というのを実践したらしい。

 ただ、地球の大テントと違ってあまり高さはない。サーカスの場合、綱渡りとか空中ブランコがあるから、テント内の空間は凄く高いはずなんだけどな。

 まあ、あれは人間がやる演技だから、フクロオオカミとは関係がないし。

 これほどのテントをどこで手配したのかと思ったが、それについてはソラルちゃんが知っていた。

「ギルドの協定式に使う大型のテントを二つ、繋げたみたいです。観客の収容人数は三百人くらいだそうです」

 さすが事務班兼任。

 それにしても三百人か。

 今はベンチもなくてガランとしているけど、そんなものか。

「あ、奥の方で演技するので、観客席は大体この半分くらいのスペースですね。」

 うーん。

 俺だって、本物のサーカスなんか見たことないからな。

 そう言われればそうなのかと納得するしかないのか。

 でも、なんだか俺の知っているサーカスとは微妙に違って来ている気もするけど。

「おう。マコトじゃないか。ようやく嗅ぎつけて来たか」

 シルさんが近寄ってきた。

 冒険者装束のままだ。

 汚れ仕事でもしているんだろうか。

「いえ、他の班から突き上げが激しくてですね。俺に確かめてこいと」

「舎長代理を斥候に出すとは、ラナエもよくやるな」

 バレてるぞ、ラナエ嬢。

 事務方のトップとして、情報遮断は我慢できないらしいけど。

 自分ではやれないから、俺に行ってこいと「命令」してきたんだよ。

 シルさんは、アレスト興業舎内の階級でいうとラナエ嬢と同程度だから、ラナエ嬢と言えどもシルさんに対して強制はできない。

 ラナエ嬢に逆らえる人はいないけど、さりとてシルさんに対抗できる人もほぼいない。

 俺だって無理だけど、一応舎長代理だから、この任務を仰せつかったというわけだ。

 シルさん、なぜか俺には甘いから。

「ま、ここらが潮時だろうな。そろそろ、本格的に舎全体を巻き込む時期に来ているし」

 シルさんはさわやかに言って、俺の背中を叩いた。

 痛え。

 あなたが一流の冒険者だってことは判ってますから。

 荒事専門の。

 そういう噂は、俺だって聞いているんですよね。

 もともとは帝国の出身だとかね。

 関係ないけどね。

 今は、アレスト興業舎の仲間だ。

 そうなんだよ。

 何とシルさんも、『栄冠の空』を辞めてアレスト興業舎に就職してしまったのだ。

 騎士団のリーダーと違って、止める人がいなかったらしい。

 モス代表も、快く送り出してくれたとか。

 そもそも、シルさんが『栄冠の空』で渉外なんかやっていたのは、冒険者としての力を持て余していたからじゃないかな。

 この辺りでは、シルさんを投入するほどの荒事が起こらないのかもしれない。

 もっとも渉外が出来るほど有能なので、手放すこともできなかったんだろうけど。

 何かあったときの切り札として温存されていたのだろうと思うけど、シルさんにしたってそんなの不満が溜まるばかりだったろうし。

 でも、どうもシルさんはアレスト興業舎でやりたいことを見つけたらしいのだ。

 まあ、マレ情報によれば、シルさんが『栄冠の空』を辞めるに当たって、モス代表の要請があれば、チームを離れていても協力はするという密約もあったらしい。

 この辺りは、ギルドというかハスィー様も了解済みなんだろう。

 政治ってめんどくさいなあ。

「それでは、マコトにも見て貰おうか。アレスト興業舎、サーカス班の初興業、これが目玉だ!」

 シルさんが大きな身振りで、テントの端の方を指さした。

 そこには、日本の高校の演劇部とかで見かけるような、劇の大道具が並んでいた。

 お城の石壁みたいなチープな書き割りや、森を模したと思われる作り物のぞんざいな木なんかがある。

 シルさん?

 これって、サーカスじゃないよね?

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