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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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11.公演?

 ディナーが始まった。

 出席者はハスィー様とラナエ嬢、そして俺である。

 こないだから何度か、身内で高級レストランでのランチやディナーに呼ばれることがあって気がついたのだが、こういった会食におけるマナーは地球のヨーロッパ風だった。

 風というよりは、酷似している。

 多分、ずっと前にやってきた『迷い人』が伝えたんじゃないかな。

 スプーンやフォークに若干の修正が入っているが、地球と無関係に発達したとは思えないくらい、俺には自然に感じられる。

 もっとも、俺は西欧式の食事マナーに詳しいわけではないし、というよりは暗いのだが、それでも正式のディナーはスープから始まって、という流れくらいは知っている。

 まさに、その通りなんだよね。

 食器も、地球の西欧風のものに極めて近い。

 白い陶器製で、いくつかは模様がついている。

 だが、これはハスィー家だからかもしれない。

 何てったってご領主の家柄だからな。

 庶民は言うに及ばず、多少のお金持ちでもここまで凝っている家は少ないのかも。

 ただ、例の高級レストランも似たような食器を使っていたから、多分上流階級御用達なんだろう。

 ちなみに、中世ヨーロッパでは毒殺を防ぐために食器は銀で作られていたと聞いたことがあるけど、こっちではそういう方向には行かなかったみたいだ。

 魔素で意図がバレバレなのが大きいからかなあ。

 まあ、助かった。

 マナーについては、意外にも俺でも対応出来ている。

 俺が知っているのは、ナイフやフォークは外側から使うというような基本的なことなのだが、それで十分なようだ。

 こっちでは、宮廷作法はあまり発達しなかったのだろうか。

 むしろ、このお二人のお嬢様たちが意図的に無視しているのかもしれない。

 俺に合わせてくれているとか。

「マコトさん、アレスト興業舎舎長代理としてのお仕事はいかがですか」

 ハスィー様が聞いてきた。

 そろそろ今回のディナーの目的にかかってきたのか。

 何なのかまったく判らないけど。

「順調です、と言いたいところですが、実際にはラナエさんに寄りかかりまくりです」

 オンブに抱っこ、と言いたかったが、それではいい年した男が17歳の女の子にアレコレしているように聞こえてしまうので、ぼやかした。

 もっとも魔素翻訳で、ニュアンスは伝わってしまうんだが。

「そうなのですか?」

「マコトさんは、わたくしの好きなようにやらせて下さっているのですわ。得難い上司と思います」

 ラナエ嬢、そつがないな。

 まあ実際にもそうなのだろう。ラナエ嬢は毎日生き生きと働いているし。

 確かにサラリーマンとしてみると、上司が目標だけ与えて何も口を出さないというのは、ある意味理想だ。

 もちろん、その部下に能力があればの話が。

 俺なんか、自分から何をしたいとかまったく思わないので、仕事も上司に指示された方がやりやすい。

 まだ入社二年目だったからでもあるけど。

 でも、俺と同じ大学の学科の同期で飲食チェーンに行った奴なんか、入社半年で店長やらされたとか言っていたっけ。

 死ぬほど忙しくて、下手すると土日もないようなブラック企業らしいが、そういうのが合っている奴もいるからな。

 そいつがどんな風に仕事しているのか知らないが、多分上は放りっぱなしなんじゃないかと思う。

 そいつは、学生時代から宴会とか仕切るのが上手かったしな。

 メチャクチャ忙しいけど、やりやすいという仕事もあるんだろう。

 俺は御免だけど。

 やっぱり完全週休2日、残業はあってもいいけど定時出勤は固持したい。

 それが日本のサラリーマンのささやかな野望です。

「ラナエから聞いていますが、興業舎の事業も順調ということですね。特にサーカスについては、近いうちに試演が出来そうだと」

「そうですね」

 俺にも、シルさんから報告があった。

 どうも、シルさんは俺との会話からヒントを得たらしく、物凄い勢いでサーカス班を働かせているらしい。

 最初からサーカスの演目を全部実現するのは無理なので、その中の一つに絞って、とりあえず公演できるようにするとのことだった。

 それが何か?

「実は、2ケ月後にギルド恒例のニューイヤーパーティーがあるのですが、ちょうど良い機会ですので、そこでサーカス班の公演を行ってみてはどうか、という提案がラナエからありました」

 え?

 聞いてないよ?

 見ると、ラナエ嬢は澄ましてお茶を啜っている。

 根回し済みということか。

 いや、別にいいけど。

「はい」

「マコトさん、どうでしょうか。許可していただけますか?」

 俺の許可なんかいるのか?

 形式上ということか。

 まあ、何かあったら俺の責任になるからな。それが舎長代理の役目だ。

 おお、俺って経営者らしくなってきたんじゃないか。

 仕事は全部、部下に丸投げだけど。

「ラナエさんがGOサインを出したのでしたら、私に異存はありません」

「ありがとうございます。これで、ギルド側にアレスト興業舎の成果を見せることが出来ます」

 ああ、そうか。

 ハスィー様としては、アレスト興業舎が金食い虫の無用の長物でないことを、早く示したいのだ。

 実際に一般に向けて公演を行ったり、利益を出したりするのはまだ先だけど、とりあえずフクロオオカミを雇用することで何らかの実績を出さないと、立場上苦しくなるんだろうな。

 本当なら、俺が心配しなければならないことだよ、これ。

「ハスィー様、ラナエさん、申し訳ありません。私がもっと早く提案するべきでした」

「そんなことはございません。わたくしはマコトさんの部下なのですから、その部下が行ったことは、マコトさんの功績ですわ」

 ラナエ嬢、そんなどっかのビジネス漫画みたいなことは言わない約束でしょ。

「アレスト興業舎はうまくいっているようで、わたくしも一安心です。羨ましいです。わたくしも、そちらに混ざりたいくらいです」

 ハスィー様、冗談ですよね?

 失礼ですが、もう完全に当初の目標を見失っておられるような気が。

 まあ、あのプロジェクト室で来る日も来る日もお偉方に弁解とか説明とか空約束とかを繰り返しているのは、ストレスが溜まるだろうけど。

 そうだ、ここはもう少し聞いておかないと。

 その試演って、フクロオオカミが出演できるようなものなのか?

「さきほど、ニューイヤーパーティとおっしゃいましたが、それはどのようなものなのでしょうか」

 まあ、大体想像はつくけどね。

 アメリカの企業なんかでは、よくあるらしい。

 社長が従業員を招待して、色々ご馳走したり余興をやったりするんだろうな。

「ギルドの職員を慰労するパーティです。年が変わった日に、昨年の尽力に関する感謝と、今年の期待を込めて開かれます。

 例年はギルドのホールで開いていましたが、今年はアレスト興業舎の敷地で行いたいと思っています。

 あの広さなら、職員さんのご家族も含めて十分入れますし」

 そうか、子供も呼ぶのか。

 フクロオオカミが大人気になりそうだな。

 実際、シイルの仲間達はもう、フクロオオカミと義兄弟みたいになったらしいし。

 おかげで、あいつらも俺のことを「マコトさんの兄貴」と呼び出したのには閉口しているけど。

 それはともかく、失敗しても身内の恥で済みそうなところが素晴らしい。

「判りました。問題ないと思います」

「では、明日にでもサーカス班に伝えますわ。今回はアレスト興業舎の初めてのお仕事になりますから、警備班と郵便班にも参加して頂く予定です。

 総力戦、やりますわよ」

 焦臭い言葉は使わないで欲しいです、ラナエ嬢。

 やれやれ。

 俺の知らないところで、話がどんどん大きくなっていくなあ。

 まあ、いいけどね。

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