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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第八章 俺が盟主?

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19.脱帽?

 暖かくなると共に、北方諸国から「すべての国と組織の(ミルトバ)連合」に参加する「国連」大使の赴任が始まった。

 でも皆さん、まず自国の大使館に寄ってからヤジマ屋敷(俺んち)に来るんだよね。

 そいで俺と会ってちょっと話す。

 ソラージュ王宮はその後だ。

 これはルディン陛下の予定(スケジュール)が詰まっていて謁見がいつになるのか判らないからでもあると思うけど。

「違います。

 大使の方々は何よりもまず我が(あるじ)にご挨拶をと」

 ユマさんのお言葉がきつい。

 やっぱ俺、世界征服後の悪の大首領と思われているんだろうなあ。

 しょうがない面もある。

 だって「すべての国と組織の(ミルトバ)連合」の設立や準備費用は未だに全部ヤジマ財団の持ち出しなんだよ。

 各国政府からの資金供出はまったくない。

 そういうのは公式に承認されなければ駄目らしい。

 つまり現時点での「すべての国と組織の(ミルトバ)連合」は、ヤジマ財団配下の私的組織でしかないのだ。

 第一回総会で今後の事を決めるまでこの状態が続くらしい。

 そういえば地球の国際連合も元は第二次大戦の連合国側の組織だったらしいからね。

 つまり設立は連合軍というかそれに属する国が資金や人員を供給していたわけだ。

 それと同じか。

 こっちではヤジマ財団という得体の知れない非政府組織だというだけで。

 てことは「すべての国と組織の(ミルトバ)連合」って今のところは単なるサークルみたいなもんじゃないの?

「我が(あるじ)の所有団体でございます」

 何てこった(泣)。

 俺、マジで世界征服していたらしい。

 どーすんだよこれ。

 いや、別にいいんだ。

 ヤジマ商会を始めた時と同じで俺は案山子だ。

 言われるままに誰かと会って適当に話して握手していればいい。

 それ以上の事はしないからね?

「当然でございます。

 我が(あるじ)は玉座……いえ観客席で観覧しておられれば。

 後は我々(しもべ)共がすべて片付けます」

 言い直したけどわざとだよね?

 でもユマさんの方法論は判った。

 どっかで見た覚えがあるような。

 暴虐非道だと思われている軟弱な王様を後ろから操る悪宰相とかそういう。

 その王様の気持ちが判るなあ。

 だってどうしようもないんだよ。

 何がどうなっているのかよく判らないし、そもそも自分で何とかする能力もない。

 配下(ユマさん)が持ってくる書類に判子を押すだけだ。

 宮殿内で何が起こっているのかは庶民には判らないからな。

 もういいです。

 何でもやります。

 そう言うとユマさんは驚くべき事に微笑みながら返してきた。

「特にございません。

 後は我々(しもべ)の仕事でございますので」

 用なしか(笑)。

 それは助かるけどね。

 まあいいか。

 ちなみに赴任してきた北方諸国の新任大使については、会っても会わなくてもいいそうだ。

 もはやそんなことを気にする段階は終わっているらしい。

 俺はせっかく来てくれたし秘書の人が「お会いになりますか」とか聞いてくるから会っていたんだけど。

 ユマさんの話ではご自由にということだった。

 でもまあ、せっかく外国(ソラージュ)まで来てくれたんだからということで会って話すことにした。

 ついでにヤジマ学園の視察やセルリユ興業舎の見学なんかも勧めておいた。

 皆さん、何か狂喜するんだけど?

(あるじ)殿のお墨付きですので。

 最優先でご案内されます」

 ハマオルさんが言うには、俺の意向を誰かが聞いていて許可が出たら優待状を渡すことになっているそうだ。

 その金はヤジマ財団が払うらしい。

 別に俺の個人財産からでもいいと思うんだけど。

「同じ事でございます。

 ヤジマ財団は我が(あるじ)所有物(モノ)ですので」

 さいですか。

 いつの間にかそういう事になっていて、俺が何か言ったりやったりした事は全部ヤジマ財団の専用部門が処理するらしい。

 もう俺、うっかり何か言うこともヤバくなってない?

「貴族や王族はそういうものですわ。

 一挙一動がすべて意味あるものであるごとく解釈され、その意志に従って配下が動きます。

 もっとも普通の貴族は予算の制限がございますので、何でも出来るというわけではございませんが」

 ある日の夕食時に珍しくラナエ嬢が訪ねてきたので一緒に食いながら愚痴ったら呆れたように返された。

 ユマさんはいない。

 ちなみに(ハスィー)や子供達は何かの用で同席していなかったから俺もはっちゃけたわけで。

 聞いているのはハマオルさんたちだけだ。

 秘密は漏れないから自由に聞けるし言える。

「そうなの?」

 貴族なんだから金がありそうなものなのに。

 アレスト伯爵家はマジで金がなかったみたいだけど、あれは特殊な例だろうと思っていたんだけどな。

「領地貴族はまず御自分の領地を維持するための費用が家計にのしかかって参ります。

 収入が劇的に増えるといったことはあまり考えられませんので、大抵は例年通りの事を繰り返すだけです。

 法衣貴族も似たようなもので、基本は保守と言えますね」

 なるほど。

 ラナエ嬢はミクファール侯爵家の令嬢だし、ミクファール家は自分の領地を自分で統治していると聞いている。

 アレスト家なんかは領地の統治を領主代行官に投げていたから自由に使える金があまりなかったんだろうな。

 でもミクファール家も同じ事か。

 領地の経営では入ってくる金と出ていく金はほとんど決まっているはずだからね。

 金が足りないからといって税金を簡単に上げるわけにもいかない。

 可能だったとしても、それは必要だから上げるのであって自由に使える金が増えるわけではないのか。

「王家であっても同様でございます。

 マコトさんは希有な例外ですね。

 自由に使える莫大な流動資産がある上に、毎年増加し続けている。

 しかもそれは言わば利潤であって配下企業の活動には必要の無いお金です。

 何に使ってもよろしいのです。

 というよりは使って頂かないと困ります」

 そういえばジェイルくんにも言われていたっけ。

 俺の所に流れ込んでくる金を死蔵すると金が社会に回らなくなるから使ってくれというのだ。

 サラリーマンには辛い要求だ。

 いかに金を使わずに生活するかという考えが基本(デフォルト)だからな。

「ジェイルくんには俺の資産を自由に投資でも何でもしてくれと言ってあるんだけど」

「ジェイル様はよくやっておられますが、正直申し上げるとヤジマ商会における投資はそろそろ限界でございます。

 現時点でもリターンが多額に上っております」

 そうか。

 ジェイルくんの立場では、金を使うといっても投資くらいしかないんだよね。

 そして優秀なジェイルくんが行う投資なのでその事業は大抵上手くいってしまう。

 いずれはより多額の金が戻ってくるわけだ。

 ずっと前にそれで愚痴られたから、すぐには利益にならないような事業に投資してくれと言っておいたんだけど。

「その成果が出始めております」

 ラナエ嬢が肩を竦めた。

「ジェイル様のお話では野生動物関係の医療や教育といった方面へ余剰資金を流していたところ、確かに当初は経費ばかりかかってリターンは見込めなかったとのことなのですが」

「が?」

「大発展しております。

 ヤジマ医療舎の野生動物部門には育成が追いつかなくなるほどの派遣要請が殺到しておりますし、教育関連事業は倍々ゲームで伸びております」

 ありゃ。

 そういえばあれから結構時間が過ぎたような。

 確かに野生動物関連事業はうなぎ登りで発展しているけど、あれの活動資金は俺が出していたのか。

 知らなかった(泣)。

「その意味ではマコトさんがお始めになった『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』の運営はタイムリーでございました。

 行き場を失って溢れかけていた余剰資金を飲み込む大きな穴のようなものでございますので」

 これで当分は金の使い道に困らないとジェイル殿が申しておりました、とラナエ嬢は澄まして言った。

 俺の金ってそういう風に使われていた訳ね。

 全然気にしてなかったから別にいいんだけど。

「普通の貴族ならある程度余裕が出来れば贅を尽くしたお屋敷や美術品、あるいは女などに私財を費やされるものなのですが。

 マコトさんはそちら方面には一切興味を示されません。

 本来なら、これはあまり良い事ではございませんが」

 確かに。

 金持ちは金を使ってこそだと聞いたことがある。

 贅沢したり高価な家を建てたりプライベートジェット機を買ったりすることで社会にその金を還元する必要があるらしいのだ。

 でも俺はそんなこと全然やってないからな。

「マコトさんは、その代わりに余剰資金をすべて投資に回されたわけです。

 しかも御自分が所有する事業へです。

 それが悉く大成功することで、更に莫大な利益がもたらされております。

 そして既に次の手を打っておられる。

 『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』。

 これほどの金食い虫を立ち上げられるとは。

 経営者としてまさに脱帽です」

 さいですか。

 難しい事はよく判らないのでよろしくお願いします。

 ラナエ嬢はにっこり笑った。

「わたくしなどは微力でございますが、配下として精一杯努めさせて頂きます。

 マコトさんに出会えて良かった。

 一生、ついて行きます」

 それ、どういう意味なんですか(汗)?

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