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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第八章 俺が盟主?

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1000/1008

18.均衡?

1000話、だと?

 春になった。

 (ハスィー)悪阻(つわり)が始まったりしてあまり屋敷の外の事に構っていられなくなったんだけど、もちろんその間にも世界は着々と進んでいた。

 一応ユマさんとかが夕食の席で報告してくれるんだけど、俺にはあまり関係がないからね。

 大抵は聞き流していた。

 興味を引かれる話題もないではない。

 例えばヤジマ学園の「普通科」で第二期生の募集が始まって、ソラージュはもちろん北方諸国やエラ、ララエ、あるいは帝国からも王族や高位貴族の子弟の入学希望が殺到してきているらしい。

 第一期生の皆様が親族や知り合いに対してヤジマ学園を褒めちぎった手紙を出したり直接話したりして、それを聞いた他の貴顕の子供たちが入学を熱望するようになっているそうだ。

 軽小説(ラノベ)の魔法学園じゃないのに(泣)。

 それはいいんだけど、身分が高い学生が増えると教師との身分差が問題になるかもしれないんだよね。

 エラ王国のルリシア殿下は帰国してしまったから抑えが効かなくなりそうだということで、ヤジマ学園では高位貴族や王族の教師を募集しているという。

「ララエ公国のアレサ公女殿下がおられますが、お一人では心許ないということで。

 急遽募集をかけました」

「でも王族の人が教師なんかやる気になるかなあ」

 志願者があまりいないと思うし、そもそも教えられるほどの技能や知識を持っているかどうか。

「それが、意外な所で突破口が開けました」

 ユマさんによれば、帝国皇族の人たちが何人も話に乗ってくれたのだそうだ。

 帝国の皇族は身分的には最高位だ。

 どこの国の宮廷でも通用する。

 ただ、それだけでは生活していけない。

 身元は保障してくれるけど帝国政府から俸給が出るわけじゃないからな。

 よって皆さん自活せざるを得ないため、専門知識や技能を持つ人も結構いるという。

 基本的に最高級の教育を受けているし、もともと帝国紋章院が選んだ優秀な人たちばかりだから専門家としてもかなり出来るそうだ。

「ナーダム興業舎に要員派遣部門が立ち上がりまして、帝国皇族の方々はそこに登録してヤジマ学園に派遣される形になります。

 これによって対外的には身分の問題は解決(クリア)できます。

 ヤジマ学園内では『それとなく』身分を示すことで『普通科』の学生の抑えになって頂く事に」

 さすが。

 帝国の皇族がそう名乗って直接ヤジマ学園に雇われるわけにはいかないんだろうな。

 だって皇族位の爵位持ちなんだよ。

 他国で言えば王子や王女だ。

 そんなご身分はご本人が主張しない限りはスルー出来るけど、やっぱりヤジマ学園としてはやりにくい。

 学園長や教授たちすらせいぜい近衛騎士(最下級貴族)だし、大抵の職員は平民だから。

 あれ?

 アレサ公女(さん)はいいの?

「アレサ様は公式にはセルリユ興業舎所属でございますので。

 こちらも派遣という形で着任して頂いております」

 なるほどね。

 日本でもよくある方法か。

 北聖システムに居た頃に先輩に聞いたんだけど、職場に派遣されてくる人は元の会社での地位がどうあれ「派遣職員」として扱われるそうだ。

 例えば自分の会社では部長職だったとしても、派遣先では平社員、というよりはその下の業者扱いになるんだよね。

 そうしないと指揮系統が乱れてスムースに仕事が出来ないから。

 よって派遣先の会社の正社員である肩書きがない若い人が、派遣されてきた年輩の社員に命令したり出来るわけだ。

 一種の身分洗浄(ロンダリング)みたいなものか。

「当然ご存じでございますね。

 アレサ様はララエ公国公女であると同時にヤジマ大公家近衛騎士でもあられますが、そういったご身分は『ない』ことになります。

 学生の側も王族であれ学園内ではそのご身分が『ない』わけでございますが、水面下では身分が存在することで」

「教師側にも高位身分を配置することで抑えにするわけですか」

 軽小説(ラノベ)ではそんな苦労してないけどなあ。

 現実は大変だ。

「するとヤジマ学園には帝国皇族の人たちが来てくれると」

「既に赴任して頂いていると報告にあります」

 手際がいいな。

 ナーダム興業舎。

 何か記憶にひっかかると思ったら前紋章院長(アーリエさん)か!

 確か紋章院長の任期切れで勇退してナーダム興業舎に入ったと聞いたような。

 ひょっとして?

「よくお判りでございますね。

 アーリエ様は現ナーダム興業舎舎長でございます」

 やっぱかよ!

 凄い出世だけど、あれくらい守銭奴で頭が切れてコネがある人じゃないとやっぱ舎長は勤まらないよね。

 何せロロニア嬢の後を襲ったわけだし。

 あの人(アーリエさん)道化師(トリックスター)の異名を持つロロニア嬢に匹敵するタマだったか。

「もともと帝国の皇族ということでロロニアよりはやりやすい面もあると存じ上げますが」

 それはいいんだけど、帝国の皇族が民間企業の舎長なんかやっていいのか。

 いいんだろうな。

 アレスト興業舎舎長のシルさんという前例があった。

 それに帝国政府は基本的には皇族の活動に不干渉だ。

 紋章院長(やくにん)からナーダム興業舎舎長への華麗なる転身なわけね。

「それで思い出したけどロロニアさんってどうなったの?」

 いや、むしろルリシア殿下か。

「何とかやっているようでございます」

 そうか。

 大変そうだけど。

「ルリシア殿下を戴冠させようとするユリス王子殿下とあの手この手で()り合っているとの報告を受けております。

 両者一歩も引かない壮絶な闘いとのことで」

 さいですか。

 大変だなあ(泣)。

 軽小説(ラノベ)とはまったく別の闘いが繰り広げられているようだ。

 片やスキャンダルを起こして廃嫡されたい王太女(ルリシアさん)と宰相にされたくない筆頭女官(ロロニア嬢)

 片や何とかしてエラの王冠を誰か自分じゃない人に押しつけたい王子(ユリスさん)

 どちらも将来がかかっているから死に物狂いで、早期の決着はつきそうにない。

「ルリシアさんはまだ王太女のままか。

 エラの貴族って王位継承権がない王女が戴冠したりするのには反対しそうだけど」

「それがルリシア王太女殿下の人気はなかなかのものなのだそうです。

 領地貴族の方々も大半が支持しておられますし、庶民からも好意的に受け入れられているとのことで」

 それは意外だ。

 庶民はそうなんだろうと思う。

 だって今まで王子が次々に逃げて王太子がずっと決まらなかったらしいからね。

 そんな危ない王室事情だとしたら、この際何でもいいから次の王様が決まってくれた方がいい。

 だけど領地貴族の支持って何で?

「我が(あるじ)の存在でございます」

 ユマさんが平然と言った。

「俺?」

「はい。

 そもそもルリシア殿下が王太女に登極出来たのもソラージュのヤジマ大公(我が主)の後見を受けたが故。

 既にエラの交易を支配している我が(あるじ)の後ろ盾があれば、例え女性だろうが王位継承権がなかろうが問題ないと考える方々が大半かと」

 つまりその人たちは現実主義なわけか。

 エラ王国を牛耳ろうとか次の国王に食い込もうとか思ってなくて、誰でもいいから次代のエラ王国を安定させて欲しいと。

「残りの半分が反対?」

「というよりはユリス王子に期待しておられるようでございますね。

 男性ですし王位継承権も高く、本来なら王太子登極から戴冠まで一番問題なく進められる方でございます」

 エラ王国の保守層か。

 こっちの勢力も根強いものはあるなあ。

 確かに列強の一角であるエラ王国の支配者は国王()であって欲しいという気持ちは判る。

 それ以上にユリス王子(さん)は政治的な実績があるからな。

 そもそもルリシア殿下(さん)ってこれまでの業績なんかほぼゼロだもんね。

 領地貴族から積極的に支持されているわけでもないし、政治的手腕も未知数だ。

 外国(ソラージュ)の大公の紐付きだし(泣)。

 それはユリス王子(さん)に国王やらせたい気持ちも判るよ。

 でもルリシア殿下は王太女に登極したのでは。

 それともまだ認められてないと?

「それは問題なく貴族院を通過したそうでございます。

 ですが王太子、いえ王太女という立場は試験期間のようなものです。

 国王陛下の一声で取り消されたり別の方が登極したりするのも容易。

 安定した立場とは言えません」

 それはそうだよね。

 軽小説(ラノベ)でも学園の卒業式の場で悪役令嬢との婚約を破棄した王太子が簡単にざまぁされたりしているし。

 ソラージュのミラス王太子殿下くらい実績を積み重ねれば、例え国王(ルディン)陛下といえどもそう簡単に廃嫡したりはできないだろうけど、ルリシア殿下はぽっと出だからな。

 何か瑕疵があれば簡単に放り出される。

 そういえばルリシア殿下自身がそうなりたがってなかったっけ?

 本人がその気なら簡単にできそうなのに。

「そこが微妙な点でございます」

 ユマさんがため息をついた。

「ルリシア様も殊更にエラの政局を混乱させたいとは考えておられないかと。

 これはロロニアも同様で、安易にスキャンダルを起こして逃げる、というわけにはいかなくなっております。

 増して今は『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』の立ち上げという重要な時期でございますので」

「でも辞めたいんだよね?」

「それはそうなのですが、ユリス王子殿下側の策謀もあってルリシア王太女殿下の人気は上々でございます。

 ロロニアも有功な手を打てずに防戦一方とか。

 道化師(トリックスター)は攻勢に出てこそ真価を発揮するタイプの参謀でございますので」

 ユマさん。

 面白がっている?

「とんでもございません。

 (ユマ)としては同僚(ロロニア)の勝利を願いこそすれ、悪戦苦闘を眺めて楽しむなどとんでもないことで」

 やっぱ遊んでいるな。

 ていうか多分、ユマさんにとってはどうでもいい事なんだろう。

 前にも言っていたけど、エラがどうなろうが何とかしてしまえる自信があるのだ。

 既にその対策も考えてあるのかもしれない。

 つくづく怖い人だよね。

 するとユマさんが思いついたように言った。

「それにルリシア王太女殿下のスキャンダルは難しいかもしれません」

「そうなの?

 醜聞くらい簡単にでっち上げられそうだけど」

「ルリシア殿下は我が(あるじ)のお手つきと認識されておられます。

 覇王(ヤジママコト)所有物(モノ)に手を出そうなどと考える方は、まずおられないでしょうね」

 違うって!(泣)

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